02「ガラクタの幼女」その3
そして数日。
流石はマイスター幼女のアスミス。何だかんだあったが、ゴーレムの概要構造を無事、把握出来たらしい。
そして素材やパーツを買いに、二人で町に繰り出したのだが…、
「金が無い。」(泣)
アスミスの作業中、俺は町の外でモンスターを狩っていたのだが、ここいらで出て来るのは中級モンスター。
1日1人で狩れる数と、それで入手出来る鉱石はたかが知れてる。毎日の宿泊料と食費で半分近くは消える。
そんなこんなで手持ちは数万エン。これじゃ良い部品は買えない。もっと軍資金が欲しい。
そう町の雑踏の中で悩んでいた時だった。
「―!?」
また『あの子』だ!
ピンク髪のスーパー美少女が、行き交う人混みの中でこっちを見て手招きしている。
本当にあの子は誰なんだ?
前回、見失ってしまったこともあって、気が付くと俺は自然とピンク髪の子を追い掛けていた。
「け、ケイン殿!?どこに行くのです!?」
アスミスが慌てて俺に付いて来る。
この前と同じで、ピンク髪の子はまるで幽霊の様に、雑踏をどんどんすり抜けて先へと進んで行く。
そしていきなり目の前に現れた大きな人だかりにぶつかり、俺達の足は止められてしまう。
―うぬぬ、また見失った!! 俺達はその場に立ち尽くす。
「ケイン殿、一体何があったのです?」
「え?あ、あぁ。ちょっと見知ったヤツがいたので、つい、ね。」
すると、人だかりの向こうから威勢の良い声が飛んで来た。
「さあさあ、誰か我こそはと思わん挑戦者はいるか!?この痩せた男に勝てたら100万エンだ!!」
人だかりの原因はこれか。何かの賭けをしているらしい。
しかし、勝てば100万エンだって!? ちょっと興味あるな。
俺達は群がる見物人をかき分けて中に入って行く。
そこに見えたのは、頑丈そうなテーブル。横で椅子に腰掛けてるヒョロガリの男。
そして挑戦者を募ってる隻眼のマッチョな禿頭の男。
テーブルの上には100万エンの束。 ほう、賞金は嘘じゃ無さそうだ。
そうして見ていたら、丁度、見物人の中から1人の筋骨隆々な男が入って来たトコロだった。
「次の挑戦者はアンタか?ひと勝負1000エンだぜ。」
「おう!こんな虚弱体質に俺様が負けるかよ!!100万エンは頂きだ!!」
挑戦者の男はテーブルの向かいに座って腕をまくり上げ、ヒョロガリの男と手を組む。
ははあ、腕相撲か。普通なら一目瞭然で挑戦者の男の方が勝つだろうなぁ。
でもこういう場所での賭け事なんだから、そうは簡単に行かないんだろうな。
―で、意外と言うか俺の予感通りと言うか、挑戦者はアッサリとヒョロガリ男に負けてしまった。
的中したとは言え、あの骨と皮ばかりの細腕が、鍛え上げた丸太の様な腕にビクともせず一方的に倒したのには驚いた。
筋骨隆々の男は悔しそうに見物人の輪の中に戻って行く。
「さあ!お次は誰だ!?」
隻眼の禿頭の男の声に見物人はガヤガヤとざわつくが、なかなか名乗り出る者がいない。
と、そこに、
「私が行くのです。勝って部品代にしてやるのです。」
アスミスが進み出た。
確かに、ドワーフのパワーならコイツに勝てるか!?
アスミスとヒョロガリ男が手を合わせ、肘を下ろす。
「いくぜ!GO!!」
隻眼のハゲ男の合図と共に、一気に全力を出すアスミス。相手の腕を折らんばかりの勢いだ。
さっきの男と違って、グングン押している。これは100万エン貰ったか!?
「はうっ!?」
と、突然アスミスの猛攻が止まった。
歯を食いしばり、顔を真赤にして押しこむも、ヒョロガリの腕はそれ以上ビクともしない。
それどころか、徐々に形勢は逆転して行く。どんなにアスミスがもがいても、
ヒョロガリの腕は、まるで何も力を入れていないかの様に軽く動き、遂にアスミスの腕を倒してしまった。
「勝負あった!!」
嘘だろ!?岩をも砕く力のアスミスが、こんなにアッサリ!?
―こりゃあやっぱり、何かカラクリがあるな…。台に仕掛けがされているのか?それとも隻眼の男が何かしたのか?
アスミスが憔悴して帰って来た。
「大丈夫か?」
「ふ、不覚なのです。幾ら技術系とはいえ、ドワーフがあんな細腕に負けるとは、恥晒しもいいトコロなのです。」
ドワーフにとっては、力比べで負けるというコトはプライドを酷く傷付ける様だ。
でもまぁ不幸中の幸い、周りはただの子供が無茶な挑戦をした、としか思って無いかもな。
俺が敵討ちをしてやりたいが、アスミスで駄目だったのに俺がやって勝てるイメージが想像出来ない。
そこにアスミスが妙なコトを話す。
「押し込んでもうひと息という時、突然、相手の力が増したのです。」
「何?」
「そこからはもう、こちらが押せば押すほど、逆に向こうの力が強くなっていったのです。」
「まさか、魔法か?」
「はいです。あれは多分、誰もが力を込めて集中した時に無意識の内に高まる魔力を吸い取って、
それを自分の腕力を強化する魔法として使っているのだと思われるのです。」
「つまり、こっちが力を出す程、相手が強くなっちゃうってワケか?」
「その通りなのです。こちらが力を出さなければ相手は強くなりませんが、それでは勝つコトも出来無いのです。」
ははーん、魔力…つまりMPである精神力を奪って倒す。そういうイカサマか。
技術系のアスミスの冷静な観察眼あっての分析だなぁ。
―ん!?魔力を吸い取る…? それってつまりは…。
「よし、俺が行こう。」
「ケイン殿!?」
俺は中に進み、テーブルに着く。
隻眼のハゲ男がニヤニヤしながら聞いて来る。
「おいおい、良いのか兄ちゃん?ウチのと同じ位に細っこい腕じゃねぇか?」
「こういうモノには力じゃ無くて、コツがあるんだよ。」
俺は隻眼…面倒だからもうハゲ男で良いや。ハゲ男の煽りを軽くいなす。ハゲ男はこめかみを1つピクリとさせる。
「ほう。じゃ、お手並み拝見と行こうか?」
1000エンを払って、ヒョロガリと手を合わせ肘を静かに降ろす。
「いくぜ!GO!!」
ハゲ男が合図をする。俺は普通にその細腕を押して行く。
―と、ヒョロガリ君の表情がニヤッとなった。仕掛けて来るツモリだな。
普通ならここで、奪われた魔力でヒョロガリ君がパワーアップするワケだ。
だが、俺はこの世界の住人じゃ無い。
俺の身体には、この世界の森羅万象が多かれ少なかれ持っている魔力が全く無い。
つまり、元から無いモノはいくら吸っても吸えないんだよ!!俺にその魔法は無効だ!!
「えっ!?ちょっ、待って!待て待て待て!!!!」
初めてヒョロガリの声を聞いた。それがこんな焦りまくった声だとは傑作だ。
パターン。
ヒョロガリの手の甲は完全にテーブルにくっついた。
「馬鹿…な…。」
信じられんといったハゲ男の顔。
「俺の勝ちだな。」
ウォオオオオオオオオオオオオオーーーーーーー!!!!!!
周りの見物人が一斉に叫び、盛り上がる。ハゲ男はツバを飛ばしまくって大声を上げる。
「てっ、テメェ、何か小細工しやがったな!!無しだ無しだ!!ノーカン!ノーカン!」
小細工してたのはそっちだろ。よくもまぁ言えたモンだな。
「そうは言っても、ここにいる全員が証人だもんなぁ。」
周りの多くの見物人から、あちこちで声が上がる。
「おう!そうだそうだ!俺達が証人だ!!」
「確かに見たぜ!勝ったのはその兄ちゃんだ!!」
「見苦しいぞ!!とっとと賞金を払え!!」
すごい一体感を感じる。今までに無い何か熱い一体感を。
風…、何だろう。吹いて来てる。確実に、着実に、俺の方に。
群衆を味方に付けてニヤニヤする俺に、ハゲ男もヒョロガリ君も、もう何も言えない。
俺はテーブルの上の100万エンを掴み、中身が新聞紙とかじゃ無いコトを確認し、ポケットに入れる。
「じゃあな。」
呆然とする二人を後にして、湧き上がる観衆の中をくぐり抜け、アスミスの元に戻る俺。
見ると、アスミスはポカーンと口を開けていた。
「自分の目が、信じられないのです…。やはり世界を救った英雄は違うのです。」
予定外だったが、思わぬ軍資金が手に入った。
これもこの前と同じく、あのピンク髪の子を追い掛けたから…なのかな?
「ほい、これで部品代にしてくれ。」
「え!?ケイン殿が稼いだお金なのに、良いのです!?」
「俺達はパーティーだろ?アスミスに助けられたお礼もまだだったしな。遠慮無く使ってくれ。」
「そ、そんなに優しくされると…こ、困るのです!」
「は?」
「こ、これ以上ターニングポイントを迎えたら、グルグル目が回ってしまいそうなのです…。」
頬をピンクのブラシに染めて戸惑った表情をするアスミス。うん、意味は分からないが可愛い。
「さぁ、町の部品を買い占めてやろうぜ!」
「―はいなのです!!」
意気揚々と商店街に戻る俺達。
気付いたら、アスミスは俺の手をシッカリ握っていた。うん、迷子防止にはこれが一番だよな。
「(やっぱり、お嫁さんにしてもらうしか無いのです…!!)」
頬を染め、唇を湿らせ、目を潤ませて、恍惚の表情でアスミスが俺のコトを見ていたらしいが、
朴念仁な俺は、そんな彼女の様子に気付くワケも無かったのである。