06「イカれたメンバー紹介するぜ!」その3
「♥あらぁー、固まっちゃいましたねぇー?」
スレイが半魔の子の目の前で手を振ると彼女はハッ!と覚醒し、プルプルと頭を振る。そして、
「何よ!?その規格外の人外は!?」
「そんな、人外は無いだろう!?すっごく可愛くて優しくて賢い子だぞ?」
「一生を神に捧げた高齢の大神官でさえ、ほぼ逢えるハズの無い精霊王に平然と逢っていて、
その上、人知の及ばない究極神聖魔法の加護まで貰ってるコトが規格外過ぎるって言ってんのよ!」
「そっかぁ?うーん、付き合い長いと普通に思えて来ちゃって…。麻痺してんのかなぁ。」
「全身麻酔レベルの麻痺よアンタ!!」
半魔の子は本棚から別の本を取り出して、落ちたペンを拾うと、激しい筆跡音を立てて記事を書き加えている。
多分、あれは神学か精霊に関しての本なんだろう。
と、俺の方に顔をキッ!と向けて、
「アンタ!!まだ何か隠していそうね!?全部洗いざらい吐きなさい!!」
「何だよ、その犯罪者みたいな扱い!?」
「つべこべ言うなぁ!! 精霊王の加護を受けてる僧侶と、『最強装備シリーズ』を持つ獣人族の戦士、他には!?」
「えぇっと、魔族の王女で、攻撃魔法なら最上級レベルまで何でも無尽蔵に使いたい放題の魔法使い。」
「きゃぁあああああああああ!!!!!!!」
半魔の子は頭を抱えて奇声を上げる。
「何よそれ!?何よそれぇええ!?大賢者の家系の私達でも上級魔法までしか扱えなかったのにぃいいいい!!
それで魔族の王女とか、そんな理不尽な存在があって良いワケ無いでしょうがぁああああ!!!!」
「いや、実際いたし。一緒に旅してたし。」
「そんな超常的な子を、どうやってアンタが仲間に出来たのよ!?」
「俺が一騎打ちして、勝ったから。で、その子は俺の奴隷になった。」
「うっっきゃああああああああああーーーーっっっ!!!!!!」
あ、本を投げやがった!!おいおい、本は大切にしろよな!
「♥あー、これは、だいぶショックだったよーですねぇー。」
「無理も無いのです。余りの想像の範疇外のコトばかりで、脳がオーバーヒートしてるのだと思うのです。
かく言う私も、この子のリアクションにドン引きして冷めて無ければ、同様に叫びたい気分なのです。」
「血圧、上昇中でス。」
半魔の子は「うぎぎぎぎ」と唸りながら、その綺麗な烏の濡羽色の黒髪を掻きむしる。
かと思ったら、いきなり俺の襟首を掴んで叫ぶ。
「どーせまだ何かあるんでしょ!?言いなさい!言え!!」
「落ち着けったら!」
「落ち着いてるわよ!十分に!!もうここまで来たら、ちょっとやそっとのコトじゃ驚かないわよ!
魔導対戦終結以降、『迷いの森』の向こうに引き篭もって絶対出て来ない『エルフに会った』とかじゃ無い限りはね!!」
「―ゴメン!エルフには会ったわ!!」(汗)
「もう、いやぁあああああああああああーーーーーっっっ!!!!」
あ、泣き出した。膝付いた。崩れた。
「け、ケイン殿!その、エルフに会ったというのは本当なのですか!?
…あ、いえ、これまでの流れで考えれば、本当なのでしょうが…。」
「うん。今まで2人会った。」
「2人ぃいいいいい!?」
半魔の子はガバっと顔を上げる。その顔は涙でグショグショだ。
「アンタねぇ…、出会うコトすら困難な、絶対無理だと言われているエルフに、2回も会ったですって!?」
「えーっとね、1人は魔導都市の所長をしていた。90年前からそこに隠れて研究をしていたらしい。」
「魔導都市!?―確かにアソコなら、閉鎖的で隠蔽が可能だわ…。で、もう1人は!?」
「俺のパーティーにいる。」
「…………」
あれ?今度は叫び声を上げないな?
「おぉ、これはそんなに驚かなかったみたいだな。」
「――アンタ、やっぱり馬鹿でしょ…。」
「え?」
「驚き過ぎて声が出なかったのよ!!」
半魔の子は泣き崩れて、手でバンバンと床を叩く。
「何で怠惰なエルフが冒険者やってんのよ!!大体、さっきの魔族の王女がいれば、魔法使いは足りてるでしょ!!」
「あ、いや、そのエルフの子は格闘家なんだよ。」
しばしの沈黙。
「―え?何?アタシの耳、どうかしちゃったわ…。エルフが格闘家とか幻聴が聞こえた…。」
「幻聴じゃ無いって。さっきの魔導都市の所長やってたエルフの仲間が呪いを掛けて、彼女の魔法を使えなくしたんだ。」
更に沈黙。
「―あぁ、そうか。耳じゃ無くて頭がオカシクなったのね…?エルフで魔法が使えないとか聞こえるなんて…。」
半魔の子はブツブツと呟きながら、膝を抱えてうずくまり出した。
「あぁ、とうとう現実逃避してしまったのです。…まぁ、心境は察して余りあるのです。
1日でこうもターニングポイントの連発では、曲がりまくって心の整理が追い付かないのです。」
「♥ケイン様あー、どーしましょぉー?」
「弱ったなぁ。本当のコトを正直に言ったまでなんだけど…。」
取り敢えず、何かフォローしとかないと。
こんなorzの廃人状態にさせておくワケにも行かないしなぁ。うーん…。
半魔の子はベソかきながら、尚も独り言の様に呟き続ける。
「何なのよコレ…許してよ、もう…。代々何百年間もこの世界の知識を書き記して蓄えて来たって言うのに、
塔はアッサリ踏破されるわ、ゴーレムに、幼女マイスターに、精霊王に、『最強装備シリーズ』に、
魔族の姫に、エルフにまで…。アレもコレも常識という常識は何もかも一瞬で覆されるわ、
しかもそれが全部が全部、今日フラッとやって来た、どこの馬の骨とも判らぬたった1人の男によ!!
本当、勘弁してよ…。これじゃ今までの私達大賢者の家系の存在意義が、まるで無かったみたいじゃないの…。」
ヤバイ、重症だ。(汗)これ、俺のせいなのか?
俺はどうしたら良いか分からず、アスミス達に聞く。
「自らのアイデンティティを否定されるコトは非常にキツイのです。暫くそっとしておいた方が良いかと思うのです。」
「うーん、それで治るモノなのかなぁ…?」
「♥だったらぁー、ケイン様のパーティーに入れてあげれば良いと思いますぅー!」
「「「え!?」」」
思わず俺とアスミスと半魔の子の声がハモる。
「アタシが…パーティーに…?」
「♥だぁーってぇー、ココにいてまた知らないコトを聞かされるよりはぁー、
ケイン様といた方が、今までに無かったコトがその場でたーっくさん経験出来るハズですぅー。」
スレイの言葉を聞いた半魔の子は「!!」となり、目を見開く。
「♥それにぃー、きっとこれからのパーティーにすっごく役立つと思いますぅー。」
「どういうコトなのです?」
「♥ほらぁー、今のパーティーってぇー、回復役がいないじゃないですかぁー。」
おぉ!そう言えばそうだった。
俺は魔法が使えないし、アスミスは技術系、エメスは攻撃専門。ここに回復と補助魔法が使える人が加われば完璧だ。
この半魔の子は、中級までだけど攻撃魔法も回復・補助魔法も全部使える『賢者』だったっけ。
この先、中央都市まではまだ遠い。回復手段が薬草だけじゃ、絶対追い付かなくなる時が来るだろう。
「―そうね…。アンタに付いて行けば、その規格外過ぎるイカれたメンバーをこの目で見るコトも出来るかも知れないわね…」
「確かに。ゴーレムのコトに留まらず、まだまだ貴方の知識をお借りしたい場面がこれからもあると思うのです。」
「うん、良いアイデアだと思うぞ。―どうかな?」
「―提案の内容に納得は出来るわ。…でも、アタシは…、」
半魔の子は言い淀み表情を固くし、胸の前で手を重ねる。左手で右手の青い肌を隠す様に。
それを見て俺は察する。でも、女の子を気遣える上手い言葉が咄嗟には出て来ない。
だから、正直に言ってみる。
「イヤな気分にさせたらゴメン。―やっぱり、その半魔の身体が気になるのか?」
彼女のオッド・アイが俺を正面からじっと見つめる。
そして、うつむき気味に目をそらして答える。
「―そうよ。誰だってこんな身体を見て、不快な思いはしたく無いでしょ…。」
―ん?あれ?
今、この子が言ったのは『自分のせいで他人にイヤな思いはさせたく無い』って意味だよな?
『自分が周りに奇異の目で見られるのが嫌だ』と言ってるワケじゃ無い。
何だ、この子。すっごく良い子じゃないか!!
この半魔の身体になっても、自分よりも他人を思いやれる気持ちを捨てていない。
口調は至って居丈高だけど、メチャクチャ心の優しい繊細な女の子だ!!
そう理解した瞬間に、俺は決意していた。
「大丈夫!そんなコト無い!」
「え?」
「少なくとも、俺は君といて嫌だとはこれっぽっちも思わない!!
俺だけじゃ無い。アスミスもエメスも、スレイだってそんなコト思ったりしない!絶対にだ!!」
「―で、でも…、」
「確かに、世の中には人のコトを色々変な目で見て来るヤツはいると思う。
俺だって、ロリ・カイザーって二つ名のお陰で、周りからは幼女を手当たり次第に食っちまう男だって思われてるしな。」
「え?そうじゃ無いの!?」
「ケイン殿、違ったのですか!?」
「情報ト、異なりまス。」
「ちがわい!!」(泣)
風評被害が甚だしいくて、俺、涙目。
「まぁ、それを言ったら私もなのです。『9歳でマイスターになるとか生意気だ!』とか、
『師匠に幾ら渡して買った称号なんだ?』とか、世間は言いたい放題なのです。」
「そりゃ酷いな!!放っておいて良いのか?」
「平気なのです。実際に私の作ったモノを見た途端、ほとんどの輩は黙りこくって逃げて行くのです。
卓越した技術は百万の論説よりも雄弁なのです。」
おぉ!!流石マイスターだな!!技術者はあくまで技術で語る、ってか!!
「♥私もぉー、歩いていると男の人がぁ、私のおっぱいをじーーーーーっっっと食い入るような目で見て来ますよぉー。」
「それは仕方無いな。」
「仕方無いのです。」
「仕方無いわね。」
「仕方無いかト。」
「♥このパーティー、息がピッタリですねぇー。」
スレイのおっぱいは、もう、アレだ。暴力と言うか、ラグナロクと言うか、ハルマゲドンと言うか、
見る者全てに『抗えない絶対的な力』を感じさせずにはいられない由々しき大きさだからなぁ…。
「兎に角だ、他の奴等が何を言おうが、俺達は君の味方だ。」
長い沈黙。やがて半魔の子はポツリとつぶやく様に俺に問う。
「―本当に?アンタ、本当にアタシを見捨てたりしない…?ずっと一緒にいてくれる?」
「死んだって、君みたいな可愛い幼女を見捨てたりするモンか!!」
「ふぅっ!!」
さっきも見たが、また左右の頬を真っ赤にして、下腹部を押さえてすくみ立つ半魔の子。
華奢な脚はプルプル震え、肩で荒げた息をしている。
それから彼女は1つ深呼吸をすると、
「分かったわ…。」
そして2色の腕を前に伸ばして、こう言った。
「―アタシをココから連れ出して。」
俺はそっと彼女の手を取る。
「ヨロシクな。俺はケインだ。」
賢者の末裔で完全半魔のその幼女は、ようやく俺に教えてくれる。
「―ワイズィよ…。」
それが俺達のパーティーの、新メンバーの名前だった。