06「イカれたメンバー紹介するぜ!」その1
※前回のあらすじ
イカクラーケンを撃退した『退魔の矢』。それは『防人の塔』から放たれたモノだった。
俺はそこにプリスがいるかも知れないと思いその塔に向かったのだが、難問・珍問の連続を突破して
ようやく会えた塔の住人は、居丈高この上無い、左右で肌の色が違う『完全半魔』の幼女だった。
ティーカップがティーソーサーに置かれ、カチャリと小さく音が鳴る。
「―ふぅ…。」
「落ち着いたか?」
「まぁ、ね。」
半魔の幼女はスレイの淹れた紅茶を口にして、ようやく平静を保ちつつあった。。
頬はまだピンク色のブラシに染まっているが。
「―それにしても、凄い量の本だなぁ。」
「♥みんな厚い本ばかりでぇー、薄い本がありませんねぇー。」
「意味深な発言はヤメい!!」
俺は部屋の本棚を見渡して会話の気分を変えようとしたが、そこにスレイのギリギリな台詞が飛んで来る。
まったく、この世界にも『薄い本』があるのかね!?―うぬぬ、そう考えるとちょっと見てみたい気もする。
それはさておき、この部屋は色々な本がビッシリと棚に詰まっており、さながらミニ図書館だ。
半魔の幼女は俺の振った話に乗ってくれる。
「大賢者がこの塔に隠居してから、この世界の重要な知識を代々書き記して来た本よ。」
「へぇ…。 ―え!?じゃあ、ここにある本って全部、大賢者とその子孫による手書き!?」
「当たり前でしょ。」
調子を取り戻して来たのか、居丈高な口調が戻ったな。
「この世界の知識って、どんな?」
「主なモノなら網羅してるわ。魔導対戦以前の歴史から、対戦史、終結後の混乱期…。
そしてそこで起こった文化。―医療、工学、魔法学、経済、風俗…。発明や発見、自然災害に事故、犯罪、全てよ。」
「凄いな。」
「別に。そんなの、単なる数百年間の日記帳に過ぎないわ。」
「いや、それが凄いんだって。」
昔の文献や記録ってのは、とても重要だ。内容によっては未来への警鐘になったりもする。
俺の元いた世界じゃ、日本人は大昔からメモ魔だったらしく、数々の記録が残っていて、
それらが天候や地震、水害や星の動きにまで及ぶ膨大な過去のデータとして有効活用されている。
過去は軽んじるべからずだ。
「この記録にはもう1つ、別の側面があるわ。そっちが本命ね。」
「本命?」
「集められた知識を元に、そこから導き出せる未来への道を模索するコトよ。」
―未来への…模索?
俺がその言葉の意味を考えていると、半魔の幼女はティーカップを横に置いて、これ見よがしに自分の左手に魔力を集め出す。
それは見る見るうちに光の弓の形になる。
「え、それって!?」
「あの時、イカクラーケンを撃ったのがコレよ。
大賢者の作った魔弓は、当時こそ魔法を具現化させるのには画期的な補助用具だったわ。
でも、魔法技術が発達し、誰でも出来るイメージ法が確立した今では無用の長物。
―でもね、あらゆる属性の魔法を『矢』という形状にして、命中率を上げて撃ち出せるという利点を追求すれば、
あぁいう風に神聖魔法の射程と効果を高めるコトが出来るだろう、と私達は予測していたのよ。」
「それで、魔力で弓を作ったワケか。魔弓が無くても同様の効果を出すために。」
「そう。アンタの仲間が魔弓を手に入れて、同じ発想をして実用までしていたとは意外だったけど。」
それって、プリスたんの賢さが大賢者の家系並だったっていう証拠だよな!
ちょっと自分のコトみたいに鼻が高いぜ!
「つまり君達の役目は、この世界における『記録員』と『文明開発員』の二面があるってコトか。」
「飲み込みが早いじゃない。ま、その位すぐに分かって当たり前よね。」
褒められてるのか、けなされてるのか、もう分かんねぇなコレ。
それにしてもこの魔力で弓を作る魔法は凄いな。この子のオリジナル呪文なのかな?
「あの『退魔の矢』、―神聖魔法を使えるってコトは、君は僧侶なのか?」
「正解でもあり、不正解でもあるわ。」
「どっちなんだよ?」
「今の答で分からないの?―まぁ、言うよりも見せた方が早いわね。」
半魔の子は再度左手に魔力を集める。神聖魔法の光が左手の掌に出現する。
そして次に青い肌の方の右手を出すと、そちらにも魔力を集め…
「え!?」
俺はそれを見て驚いた。
彼女が右手に出したのは雷の魔法。僧侶系には使えない、魔導師系じゃないと習得不可能なハズの魔法だったからだ。
この子は右手に魔導師系の攻撃魔法、左手には僧侶系の神聖魔法を同時に出している!!
「理解した?」
半魔の子は両の手を振って、左右それぞれの魔法を消す。
「これが『完全半魔』の身体がもたらした、アタシだけの能力。
魔族の右半身と人族の左半身でそれぞれマナ変換を変えるコトで、別々の系統の魔法を同時に操れるのよ。」
「うぉおおおお!!」
「♥これは便利ですねぇー。」
そうか!大賢者の末裔だから、この子も『賢者』なんだ!!
ゲームでも賢者は魔導師系、僧侶系、どっちの魔法も使える万能キャラって立ち位置が多いもんな!!
「こんなどっちつかずの中途半端な身体だから、どの魔法も中級までしか使えないけどね。」
「いや、それだって十分凄いじゃないか!やっぱ君はカッコイイよ!!」
「ばっ、馬鹿!!そういうおべんちゃらは要らないわよ!」
そう言ってその子はいささか手荒に、再びティーカップを取って紅茶を飲む。
この世界の知識を記録する賢者の末裔か…。
―あ、そうだ!過去の記録があるって言うなら…、
「あのさ、ゴーレムに関しての資料ってある?」
「ゴーレム?まさかとは思うけど、モンスターの種別名で言ってるゴーレムじゃ無い方の?」
「そう。機械で出来た人形のゴーレム。」
「勿論あるわよ。―それがどうかしたの?」
「今、1体ウチにいてさ。」
「ぶふっ!!」
あ、きったね。(汗) 紅茶、吹き出してやんの。
「♥はい、ハンカチぃー。」
「あ、ありがと。それよりアンタ…ゴーレムを持ってるですってぇええ!?」
「うん。ホラ、さっき言った『魔導砲』だっけ?あれを撃ってたのがソレ。」
「いい加減なコト言ってると、張り倒すわよ!?」
「いや、マジマジ。南西大陸の北の関所で山崩れがあってさ。そこで壊れてたのを見付けたんだよ。
で、パーティーにいたドワーフの子に一生懸命直してもらったんだよ。」
「ドワーフの子?そんなのにゴーレムが直せるワケ無いでしょ!!?」
「いや、事実直しちゃったし。そうそう、彼女、9歳でマイスターだって言ってたし。」
「なぁああーっっ!?」
半魔の子は椅子から跳ね上がる。
「アンタ、分かって言ってんの!?ドワーフのマイスターはね、40~50年修行して、やっと認められるのが普通なのよ!?
まぁ、中には数十年に1人位は20代で取得する天才がいるけれど、9歳でマイスタ―とか馬鹿も休み休み……、」
と、そこまでマシンガンの様にまくし立てていたのがピタリと止んだ。
口に折った指を付けるコト数秒。
「―ゴーレムに9歳のドワーフマイスター…。
にわかには信じられないけど、ココまで来て嘘を付くなら、もっと上手いハナシを考えるわよね…。
―良いわ。話を進めるためにも、ここは暫定的に信じてあげる。で、ゴーレムの資料をどうしたいのよ?」
俺はこの半魔の子に感心していた。彼女は滅茶苦茶に賢い。賢者の末裔というのも伊達じゃ無い。
たとえその瞬間、感情的になっても、すぐにクールダウンして今の状況を冷静に判断してるし、
話がどれだけ横にそれても筋道を全部覚えていて、元あったトコロにキッチリ戻せるんだからな。
「いやぁ、何せ俺もそのマイスターの子も、実際のゴーレムなんか見るの初めてでさぁ。
直すのも動かすのも全部手探り状態で、どうしたら良いモノか判らずに困ってたんだ。」
「あぁ、だからあんなヘッッタクソな魔導砲を撃ってたってワケね。最初はアンタが魔道具でも使ってたのかと思ってたけど。」
「で、どうかな?」
「ココにある資料の知識は、本当に与えられるべき資格のある者にしか閲覧させないわ。
欲に目の眩んだ愚かな悪人が利用しないとも限らないしね。」
至極ごもっとも。
―ん?でも、この子、今の会話で『駄目だ』とは一言も言って無いよな…?
半魔の子は腕組みをして無言で俺を見ている。静かな対峙が続く。
これは…、つまり、『資料を見たいなら、もうひと押ししてみなさいよ』というコトなのか…?
向こうが折れるだけの材料…。俺の言った内容を信用させるだけの『何か』を提示しろ、と?
「―じゃあ、そのゴーレムとマイスターの子に会わせるよ。」
どうだ!?これで正解か!?
「―そうね。この目で確かめてからにしましょ。ココに連れて来なさいよ。」
通ったぁあああ!!
俺は心の中で、ホッと息をつく。
本来、あの難問を解いて来なければ会えないモノを、フリーパスで『連れて来い』と言ってくれたのだ。
これはかなり興味を持ってくれているってコトだろう。よし、港に戻ろうか。
「―そうだ、君の名前、教えてくれないか?」
「イヤよ。」
思いっきり顔を横にそらされた。こりゃまた、にべも無い。(汗)
―で、連れて来ました。
漫画やアニメの場面転換みたいな早さだが、ここまで色々雑多にあり過ぎて収拾が付かないので割愛する。
ゴーレムの資料があると聞いたアスミスが、昇竜拳打ちそうな勢いで『イヤッッホォォォオオォオウ!!』だったり、
エメスの調子がいまだ芳しく無く、途中で歩けなくなって俺がおんぶするコトになったり、
その光景を見たスレイが「♥これがあの有名な『あててんのよ』ですかぁー。」とか言って、自分も当てて来たり、
塔に着いたら、半魔の子が最上階までショートカット出来る隠し通路を教えてくれたり、
その仕掛けを見てアスミスがまた興奮したり、もうドッタンバッタン大騒ぎですわ。
「驚いたわ…。本当にゴーレムじゃない。しかもコレ、戦闘用ね。」
「おぉう!ご理解いただけて嬉しいのです!」
「この左腕って、アナタが作ったの?見た目は無骨だけど、こんな出来の良い義手は初めて見たわ。」
「恐縮なのです!低予算内での製作だったのが口惜しいのです!」
「防水にはなってるのかしら?」
「勿論なのです!日常生活用防水に留めず、海に落ちたとしても大丈夫な様に防水、耐圧、防錆を完備したのです!」
「♥ケイン様ぁー、このお二人って器用ですねぇー。」
「うん。ちゃんと会話になってるトコロが恐ろしい。」
と言うのも、この2人、部屋に入った瞬間から全然向き合って対話していないのだ。
半魔の子はゴーレムのエメスを見た瞬間に、飛び付く様に駆け寄ってあちこち触って見てるし。
アスミスはアスミスで、半魔の子が用意してくれていたゴーレムの資料を見るなり、
「これは、ドワーフとしての人生のターニングポイントなのです!!」とか言って
ライフセーバーがビーチ・フラッグスでヘッドスライディングするかの如くダイブして、貪り読んでいるし。
そんな状態でまだ顔合わせもしていないのに、旧知の仲の様な会話が成立しているのだから凄いわ。(汗)