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2クール目に突入した異世界冒険  作者: 歩き目です
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04「奴隷船 波高し」その2


―とまぁ、そうこうして、放送をはばかられる様な滅茶苦茶に酷い一幕がどうにか終えて、

俺達は奴隷船の一等客室に入って、やれやれと椅子に腰掛けたのである。


「取り敢えず、今回はスレイの大手柄…というコトになるのかな?一応、ありがとうな。」

「♥てへへー。ケイン様に褒められましたぁー。」

「そう言えば詳しく聞いて無かったな。スレイは何か特技とかあるのか?」

「♥特にありませぇーん。」

「無いのか!!」


お前、『特に無し』とか、履歴書だってそういう空欄の埋め方はマズイって言われてるんだぞ。

本当に何も無いのか?


「武器は?」

「♥持ったコトも無いですぅー。」

「じゃあ、魔法は?」

「♥何それ?美味しいの?ですぅー。」

「意外と物知りとか?」

「♥各地の美味しい食べ物は知っていまぁーす。」

「格闘戦が得意とか?」

「♥夜の格闘ならぁー、」

「分かった!皆まで言うな!!」


―だめだこりゃ!!

いや、まぁ、別に冒険者メンバーとして組み入れたワケじゃ無いからなぁ。


「♥あ、1つありましたぁー。」

「お、言ってみな。」

「♥とぉーーーーーーーーっってもぉ、運が良いんでぇーす。」

「はぁ!?」


呆れる俺に、横からアスミスが加わる。


「いえ、ケイン殿。確かに運は私達に味方しているのです。

あれ程まで困難を極めていた奴隷船チケットの情報も、スレイがメンバーに加わった途端にいともたやすく判明し、

更に先程の、それを無料にしてしまったクジ運といい、コレは揺るぎ様の無い事実なのです。」


うーん、そう言われるとそう思えて来る。

思い返して見れば、町でスレイに出会って手招きされたコトが2度あった。

最初はスリの男に出会えて奴隷船のコトを聞き出せたし、2度目は腕相撲の賭けをしている場所に出た。

どっちも俺が困ってた時にスレイは目の前に現れ、結果的に良い方向に流れて行った。


スレイを奴隷商人から買う時も、急に割引になったしな。

そう言えば彼女の服を買った時も、いきなり理由も無く半額になったんだった。


俺はちょっと確認しようと、エメスに命令を出す。


「エメス、さっきのスレイが特賞を当てたクジ運って、どれ位の確率か計算出来るか?」

「―少々お待ち下さイ。」


低い機械音が何度か聞こえ、


「結果が出ましタ。―確率は0%でス。」

「ゼロ!?」

「あの男は直前にも何度も金色の玉を確認しテ、『確かに抜いた』と言っていましタ。

あの言葉が事実ならバ、その玉が密閉されたドラム内に外部から入るコトは物理的に有り得ませン。

ましてヤ、無い玉を何百回、何千回と回そうとモ、決して出るハズがありませン。現実的に不可能でス。」


―でも、スレイはそれを『引き当てて』しまった。

アスミスも腑に落ちない面持ちで言う。


「技術系の私が、こんなオカルト紛いの結論を言わなくてはならないのは悔しいのです。

しかし、どう考えてもこれは『運が良い』を超越した『運』だと言わざるを得ないのです。」


うぬぬぬ。

俺もこの世界に来て、色々運が良かったと思う場面は多々あった。

でも、このスレイの『運』は度を越している様な気がする。


スレイは何も言わず微笑んでいるだけだった。




出航して2日目。船長が俺達の部屋にやって来た。


「もうすぐ『北外れの村』に着くぞ。」


壁の地図を指して船長が説明する。


挿絵(By みてみん)


「北大陸の北西、端っこにある村だ。ここでも奴隷や荷物を追加で乗せるのでな。」

「え!?なら、そこで降ろしてくれないか?」


そこで降りられれば魔族の国まで数日の距離だ。魔王様に会えば色々分かるコトもあるかも知れない。

だが、船長は首を横に振る。


「駄目だ。秘密保持のため、ここでは奴隷と荷物を乗せるだけだ。誰一人降ろすワケには行かん。」

「私達は誰にも言ったりしないのです。」

「お前さん達がどうだというコトでは無い。お前さん達を見た誰かが不審に思う。それがヤバイという意味だ。

折角、過疎ってる村を隠れ蓑にしてると言うのに、そこにいきなり見知らぬヤツが現れたら、どう思われるかね?」


うーん、残念だが船長の話は筋が通ってる。彼等も彼等なりに必死なんだろうな。

俺達は、それ以上交渉するコトを諦めざるを得なかった。


「天候や風向きもあるが、そこから更に3日。北大陸東端の『防人の塔』のある岬の港に着く。

他の船が帰るタイミングを見計らってそこに紛れ込む寸法だ。」


あぁ、『北外れの村』で積む荷物って、その港で降ろすダミーの輸送品か。

そうなると、奴隷は船員にでも扮装させて下船させるのだろう。考えてるなぁ。

あと3日。何事も無く航海が終われば良いんだが…。




そして3日が過ぎる。

奴隷船はいよいよ目的地『防人の塔』のある岬に近付いて来ていた。


『百里を行く者は九十九里をもってを半ばとす』とは、中国の史書にあった言葉だ。

最後まで気を抜いてはいけない。どこで何が起きるか、誰にも判らないのだから。


今、奴隷船に乗っている全ての者は、その言葉を嫌という程に実感しているコトだろう。

その理由は―


ドバァアアーーーーーン!!


巨大な触腕が海面を激しく叩く!! 凄まじい量の海水が飛沫しぶきとなって空に散る。

奴隷船は木の葉の様に揺れる。その触腕の主を見て、船員が口々に絶望の叫びを上げる。


「イカクラーケンだぁあああーーーーっっ!!!!」


最上級モンスターにしてフィールドの利も相俟ったコトで、海では最強の存在。


「な、何故だ!!ここはヤツの出現する海域では無いハズだ!!」


船長が悲痛な声で虚空に問う。 だが無慈悲にも、その返答は振り下ろされる触腕による大波である。


海においては無敵のイカクラーケンとタコテンタクルス。

その2大最強モンスターは『離れ小島』周辺の海域に陣取っている。そのハズだった。

モンスターは作られた兵器である。だから与えられた活動範囲には正確に従っている。そのハズだった。


だからこそ、奴隷船はわざわざ大きく北回りをして、イカクラーケン達の襲撃を受けない航路を選んでいたのだ。

それが何故、現れた!?

そんな疑問を抱いている余裕すら無く、奴隷船の運命は風前の灯火。


「駄目だぁああ!!俺達はここで死ぬんだぁああ!!」


船員や奴隷達が嗚咽しながら叫ぶ。弱気な台詞、泣き言だと責める者は誰もいない。

イカクラーケンと遭遇し、無事だった船など今までただの一隻も無いのだから。

この最上級モンスターは、出遭ったが最後、その者達の確実な死を意味しているのだ。


「ケイン殿!!こんな残念なターニングポイントを迎え、短い間でしたが、有意義な時間だったのです!!」

「縁起でも無いコト言うなよ!!」


アスミスも目に涙を浮かべて、この有り様だ。

あのハゲ男達も護衛としてこの奴隷船に乗ってはいるが、相手がイカクラーケンと判るや完全に戦意喪失。

マストに掴まり、念仏の様なモノを唱えてガチガチ震えている。


―どうする!?

魔導巨人にすら立ち向かえたプリス達を含めたパーティーでも、このイカクラーケンとエンカウントするのは悪手と見て

あの『離れ小島』に行くのに、苦心惨憺編み出したデヴィルラの飛行魔法を使ったのだ。


今、俺のパーティーは、俺の他にアスミスとエメス、そしてスレイの計4人。

スレイは戦闘が出来ない。俺とアスミスは魔法攻撃が出来ず、遠距離攻撃が可能な武器も無い。

圧倒的に不利だ。 と言うかマジで絶望しか無い。


一縷の望みが戦闘ゴーレムのエメスだが、そう都合良く行くだろうか。

しかし、戦わなかったら絶対に殺られる。戦わなければ生き残る僅かな可能性すら出て来ない。

俺はエメスに質問する。


「エメス!遠距離攻撃が出来る手段を持ってるか!?」

「少々お待ち下さイ…。―該当あリ。」

「あったか!!」


ダメ元で言ってみるモンだ!!


「よし!それでイカクラーケンを攻撃!!」

「畏まりましタ。出力調整の指示をお願いしまス。」


出力調整!?全てが初めてで、全てが未知過ぎて、どうすりゃ良いのか。

最大出力にすれば、イカクラーケンに有効な一撃を撃てるかも知れないが、それ一発で倒せずにガス欠にでもなったら詰む。

かと言って、出力を控えて全く効果が無かったりするのも問題外だしな…。


俺はかなり『卑怯』な命令に賭けた。


「連射可能な範囲で最大の出力にしろ!!」

「―畏まりましタ。」


通った!! かなりアバウトな、エメス本体の判断に委ねる命令だったが、受理してくれた!!


エメスがイカクラーケンに向けて右腕を突き出す。

次の瞬間、手が手首の中に収納され、入れ替わりに銀色の筒が伸び出して来る。


ドウン!!!


轟砲一発!! 眩しい光球が撃ち出され、イカクラーケンに直撃する!!

その巨体に走る電撃!!船体に絡み付いていた触腕が痙攣して甲板から離れる!!


良いぞ!!海のモンスターには雷。ちゃんと相手の属性を考えた攻撃になっている!!

エメスはそのまま2撃目、3撃目を放つ。攻撃間隔は少し長いが、この威力は保持したい。


「凄いのです!これならば、もしかすると助かるかも知れないのです!」

「よし、エメス!俺は一旦離れるけど、お前はここで砲撃を続けてくれ!」

「畏まりましタ。」


俺はエメスにその場を任せて、船長のトコロに行く。

舵輪を必死に握る船長に、俺は言う。


「何とかイカクラーケンを船から引き剥がしてみる。いつでも全速でイケる様に準備していてくれ!」

「駄目だ!今のこの船は動けん!」

「何故!?」


船長は恨めしそうに空を見ると、


「完全に凪になっている。…いつもこの時間なら吹いてるハズの風が、全く無いのだ。

それに、さっきのヤツの攻撃で舵をやられたみたいだ。上手く曲がらん。」


くそぅ、弱り目に祟り目だな。そこにアスミスが飛び込んで来る。


「ケイン殿!話は聞いたのです!私が舵を見て来るのです!」

「直せるか!?」

「僅かながら助かる可能性が訪れたのです!ならば私も全力を尽くし、必ず直してみせるのです!」

「ありがとう!頼んだよ!!」

「お礼は助かってからで良いのです!」


そう言うが早いか、アスミスは船の底へと降りて行った。

―こうなると、後の問題は風か。



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