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2クール目に突入した異世界冒険  作者: 歩き目です
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01「槌を持った幼女」その1

※前作までのあらすじ

異世界に転移して来た主人公の青年は、冒険者となり、色々な幼女と出会い、

妙になつかれてパーティーになり、自分の行く道を模索する。

そんな中、離れ小島での強敵モンスターを倒した帰りに突然の大嵐に遭い、

パーティーと離れ離れになり、主人公は海のもくずに…?



早朝。1人の幼女が海岸を歩いている。


まだ陽が東の山から顔を出したばかりで、海と空は群青色に澄み渡る。

風は凪。


この海岸は彼女の散歩コースだ。

だが、別に彼女はとりわけ海が好きというワケでも無い。

山生まれで山育ちだから、やっぱり山の方が好きだ。


それでは何故、海岸を散歩コースにしているのか。


「お、ありましたです。」


幼女は足元に何かを見付ける。

それを拾うため、肩に担いでいたモノを降ろす。


ドシン!


降ろしたモノの重さで、砂地がめり込む。

それは、幼女の体格からは不釣り合いこの上ない、大きな槌。ハンマーだった。


彼女は屈んで、見付けたモノを拾う。

そして額に掛けてあったゴーグルを降ろし、目に掛ける。


「ふむふむ、コレは…羅針盤の部品なのです。」


彼女は一発でそれが何なのか判別が付く。それだけ機械に詳しいのだろう。




山生まれの山育ち。ハンマーを持ち、機械に詳しい。


そう。この幼女はドワーフである。

彼女は、時折こうして海岸に打ち上げられる珍しいモノが目当てで、ここを散歩コースにしているのだ。


海にもモンスターは出る。だから船が襲われるコトは珍しく無い。

だから壊された船の部品や、積み荷がこんな風に流れ着くコトがある。

盗賊の密輸品とかは、特に彼女の胸を高鳴らせる。尤も、そんな幸運は滅多に無いレアケースではあるが。


ドワーフは工芸品作りや機械いじりが得意だ。彼女も御多分に漏れずそういう工作が大好きだ。

だが、機械部品は買うと高い。自作しても材料費は必要。

でも、拾えばタダだ。そんなワケで、ここはジャンクパーツ集めには持って来いの場所なのだ。



ドワーフの幼女は立ち上がり、拾った羅針盤の部品を袋に入れる。

そしてハンマーを肩に担ぎ直し、再び歩き始める。


だが、拾えたのはその1つだけで、後は本当にただの散歩になっていた。


「ショボイのです。やはり嵐の翌日くらいじゃないと良いモノは流れて来ないのです。」


そろそろ帰ろうか。そう思った時、

彼女は『それ』を見付けた。


「これは…、見付けたく無いモノを見付けてしまったのです…。」


―波打ち際に転がっている『それ』は、人間だった。


前述の通り、この世界にはモンスターがいる。野獣もいる。

それに殺られる冒険者、一般民は決して少なく無い。

海で難破すれば、この様な土左衛門になって流れ着くコトだってある。


ぶっちゃけ、彼女も水死体を見たのはこれで数度目だ。

それでもやはり慣れる様なモノでは無い。出遭わずに済むならソレに越したコトは無い。


しかし、彼女も冒険者である。冒険者ギルドに登録した者には幾つか規定が定められている。

そのウチの1つ。とても簡単明瞭な文言。


『自分が助けられる生命は見捨てるべからず』


冒険者に、と言うか、万人にとって当たり前のコトではある。

だが実際には、我が身可愛さで仲間を見捨てて逃げる不逞の輩もいたりする。

そして幸か不幸か、このドワーフの幼女はそういう自己中な性格では無かった。


倒れている『それ』に近寄る。どうやら大人の男性の様だ。

ふと、妙なコトに気が付く。


肌の色は海水に冷やされて真っ白だが、皮膚そのものは綺麗なままなのだ。

ふやけて膨れていないし、魚に食い千切られたりもしていない。

まるで…、そう、まるで海で遊び過ぎて身体が冷えてしまい、ガチガチ震えながら上がって来た時の様なカンジだ。


彼女はその違和感から1つのコトを確かめようと、傍まで寄って屈み込む。

と、思わずスカートを抑える。

倒れている男性の視点からだと、純白の聖なる布地が丸見えになる角度だったからだ。


勿論、男は意識が無いのだから覗かれる心配は無いだろう。とは言え、これは乙女としての嗜みである。

結婚する相手以外に見せてはならない。聖なる布地はそれだけ貞節さの証なのだ。

ドワーフの幼女は常日頃からそう思っている。

そう。この男を見捨てられないコトからも分かるだろう。彼女は至って生真面目なのだ。


それはさて置き、気になったコトの確認である。

彼女は恐る恐る『それ』の首筋に触れる。


―弱いけど脈がある!?


「生きているです!?」


水死体では無かった。まだ生きている。では単なる行き倒れか?

兎に角、死んでいないのであれば助けないと。


彼女はドワーフである。ドワーフの筋力は非常に強い。

幼女の体格である彼女ですら、成人男性1人は軽々と担いで行けるだけの力がある。

ただ身長が低いので、担いだ『それ』の足は引きずるコトになってしまい、

砂浜から彼女の住む町まで、延々と足を引きずった2本の線が伸びて行くのであった。




冒険者の町。

空はようやく白み始め、人々が起き出す頃である。

町は薄っすらと朝霧に包まれており、まだ医者の開業する時間には早過ぎる。仕方無い。


ドワーフの幼女は『それ』を担いで、自分の家に向かう。

その小柄な彼女の身体は、担いだ成人男子の着けてるマントにほとんどすっぽり隠れてしまっている。

知らない人が見たら、まるで『ヘ』の字に屈身した男が浮遊しているオカルティックな様子に見えるだろう。


果たして後日、『朝霧の町を浮いたまま徘徊する幽霊を見た』との報告がギルドに寄せられるのだが、

それはここでは割愛しておこう。


家に着く。ハンマーを降ろし、空いた手で扉を開ける。

ドワーフは成人しても人間の子供並の体格である。だからドワーフの住居も小さい。

だから人間の成人男性を抱えたままでは扉がくぐれず、一旦降ろして引きずって中に入れる。

普通の幼女だったら一苦労だが、ドワーフの筋力であれば然程さほどのコトでも無い。


「ベッドに寝かせ…いやいや、その前に濡れた服です。」


身体が冷えきっているのだから、濡れた服を着せ続けるのはマズイ。これは基本中の基本。

だが、


「―だ、男性の服をぬ、ぬぬぬぬぬぬ、脱がす、です!?」


幼女とは言え、女性から男性の服を脱がすなど、生真面目な彼女に取っては何と破廉恥なコトであろうか。

だが、だが、


「お、落ち着くのです。これは緊急事態、そう!医療行為なのです!」


これからする行為に正当性を持たせるかの様に、必死に自分に言い聞かせる。

マントを外し、服のボタンを外し、靴を脱がし、ズボンを脱がす。

だが、だが、だが、


「さ、最後の1枚が…難関過ぎるのです!」


パンツ。


男のパンツ一丁の姿を見たのは、父親以外では初めてである。

自分のパンツは『聖なる布地」である。結婚相手にしか見せないモノだと、そう誓っていた。

では、自分から他人の男のパンツを見た場合、どうしたら良いのだろう。


「こ、これは人生のターニングポイントになりそうなのです。」(泣)


パンツに手を掛ける。目を閉じる。

だが、だが、だが、だが、


「いやいやいや!目を閉じたら、その後が何も出来なくなるです!」


万が一、手探り状態で男性の『アレ』を握ってしまったりした日には、もう立ち直れない。

かと言って、このまま脱がせば『アレ』は確実に自分の両の目に焼きつくコトになる。


どうするどうする どうする 君ならどうするー!?


まとまらずグルグル回る思考。

脱がすべきか 脱がさざるべきか それが問題だ。


そして、


―タオルで覆ってからパンツを脱がせば良い。

そんな基本的で単純な回答にたどり着いたのは、数分間、散々悩み悶絶した後のコトだった。




男をベッドに寝かせたが、足がはみ出してしまった。

小柄なドワーフ向けのベッドでは当然だ。これはいけない。


「足を冷やしてはいけないのです。昔から頭寒足熱と言うのです。」


いつも使ってる作業台を持ってくる。丁度良い高さだ。

そこに布を掛けてベッドの延長にする。そして、男の足を乗せて追加の毛布を被せる。


次に、暖炉に薪を多目にくべて、部屋を急いで暖かくする。

今、彼女が出来るコトはこれが限界であり、これが最善だろう。

海岸からここまで来て、ようやく彼女は「ふぅ、」と一息着くのであった。




脱がした服を水洗いする。海水で濡れたままで乾かしたら塩まみれになる。

この男性の衣服を見てると疑問が湧いて来る。


普段着にしては丈夫そうな布だ。冒険者だろうか。でも、装備としては丸腰だ。

金属の鎧を着けていたら沈んで溺れている。革の鎧なら?いや、そもそも鎧が簡単に外れるワケが無い。

難破でもした時に、丸腰のまま海に飛び込んだのだろうか。

それとも鎧を必要としない魔導師系?それにしてはローブでは無いし、アクセサリーも無い。


「気が付いたら、ご本人に聞くしか無いのです。」


男性の着ていたベストには、ポケットが幾つも付いている。


「こんな服は初めて見たのです。縫製もやたら丁寧でとても便利そうなのです。」


便利そうだという言葉は当たっていた。

その沢山のポケットからは、ナイフやコンパス、乾パン、薬草、マッチ等の小物がゾロゾロと出て来る。


そして冒険者ギルドの登録プレートも出て来た。


「おぉ、これでどこの誰だか判るのです。」


ドワーフの幼女はそのプレートを見る。

そこに書かれた文字。


【冒険者:ケイン 二つ名:ロリ・カイザー (ロリ・カイザー チームリーダー)】


「ロリ・カイザー!? あの、魔導巨人を倒したというロリ・カイザーなのです!?」


魔導都市から遠く離れたこの地にも噂は届いている。

魔王軍と数多の冒険者から成る混成軍を持ってしても、全く手が出なかったという最強にして最凶の兵器、魔導巨人。

それに単身で挑み、拳一発で粉砕してしまったという、何度聞いても信じられない様な話だった。


だが、どの冒険者の口からも全く同じ話が聞かれるのだから、それが真実なのだろう。

そして神に出会い、その神から直々にロリ・カイザーの二つ名を賜ったという男。

それが今、自分の家で、自分のベッドで寝ている。


「わ、私は、とんでもない大物を助けてしまったのです…!!」


これから40回程度ですが、ほぼ毎日更新だと思って

お付き合い下さいませ。

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