6 ヒカリトカゲト
アンドロイドと人間はこの時代において共生しあう関係となっている。アンドロイドは仕事を奪う、ということはなく家族や友達、恋人代わりとして造りだされる個体が多い。人間の反応に寄せたプログラムを組む事は容易だ。
だがしかし、この少女型アンドロイドだけはほぼ人間の様な素振りをしている。HMR-002、詩織は自我を持ち”生きて”いるのだ。
買い物に出かけると、レジを打つパートの年配女性の無表情が驚きに変わった。一見人間だがヘッドギアを着けていて、アイライトが常に光っていてそうでは無い事は明らかなのに、002には他のアンドロイドとは違う何かがある。
アンドロイドに感情が芽生えたケースは、少ないが存在している。一つは人間との触れ合い、仕えていた人間の死によって涙を流した個体。もう一つは本当にひょんなことから、突飛な事件で自我が芽生えたケース。002の場合は後者だ。
「んん?びっくりした〜。アンドロイドだとはねぇ。アンタ、特殊な個体でしょ?苦労するよ」
パートにふさわしく無い口調で年配女性は袋に品物を詰めていく。幼児が一緒に並んでいた母親の服を引っ張った。
「ねえママー、あのろぼっと、こころがあるの?」
「しっ。コウ君、ロボットじゃなくて、アンドロイドだよ」
確かにそれはごもっともだ、と002は思った。自律して動く人型の機械は全てアンドロイドとなる。
「やっぱり、……分かりますか?」
「その心で主人や家族をちゃんと守りなよ、命令じゃないけどさ。2,463円でございます」
「電子マネーで支払います」
時代が進んでも、支払い方法はほぼ変わっていない。紙幣や硬貨は流通しているし、携帯端末やICカード、クレジット払いも未だにある。
(よし、今日から私は腕を振るいますか!)
彼女は軽い足取りでひすいの待つ家へ戻っていった。
☆☆☆☆☆☆
どんな物事にも、光と影が存在している。市野家は見た目ではお金持ちの家庭だが、中身は親が共働きで寂しがりやのひすいが自由奔放に遊んでいるだけなのである。
詩織が帰宅すると、ひすいと彼女の母親、愛衣が何か口喧嘩をしているところに出くわした。
「だーかーら!詩織姉ちゃんは心があるんだってば」
「そんなの信じないわよ。いくら最新のアンドロイドだとしても…〆切まであと少しなの、宿題でもしてなさい」
「やだやだー!!詩織姉ちゃんの事ちゃんと認めるまで仕事部屋から出ないから!」
どうやら詩織の心があるか無いかで揉めているらしい。詩織が初めて家にやってきて挨拶した時、ひすいはとても喜んでいた。しかし折角"家族"が出来たのに、市野家夫婦が博士にそう頼んだはずなのに、ひすいの母親はあまり歓迎してくれなかった。やはり血の繋がりの無いアンドロイドが居る事に慣れないのだろう。
「愛衣さん、ひすいさん…ただいま帰りました」
詩織は出来るだけ落ち着いて彼女達に話しかけた。すると、先程まで怒っていたひすいの顔が明るい笑顔になった。
「あっ、…お姉ちゃん、おかえり!」
「早く晩御飯作ってあげてちょうだい。私は急いでいるの」
冷たく棘があるひすいの母親の言葉に少し胸がキュッとする感覚がして、何か言おうとしたが命令に従わざるを得ないと判断して詩織はキッチンへ向かった。
まだまだ続きます!しばしお待ちを!