5 初めまして、私の名前は……
最近の話と設定を合わせ、加筆修正しています!
電子頭脳の中で信号を受信したのを感じて、私は起きた。それは6:00に毎日規則的に行われるアラームのような機能。私は眠る、という感覚はないけれど、電力消費を極力少なくする為にスリープ状態にする事ができるみたい。ただし主人やその家族達に異変や危険が発生したら、直ぐに対応できるように設定してある。
「おはよう、002。気分はどうだい?」
博士は私よりも早く起きていた。ショートスリーパーといって短時間睡眠でも大丈夫な体質なんだ。にしても、気分はどうだい、と、まるで英会話のような質問をしてくる。いくら自我を持っているとはいえ、私はうまく答えられない。
「き、気分…?状態に異常はありませんが…」
「そういうんじゃなくてな?うーむ、まだちょっと難しいか。HMR-002今日はついに市野家へ行くぞ。これからは市野家で過ごしていくんだよ」
そうだった。昨日1日アンドロイドの検査を受けて持ち前の高性能(と検査官の人の忖度?)で私は合格したんだ。
これでやっとひすいさんに会える。
☆☆☆☆☆☆
博士が市野家のインターホンを鳴らすと、元気良くドアを開ける女の子が見えた。データと重ねてひすいさんだと確信できた。
私はカプセルの中に入って眠っているフリをしている。普通に歩くことなんて容易いものなのに博士は周りの目が気になるからとカプセルの中に私を入れて台車で運んできた。逆に見られているような気がして私は恥ずかしかった。
「こんにちは!透のお父さん!」
「こんにちは。ひすいちゃん、ほら見てくれ。遂に完成したんだ、このア、こ、この子…きっと君の良いお姉さんになるはずだよ。最先端技術を結集して造りだしたんだから」
今言い直しましたよね?と突っ込もうと思ったけど私は諦めた。お姉さん…か…
博士と私は市野家に上がって、居間へと連れて来られた。
☆☆☆☆☆☆
「あ、あの。博士。そろそろ出てもよろしいでしょうか?」
流石にカプセルに入ったままだとひすいさんは怖がるだろうから、私は蓋を押し開けた。すると、ひすいさんが急に飛びついて来た!
「うわぁ!?すごい!会いたかったよぉーー!あたし、寂しかったんだもん」
結構、気さくでのびのびした子なんだ。私が少し感心していると
「それじゃぁ、僕はここで。月一度のメンテナンス日にはちゃんと来るんだよ。002、また!」
博士はいそいそと市野家から出て行ってしまった。まだこの子に話す心の準備が出来てないのに…なんと言い表せばいいか分からないけどこれは"気まずい"って現象なんじゃ?そうだ、まずは自己紹介から始めないと!
「はじめまして、市野ひすいさん。私の名前はHMR-002……こと、詩織と申します」
「あたし小5だし、ですます語使わなくたっていいのに。結局ロボなのかなぁ…こちらこそ、よろしくお願いしますっ!」
ロボ?ロボット?超高性能アンドロイドで、命令無しで動ける体を持ってる、人に近い見た目の、私が、ロボットだと言うの、この子は?
私の中で、どうしようもなくその発言を訂正してほしくなってきた。ああっ…ダメ、まだ出会って最初だし落ち着いて、抑えないと……!
「お言葉ですが、私をロボット扱いするのはやめてくださいね?とても傷つきます」
「えっ?もしかして、詩織…姉ちゃん、心があるの!?」
抑えるのは無理だった。こんな私にも譲れないものがあるとは思わなかった。
そういえば、ひすいさんはお手伝いさんに逃げ出されるほどのワガママな性格だったとデータに記載されていたな。そんなひすいさんが、私の目の前で態度を改めている。
「その…ごめんなさい!造られてる途中で事故にあったって話は聞いてたの。お母さんとお父さんに言わないで!一緒に居られなくなっちゃう!あたしはもう、ひとりは嫌なの!!」
ひとりは、嫌……
「いえ、分かっていただければ、それで充分だったんです。もう大丈夫。私があなたを、ひとりにさせません」