2 自我(わたし)の芽生え
読みやすいように編集しました!
HMR-002はゆっくりと目を開けた。どうも、5分間の記録が残っていない。自分がショートしていたという事を、ソレは分析せずにボロボロになった衣服や、ちぎれ途切れているケーブルを確認して判断した。
しかし、ある疑問が残った。なぜ自分は落雷でショートし、動かなくなったはずなのに自ら動いているのか?何度状態を確認しても<ALL GREEN>と視界に記されるだけで、異常はどこにも見当たらなかった。
(当機体は、なぜ……ワ、タシ…?)
HMR-002が起き上がろうとすると、無数のケーブルにピンと引っ張られた。身体の機能もちゃんと作動するようだが、ふと博士がカプセルの外で話してくれた事を思い出した。
《お前は家族になるんだ、モノじゃない…生きる、んだ。ちょっとおかしいよな、人間の気まぐれで造られて、人間の為に尽くさないといけない。そんな理不尽な…感情が有れば、お前は嫌がったか?》
(モノ……ジャナイ…ワタシハ、モノじゃ……)
まだ博士からの命令を受けていないのに、HMR-002は動き始めた。動きを阻害する、身体に繋がれたケーブルを無理矢理引き抜き、内側からは開くことがないはずのカプセルを自力で開けた。
(氷室博士ガ…生きているのか、確認スる為)
普通のアンドロイドがしない行動である。HMR-002は『人命救助』を選んだ。自分を造ってくれた氷室博士までも落雷にあっていたら、と最悪のパターンが視界に提示された。
立ち上がり歩きだそうとしたその瞬間、ソレに身の覚えのない痛みが襲ってきた!
(_____!?!!!?)
HMR-002は膝まづいて、初めての感覚に戸惑った。どうやらこの痛みは左胸の辺り、ちょうどアンドロイドのエネルギーが貯蔵されている場所からだ。左胸を押さえると、アイライトがチカチカと点滅した。これはバグ、それともプログラムなのか、分析することができない。状態が<ALL GREEN>のままなのだから。
ソレは未知の感覚に震え、氷室博士を呼ぼうと声を出そうとした。
「ザー ピピ ザーーーー」
しかし、会話プログラムが機能しない(通常、アンドロイドは相手側から話しかけられないと会話が出来ない)ためか、ラジオの雑音のようなノイズが口から出るだけだった。
☆☆☆☆☆☆
(_くルしイ…コンナ感覚ハ理解不能_)
ズクン!ズキン!と、痛まないはずの胸が張り裂けそうな痛みに襲われている。電子頭脳がごちゃごちゃと疑問が多すぎてオーバーフローしてしまいそうになっている。
HMR-002は声を何とかして出そうとした。そうでもしないとこの苦しみと胸の熱さに耐えきれない。人工声帯を自力で動かすことが、こんなに難しいとは考えていなかった。
「ザザッ…ピーーはぁっ、はァッ」
やっとの事でかすれた金属音が絞り出てきた。しかし、声という声が出せない。電子頭脳にも熱が集中していく。
「ア……だrえ…か…はぁっ、うううッ……!」
視界がぼやけて、何かが頬を伝うのを感じたHMR-002は、右手でそれを拭った。ソレは…彼女は、泣いていた。アンドロイドが基本持つことはない人間特有の機能、それは涙を流す事。HMR-002は、痛みに悶え苦しんだ挙句に、涙まで零れていたのだった。