15 型落ちアンドロイドは夢を見た
ピー ピー ピー
[ホノカサマ]
[命令してください]
[旧式の当機体は もういらないのですか]
[助けて 助けて]
[代わりのアンドロイドなんて]
[購入しないでくださいませ]
[“ドロシー” がんばり…ますか、ら]
動力容量が切れかけているアンドロイドが1体、帆花の帰りを、ひたすら待ち続けていた。瞳は暴走状態とされる赤いアイライトが点滅していた。ソレは個体識別番号DRS-115、家庭用量産型アンドロイドDRSシリーズだった。
帆花には遠い親戚の叔父夫婦しか身寄りがいなかった。それを可哀想だと思ったのか、叔父が購入してくれたアンドロイドがDRS-115だ。元々ストアで安価で売られていたが、アップデートがすべて終了し型落ちになるとして、割引までされていた。帆花は衣食住を提供してもらっているのに、アンドロイドまで買ってくれた叔父に申し訳なさを感じて、これまで買い替えを望んではいたが、口にすることはしなかった。
いつしか、”ドロシー”と呼ばれるようになったソレは、ある日の買い物帰りに衝撃的な場面を見てしまった。
自分と同じ姿形をした、いわゆる同型機が、スクラップ場に打ち棄てられ、プレス機に潰されるのを待っていたのだ。直る見込みの無い故障や老朽化なら仕方がないが、安価で買える量産型は、まだ稼働出来るのに「新型を購入したから」という理由でスクラップ場へ捨てられることが多いのである。
その光景を見て、プログラム上の様々な制約で、表情も身体も自由に動かすことの出来ないDRS-115に、通常の思考ではない、ある想いが芽生えた。
[ホノカサマの事を一番知っているのは、当機体。当機体が居なくなったら、ホノカサマは。叔父様が後継機を購入したら、旧式の当機体はスクラップに__イヤだ。新型のアンドロイドとの方が、ホノカサマもきっと幸せに__チガウ]
[…!]
☆☆☆☆☆☆
DRS-115の赤いアイライトも消えかけた、その時。
「お前が、DRS-115だな?これから回収するから、このカプセルの中に入ってもらうよ。礼一君、頼んだよ」
いつの間にやら帆花の家に上がった氷室が力持ちの礼一に命令をし、DRS-115を抱き上げてカプセルの中にそっと横たわらせた。
「もう僕、ギルティな発明家だよなぁ。スクラップ工場に連れて行かずに改造しろなんて無理難題を。エミ、珠子、そして透。僕が捕まっても、黄色いエプロンを干しておいてくれ…それを目印にして…」
「ごちゃごちゃ言わずに早く運びなさい!国が検査する条件で合法になったのよ!」
氷室の妻、エミが自家用車の窓を開け、ツッコんだ。
☆☆☆☆☆☆
CODE:HMR-003
NAME:DOROTHY
CONDITION:ALL GREEN
POWER:ON
ドクン ドクン ドクン、と、体内で何かが響いている。
前の機体ではそんなことは無かった。
前の機体、では…。
「私…まだ、生きて、る…」
思ったことを呟けるのはどうして?そして、このカプセルは何?身体中、ケーブルに繋がれている。
「ドロシー、ドロシーっ!」
懐かしい声がする。ずっと前から一緒だったよね。
「まだ機能テスト期間だから、家には戻れないが…もう彼女は型落ちなんかじゃない。そして、これまでの僕の経験から…ただ命令に従うだけの機械でもなくなってるはずだよ」
今まで、出来なかったこと。それが今、出来るようになった。
私は、帆花に微笑みを見せた。
思わず顔を触ると、頭部を覆っていたヘッドギアが、かなり小型化してヘッドホンのようになっている。そして、頬には大きなガーゼが貼ってある。
「氷室…さん?もしかして、バーコードを隠してる?」
「量産型の証拠だからね。HMRシリーズは、身体の方にバーコードを入れてるから、重複するとちょっとめんどくさいんだよね〜」