14 助けてあげたい
「は…はい…あの子は、アンドロイド業界の重要なカギになるのではないかと」
通学路の薄暗い高架下トンネルを歩きながら、帆花は、おどおどとした口調でスマートフォンで何者かに連絡を取っている。
「だ、だってあの子は泣いて…!いや、ホントなんですよ?こ、これで、私の”ドロシー”に人の心を」
帆花にとってドロシーというのは、量産型アンドロイドDRSシリーズのうち1体、DRS-115の愛称を指している。彼女は、家族代わりのアンドロイドに不満があったのだろう。
しかし不覚だった。その重要なカギのあの子__詩織が、ヘッドギアから鋭い音を出して、聴覚を増幅させている。彼女は、帆花から200メートルほど離れた距離から、こっそり視界に入らないようにしていた。
(こういう機能は、役に立つけど…ロボっぽくて嫌だな)
痺れを切らして、詩織は帆花の元へ駆け寄った。
「鷹西さーん!ドロシーさんとは、誰ですか?」
「きゃーーーっ!?すみません、ちょ、ちょっと電話切ります、あ、あれ…?切れない」
スマートフォンの操作を、短時間でロックされてしまった。ほとんど人間に見える詩織は、ヘッドギアの通信機能をフル活用して電話相手に繋げた。
「もしもし。……私ですか?私は個体識別番号HMR-002と申します。えっ、システムについて調べさせてほしいんですか?ええ、どうぞ」
帆花は淡々とシステム情報を話す詩織に驚いた。普通のアンドロイドならこういった機密情報は製造者に口止めされるはずなのである。
「はい、そういう事なので。鷹西さんに代わりますか?」
帆花のスマートフォンの自由が効くようになると、電話口の相手は呆れながら話す。
[[あんな高価すぎる技術があれば、特殊な個体がまれに出来る事もある!DRSシリーズは所詮型落ち、アップデートはもう5年前で終了している。他を当たっても無駄だよ、お嬢さん]]
☆☆☆☆☆☆
トンネルを抜け出すと、西陽が眩しく私たちを照らしているのに対して、鷹西さんの表情は暗く、ついには泣き出してしまった。
「鷹西さん、さっきは…ごめんなさい。流石に失礼で、配慮が欠けていました」
「ううん。お、お互い様だよ。ね、詩織ちゃん、あなたの製造者のところへ連れて行って。諦めきれない」
鷹西さんはきっと、家に仕えていたドロシーさんに対して何らかの理由で不満があったから、数々のアンドロイド工場や販売店に連絡したけれど、型落ちになっていたせいで、どこからも断られ続けてたんだ…。
視界に表示された時間を確認すると、まだ家に帰って夕食を作るには余裕がある。通り道だから、ついでに行くとしますか!