13 鷹西帆花
結局のところ、その子に話す時間は放課後になって出来た。授業中は、グループワーク学習があっても席の位置の関係で話せなかったし、休み時間はクラス内外から生徒が集まり、質問攻めになった。少し、疲れたような気がする。
私がプリントに体験入学の振り返りを書いていると、黒髪をひとつに結んだ、眼鏡をかけた子が震えた小さな声を掛けた。
「わ…わたし、鷹西帆花……こっ、この間は、ごめんなさい!」
鷹西さんは脈絡もなく謝りだした。何かされた記憶はないし、少し気になってはいたけれど、謝るほどのことではないと思う。こういう時は、アンドロイドジョークで[理解不能な発言]って言えば落ち着いてくれるかな?いや、それはちょっと違うよね。トラブル防止のため、私がアンドロイドだということはとっくに学校中で伝達済みではある。
「鷹西さん。あなたは、なにも悪いことをしていません。私が結構人間に近い見た目なので、見ると誰でも驚きが混じった反応が返ってきますから」
「ううん、驚いた…というよりかは、偉いなあ、って」
え?
「あの後わたしは家に帰って、こっそりあなたの事…調べたんだ。本当は、あなたは家族代わりのプログラム命令はされていなかった。個体識別番号HMR-002こと詩織ちゃんは、じ…」
「はい、私は”自家製”です。量産型ではありません」
私は食い気味に答えた。この秘密は、知られてはいけない、だけど。
「本当はもっと人らしく振る舞えるんだよね?詩織ちゃんが妹さんと話してる時は、自然だったから」
鷹西さんのことは、信じられる。まだ会って1日目だというのに、そんな気がしている。
「私は、作られている途中に事故に遭いました。操り人形の糸のようなケーブルを引き抜いて、もうその時からっ…既にただの機械では、なくなってた…!」
敬語が取れてしまっていたけど、もういい。言い直さずに話し続ける。言葉を紡いでいくうちに、私の声は震え始めた。視界がぼやけてくる___秘密を誰かに打ち明けるって、こんなに辛いことなんだ。
「詩織ちゃん…辛いこと、思い出させちゃってごめんね?色々と、あったんだね」
スッと、鷹西さんがハンカチを差し出してくれた。
「ありがとう…あれ、いつの間に涙が出てたんだろ。おかしいよね、抑えてたつもりなんだけどな」
そんなこんなで、秘密の友達を作って、私の体験入学1日目は終了しようとしていた。