12 初登校
電子頭脳の中でアラーム音が響き、私はいつも通り6:00にスリープ機能を解除した。カーテンを開くと、眩しい朝日と囀る小鳥たちが見えた。相変わらず、私には睡眠欲がない。電気があれば、私は機能停止することはないはず。
___でも、あの事故の時、電気が停まっていたのに、私はどうして目覚めたんだろう…………?
考え事をしてる場合じゃない。朝ご飯を作って、家族のみんなを起こさないと!そして、一番楽しみな中学校体験入学の事を考えよう。
ここ最近は、私はカプセルではなくベッドで”眠る”ようになっていた。その方がひすいちゃんの寝が……い、いや、安全を守れると思ったから。
私は軽く髪型を整えて、身体の汚れを拭き取る。そしてエプロンを着けようとして手を止めた。中学校から貸された制服を先に着た方が良いよね?
真っ白なワイシャツにえんじ色のネクタイ、灰色のセーターに、私がこっそり選んだ紺のスラックス。スラックスのある中学校は、この時代で8割を越えている。スカートでも良かったけれど、動きやすさと防寒性を重視したデザインが気に入ったから、選んでみた。
「おはよう、詩織…、その制服似合ってるじゃないか」
「あ、お父さん!おはようございます。制服似合ってますか…?ありがとうございます!」
私は朝ご飯を作り終えて、ひすいちゃんを起こす。
「ひすいちゃーん、朝食が出来ましたよ。そして私の初登校日です」「うぅ〜…ん……うぇぇ!?」
彼女はガバッと勢いよく起き上がり、私の顔に風圧をかけた。
☆☆☆☆☆☆
食事中。
「もぐもぐ…お姉ちゃんはアンドロイドなのに、学校?」
「はい、抽選で当たったらしくて。もちろん、ある程度の家事はお母さんにやってもらい、帰ったらすぐに夜ご飯を…」
私は最後に残しておいたプチトマトを口に運ぶ。
「そんな毎日、いくらアンドロイドでも疲れちゃうでしょ!お母さんだって、お姉ちゃんに任せっきりじゃ、一生何にも出来なくなっちゃうよ」
「あはは…確かにね。私にはこんな美味しいご飯、作れそうにもないけど。詩織、いってらっしゃい」
ひすいちゃんは、生身の人間でなく、機械人形ですらなくなった私を受け入れてくれた、大事な家族。それは私がそう設計されたからじゃないと信じたい。今でも変わらないし、いつまでも変わらない。こき使われて当然の私達を、心配してくれる優しさ。大好き、だなぁ…だからこそ、もっと自分らしさを見つけたいとも思った。
プチトマトが、口の中で弾けた。
☆☆☆☆☆☆
「それでは、転校生を紹介します〜。市野さん、入ってきて〜」
語尾が伸びた特徴的な話し方をする担任の先生が、私を呼んだ。教室のドアを開けると、20人の生徒の目線が全て私の視界に入る。
まずは自分の名前を黒板に書いて…と。そして、生徒たちの方を振り返る!
「おはようございます。初めまして、市野詩織と申します。みねヶ丘女子学園中学校2年A組に、ほんの少しだけですが体験入学でお世話になります。皆様、どうぞよろしくお願いします」
と、私は深々とお辞儀をした。
「あ……!?」
拍手と共にクラスの誰かの声が漏れたのが聞こえ、声がした方を見ると、この前バスにいた3人組のうちの1人が、口を開けたまま固まっていた。