11 きかいがやってきた!?
「お母さんお姉ちゃん、見てみて!じゃーん、初めて算数のテストで95点取れた!」
「透くんと答案入れ替えたんじゃない?信じられない」
「ブー、残念、透は80点でしたー」
「友達…」「ん?」
私がふと呟くと、すかさずひすいちゃんは聞き返した。思っていることが、バレてしまわないようにしないと…
「透さんを初めて越えられたんですね?良かったです!私がしっかり宿題を解くのを手伝ったおかげですよ。さらに、小学5年生のテスト過去問もデータベースにあったので、より対策がしやすかったです」
と、私は高性能アピールをした。お母さんはさすがね〜と喜んでいたから良しとしよう。
ひすいちゃんの今までの通知表によれば、体育や図工の成績が良くて、その他は[もう少し]評価がちらほらあった。でも、彼女は問題を解くときにちょっとつまずいてもすぐ間違いに気付くし、自分が宿題を見ていてもあまり困った様子はなかった。あの子は、もしかしたらすごく賢い子なのかもしれない。
「あのさあのさ!宿題は後でやるから、透ん家に遊びに行ってくんね〜!」
そう言いながら、ひすいちゃんは早速家を出ていってしまった。
「ひすい!ちょっと待っ……もう、元気なんだから」
☆☆☆☆☆☆
スフレパンケーキで誕生日パーティーをした後くらいから、すっかりお母さんは丸くなった。今朝、仕事部屋を少しだけ覗かせてもらったけれど、私の掃除の必要が無いくらいに整理整頓されていたな。きっと、物を探す手間も省けるようにしたいんだ。
それでも、賑やかで場を明るくしてくれるひすいちゃんが居なくなると、このお家は静かな時間が流れていく。私は、静かな時間は嫌いではないけど、趣味を持ち合わせていない。掃除も洗濯も全部完了したらすぐにスリープして、なるべくお母さんの仕事の邪魔をしないようにしていた。でも、それでは私は普通のアンドロイドと変わらない、とも思い始めていた。
1人で色々と思考回路(物理)を巡らせていると、お母さんが声を掛けてきた。
「ねえ、詩織?本当はあなた、学校に行って友達を作りたいとか思ってるんじゃないの?」
私はお母さんに、心を見透かされてる…?!
「…機会が、あれば行きたいと思います。あっ、これはチャンスの方でして」
「その”チャンス”がやってきたら、あなたはどんな反応をするの?」
通知音が頭の中に響いた。
どうやらお母さんはスマートフォンを操作して、私の電子頭脳内のメールアプリに文書を送ってきたみたい。何々…[全国アンドロイドの体験入学プログラムの抽選に、市野家のHMR-002さんがご当選されたため通知いたします][制服や学習に必要な道具はこちらから送付いたします]
「え、えっ、えええーーー!?私が、中学校に体験入学できるんですか!?」
「三段階も驚いてる。お父さんがね、こっそり書類を出して、詩織に適性があるから〜とか言って、抽選に応募していたのよ。ただし、中学校に通えるのはほんの2週間だけ。あなたは本来ならただのアンドロイドだもの」
「あとでお父さんが帰ってきたら、お礼を伝えなくてはなりませんね。お母さんも、ありがとう…!」
☆☆☆☆☆☆(夜の11時)
私が体験入学する中学校のデータには、メモリに記憶のある制服の画像があった。この間、バスに乗っていた彼女達の制服と一致している。実はいつか、制服を着てみたいと思っていたんだ。そもそも、私は家族(特にひすいちゃんのお姉ちゃん)として過ごすために作られているから、勉強は大学生レベルまでを網羅するコンピュータを内蔵してるし、授業を受ける必要はほとんどない。
でも…作ってみたいな、友達。アンドロイド仲間は、それはもういっぱい居るけど、人間の友達はいないから。