8 ショートエスケープ
(しまった…私とした事が!)
気が付くと私がトランポリンでずっと跳びっぱなしで、ひすいちゃんは飽きたのかゲームをしていた。遊具にアンドロイドがハマってしまうだなんて。やっぱり、私はただの機械人形じゃない。でも、た、楽しい…
「詩織姉ちゃん?大丈夫?」
ひすいちゃんに声を掛けられたので、私はピタリと跳ぶのを止めて、トランポリンを片付けた。そして何事も無かったような顔を作ろうとする。
「多分、大丈夫じゃないかもしれません」
「アハハッ、トランポリン楽しかったでしょ?お姉ちゃんはもっと自分らしく居ていいと思うけどねー」
何事も無いなんて、今更誤魔化せるはずも無く。気を取り直して、私は夕食の準備を始めた。
自分らしくと言われても、何をどうすれば”らしい“のかな?深く分析しようとすればするほど、処理が追いつかないんだろうと思った。
☆☆☆☆☆☆
土曜日。ひすいの小学校が無い日なので、詩織は彼女を連れて隣町へ向かう支度をしていた。道案内システムが目の前に表示されているなか、詩織はメモ用紙に何かを書いていた。ひすいの母親、愛衣に宛てた置き手紙だろう。
仕事部屋のドアをノックし、二人は
「行ってきます」「行ってきまーす」
と小声で言い、そっと家から出た。
メンテナンスと買い物以外の目的で外に出るのは初めてで、データでしか確認できなかった様々な場所と乗り物を見て、詩織は子供みたいにはしゃぎそうになった。アンドロイドなので、最大時速40kmで走る事が出来る運動能力を搭載しているのだが、彼女はひすいを連れているのでそれは使えない。いや、詩織はそうしたくないのである。バスに乗って行くことにした。
「おばあちゃん、さっき電話したら出てきたよ。お姉ちゃんが行くって話したら準備して待ってる、って」
「良かった!ありがとうございます、ひすいちゃん」
詩織がふと周りを見るとバス車内では、制服を着た自分と同じ年齢ほどの少女達が楽しそうに話に花を咲かせている。
「……!」「でね、○○がこの間さぁ〜」
詩織の高性能なヘッドギアと瞳は、彼女らがこちらを見た途端目を逸らしたことをしっかりと記録していた。
☆☆☆☆☆☆
愛衣は仕事がひと段落つき、リビングに出た。机の上には朝食がラップ掛けで置いてあった。
「邪魔しないでって命令、まだ聞いてたのね。…あれ?」
メモ帳の切れ端が足の上に落ちて、愛衣はそれを拾った。そこには丁寧な手書きの文字で、
[ひすいちゃんと出かけてきます。探さないでください]
とあった。
「この時代に置き手紙?人間よりも人間くさい事をするのね。あの子ったら…まったく」
道案内システムを使用中なら、位置情報はスマートフォンで共有できるはずだったが、愛衣のスマートフォンから詩織の位置を追跡することが出来なかった。なぜなら、詩織側が位置情報をフリーズさせていたのである。本当に探してほしくないみたいだ。
愛衣はあまり気に留めずに、朝食を摂った。