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合理主義者達の魔法理論  作者: 調 烈
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008話 お仕事 前編

本日二話目です!


時間は少し進み、日が変わるか変わらないかと言う時間帯。定春はある建物の中にいた。住宅街から少し離れたコンクリート打ちっ放しの二階建て。側から見れば何の変哲も無い建物だ。


「お、来たな?学校生活はどうだ、定春。」


建物に入るとすぐに声を掛けられた。黒髪を刈り上げ、頬には深い傷跡を残した屈強な兵士…と言われてもおかしく無い男。ポロシャツにジーパンと服装はカジュアルだが、身に纏う雰囲気は軍人の様な濃密な存在感がある。


「土方さん、もう来てたんですか?」

「随分と前にな。誰かさんのお陰でその系統の案件が溜まりに溜まってな、2、3件片付けて来ていた。」

「…いや、それは申し訳ないと思ってますけどね。俺ではどうしようもなかったわけで…。」


土方から軽い棘のあるお小言をもらった定春は二階に上がるわけではなく、建物の奥に設置された階段を降りる。どうやら地下室がある様だ。土方もそれに続いてきた。


「お、定春くん。学校生活はどうだい?」

「柳丸さん。ええ、まだ一週間しか経ってませんけど色んな事が起きてますね。この前なんかテロ紛いの事がありましたし。」


階段を降りきるとそこはデスクが何個も並びPCが所狭しと置かれている部屋。さらにその奥に階段の様なものもある。


「あはは、それについては聞いているよ。大変だったみたいだね?しかも報告によればラディルカだったとか?」


柳丸と呼ばれた人物はロングヘアー、黒縁眼鏡にフォーマルスーツ、キャリアウーマンの様な出で立ちにほんわかした雰囲気の似合う妙齢の女性だ。今も忙しなくキーボードを叩いている。


「はい。本人達が名乗ったわけでは無いですが、あの腕章が偽造でなければラディルカのものでしたね。」

「ふーん…本来ラディルカって猪突猛進ってイメージで、細かい作戦なんか立てないんだけどね。」

「そうですね。今回あいつらが立てた作戦は、兵の練度こそお粗末でしたけど、内容としては実に合理的でした。」


「そこはまた追い追い調べればいいだろう。今日は別件だ。柳丸、他の奴らは?」

「もう現場に向かってます。土方さんが他の仕事を片付けている間に来て、そのまま車で出て行きましたよ?」

「…あいつら、事前打合せの意味を本当に理解してるのか?」

「土方さん、もうこれ現場に行きながらでもよくないですか?二人しか居ないんだし。」

「それもそうか、柳丸。後は頼んだ。」

「了解でーす。」


そう言う柳丸を尻目に定春と土方は地上に停めてあるワンボックスカーで夜の街へと走り出す。もちろん運転は土方だ。


「…で?魔法・・高校に入学した感想はどうだ?」

「はぁ…勘弁してくださいよ土方さん。別に好きで入学したんじゃないんですから。志望校も一般の学校だったのは知ってるでしょう?」

「それはそうだがな。惜しいな、公僕に君ほどの人材を取られるというのは。」

「まぁ俺も軍や警察なんてあまり好きではないんですがね。まだこの会社でのびのび働いた方がいいですよ、それに土方さんには恩がある。」


会社という単語から分かる通り、定春はこの会社の正社員として働いていた。だが定春の年齢を考えればそれはおかしい。他の人間とのやり取りを見ていれば一年程度の付き合いでないことはわかるだろう。実際、定春がこの会社に入って既に六年という年月が過ぎている。勿論、この時代の労働基準法が緩くなったわけではなく、等しく労働可能年齢は16歳からだ。しかし定春がこうして正社員と働けているのはこの会社の特殊性による。


「あの時土方さんに助けてもらって、こうして仕事までくれている。感謝しかありませんよ。」

「なら魔法高校の入学なんて蹴ってほしかったがな。」

「無茶を言わんでください。」


定春が所属する会社は“民間軍事会社”、いわゆる傭兵の様なものだ。それも対魔法戦に特化した組織であり名は“イムホテプ”、由来は神話の神からとった名前だとか。民間軍事会社であっても基本的には法に則った登録、運営を行なっている。だがその特殊性が故に暗い部分もあり、定春がいい例だ。


定春に両親は居ない。六年前に魔法を使ったテロに巻き込まれ、当時10歳の定春を残して他界している。又、親戚と呼べる者はおらず、そんな定春を保護したのは隣にいる土方だ。土方は元魔法警官。その時も現場に出動しており、定春の両親が亡くなるところを目撃していた。


そしてその時点で土方は二足の草鞋で、土方が設立していた民間軍事会社で世話になることになったのだ。奇しくも定春には素粒子を知覚できるという魔法師の才があった。最初こそ魔法に対する忌避感を持っていた定春だが、土方が魔法を教えるうちにその力に興味を持ち、遂にはたった二年で一般的なライセンスを取得した魔法師レベル迄に成長した。そして非合法ではあるものの、定春は会社の仕事を手伝い出したのだ。


「だがな。同時にお前をこの道に引きずり込んで、本当に良かったのかと…今でも思う。」

「……。」


民間軍事会社はいわゆる傭兵だ。その仕事内容は大手を振って公表できるものではないし、ましてや子供にやらせる様な仕事では断じてないだろう。だが魔法を習ううちに定春は、魔法に対する忌避感が薄れ、代わりに復讐心が芽生え始めていた。それはあの両親を奪ったテロリストに…ではなく、魔法を使った全ての犯罪組織に対して。べつに正義感なんて上等なものではなく、それは只々純粋な憎悪からくるものであった。


その為定春は犯罪者…特にテロリストに対して容赦はない。最初こそ、年齢相応の心情を表していたが今は一切の躊躇なく処理する。土方は、定春の人生を歪めてしまったのではないか?と常々後悔していた。


「あくまでこの道を選んだのは俺ですし、感謝こそすれ恨むなんてお門違いも甚だしいです。仕事もくれて、今では一人で生活できる資金もあり、力もある。何を恨めっていうんですか?」

「…幼い頃から裏に入れば心が染まるのもおかしくないってのに、どうやったらこんな良いのが出来るのかねぇ。」

「それは教育の賜物じゃないですか?誇ってくださいよ。」

「俺は格闘術と魔法理論しか教えてねぇよ。あとはお前の気質だ、それこそ誇れ。…本当に惜しい人材だよ。」


魔法高校で卒業単位を取得するとライセンスが与えられる。これ自体は問題ない。しかし、卒業後魔法防衛大学進学、軍属、警察官僚、職業の選択肢があるとはいえその誰かに一度は就職して、相応の年数を努めなければならない。別に強制でもなく、明記されているわけでもないのだが、その徴兵制とも取られかねない決まりは、いわゆる暗黙の了解なのだ。だから定春が魔法高校を卒業してしまうと、一度は会社を辞めなければならない。


公僕の職は基本的に副業は禁止されている。これは昔から変わらない決まりだ。もっといえば、本来、法律的には定春はこのイムホテプに居てはいけない人間なのだ。その為会社名簿の登録も偽名で行なっている。故に定春が会社に居られるのは、高校を卒業する後三年なのだ。


「と、こんな暗い話ばかりしてられん。定春、今回の仕事の話だ。内容は知ってるだろ?」

「確かロシア系犯罪組織…マフィアの流れを汲む奴らでしたか?一応目は通しましたけど、特別この日本で大きく動いてはいないようですね。」

「ああ、この件についての依頼者はある軍部のお偉いさんだ。」

「軍?なんでまた。脱走兵でも投げ込みました?」


この界隈ではよくある話だが、軍属関係者による不祥事や脱走事件など、表立って動けないお上に代わり、仕事を代行するのはよくある。


「脱走兵は脱走兵なんだが、その持ち出したものが厄介だったんだ。」

「持ち出したもの?機密書類ですか?」

「機密書類か…まぁ似て非なるものかな。脱走兵が持ち出したのは機密書類を基にした研究結果だ。」


車は街から少し離れた大型のオフィスビルの目の前で止まった。


「秘匿魔法…そして非公式工程。その会得に成功した被検体を脱走兵が連れ出した。今回の仕事は脱走兵の始末、そして逃げ込んだ犯罪組織の壊滅及び被検体の奪取だ。」


イムホテプでは仕事に関わる情報に関して、一番最初に提示されるのは対象となる組織、団体のみ。そして作戦内容は直前に開示される。これは情報漏洩を避ける為であるが、作戦開始直前に内容を伝えられても成功率が下がるのではないか?とよく依頼者側には突っ込まれることがある。


だがイムホテプの社員達はそんなやわでは無い。勿論、最初から依頼の全貌を知っている作戦参謀の柳丸と社長の土方が吟味し、その案件に最適な技量と適性を見極めてからメンバーを決める。全幅の信頼を置いてあるからこそできる情報開示方法なのだ。


「脱走兵は左枝 鈴香、階級は元少尉。被験体は丙1096号…便宜上R1と呼称する。R1以外はDデリートだ。」

「了解。」

「では…お、きたな。」


内容の確認を行なっていると、定春達の車に近づいてくる人影が二人。黒いムーバルスーツを着込んだ男女二人組だ。


「おまえら、打ち合わせ前に出て行くとは何事だ。」

「だって土方さんと定春が来るの遅すぎっすよー。」

「待てど暮らせど来ないんだもの、なら先に行きましょって話になったのよ。ふぁぁ…」


言動と容姿がマッチしている明らかにチャラい系の男と、真面目な口調話しているが大欠伸をしている女。この二人を合わせ、計四人が今回の任務に当たる。


修二しゅうじかなで、お前らなぁ…まぁいい。これで人数は揃った。作戦の擦り合わせ後予定通り開始する。」


「「「了解」」」


こうして四人は車の中で作戦内容を確認した後、それぞれの配置について開始の合図を待つのであった。



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