007話 休日
本日も二話投稿になります!まずは一つ目!
さてさて、入学式の模擬戦、初授業からのテロリスト襲来…そんな騒がしい最初の一週間が過ぎ去り、今日は花の金曜日。次の日からは休日である。
「くぅ〜!花の金曜日ともなればやる事は一つだよな!定春!」
「帰って寝る。」
「淡白!?いやいや、こう、もっとあるだろう?ゲーセンとか飯屋とかさ!」
「いや、こう和樹の遊びたいオーラが酷すぎてさ。はっきり言って早く帰りたい。」
「何でだよ!もっとこう若々しさ溢れる事をしようぜ?」
「……女子トイレにでも突っ込んできたら?」
「若さの方向性が違ぇ!?」
通学路で(和樹が)騒ぐ午後五時半、金曜日の夕方となれば社会人、学生問わずゴールデンタイムだ。帰る方向がある程度同じ定春と和樹はこうして帰路を共にすることが多い。
そして和樹はというと、高校生活初の休日に胸を高鳴らせるあまり定春にウザ絡みしていた。
「和樹、俺そんなアグレッシブじゃないから…他の友達誘えよ。」
「いやいねぇんだよ!初日の模擬戦で変な印象持たれて定春以外いねぇんだよ!」
「え、友達だったの?」
「………。」
膝から崩れ落ち手をついて項垂れた和樹。その一言が余程堪えたのか一瞬で静かになった。
「…冗談だ、で?どこに遊びに行くんだ?」
「そうだよな!冗談だよな!びっくりしたぜ…で、どこに行きたいと改めて言われると、うーん…どこが良い?」
「やっぱ帰って良いか?」
正直「うぜぇ…」と思う定春。本来なら休日は家で日課の作業をしたかったのだが、これは和樹に一回付き合わないとこの絡みからは逃げられないと判断した。
「じゃあゲーセンに行こうぜゲーセン!」
「はぁ、何でも良いけどある程度したら帰るからな?」
そう言いつつも和樹に付き合うあたり、定春も面倒見がいい。二人はそのまま繁華街の方へと進路方向を変える。途中、小腹が減ったということで屋台を探した結果、タコスの移動販売車を見つけた。当然定春はタコス“トリニティーゴットレットチリ~地獄の釜茹風”という見たからに激辛な真っ赤っかなタコスを購入したが、和樹はというと何故かタコス屋でクレープを注文していた。しかもそのクレープというのが“四季味わうフルーツ盛り~極甘クリームを添えて”というクリームたっぷりの見るからな激甘クレープ。
「和樹、何だそのクレープと言う名の糖尿量産兵器。」
「定春のは単純に殺人兵器だろ。」
「「いや…流石にそれはないわぁ…」」
いつの世も甘党と辛党は相容れない定めなのである。互いの意思を尊重しつつ、お互いの領分を守れればいいのである。二人はこれ以上相手の食べ物に口を挟むのは止めることにした。
「ピリッとした豆板醬、七種のスパイスにこんがりふわっと素揚げした腿肉、それらをまとめ上げるリーフレタスとクレープ生地のコラボ…これこそ至高だな。」
「いやいや!四季の感じられる多種多様のフルーツ、それらを厳選してペースト状にしたソース、極め付けは厳選された三種の味わいのクリーム群!これが国宝!」
何故鎮火しかけたものを再び張り合うのか。普段自己主張の少ない定春ではあるが、どうやら激辛の食べ物に関しては譲れないものがあるようだ、それは和樹もだが。あと至高と国宝では比べる対象が違う。自分のタコスが、クレープが、いかに美味かを互いにプレゼンしながら目的地であるゲーセンへと向かう二人。
「だからクレープってのはなぁ…お?おぉ、ここだここ。ここにしようぜ定春。」
「ん?ここか?別にいいけどどんなタイプのゲーセンなんだ?」
様々な先端技術は娯楽にも流用される。それにより日本のアミューズメント市場は飛躍的に発達し、今日に至るまで様々な娯楽が生まれている。それによりゲーセン…ゲームセンターも何種類かのタイプに分岐した。
VR技術が判断に盛り込まれたタイプゲーセン。身体を動かす総合スポーツ施設のようなタイプ。昔ながらのクレーンゲームなどの景品獲得が主体のタイプなどなど、大きく分けても八種類以上。そして今回のゲーセンはというと。
「クレーンゲームが多いんだここは、食品から玩具、嗜好品なんでもあるぜ?」
「クレーンか、俺はあんまりやんないからな…あと後々荷物になるし。」
「どうしてそんな夢がないんだよ。」
「失礼な、合理的と言ってくれ。」
「とにかく中に入ろうぜ!」
あまり乗り気しない風の定春を連れ、和樹は意気揚々と中に入って行く。入り口を潜ると長広い店内に所狭しと並べられたクレーンゲーム機の数々。ぬいぐるみ、お菓子の詰め合わせ、最新ゲームソフト、各種食品スポーツ用具、何から何まで景品として陳列されていた。下手したらここの景品だけで生活が出来そうだ。そんなクレーンゲームの前に見覚えのある女子生徒が二人いた。
「翠、このぬいぐるみは幾らで買えるのかしら?」
「お嬢様、こちらは購入できる商品ではありません。この投入口に小銭を入れ、あのアームを操作し商品をあの穴の中に落とすのです。」
「あら、面倒なことしなくてもお金を出せばいいじゃない。」
「お嬢様…おいたわしや…」
「なにを不憫そうな顔で此方を見てるのかしら?」
「いえ、何でもございません…あら?」
「何よはっきりと…あら。」
女子生徒二人はどうやら定春達を見つけたようで、会話を中断して顔を向ける。
「なぁ定春、たしかあの二人ってうちのクラスの奴だよな?」
「そうだな…喋ったことはないけど、というか名前も知らないけどな。」
よくお嬢様と呼ばれる少女はブランドの髪を肩で揃え、どこか気品のある振る舞いが板についている。反対に従者然とした少女は、よくお嬢様に翠と呼ばれている通り、緑色の髪をサイドポニーで纏めている健康的な少女…そして二人とも高校生とは思えないお山を二つ携えていた。
ただでさえ魔法高校の制服は独特で目立つ上に、この二人の容姿、それに加えて比較的入り口付近にいれば嫌でも目に留まるだろう。密かに定春が「何故こんなにうちの学校はプロポーション(特に胸)がいい女性が多いんだ?」と思うくらいそっち系の女子生徒、教師が多かった。和樹とは違い、俗的な興味ではなく、単純な疑問としてだが。
「あら?確かあなた達は同じクラスの…」
「板島 定春様と炭谷 和樹様です、お嬢様。」
「…そっ、それくらい知ってるわ、翠。あと人前でお嬢様はやめてと何度も…」
「それはそうと、此方は自己紹介をした方がよろしいかと。恐らく御二方は私どもの名前が分からないでしょうから。」
そういえば日暮がホームルームでの自己紹介の時間を端折ったのを定春と和樹は思い出す。だがそれだと、何故二人は定春達の名前を知っているのか?
「あれほど日暮先生と渡り合えた方達ですもの、名前くらい興味を覚えても不思議ではないでしょう?そして、私の名前は西条嶺 紅音、よろしくね。」
「倒木 翠です。」
定春は内心「へぇ」と感想を抱く。西条嶺といえばSAIRの日本三大メーカーの一つである“フィンリル”という子会社を傘下に収める“西条嶺グループ”だ。お嬢様に従者、それに西条嶺という珍しい苗字、恐らく不正解ではないはずだ。
「あぁ、よろしく。二人もクレーンゲームをしにここへ?」
「いえ、お嬢様の社会見学です。」
「ちょ、ちょっと翠!?」
「え?ゲーセンに社会見学ってどゆこと?」
「お嬢様は見ての通りの箱入り娘なのですが、勉学と魔法以外は本当にポンコツでして…故に興味を持ちつつ、ある程度のお金の概念を教える場としては、ゲーセンが最適と考えこうしてお連れしたのです。」
確かに先程の聞こえてきた会話を思い出すに、情勢などには疎そうである。
「失礼ね、翠!私だってお金の使い方くらい知ってるわよ!とにかくお金を使って遊戯を行う場所なんでしょここわ!」
と言って西条嶺は手に持っていた財布から一枚のカードを取り出し、自慢げに掲げた。
「お嬢様…お店ごと購入する気ですか?」
取り出したのは一般人ではお目にかかることはないだろうブラックカードだった。明らかにゲーセンではオーバースペックというか、オーバーキル…その前にゲーセンでクレジットカードは使えない。確かに教育は急務のようだ。
「おっ、やりぃ!200円で取れたぜ!」
どうやら和樹はいつのまにか一人でクレーンゲームを楽しんでいたようだ。人の話の途中で遊び出すとか失礼極まりないだろう。しかし西条嶺の視線はある一点に集中していた…というかガン見である。
「ん?…ほっ、ほっ、ほっ。」
「………。」
和樹がゲームで取ったのは、70センチ程のウサギのぬいぐるみ。良くあるデフォルメされたウサギではなく、野生のウサギを精巧に再現したものだ。そのぬいぐるみを和樹が右、左、上、と動かすと、西条嶺の視線も同じ方向について行く。
「あー、いる?」
「なっ!?そ、そんな施しは受けません!」
「じゃ要らないか。」
「あっ……はっ!」
「くくっ!ははは!いいよ、やるよ。正直言ってこんな可愛いぬいぐるみ持って帰っても、奇異の目で見られるだけだしな。」
「…ど、どうしてもと言うのであれば貰ってあげます。」
「おう、やるやる。」
「これは…」
「ひと昔前に大流行した“ツンデレ”と言うものでしょうか?」
「もしかしてお嬢様って…結構そんな感じなのか?」
「はい、大変素直ではない…可愛い性格をしておられます。」
「ちょっとそこぉぉ!何をこそこそと話してるのかしら!?あと板島!しれっと今、お嬢様呼ばわりしたでしょう!」
「倒木?」
「あれも照れ隠しで御座います。」
「なるほど。」
ウサギのぬいぐるみをぎゅっと胸に抱きしめ、顔を真っ赤にして叫ぶ西条嶺。どうやら彼女にはツンデレ属性が備わっているようだ。
「それはそうとお嬢様、貰いっ放しもどうかと思われますが。」
「た、確かにそうね…そうだわ炭谷、これをあげるわ!」
と、取り出したのはブラックカード。いや、それは譲渡出来るものでもなければ、お礼としてあげる物でもない。寧ろ貰って使ったら犯罪者になりかねない。
「さ、流石にそれは受け取れないかな…」
「お嬢様…それは流石に受け取る方も度を過ぎて迷惑かと。ここはお食事をご一緒して貰えば宜しいのではないでしょうか?ちょうど夕食のお時間ですし。」
「それもそうね!じゃあ板島も行くわよ!」
「…いや、お誘い頂いたところ悪いが俺は遠慮しとくよ。この後ちょっと用事があってね。和樹をよろしく。」
「あら、そうなの?」
「え!?定春、行かないのか?」
「あぁ、悪いな。元々ある程度の時間で切り上げるつもりだったし、用事もあることだから今回はお前だけご相伴に預かってこいよ。」
そういうと定春は出口へと向かう。
「じゃあな、和樹、西条嶺さん、倒木さん。」
「ああ、また学校でな定春!」
「そう、残念ね…御機嫌よう。」
「また学校でお会いしましょう。」
「あぁ。」
去り際に後ろ手で手を振る定春。出入り口から外に出ると既に日は沈んでおり、ネオンの光が夜を明るく照らしていた。定春は息を吐くと足早にゲーセンを後にしたのであった。