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合理主義者達の魔法理論  作者: 調 烈
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006話 講義 後編

本日二話目です!


魔法師排斥団体“ラディルカ”


魔法師はこれ以上、“人類”の世界に必要ないと謳う集団。魔法“師”排斥団体というのにも理由があり、魔法師は戦闘分野での功績に目が行きがちだが、人々の生活にも多大な貢献をしている。例えばインフラ整備。一般人では危険な高所作業や水中作業など、魔法を駆使して安全に作業を行える。


例えば治安維持。魔法を使えばパトカーよりも早く現場に着き、犯人を安全に、周りの被害を最小限にして制圧できる。


決して魔法・・自体が悪だとラディルカの人間も言うつもりはない。しかし、これ以上魔法師が増えれば自分たちの価値も失われる…と考えているのがあの団体の人間だ。実に身勝手で非合理的な考えを持つ只のテロリスト集団。そう巷では言われている。


「(やはり早々に潰しておくべきだったな。それにしても、奴らの作戦に気付かないとは情けない…)」


ラディルカの武力は所詮ゴロツキに毛が生えた程度のものだった筈である。しかしかなり癪ではあるものの、作戦の内容としては理にかなっており、実に合理的な作戦だった。


この学校の魔法師は基本的に遠近どちらも闘える魔法師が多いが、接近戦を主体としている教官が多い。つまり室内戦は彼らの十八番なのだ。それを避け、足枷がある状態でひらけた空間を使った包囲戦、これは本当に奴らが考えた作戦なのかと定春は疑問を覚える。


「これはまた、大所帯だねぇ。刀もう一本作っとくんだったよ。」

「はっきり言って面倒極まりない。」

「俺、遠距離の魔法苦手なんだけどなぁ…」


大半の生徒は銃を持った人間に囲まれるという非日常な環境に恐怖で動けず、また声も出せない状態だった。唯一の例外は日暮、定春四人組、そして例のお嬢様と従者だろう。


「おっ、良いところに教材が転がり込んできたな。でも少し多いな…間引くか…【雷千切イカズチチギリ】」

「妙な真似をしてみろ!直ぐ様生徒の頭を…」


口上を述べる前に撃つべきだった。テロリストは二校舎の屋上に12人と10人ずつ、日暮は12人の方へと魔法を問答無用で放った。発生点から水平に展開される雷の刃…それがくるりと一回転するだけで、平行に隊列を組んでいたテロリスト達の首は焼き切れポトリと落ちる。この間5秒…魔法師とっては長すぎる時間だった。


「ひっ!ひぃぃぃぃ!?」

「あ…うわぁぁ!!!!!」

「あ、あぁぁ…」


その悲鳴は生徒だったか残った反対校舎のテロリストだったか。テロリスト達は錯乱状態で引き金を引いた。銃の形態から見るに連射式。定春は無責任にもこう言った。


「圭太、君に決めた。」

「はぁ…そのネタ一昔前のやつだよね?もぉ…」


どうやら日暮は無責任にも動くつもりはないらしい。そこで定春は圭太に弾丸の処理を古いネタを交え依頼する。そんなさらに無責任な号令を出され溜息を吐きながらテロリスト達と生徒達の射線上に素早く割り込むと…


「…寺門流“連花・五月雨”…っと」


相変わらずほんわかした雰囲気のまま、高速で飛んでくる弾丸を一弾違わず切り落とす。普通、魔法師と言えども下手をして銃に撃たれれば死ぬ。決して魔法が使えるからと言って超人ではないのだ。勿論対策さえきちんとすれば銃なぞオモチャにしか過ぎない。その対策のうちの一つがいま圭太が実践していた。


「よく見とけー?寺門流と言えば剣術の名家だ。お前らの言うたかが接近戦だな。そしてその次期当主であり懐刀とも言われる奴が使う魔法だ。」


連射式銃の弾丸。秒間何百発も撃ち出される弾を見切る…【知覚強化】。その知覚した物事に対応するための反射神経…【神経強化】。超人以上の身体操作を求められる技術を支える肉体…【肉体強化】。それは…【三段トリプル強化ブースト】と言われる一種の強化魔法、不人気魔法の代表格だ。


今生徒と圭太の間には10倍という知覚スピードの隔たりがあり、弾丸を切り落とす圭太の腕は、生徒達から見れば肩から先が消えている様にしか見えない。更に圭太は弾丸を縦から両断するだけではなく一つ一つの弾をサイコロ状に断ち切っていた。


縦に両断しただけでは、流れ弾が生徒へ飛ぶ危険を配慮してのことだが、どちらにせよ生徒達には見えていない。


「…ふぅ、あれ?もう弾切れかな?」


終始ほんわかな雰囲気を崩さない圭太は流石として、呑気に日暮は魔法解説を始めた。そんな折、銃では意味がないと悟ったテロリストの一人が何かを取り出し定春達へ向け構える。


「あー、ロケットランチャーだねぇ。距離的に届かなし、こっちで斬ると大惨事になるから、雪菜さんお願い。」

「はぁ…面倒。」


と言いつつもロケットランチャーを抱えているテロリストへ向け、手は掌底の構えで右腕を後ろに引き絞る雪菜。距離的には絶対に届くわけないが、幸いこの世界には魔法がある。


「こっちもよく見とけ、薊磧流の…」

「【遠当て】」


掌底を勢いよく放ったと同時に、ロケットランチャーも発射される。魔法とは基本的に炎や雷といった原色を含んでいないものは無色透明である。しかし魔法師は素粒子を知覚できると同時に、魔法もある程度知覚できる。だから大半の生徒はわかったのだ、発射された弾頭に何か塊が衝突し、空中で爆発した事が。


「おー、お見事お見事。流石は“無形”と言われる薊磧流。」

「先生、それは嫌味。」

「そうか?それはそれで魔法の集大成とも言えると思うけどな。」

「…ふん。」

「とまぁこんなもんだ。“強い魔法”とは何か?一度熟考してみる価値はあるだろ?…じゃあ教材の提供感謝する、【蓄積降雲】」


突如テロリストのいる屋上に叩き付けられた高密度圧縮空気の塊。勿論やったのは日暮だが、そこに情け容赦はない。大事な生徒を片付けようとした輩なのだから。用は済んだとばかりにテロリストをサラッと片付けると日暮は生徒達に向き直った。


「じゃあ避難再開だ。ここもまだ安全ではないからな。」


そう言うと日暮は何事もなかったかのように再び体育館へ向かって歩き始めた。(精神的に)満身創痍の生徒達もそれに続く。




「…あれ?俺の出番は?」




「…和樹の出番は殿を全うする事で達成される。」

「それ実質出番なしって事だよな!?俺の覚悟は何だったんだ!」

「まぁまぁ和樹くん、そんな急ぐもんじゃないですって。」

「うるさい、変態。」

「本当に俺の扱い!?」


「お前も言ったろ、遅かれ早かれだ。今回は延長になっただけだ。…と、俺はちょっと外す。日暮先生には適当にいっといてくれ、掃除漏れがあったからな。」



定春はそう言うや否や校舎の影はと消えていった。圭太と雪菜は大体の事は察したので「わかったよ」とか「ん…」で済ませる。


「あ、なんかやりに行くなら俺も!」

「変態はこっち。」

「あはは…」


和樹だけが空気を察しただけで、空気は読まなかった為、最終的には雪菜に襟を引っ張られ連行されていった。










「はぁっ!はぁっ!はぁっ…ちくしょう!聞いてねぇぞあんな奴ら!何が“入学したての学生なら簡単”だ!安全で簡単だからって今回の作戦に参加したのにっ、くそ!」


そんな悪態を吐きながら逃走するテロリスト…その生き残り。何やらいらぬ事を吹き込まれ、それが騙されたと気付いた様だが、よく考えればおかしいとすぐに気付くべきだった。


確かに学生ならば銃への対策は済んでいない為、何人かの殺害には成功するかも知れない。だが魔法学校には当然正規の魔法師もいるのだ。襲う側がまず安全なんて確保できるわけがないのだ。


さらに不運な事に襲った新入生のクラスには日暮がいた事、それに圭太と雪菜がいた事は最早天のいたずらだろう。そしてまだ、あのクラスには一人いるのだ。


「ちょっと待ってもらおうか。」

「っ!?」


逃走経路は事前に調べていた、なるべく人目を避ける経路で、この混乱の中ならば見つかるわけがないと言われた逃走経路。しかしその眼前には一人の男子学生が立っている。


「知ってる事を話し…」

「そこを退けガキがぁぁ!!」


懐からハンドガンを取り出し容赦なく男子学生へと向け発砲。もはや形振り構っていられない余裕のない表情。


「…てもらおうか、【空蝉】」

「なっ!?」


男子生徒の身体をすり抜ける弾丸。だがそれでも構わずテロリストは撃ち続けるが、とうとう弾倉が空になりハンドガンを投げ捨て、来た道とは反対の方向へ走り出した。


「まぁどう見ても下っ端だな。有益な情報も持ってなさそうだし…」


「はぁ!はぁ!はぁ!くそっ、絶対にげのびてやる!」

「それは出来ない相談だ…」

「ひ!?くそがぁぁぁ!!」


一拍の間にいつのまにか真横に男子生徒が並走していた。普通なら追いつかないが当然相手は魔法師の卵、普通ではない。男子生徒は手刀の形で手をテロリストの首に振り下ろす。


「【乗斬り】…」


綺麗にスパンッとテロリストの首が宙を舞う。男子生徒は返り血を浴びない様すぐ様その場を飛び退くと、興味無さげな目で首のない死体を見下ろす…切り口は鮮やかで食道、気道、脊髄に至るまで真剣で断ち切ったようだった。


「(ラディルカ、恐らくはあの取引を邪魔した事への報復ってところか。)あの時全員始末した筈だが、どこからか漏れたのか。」


男子生徒は溜息を吐きながら皆と合流する為に体育館へと向かって歩き出したのであった。残るのは首と胴体…物言わないテロリストだったもの。














「生徒に殿させるとはどういう了見だ!バカ日暮!!」

「いや、一人じゃ先頭と殿は…ブハァ!?」

「お前は軍属魔法師だろが!そんなの片手間でやれ!!」

「え、面倒だか…グハッ!?」


定春が体育館へ着いた頃には、日暮が日下部に折檻を受けている真っ最中だった。拳を魔法で強化してる日下部だが、あれは本当に死ぬんじゃないかと思うくらい本気で殴っている日下部。日暮のクラスの生徒が本気で引いていた。


「しかもテロリストを使って実演授業だぁ?なら私がこの場で実演してやるよ!」

「ちょ…マジで…シャレに…」


女性とは思えない(勿論単一工程の魔法で強化してある)膂力で日暮を折檻する日下部。殴られる理由も誰が見ても正当なものなので誰も止めない、というか止められない状況。


そんな日下部の折檻劇の合間に、魔法高校へのテロリスト侵入事件は収束してしまっていた。生徒・教師死傷者0、テロリスト全員の死亡を確認、器物破損多数という、本当に何がしたかったのか?という結果に終わっていたのだった。




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