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合理主義者達の魔法理論  作者: 調 烈
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005話 講義 前編


模擬戦の翌日。各学年はカリキュラム通りの授業が開始されていた。1-C最初の授業は魔法工程学、担当は…日暮だった。


「えー、昨日は模擬戦お疲れ様。俺はあのあと学校長と日下部にこってり絞られたわけだが、お前ら最後の模擬戦で何を思った?」


日暮の右頬は大きく腫れ上がっていた。1日経っても腫れているとは、一体どんな折檻を受けたのだろうか。


「俺は言ったよな?凝り固まった考え方を解すって、で?何を思った?」


そう生徒達に問いかける日暮。


「いや、先生。確かに昨日の最後の模擬戦は凄かったけど、所詮接近戦だろ?魔法の真価の遠距離からの攻撃を捨てる意味がわかんないけど。」

「高威力な攻撃を遠距離から撃つっていうのが魔法の醍醐味でしょ?わざわざ魔法使えるのに接近戦挑む意味がわかんないよね。」


そんな生徒の言葉に沢村という男子生徒、三上という女子生徒が反応した。確かに魔法という力は距離において大きなアドバンテージがある。更に現代において日常的な距離の武装は銃火器、しかし魔法師にはあまり効果が薄いのは今や常識である為、魔法とは遠距離戦においてこそ真価を発揮する、とは大体の一般人〜魔法師の卵達の共通認識だ。勿論、ライセンスを取得している魔法師にも遠距離至上主義者はいる。


だが考えてみてほしい。この世界には魔法という力はあるが、魔物も魔王もドラゴンも居ない。いつだって武力を向ける相手は人なのだ。人は頭を石で小突かれただけでも死ぬ可能性のある弱い生き物だ。

そんな人間に対して高火力の炎や雷は果たして必要なのか?答えは否である。


「…魔法は力そのものじゃない、魔法は道具だ。今のところはそれを覚えていてくれたらいいさ。よし、じゃあ授業始めっぞー。」


今、夢に心をときめかせている若人の気持ちを折るのも気が引けた日暮は、今はこれでいいと考え授業へと話題を切り替えた。


「さてと、まず基本的な事だな。工程処理を助けてくれる便利機械であるSAIRだが、代行できない工程部分があるそれは何だ、沢村。」

「え、あー、工程の最初と最後です。」

「正解だ、SAIRの補助処理が使えるのは三工程以上の魔法で、中間工程と呼ばれる部分だけだ。逆に言えば極論、最初と最後の工程を自分で処理して残り全てをSAIRに処理させれば九十六工程の魔法も最短で発動することができる。ただそんな事をする奴はいない。」


何故ならばそれはSAIRに登録できる工程は、今現在どんな高性能なものでも六十四工程が限界だからである。更にその値段も馬鹿にならない程だ。費用対効果で見ればやる意味が全く無いものである。


「そこで質問だ。“強い魔法”って何だと思う。」


その質問には沢山の回答が上がった。威力の高い魔法。工程の多い魔法。広域殲滅の魔法…様々。答えを挙げる生徒たちの目は誰も輝いていた。それはそうだ、みんな魔法師になる為にここに通っているのだ、当然強い魔法師に憧れるのだろう。


「じゃあ“最強の魔法師”とは、何だと思う?」


「そりゃあ…“生咲きさき 墨花すみか”さんでしょ。」

「あー、やっぱ若い奴はあんなのが“最強”の象徴なんだよなぁ…」


と、日暮は苦い顔をする。生咲 墨花は空軍所属の軍属魔法師で、階級は中佐。年齢は本人の希望か公表はされていないが、その容姿を一言で表すならば“まるで女子高生”と言われるほど若く、そして軍のアイドルと言われるくらい可愛いと評判だ。勿論最強と言われるだけあり、空域侵犯問題や紛争派遣任務で多大な成果を残したと公表されていた。


「まぁ確かに多角的な最強というなら、一つの視点として奴は最強なんだろう。じゃあ改めて聞こう、“強い魔法”とはなんだ?」


「(それ・・を今のこいつらに理解させるのは無理だろう、余りにも理想と志が高すぎる)」


定春は日暮が何を言いたいのか正確に理解していた。理解してるが故に、それは難しいと感じたのだ。


「先生、言ってる意味がよくわかりません。強い=高威力じゃないんですか?」


ほれみろ、と定春は心の中でゴチた。予想通りの答えが出たところで校内に突然警報が鳴り響いた。


「ん?侵入警報か?何処のどいつだ、魔法学校に侵入しようとする馬鹿は。」


「え、え、警報!?」

「なんだ!?」

「なんだよこの警報!」


「あー、お前ら落ち着け。これは侵入警報だ。校内に許可なく立ち入った武装組織の場合に発令される。火事とかじゃないから安心しろ。」


「「「「(いや、寧ろ火事の方が安心だわ!!)」」」」


生徒の心の声が揃った。確かに普通に武装した侵入者よりも火事の方が安心だろう。危険度のランク分けが少しおかしい。


「まー問題ない。この学校にはライセンスを取得してる魔法師が沢山いるし、元軍属の魔法師も数人いる…」


「全員動くな!!SAIRを外して…ガッ!?」


「…俺みたいな魔法師がな。」


突如教室のドアを蹴破って入ってきた銃を持った侵入をすぐ様鎮圧した日暮。侵入者が入ってきた瞬間、人差し指を侵入者の防刃チョッキの上から突き刺した為、その指には血液が滴り落ちている。


「(【硬化】【貫通】の二工程の魔法か…)」


凡その魔法の当たりを呑気に推測する定春。殆どの生徒は侵入者というワードに浮き足立っているが、その中でも和樹、圭太、雪菜、そして席の後ろで退屈そうに侵入者を見ている女子生徒二人は事態をただただ傍観していた。


「いい機会だ、お前たちに“強い魔法”ってのを教えてやろう。まぁその前に避難だ、警報の長さから今回は50〜60人位だろうからな、体育館に避難するから焦らず付いて来い。」


そう言われると生徒たちは若干放心気味に日暮の後をぞろぞろと付いて行く。この様な集団避難の場合、先頭と殿しんがりを魔法師が務めるべきなのだが、それは如何するのだろうと定春が考えていると日暮はくるりと後ろを振り返り。


「あ!昨日最後に模擬戦した奴らは全員最後尾なー。」


と、あろうことか自分の生徒に殿を指示してきた。昨日の模擬戦で感じ取った実力を評価しての事だろうが、余りにも無責任すぎる対応だ。


「よし、後で日下部先生に報告しよう。多少誤報告があっても問題ないだろう。」

「ん、賛成。」

「あはは、程々にね?」

「俺が日下部先生に報告していいか!?」

「「黙れ変態」」

「俺の扱いが……。」


と冗談を交えつつ定春は三人の能力を分析する。寺門流の圭太、薊磧流の雪菜、この二人は明らかに実戦経験・・・・はあるだろう。定春も仕事・・ではよく門派の人間にお世話になったことがあるからだ。問題は和樹、魔法に関する考え方は定春と近いものを持っているし、戦闘経験もありそうだ、だが…


「和樹、いけるか?」

「ん…あー、なるほどね。そんなの遅かれ早かれだろ?」

「…違いない。」


どうやら覚悟はある様だ、余程魔法師に成り立ての人間よりは覚悟はあるだろう。それは目を見れば明らかである。


一年生の教室があるのは北側の校舎3Fで、この校舎は一年生の専用校舎。1Fから2Fは各分野の多目的室となっている。その場所から比較的安全(侵入と遭遇しても後ろと前からしか攻撃されない立地)に移動するにはまず階段を降りて、そこから一度外へ、そして中庭を通り体育館に行くしかない。その中でも一番危険なのは中庭だった。相手は恐らく非魔法師、銃で武装しているだろう。ライセンスを持っている魔法師ならば銃はほぼ効かないが、学生はその限りじゃない。銃への魔法による対抗法は学校で習うからだ。そしてそれは明日のカリキュラム、魔法戦闘学で教える内容だった。


「よーし、じゃあ行くぞー!焦らず、パニクらず付いて来い!」


そう言い日暮は校舎を歩き出し、その背後を生徒たちが付随し、定春達は最後尾。


「ん?圭太、その刀どうしたんだ?」


ふと気付くと圭太の手に日本刀らしきものが握られていた。先程までは持っていなかったはずと定春が首を傾げていると。


「今は、その、緊急事態でしょ?校舎の鉄パイプ管からちょっと拝借しちゃった。」


と照れ臭そうに笑う圭太。


「なるほど、問題ないだろう?圭太の言う様に緊急事態だし。」


どうやら勝手に学校の備品を、魔法で刀として拝借した様だ。だが確かに誰も文句は言うまいと定春はその話題を打ち切る。


一同は階段を降りきって丁度、中庭の入り口に差し掛かっていた。この場所は頭上にも注意を払わなければならない、日暮も慎重に辺りを探る。指サインで行くぞと生徒達に合図を送るとなるべく物音を立てない様に進む一同。おっかなびっくりといった風に中庭を歩く生徒たち。そして入学二日目でこんな事態になるとは気の毒にと思う反面、良い経験じゃないのか?とズレた感想を浮かべる定春。


「なぁ定春。」

「なんだ?」

「そういえば他のクラスはどうしたんだ?見当たらなかったけどさ。」

「あぁ確かAとDは合同体育、Bは…知らないな。校舎にいなかったから別の校舎で授業してたんじゃないのか?」

「ふーん。」


何か引っかかる事でもあったのか和樹は少し考え込んだ。


「どうした?」

「いや、俺らの教室に来た侵入者は一人だろ?一校舎当たり一学年しかいないと分かっていたとしても少なくないか・・・・・・?」

「……。」

「それは。」

「確かにそうね。」


確かにそうだ。魔法師を育成する学校とは国の最高機密機関といってもいいのに、人数が少なすぎる。日暮も警報の長さから50〜60人と言っていたはず。ならば残りはどこへ行った?そもそも侵入の目的は何なのか?


そうだ、そもそも目的が分からない。そしてやってる事がちぐはぐ過ぎる。最初に教室に侵入してきた者も一人。それでは簡単に撃退されるのは目に見えてあるし、あえて見つけて逃げてくれと言っているようなものだ。


「…あえて見つけて?」


そこで定春は考えをまとめてみる。侵入者は直ぐに倒した。それにより校舎内は危険だと判断した。避難経路は最短で移動するのが通常の行動。そして全生徒の避難目的地は体育館。避難する際はどうしても、どこから避難するにしても、必ず開けた場所を通らなければならない。そして目的不明の侵入者だが…


ジャキ。


何か頭上から金属の擦れる音が聞こえた為一同の意識が上へ、各校舎の屋上へと向くとそこには黒尽くめの侵入者達が銃口を生徒達へと向けていた。


「…成る程、実に合理的な作戦だ。」


定春は侵入者腕に巻いてある腕章に見覚えがあった。こんな事なら最初の侵入者をよく観察しておくべきだったかと苦虫を潰した様な顔をする。


魔法師のライセンスを取得した際、ライセンスカードというものがもらえる。そのライセンスカードに刻印してある紋章は勤勉を意味する“蘭”。そして侵入者の腕章には“蘭”の下に炎のマーク…


「魔法師排斥団体“ラディルカ”か。」


屋上から銃口を向ける侵入者は20名弱、その目的は“花は咲く前に摘み採れ”と言わんばかりの魔法師の卵の殺害だった。



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