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合理主義者達の魔法理論  作者: 調 烈
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004話 入学式 後編

本日二話目です!


「お前らはよく分かってるみたいだな。じゃあこのコインが落ちたら開始する、いいな?」


「ああ。」

「了解。」

「大丈夫です。」

「分かりました。」


日暮を囲うように布陣する定春達。だがその距離は5メートルと近い。先程の生徒達は20〜30メートル離れていたのに対して余りにも近いのだ。


「あいつら何やってんだ?わざわざ魔法の有効レンジを潰して。」

「さぁ?どうせ最後まで残ってたんだ、まともな魔法使えねぇんじゃね?」

「言えてる、だから距離を潰して当てにいってんだろ。」


模擬戦が終わった生徒達は口々に好き勝手言っていた。あそこまで距離を潰すのはまともな魔法が使えないからだと。入学時点で生徒達に一部を除いて差がある訳ではないのだが、それでも優劣をつけたがるのはこの年頃特有のものだろう。


しかしそんな批判的な評価しかしない生徒の中に二人だけ違う角度から見ていた生徒がいた。


「どう思う?みどりの目から見て。」

「はい、お嬢様。あの魔法で剣を生成した方は寺門流のご子息、女性の方は薊磧流でしょうね。残りの男性二人は分かりかねますが、趣旨を汲み取った行動をした以上そこそこ出来る方々ではないかと。」

「そうね、私も同じ考えよ。あと翠、お嬢様はやめなさい。ここは学校よ?」

「承服致しかねます。」

「…はぁ。」


同じ制服に身を包んだ女子生徒二人。一人はあの【電磁砲リトルレールガン】を放った少女で、ロングブランドの髪に端整な顔、可愛いというよりも凛とした美しい顔立ち。そして男が好きそうなプロモーション…如何にもお嬢様といった気品が漂っていた。


まあ一人は従者然とした態度を崩さない女子生徒。こちらはキリッとした瞳が印象的で、その立ち姿に隙がないように見える。黒髪に黒目という如何にも日本的な特徴であるが十分美人の部類だ。尚、胸は残念だが。





「じゃあ行くぞー。」


キンッと日暮の手からコインが上に弾かれる。くるくると放物線を描きながら落ちていくコイン。そしてコインが地面についた瞬間、最初に動き出したのは寺門だった。


移動魔法、前方へ高速で動くだけの魔法を使い、寺門は上段から日暮に斬りかかった。当然日暮はそれを半身分移動して回避行動を取る。避けられた剣筋はそのまま下方向へと落ちて行く…途中で軌道が日暮を追うように薙ぎ払いへと変化した。


「おっ!?」


切っ先が急転し日暮に迫る。が、そこは元軍人焦ることなく、掌底を刀に放った。キンッと掌底と刀が接触した瞬間、刀が反発するように反対方向に逸れ寺門に大きな隙を作る。


「筋はいいが、先読みが甘い!」

「がっ!?」


そう言うと日暮は容赦なく寺門の横っ腹を蹴り飛ばした。かなりの速度で吹き飛ぶ寺門、だが空中をウィンドミルで体勢を整え難なく着地する。


「…“捻り通し”!」

「そして仲間が作った隙を突かせ、更にその隙を突く…実にいい。」

「くっ!…はっ!」


薊磧が日暮の隙を突き、背後から掌底を畳み掛けるが、日暮は肘と太ももでその腕を挟んだ。その拘束から逃れようと薊磧はそのまま日暮に当て身を喰らわせて離脱。続けてその背後から和樹が襲い掛かる。


「おらっ!」

「おっと…」


だが和樹の大振りの攻撃は簡単に回避されてしまう…が、和樹はその力の流れる方向に従って空中前転し、日暮に踵落としをお見舞いする。


「はっ!曲芸的な技だな、いいぞ!」

「避けといてよく言う!」


その踵落としも難なくバックステップで回避する日暮だが、その判断は正解である。その証拠に和樹の踵が当たった地面は大きく抉れているのだから。


「ではそろそろ俺もやるとしよう。」

「…本当に油断ならない奴等だな。」


バックステップで回避した方向…日暮の背後から背筋が凍るような声が聞こえる。定春は日暮の背中に拳を置き強く踏み込んだ。全身に余すことなく力を伝え、拳からチカラを放った。


「【乗返し】」

「っ!」


背中に凄まじい威力の何かを受けた日暮は、そのまま前方へ吹き飛んだ。このままいけば校舎へと突っ込んでしまうが、そこは元軍人だ。【慣性制御】という単一工程の魔法を行使して勢いを殺し着地した。


「…ふむ、前方へ飛んで威力を殺されたな。」


悔しそうにそう呟く定春の足元は深く抉れ、亀裂が入っていた。よく威力のある打撃には強い踏み込みが必要と言われるが、それにしても抉れ過ぎだった。


「こりゃ…俺も本気を出さないと殺されるか?あの板島と他の3人もなかなかどうして油断ならんしな。っと、言ってるそばから!」


周りに四人は居ない、しかし日暮の正面には飛ぶ斬撃と呼ぶに相応しい視覚化された攻撃…いや、魔法が飛んできたのだ。勿論放ったのは寺門、刀を振り抜いた姿勢で日暮を見据えていた。


魔法の工程自体は比較的少なく、難易度の高い魔法【真刃まじん】。魔法師は軍属以外にも警察官などの職への道が用意されている。その中でも魔法警官は接近戦が得意なものが多い、その中でよく使われるのが【真刃】という【真空】【形成】【指向制御】【付与】の四工程からなる魔法で権限Aライセンスが必要である。


「本当に高校生の技量ではないな、けど対処法はあると言ったろう?【消失拡散ロスエネルギー】」

「わかってますよ、先生。」


寺門が日暮との間の距離を一瞬で詰める。


「ではどうする?」

「こうします。」


だが日暮は別段驚かない。目の前に大振りの上段構えで佇む寺門の一撃は虚撃フェイントと見抜いていたから。


「【波紋揺らし】…」

「そい!!」


左右から薊磧、和樹の挟撃。薊磧は4工程の魔法、和樹は純粋に拳を叩き込もうと踏み込んでいた。当然残るは定春、このまま唯一の退路である後方へ飛べば攻撃を喰らうのは明白、背後からは明らかな殺気が伝わってくる。ならば退路がないなら作ればいい…とばかりに日暮が取った選択肢は。


「【乱気流】」


「くっ!」

「うぉ!?」

「きゃっ!」


日暮を中心に突如現れた荒れ狂う気流が三人を凄い勢いで吹き飛ばす。吹き飛ばされた三人は受け身も取れずに地面を転がっていった。これで纏めて四人とも吹き飛んだろうと、後ろを振り返る日暮だが、そこに定春は転がっていなかった。


「先読みが甘いですね、先生。殺気のフェイントなんて日常茶飯事でしょう?」

「(普通は高校生が殺気なんて使えるか!)本当に、お前ら高校生かよ…」


トン、と背中に拳を置かれた。これは先ほどの攻撃と認識した瞬間には既に日暮は吹き飛んでいた。今度は威力を殺しきれずに鈍い痛みが背中を襲う。

だが、日暮も先月までは現役を走ってきた軍人だ。生徒となる者に遅れを取るわけにも行かなかった。




…十七工程の処理を開始…発生点を指定…威力を最小限に再設定…処理を終了…再設定完了…



【慣性制御】により地面に着地した日暮はすぐ様次の魔法を定春に向ける。


「【蓄積降ダウンフォ…」


「やめんかアホ日暮!!」

「ブホッ!?」


日暮の頭部に勢いよく拳が怒号と共に叩き込まれ、日暮は地面とキスをした。魔法は行使前に頭部に衝撃を受けた事により強制キャンセルされる。


聞きたくない鈍い音と共に頭部が地面に埋まっている日暮。下手したら死んでいるのではないか?と言えるほどめり込んでおり、そのすぐ隣で日下部が息も切れ切れに拳を握っていた。


「お前は入学初日の学生を殺す気か!?【蓄積降雲】なんて学校で使う魔法じゃないだろうが!」

「いつつつ…あいつらなら【蓄積降雲】喰らっても大丈夫だろう?威力は最小限に抑えてたんだから。」

「そういう問題じゃない!」

「ゲバッ!?」


再び後頭部を殴られ前方へ吹き飛んだ日暮、その光景を呆気に取られながら眺める1-Cの生徒。先程までの緊迫した雰囲気がまるで嘘の様に霧散し、コントチックな雰囲気に変わっていた。


「…ったく、お前たちは先に教室に戻っていろ!この馬鹿をちょっと学校長の所に連れて行ってくるからな、解散!」


と言うや否や、日下部は日暮の襟を掴みズルズルと引きずって行ってしまった。それを皮切りに1-Cの生徒たちはぞろぞろと教室へと戻って行く。


反対に先程日暮と模擬戦を行なったメンバーは自然と定春の元へと集合していた。


「いやー、強かったな日暮先生。」


とは和樹。特段怪我を負った様子はなく、いい運動をしたとばかりに朗らかに笑っていた。


「僕の剣技はほとんど効きませんでしたけど、いい経験になりました。」


と寺門。手に持っていた魔法で生成した刀は消えており、相変わらずほわんとした雰囲気を纏っている。


「寺門は流石だった。でも板島と炭谷があんなに出来るとは驚き。何かやってたの?」


とは薊磧。ほぼ表情を変えずにそう言い放つ。だが雰囲気を見れば明らかで、定春と和樹に興味を持っていた。


「いや、俺は皆んなと比べれば大したもんじゃないよ。」


定春は正式に武術を誰かに師事した経験はない。


「あの打ち込み、“発勁”に似てた。でも魔法の気配も感じた。誰かの師事なしであそこまで出来るとは思えない。」

「まぁ半分正解って事で。」

「むぅ…」

「あはは、薊磧さん、人の魔法を詮索するのはマナー違反ですよ?」

「…雪菜ゆきなでいい。薊磧は言いにくいだろうから、私も定春と呼ばせてもらう。」

「じゃあ僕も圭太けいたでお願いします。苗字はあまり好きじゃないんですよ。」

「あ!俺も和樹でいいぜ!」

「よろしく、定春、圭太…炭谷。」

「「よろしく。」」

「なんで俺だけ!?」

「変態に呼ぶ名前はない。さっき日下部先生の胸をガン見してた…女の敵。」


どうやら和樹の舐めいるような視線を雪菜に目撃されていたようだ。だからあれほど言っただろうと定春が溜息を吐いた。そんな感じで騒がしい一団を興味深そうに見つめるのは、あのお嬢様と翠と呼ばれた女子生徒だ。


「翠、想像以上だとは思わない?」

「はい、正直に申しますとあの板島という生徒と炭谷という生徒、あの二人はそこまで出来るとは思いもしませんでしたからね。」

「炭谷という男は恐らく技術自体は素人同然、でも魔法の使い方…というより魔法の性質に着目すべきね。」

「たしかに、喧嘩の様な戦い方でしたね。」

「板島という方は…正直鳥肌が立ったわ。使った技は正拳突きというより、発勁の様だけど魔法の種類が全くわからなかったわ。」

「それでいて本気の様ではありませんでしたね。何処か余力を感じました。」

「ふふ…学校生活なんてと最初は思ってたけど、楽しくなりそうだわ。」

「それは間違いないですね…ではお嬢様、教室に参りましょう。」

「…だから翠、お嬢様はやめてちょうだい…。」




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