003話 入学式 中編
本日は二話投稿、0時と12時です!
「で、お前らは新入生だな?何故今正門から入ってきた。」
定春と和樹の目の前にはジャージ姿に竹刀という一昔前の体育教師のような女性と対峙していた。いや、対峙していたというより尋問を受けていた。
「…あ、実は道端で人が倒れて…」
「普通に寝坊しました。」
「って!おい定春!」
初手でぶっちゃけた定春。というよりも、下手な言い訳で手間が増える事を嫌った定春。ここは素直に理由を述べただけである。
「で?そっちの長身ポニーテールは?」
「…寝坊です、はい。」
「はぁ…ったく、お前らもう少し高校生という自覚を持て。しかもこの学校に通う以上普通の高校生って訳じゃないんだ。軍隊式の規律…とまでは言わんが、そこら辺にはもう少し気を配った方がいい。…あー、言い忘れていた、私はここの広域指導を担当してる日下部 百合、教科担当は体育と魔法戦闘学だ。」
そう言う日下部教員は胸を張る。そこにはジャージという薄手の布地から溢れんばかりの強調をする二つのメロン。そして定春と同じぐらいの身長だが、大人の魅力をその身体に全て体現したかのようなプロモーション…やるべき職業を間違えたのだろうか?というようなモデル体型だった。
そしてその魅力は思春期真っ盛りの学生(和樹のみ)には刺激が強かったようで、目をそらす…訳でもなくガン見していた。
「(思春期関係なく、これは和樹がムッツリなだけだな。)日下部先生、俺たちはこの後どうしたらいいですか?」
「そうだな、入学式自体はもう直ぐ終わる。今日はこの後ホームルームだけだからお前たちはそのまま教室へ向かえ、担任には私から言っといてやる。教室の場所はわかるか?」
「確かタブレットに学校全域の地図が載ってたかと…おい和樹、いつまでそうしてるつもりだ、行くぞ。」
「…はっ!お、おう!」
漸く魅了の魔法(笑)から解き放たれた和樹は、焦るように日下部に一礼すると定春の後を慌ててついて行ったのだった。
「…あれが日下部 百合…【図書館】、か。」
「どうしたんだ定春。」
「何でもないムッツリ助平。早くそのだらしない顔を直せ、先生が若干引いてたぞ。」
「なっ!ムッツリじゃない!豊穣豊かなお山を見下ろしてただけだ!」
「ふむ、ムッツリじゃなくただの変態だったか。」
これは和樹の性格評価を大きく下方修正すべきか?と定春は歩きながら考える。まだムッツリの方が好感を持てたというものだ、二つだけを比べるならば、の話ではあるが。
「美しいものは愛でる、これは世の真理だろう!」
「変態は豚箱に入る、これもの世の真理だろう。というかいつまでくだらない話をする気だよ和樹。ほら、この校舎の3階に俺らの教室がある。とっとと行くぞ変態。」
「まて!さらっと呼称を変態に変えるな!…ちょ、聞いてる定春!?定春さーん!?」
聞く耳持たずにテクテクと校舎の中に入って行く定春。後ろで何か和樹が叫んでいたが無視。寧ろ、あえて無視。無駄な労力は削るに限ると言わんばかりにガン無視して一人教室へと向かっていったのである。
「あー、みんな揃ったな?では改めて、入学おめでとう諸君、この1-Cを受け持つ日暮 天動だ。元々陸軍に居たんだが今年異動辞令が下ってな、こうして担任をする事になった、専門は魔法工程学だ。あ、因みにちゃんと教員免許も持ってるから心配すんなよ?」
どう見ても不良オヤジにしか見えない日暮。くわえ煙草がよく似合いそうである。不摂生という言葉がよく似合いそうな男だが、この男も魔法に関わるものならば誰もが知ってる有名人だ。
日暮 天動。陸軍魔法師第1部隊 副部隊長。階級は准佐、得意魔法は【蓄積降雲】。広域殲滅魔法をいくつも開発し、そして本人も戦闘力が高いというとんでも佐官。陸軍において最強とは誰か?という問いに必ず名前が出てくる人物だ。
「それで最初のホームルームの定番、自己紹介コーナー…と行きたいところだが、それは休み時間にでも各々やっといてくれ。今日は最初に力試しをやってもらおうか。」
「え?力試し?」
「なにそれ。」
「まぁ要は俺らの実力を図るって事だろ?」
「相手は俺、全員で掛かってきてもいいし、小隊を組んできてもいい。勿論ソロでも良いぞ。まずは凝り固まった考え方を解すとしよう。」
日暮は人の悪い笑みを浮かべた。
「さて、使う魔法は何でも構わない。きちんとライセンスを取得しているなら工権の奴でもいいぞ?とにかく、お前らの戦闘能力を見せてもらう。最初は誰から来る?」
日暮は着崩したスーツのままSAIRを指にはめ広い運動場に一人佇む。最初に名乗り出たのはクラスの半分(20人)を占める中隊規模の生徒。日暮を中心に円陣を組むように中心から30メートルほど離れて構える生徒達。
「(早速意味を履き違えているのか…)和樹、どう思う。」
「んー、まず負けるな生徒側が。」
おそらく和樹は魔法師としての能力差で、生徒たちは日暮に負けると判断したようだ。負けるという判断は定春と同じだが、定春が負けると判断した所は別。
日暮を囲う生徒達は口裏を合わせていたのだろう、新入生時点で出せる各々の魔法を日暮に放つ。【空気弾】【炎弾】【砂弾】そのどれもが遠距離攻撃、さながら円陣営による殲滅掃討戦だった。
「おー、1秒切る構成そして手数で来たか。新入生としては上出来、だが不正解だ。」
突如、日暮の周囲の空気が上空へ向かって吹き上げられた。迫ってきた生徒達の魔法も上昇気流に乗せられ一緒に巻き上げられた。その直後、上がっていった気流が下方向に打ち付けられたことによる突風で生徒は吹き飛ばされていた。
「上昇気流を作り出したんだろうな、魔法名を付けるまでもなく強力な空気の押し上げ。」
「まぁ和樹の見立て通りだけど、お前どうする?」
「どうって?」
「あいつらみたいに徒党組んで魔法を当てるのか?」
と、定春は悪戯な笑みを浮かべた。和樹は恐らく日暮の言葉の意味を正確に理解している、そんな確信から来る挑発の言葉だ。
「いやいや、先生は戦闘能力を見せてくれって言ったんだぜ?囲んで魔法撃ってどうするよ?つーわけで定春、一緒に組もうぜ?」
「だな、意味を履き違えて魔法打ち込んでる奴らは固定観念にとらわれ過ぎてるだけだし、俺らの他にも何人か居るみたいだしな、ほら。」
残りの半数の生徒も先程と同様に、何人かでグループを組み、日暮に遠距離攻撃を仕掛けていたが、男子生徒と女子生徒の一名ずつは別々の場所で日暮を観察していた。
男子生徒は黒髪で大人しそうな雰囲気、女子生徒は赤髪のロングヘアをツインテールにした活発そうな雰囲気だ。どちらも定春から見て武術経験者だとわかった。体幹があまりにも綺麗すぎる。
「へぇー、ただ無駄なエリート意識の奴だけじゃないのな。」
「でも古典的な遠距離攻撃でも中々の奴も居るみたいだぞ?」
現在、定春達四人を除いた生徒は全員が日暮に対して攻撃を仕掛けていた。全員が安全地帯からの魔法攻撃。内容はあいも変わらず【空気弾】や【炎弾】であったが、一人だけ新入生としては異色の魔法を放つ女子生徒がいた。
「ほぉ…雛鳥にしては中々骨のある魔法だな。」
日暮に迫る一つの魔法…【電磁砲】
間違っても模擬戦で使う魔法はではない。工程資格ライセンスを少なくともA、B二つずつ持っていないと行使できない高等魔法。簡単に説明するなら、地中の鉄の成分を抽出し、それを電磁化により前方へ高速射出する魔法。軍事兵器である超電磁砲を、魔法により再現したものだ。正規魔法師でさえ扱えるものは少ない、それ程に高度な魔法を高校生が使うというのは純粋に驚きだった。
「だけど残念、その対処法は色々ある…【消失拡散】」
日暮に迫る鉄球が急にその勢いをなくし、地面へとポトリと落ちる。余りにも呆気ない魔法の無効化に、魔法を撃ち込んだ女子生徒も呆気に取られていた。
そして毎度の如く突風で吹き飛ばされた生徒達。残る生徒は定春、和樹、そして男女一名ずつの計四人だけだ。
「よし、後は四人だけか…お前らはきちんと意味は分かってるみたいだな。なら全員で来い。」
「だってさ、和樹どうする?」
「いやー、まず勝てる相手じゃないからな。胸を借りる想いで行ってみようぜ?」
「そうだな…二人はどうする?」
「僕もそのお誘いに乗らせてもらおうかな。僕は寺門 圭太、よろしく。」
「…薊磧 雪菜、あの教官にはぎゃふんと言わせてみたい、よろしく。」
「…薊磧って、“薊磧流柔術”の薊磧?」
「そういう君だって“寺門流剣術”でしょ?」
「へぇ、二人は有名な門派のご子息ご息女だったのか…俺は板島定春だ、よろしく頼む。」
「俺は炭谷 和樹だ、よろしくー。」
「挨拶は済んだかー?なら始めるぞー。」
日暮の気怠そうな声、だがそれとは裏腹に表情はかなり好戦的な笑みを浮かべていた。その目は戦いたくて仕方がないと行った感じだ。
「…日暮 天動といえば、そういえば戦闘狂でも有名だったな。」
「いいのかそれ…先生が戦闘狂って。」
そう言いつつも四人は各々戦闘準備に入る。寺門はSAIRを併用し、地中から無骨な刃引きの刀を生成、定春、和樹、薊磧は無手。対する日暮も無手、ただその気迫は本物だった。