023話 対抗魔法技能大会 予選 (8)
「ふん…寺門のチームは第1予選を突破したか。」
屈強な男…龍造寺はさも面白くないといった様子で鼻を鳴らした。圭太からチーム入りを断られた龍造寺。彼の魔法師としての考えは“革新派”、“伝統派”と対を成す派閥である。昔ながらの魔法師、魔法使いとしての体面を重んじる“伝統派”、魔法師とは古新混在、新しい物を次々と取り入れ形にとらわれず発展するべきだという“革新派”、そしてそのどちらにも属さない“中立派”、これは“臨機応変に立ち回ればいい”という人間たちが多く近中遠を隔てなく行える魔法師が多い。
従って、“革新派”と“伝統派”からやっかみを受けることもしばしばあるが、“中立派”からしてみれば心底どうでもいい話であるため相手にしていない。
そもそもは派閥など見栄と権力に溺れた大人達が勝手に作り上げたもので、学生や比較的年齢の若い魔法師はあまり気にしていないのも現状だ。しかし所謂、名家と言われる家系の出である龍造寺はその思想教育の影響が根強く、よく“伝統派”の生徒と衝突する事もしばしば。
そして同じ名家として剣と魔法の頂の一端を担う“寺門”が、無思想…“中立派”というのも気に食わなかった。古き剣術と新しい魔法を組み合わせた魔法剣術を扱う寺門家は、龍造寺の主観で言えば確実に“革新派”なのだが、圭太を始めとした寺門一派は基本的にそんな下らない思想、派閥などどうでもいいという考え方である。派閥の会合でもその現当主はさっさと席を立つし、伝統派と革新派に関係なく良いものは良いと己の技に組み込もうとする。
言ってみれば龍造寺は、寺門家というものがどうにも気に入らなかった。そして何より剣の頂にいる家の出であるのにも関わらず、芯のある思想を持っていない同年代の寺門 圭太が煩わしいのだ。
そこには稚拙な自尊心からくる苛立ちと、圭太を認めれないという頑な自尊心があった。しかしそんな彼でも圭太の腕は認めている。同年代の中で剣術に限って言えばトップクラス、魔法剣術ともなれば同年代の頂点にいるであろう圭太。
そんな彼を自分のチームに迎えることができれば予選突破は確実だろうと考えた龍造寺は、恥を惜しんで圭太を勧誘した。が…その結果は無い袖を振るが如く惨敗。それどころか自分に向けられた一瞬の殺気で黙らされるという屈辱まで味わされた。魔法剣術、魔法武術を生業とする家系はほぼ革新派に分類されるが、どの家も派閥思想に陶酔しているわけではない。寧ろ革新派という括りだからこそ思想に拘りが無い家が多い中、龍造寺家は革新派の最古軍閥と言えるだろう。
「この屈辱、必ず晴らしてやるからな…」
八つ当たり、逆恨みともいえるお門違いの憤怒に燃える龍造寺。彼のチームはこの後同学年との試合を控えていたが、相手は伝統派では無いものの、遠距離戦を主体としたチーム、負けるはずがないと考えていた。事実、龍造寺の家は古来から続く小太刀術の名家。それに魔法という技術を融合させた家系だ。本人の体格が些か不釣り合いであるが、それを抜きにすれば龍造寺の腕は当主に次ぐとさえ言われており、事実龍造寺家の跡取りであった。
燃え滾るお門違いな闘志を携え、龍造寺は第1予選へと赴くのであった。
「さて、和樹の善意の協力でこの【乗返し】の概要が分かったと思うけど、雪菜、出来そうか?」
和樹の善意(という名の人体実験)で定春が使う【乗返し】のデンモストレーションを終え、定春は雪菜に問う。【乗返し】はいわば威力の掛け算により小さい術式と小さい威力で最大の効果を出す。しかしその扱いを間違えば、瞬く間に自分に牙を剥き、自爆技へと変貌を遂げるのだ。薬と毒の関係といえるだろう…尚、余談ではあるが和樹は余りにうるさいので雪菜が気絶(手段は明記しないが…)させた。
「…3工程という驚異の短さであの威力はまさに脅威。でも術式展開から完成までが短いから、定春の言う“流し”と“タイミング”は極めてシビア。うん、腕が鳴る。」
「確かに流しは早くても遅くてもダメだ。それに打撃を繰り出したコンマ数秒間の刹那と、術式を噛み合わせる2回のタイミング…これを失敗すると確実に腕を壊す。」
確実に己の技と昇華させれば素晴らしい魔法だが、一歩間違えれば自爆するという諸刃の剣。定春でさえこの魔法と技を体得するのに、構想開始から長い日を費やしたのだ。ただし雪菜に限って言えば、身体技術に関してはさすが名家の出といえる能力を有している為、定春の見立てとしては自分よりも早く習得できると踏んでいた。
「すごい魔法だよね、でもそれって対物に効果は出せないの?」
圭太にしては珍しく食い下がってくる。まぁその顔を見れば明らかで、自分もどうにかしてその魔法を会得したいとありありと顔に浮かんでいた。
「この魔法の工程でこの効果を出すには対象を“衝撃”に限定するしかなかったからな。そもそも自分の身体と刀じゃ素粒子を知覚する感覚が違うから、下手したら1発で刀が折れるぞ?」
「うっ…それは勘弁だね。安い焼き回しの刀だとしても決して安くはないし、僕の【鉄錬成】でもそう安安と折れられると堪えるしね。」
「まぁ打撃を主体として考案した魔法だから、少し剣術とは相性が悪いかもしれない。一応広義すれば斬撃も衝撃の一種なのかもしれないけど、それでも俺はお勧めしないな。」
短い工程で最大限の効果を発揮するために、定春は【乗返し】の魔法構成には余計なものを入れていない。本来なら自身の身体を守る為に必要な“慣性制御”や“衝撃緩和”などといった工程は省き、それらを自らの身体操作でカバーすることにより、この【乗返し】というものは成り立っていた。斬撃に特化した【乗返し】の別バージョンもある事にはあるが、流石にそれは教える気は無かった。
「おおぉぉぉぉぉ!!!!!」
「ん?」
「えらく盛り上がってるね?…どうやら1年生の試合みたいだけど。」
突如空気が大きく揺れるような歓声が上がり、定春達の注意はそちらに向く。いくつか試合を行なっている場所の一角で、異様に人が多い場所。そこがおそらくその歓声の発生源だ。
「あそこは…3番会場か?」
「そうだね、そして試合カードは…1-3と1-19…あぁ、彼のチームか。」
「彼?」
「覚えてない?定春くん。前に僕にチーム入りしろって言ってきた、龍造寺くんのチームだよ。」
「あぁ、あいつな。」
定春ははたと思い出す。圭太の後ろから口を挟まずに事の成り行きを見守っていたため完全に忘れていたようだ。
「これで次の総当たりでは当たる可能性があるな。参考程度に聞くけど、龍造寺って小太刀で有名なところだろ?どうなんだ?」
「うーん、龍造寺家の現当主、龍造寺 清正さんはかなり強いね。小太刀を使った戦闘スタイルは“魔法剣術主体”で、遠距離魔法は殆ど使わないらしい。特に【斬域】は有名だしね。息子である彼は…どうなのかな?当主のスタイルを継いではいるんだろうけど、直接立ち会ったわけでもないし、あまり面識がないから。」
「ふーん…あの体格で小太刀ねぇ。俺としては小太刀と総合剣術の戦いも興味があるけど。」
「はは、定春くんも大概な戦闘好きだよねぇ。」
次に行われるのは小規模バトルロワイヤル。3チームが1つの会場で競う方式だ。今日はこのバトルロワイヤルを午後を通して行い、明日決勝トーナメントとなる。そして先ほど全ての予選トーナメントが終了し、掲示板と構内アナウンスにより組み合わせが発表された。
「対戦相手は3年と1年の1組ずつ、1年はさっき話した龍造寺っていうやつのチームか。」
「うん、3年の方は去年は決勝トーナメントまで残った経験がある人が居るみたい。」
「…1年生の方は龍造寺って人以外は未知数。」
「取り敢えずはいつもの陣形で良いのよね?」
「そうですね、お嬢様。」
「で、俺は相変わらずの自由遊撃でいいんだよな?」
「「「「「(あなたは)それぐらいしか出来ない(だろ?)(でしょう?)」」」」」
「本当にお前ら、俺に何の恨みがある…」
そんなご挨拶をすると定春達は会場となる1番ステージへ登る。そこには既に2つのチームは準備万端といった感じで待ち構えており、互いのチームリーダーからは種類は違えども溢れんばかりの闘志が見て取れた。
「いやぁ…まさか今年は1年チームが2つも、しかもバトロアで自分と当たるとは思いもしなかったっすね!」
3年生のチームリーダーは意気揚々とそう口上を口にするが、定春は口調と姿を見た瞬間、心の中でがっくりと肩を落とした。何故なら…
「(なんでここに修二がいるんだよ!)」
そこにはイムホテプの構成員である修二がニコニコとこちらを見ているではないか。確かに修二は外見は若いが、ギリギリ成人していると言われれば…という年齢だったし、修二本人からも何も聞いていない。定春が学校の話題を出しても言及はなかった。
基本、イムホテプ…民間軍事会社は機密情報などを扱う機会が多く、その為情報規制の観点から構成員同士であっても名前や基本的な情報しか知らないのだ。全ての情報を知っているのは代表である土方と、事務や土方の補佐をしている柳丸だけだ。
「(まさか同じ高校生だったとは…いっぱい食わされたぞ、修二。)」
と僅かばかり殺気を含ませて修二を睨みつける定春。しかし当の本人はというとどこ吹く風といった風に笑顔を向けているだけだ。
「で、あっちは件の龍造寺 秋人か…闘志とは別に僅かに含んでいるのが気になるが、まぁいいか。」
学生レベル(定春などの一部例外を除く)が纏うはずがない雰囲気を定春は敏感に感じ取ってはいたが、この場にいるメンバーがメンバーなだけに、定春はそれを取り敢えず放置する事にする。
「では2回戦バトルロワイヤル、第1試合を開始します!構え…始め!」




