021話 対抗魔法技能大会 予選 (6)
短めです。
「えー、であるからして、この予選大会は皆さんにより良い影響を与えると私は信じております。どうか精一杯頑張って下さい。」
長い長い校長の話が終わった。実は定春と和樹は校長を見るのはこれが初めて(入学式は遅刻した為)、見た感想は…普通のお爺ちゃんだった。
閑話休題…
練習、訓練期間がようやく終わりを告げ、本日より2日間に渡り予選は開催される。大会形式として先ずは全学年60あるチームを15チームにまでトーナメント形式により減らす。そして15チームを各3チームずつ、計5ブロックに分けてバトルロワイヤルを行い5チームに減らし、そこから決勝トーナメントに切り替わる。
但し、ブロック毎の勝ち抜け時点の時間を測定し、その中で最も早かったチームは、決勝トーナメントにおいてシード枠となる。
予選大会は学校カリキュラムの一環となっている以上、同等程度の実力同士の試合が望ましい…と言う理由により、最初のトーナメント戦においては基本的に同学年同士での組み合わせとなるのが通例なのだが、それは定春達も例に漏れ…ていた。
「こういうのって普通1年生同士じゃないか?」
和樹が思わずといった感じでポツリと呟く。対戦リングに上がってきたのはどう見ても同学年ではなく、遠目で見ると2年生のバッジが襟元に見て取れた。
『あーあー、マイクテステス。日暮だ、お前らに言い忘れてた事があったわ。この予選大会はもちろん授業の一環である事に変わりはないんだが、余りにも実力がかけ離れていると判断した場合、実力を均等にする為対戦カードは無差別級となる。じゃ、頑張っーーー『お前はそんな大事なことを今生徒に伝えたのか!?もうリングに上がって唖然としてるぞ!この馬鹿たれ!!』…すまん。』
スピーカーから聞こえてくる日暮と日下部のコントじみた声がリングににも響き渡った。ゴスッ、バゴッと何やらスピーカー越しで鈍い打撃音が聞こえたが、全校生徒がそれはマイクのハウリングだと思うことにした。
「…あの先生、ほんと適当だな。」
「…でもこれで退屈しなくてすみそう、感謝。」
定春と雪菜は呆れ半分とこれで退屈せずにすみそうだという感想半分といったところだが、対する2年生のたちの反応はというと。
「あいつらって1年の訓練であり得ない練度の奴らじゃなかったっけ?」
「ああ…けど、何ていうかなぁ…」
「私達のことを評価してくれてるのか、それとも私達が下に見られているのか…」
あのすごい練度の1年と同格に見てくれた教師陣に感謝するのか、それとも2年の中で1年と同じ練度だから当てられたと嘆くべきか…何とも言えない顔で対戦相手を見ていた。
何はともあれ結果が全て。どれほど強くても学年は一つ下で、自分たちは1年も多くこの学び舎で勉強や訓練に励んできたのだ…と、自身を奮い立たせてはみるものの、どうしてもあの訓練風景を見る限り勝てるビジョンが浮かんでこなかった。
「勝てると思うか?」
「…さぁ?」
「さぁ、ってお前。」
「成すべきことを為して出た結果なら、それが今の俺たちの実力って事だろ。」
但し、簡単に負けてやる気はないがな?とリーダーの男子生徒が八重歯を見せ笑う。言ってることはカッコいいのだが、連想する内容が何とも情けない。
「よし、両チームとも準備はいいか?致死に至らしめる術式、また大きく障害を残し得る術式は禁止。術式によっては使い方、当たり方次第だがそこら辺のさじ加減はこちらで判断する。では、両構え…始め!」
「前衛、後衛、時差射撃!!中央隊、広範囲魔法順次撃ち方始め!!」
「「【空気弾】!!」」
「「【衝撃波】!」」
「「【地流し】」」
2列3隊陣形。横2縦3で組む6人編成でのオーソドックスな隊列だ。そこから4人が上空からの時差射撃を行い、2人が地面を起点とした魔法を行使する…基本に忠実で堅実的な戦法。練度も学生としては申し分なく、通常の戦いならば合格点を出すレベルだが、生憎と今回の相手は通常ではなかった。
「前衛突撃、和樹は上からの奴撃ち漏らすなよ?後衛直線上射撃に集中、防御は全て和樹に任せろ!」
定春がそう指示を出すと同時に前衛である定春、圭太、雪菜は特攻とも取れる行動に出た。地面が波のように押し寄せる相手の魔法に対して、そのまま正面から突っ込んだのだ。
「は?」
相手リーダーが素っ頓狂な声を出す。それはそうだろう。【地流し】は、地面を隆起と陥没という現象を交互に起こし、それにより生じた“波”で相手を押し流す魔法だ。普通の対処法としては障壁を張って待つ、同じ魔法でタイミングをずらし対消滅させる、大きく後方に跳躍するなのだ。その3パターンからの連携も織り込み済みの訓練を入念にやってきた。だが定春達は4つ目の選択肢、突撃する…ならばその後はどうするのか?
魔法により起こされた地面の波は最高到達点が3メートルもあるため飛び越えるのは現実的ではない。
「(【乗返し】)」
答え…殴る。
ゴキャッ!!と、とても人が放った打撃で生じるものではない音が響いた。
「…おいおい。」
相手リーダーは目を疑った。魔法による対消滅を狙ったわけでも、障壁で耐えた訳でもなく、ただ殴る。たったそれだけで“工程断裂”による魔法継続不可判定により、波打つ途中の状態で固まった地面。そしてその中心が打ち抜かれ、互いの姿が見えるようになった道筋が出来ていたのだから。
時はほんの少し戻る。
「空気弾に衝撃波かぁ…(視認し難いから苦手なんだよな)」
開始と同時に突っ込んでいった定春達の代わりに、後方の紅音と翠の防御担当である和樹は心の中でボヤいた。時差射撃で飛んでくるであろう相手の魔法は何方も透明な攻撃で、視認するどころか認識することも難しい。
自分1人ならば【生体障壁】なり何なりで防ぐのは容易いが、生憎と今は護衛対象がおり、その2人の分までリソースを割かなければならない。
さて、どうするか。と和樹は迫り来る魔法の中考えた。【生体障壁】は論外、【重物障壁】は些か過剰、しかも衝撃波まで来ているため一方行だけに対してだけではリスクがある。
「なら…(【重物障壁】を半円状に展開するか)」
和樹は【重物障壁】を相手に対して半円状に発動。全ての攻撃を受け切った。
「…何あれ?」
「半円の障壁?そんな魔法あった?」
だがしれっと、地味に披露したこの魔法。【重物障壁】自体は珍しいことではない(1年生が扱うという事自体は珍しい)が、その展開方法が基本から逸脱していた。
普通、障壁というのは【生体障壁】の様に身体を覆う様に展開するものと、目の前や視認範囲内に、壁の様に展開するのが一般的…というよりも学校の戦術の授業でそう習うし、実際それが正しい。魔法というのは魔法名=ある程度のイメージが確立されている。例えば障壁=壁、空気弾=弾丸、地流し=波という感じである程度の定義がある。固定されたイメージであれば構築の際、形を再定義する手間が省け、発動時間が短縮できるのだ。
魔法のイメージを自分なりに変えて発動する魔法師がいないことはない。だがそれはその魔法に対してより深い理解をしている者に限られるため、これも学生が行う事ではない。
今回は【重物障壁】だった為、周りがあまり注目する程の派手さは無かったが、それでも見る人が見れば、特に教師陣の目には止まったことだろう。どちらかと言えば同時に行った定春の【乗返し】という魔法の方がインパクトが大きかった。が…
「いやはや、今年の一年生は凄いですね…」
「一年生が…というよりはあのチームがでしょうね。」
「名家の2人は兎も角、あの童顔の子と長髪の子は凄まじいですね。一見派手さはないから恐らく生徒達は分からないんでしょうけど。」
教師陣は定春と和樹、いや、この一年生チームの異常性を本当の意味で理解していた。本当、初戦の相手に同情を覚えるくらいに。
「校長がフェアとか正々堂々とか使ってましたけど、あのメンツばかりはアンフェアでしょうよ。」
「まぁそうですね…あの二年生チームが決して…寧ろ二年生としては基本的で堅実な強さを持っていますが、いかんせん相手の技量が釣り合っていない。あれは確実に後ろの2人を除いた4人は何かしらの実戦経験があるはずですよ。」
「いわばあそこだけ対戦カードが、学生VS軍人といっても過言じゃないですね。」
そんな会話が教師サイドでされている事など露知らず、リング上では定春達のワンサイドゲームが再開されようとしていたのだった。




