020話 対抗魔法技能大会 予選 (5)
更新が遅れました申し訳ないです。明日はお休みとなります。次回は2月1日の1時投稿となります。
「ごほんっ…皆んなごめん、見苦しいところを見せたね。」
「はっはっは!誰にも若気の至りというものはあるもんだ。」
「…父さんは少し黙ってようか。」
壮絶な剣と魔法の親子ゲンカは10分程で決着…というよりも圭太が折れた事により終わりを告げた。圭太の父、寺門 久之助は今年で46歳になるが、どうやら童心を忘れていない随分とやんちゃな性格なようで、こうして圭太と可愛い対立をする事が多いというのが師範代の男性、碓氷 裕司の言だ。
「いやいや、せっかくこうして圭太のご学友が遊びに来てくれたんだ。ここは父としておもてなしをしないといけないね。」
「…遊びに来たわけではないけどね。」
「それは分かっているさ、対抗大会の予選だろう?言葉の綾だよ、綾。」
もう疲れたと言わんばかりの表情を圭太はもはや隠す気はない。本人の前で盛大に溜息を吐いた。
「あー、と。すみません、久之助さん。俺たちもあまり長く時間が取れないので、そろそろ始めたいんですが…」
「おっとこれは済まないね。時間は有限だ、早速始めるとしよう。」
遠慮がちに定春がそういうと、なぜか久之助がつかつかと中庭へと向かおうとする。
「ちょっ!ちょっと待った!…もしかしてでもなく、父さんがやる気?」
「当たり前でしょう圭太くん。私が最高のおもてなしをしてあげよう。」
「何をトチ狂ったらそうなるんだよ!いつも通り門下生だけでいいから!父さんは早く会合に戻って!」
学生の訓練に現役の、しかも剣の名家である寺門家当主が相手になる。成る程、練習相手としては申し分無く豪華極まりない。しかもその背後で碓氷師範代も何かストレッチのようなものを始めたではないか。
「何で碓氷さんまでやる気なの!?」
「圭太さん、私は正直に言いますと、今日のこの訓練の時間を大変楽しみにしておりました。その機会を取り上げるとはなんと無体な…」
本来味方であるはずの碓氷にまで裏切られた圭太は、もう何もかも諦めた…言って聞かないのであればしょうがない、身体で分からせるしかない、と。
「…いいですよ?やりましょうか。門下生の方、6対6の実戦形式ですので、4人ほど生贄する人を決めてください。」
定春達からは圭太の顔が見えない。だが、対面している門下生達の顔を見れば、今圭太がどのような顔をしているのかは想像に難くない。
「「「「い、いえ。今回はご遠慮いたします」」」」
「そうですか、ならば仕方ありません。父さんと碓氷さんチーム対僕たちのチームですね。何、父さん達は大人、しかも天下の寺門流の師範と師範代です。何も問題はありませんね?そうですか、では此方は全力でいかせてもらいます。定春くん、全力で殺って下さい。雪菜さん、和樹さん、遠慮はいりません。紅音さんと翠さんは遠距離から偏差射撃を…ではやりましょう。」
「お、おう…(あ、これは)」
「…わかった(完璧に)」
「り、了解したぜ(切れて)」
「わかったわ(ますね)」
「畏まりました(御二方、御愁傷様です)」
矢継ぎ早に話を進め、2対6に持ち込むと素早く定春達に指示を出す圭太。全てをひっくるめて言うと『遠慮せずに殺せ』だった。相当腹に据えかねているのだろうか、顔が笑顔であっても般若にしか見えない。
「では、始め…“韋駄天”!」
開始の合図もそこそこに、圭太以外がまだ構えを取っていないのにも関わらず、圭太は素早く刀を生成すると牙突の構えから最速の突きを久之助へと放った。
「おっと…奇襲も上手くなっちゃって、お父さん感激して涙が出るよ。」
対する久之助の対応も素早い。圭太と同じ速度で刀を生成すると、突きを軽くいなしなで斬りのような構えを取った。
「“絡蛇”」
しなるような唸るような、絡みつくような腕の動きから至近距離での斬撃に圭太は焦る様子なく後方へ飛んで回避する。
「型に囚われない剣技か…」
「私もいることをお忘れなく…“韋駄天”」
「おっと!」
呑気に圭太と久之助の戦いを観察していると、碓氷から挨拶がてらの牙突が打ち込まれた。定春はそれを避けるではなく、あえて懐に飛び込んで拳を振り放つ。
「“波拳”」
波拳…ウェーブパンチと呼ばれる、発勁の要素を取り入れた至近距離からの打撃。溜め込みや大きな踏み込みを必要とせず、身体操作によって最小限の溜めで相手を揺さぶる拳だ。
「む!」
直撃はマズイと踏んだ碓氷は拳の間に刀の腹を入れ、自身も後ろへ跳躍することによりその打力を軽減しようとしたが。
「…直撃は避けましたが、腕が痺れましたね。」
「寧ろあのタイミングから防御が間に合った方に俺は驚いてるんですが…。」
防御したことにより、衝撃が刀を伝い腕へとダメージを残したようだ。しばらく手を振ることによりそのダメージは減ったが、あれは直撃を貰うべきではないと碓氷は感じた。
「それは鍛錬の賜物ですよ。さて、師匠と圭太さんは二人の世界に没頭しているようなので私が残りの五人を相手にしないといけないのですが…少々どころかだいぶ骨が折れそうな面子ですね…。」
「剣の頂にいるとされる寺門流師範代…腕がなる。」
「うちのメンバーて、なんで戦闘狂が多いだろう…ごめんなさい、失言でした。だからそのミシミシいってる拳をお納めください雪菜サマ…」
「寺門流の師範代ねぇ…私の魔法じゃ当たらなそうね。」
「お嬢様、それでも援護射撃はするべきかと。」
「分かってるわよ…あと翠、お嬢様は辞めなさいと何度も…」
そう発言しながらも全員が事前に決められた陣形へと布陣する。それは前衛に定春、雪菜、本来ならば圭太、中衛に和樹を置き、後衛に紅音と翠を置いた超攻撃型の陣形だ。
前衛が突撃と陽動、中衛が後衛の守りと迎撃、そして後衛が遠距離魔法による偏差、時差攻撃。このメンバーならばかなりバランスの取れた形だが、本来の魔法師は皆後衛からの攻撃が主要な陣形なのである。
「全滅させるには難しく、各個撃破でも手を出しにくい…いい陣形ですね。ならばそれを食い破らせてもらいましょう、【修羅道】」
碓氷の柔らかい雰囲気が、突如鋭い刃の様に研ぎ澄まされる。何かしらの魔法を発動した様だが、定春以外のメンバーは初めて聞く魔法の様で、困惑した様子だ。
「(六道の教えの一つ、終始争いの絶えない世界…その考えを模して作られたのが“知覚異常感知魔法”【修羅道】。寺門流の秘伝魔法の一つだな。)」
知覚を強化する魔法は多岐に渡り存在する。先の圭太が使った【三段強化】もその一つ。そもそも遠距離こそ魔法師の生業と信じてやまない伝統派魔法師達は、知覚強化系の…取り分け視覚強化以外の魔法は不要の産物と切って捨てることが多い。
それは身体強化、知覚強化をしていてもレンジ外から高火力の魔法を受ければ、その意味やなしと考えられているからだ。もちろんそれも十分起こり得る事である。しかしそれは遠距離レンジに限って言えばの話であり、寺門流の様に接近戦を主体とするものには全く当てはまらない。
「翠。」
「はい。」
「「【空気弾】」」
先手必勝とばかりに後衛2人が、計6発の空気弾を碓氷に向けて放った。このメンバーにしては2人は典型的な魔法師枠に嵌る学生だが、その魔法の練度は学生の中でも上位に位置する。構築された空気弾が全弾一斉に放たれた…しかし碓氷は動かない、いや、少しだけ身体の佇まいを直すかの様に少しだけ動いた。たったそれだけの動きで迫り来る空気弾が碓氷を避ける様に地面へと着弾する。
「…?」
「回避されたのでしょうか?それとも私たちが外したのでしょうか?」
避けた様には見えない…軽く身じろぎした程度だ。確かに動きを阻害する目的で碓氷の肢体と頭、首を狙った。的が小さいから外した?いいや、たったそれだけの要因で殆ど基本的な魔法である【空気弾】を外すとは紅音は思えなかった。
「あー、辞めとけ2人とも。あれは恐らく空気の振動や筋肉の音、些細な動作で相手の動きを先読みするってとこだろう。」
「…ほぼ初見でこの魔法の概要を考察し、6割程当てますか。成る程、毎日圭太さんが楽しそうに貴方の話をするわけです。」
実際には知覚(嗅覚、味覚、触覚、痛覚、触覚、視覚)を強制的に異常な程に強化する魔法。知覚過敏状態とでも言うべきか。空気の振動、筋肉の収縮音により相手の動きを予測、殺気などの威圧感の感受、動体視力や深視力の強化などさまざまな恩恵がある魔法だ。しかしその反面、知覚過敏という言葉通り術者は感受過多により、そよ風さえ突風に感じ、小さな音でも騒音に、日差しさえ閃光の様に眩しく感じてしまう。
故にこの寺門流の秘伝魔法は、それに耐えうる修練を積み、当主に認められたものへと授けられる。そこに血統や本家、分家、門下生関係なく、真に流派を極めたとされる者だけである。
定春はある事情により、その魔法を正確に認識していたが、赤の他人である定春が知っていてはマズイため、ある程度ぼかして説明した。
「では、寺門流の極地の一つ【修練道】を持って、全力でお相手致します。」
自分の喋る声でさえ爆音に聞こえるだろうにと、定春の碓氷の技量・忍耐力に感嘆の念を覚える。碓氷の重心が僅かに前へと傾いたと同時に定春達の後ろから和樹が飛び出した。
「【鉄鋼身】!」
「【斬鉄】“連花・五月雨”」
刀に対して鋼鉄と化した全身で碓氷の五連斬りを全て弾き返した和樹。
「これは驚いた…【斬鉄】を付与した刀撃を全ていなすでもなく弾くとは。中々の防御力ですね、確か炭谷君でしたか?」
「…どもっす。」
「そして、中衛を務めていた君が出てきたことによる意味は…」
「【振動増加】“波拳”」
「【推進力】“諸手木双撃”」
碓氷を挟む様にして定春と雪菜が駆け出し挟撃の構えを取った。それぞれ自身の力を増幅させる為に基礎単一工程を施し、碓氷に技を放つ。これはいくつかのパターンを想定し、事前に決められた作戦の一つ。万が一敵に強者が1人いた場合の行動パターンだ。
「…(彼は囮ですか、そしてこれは発勁、ならば)“撃流受け”!」
定春の拳が右肩へ、雪菜の諸手が左脇腹へ直撃…したと同時に碓氷は驚異的な身体操作により受けた衝撃をそれぞれ左右へと受け流す。
「「っ!」」
お互いの技が碓氷を通して自身へ流されたのを感じとり、すぐさま拳と手を碓氷の身体から離した2人はその隙に碓氷から当て身と蹴りをもらってしまう。
「貴方は硬そうなのでこの技でも大丈夫でしょう、“韋駄天・龍天”」
久之助も行ったほぼゼロ距離から身体操作だけで行う刀撃。牙突による計八連撃を全弾浴びた和樹は盛大に吹き飛ばされる。
「がっ!?」
和樹が吹き飛ばされるのと同時に、紅音と翠の魔法。
「【雷轟蛇酔】」
「【焔による操り人形】」
吹き飛ばされた3人を援護する様に上空に展開された焔と雷の円球から、雷の大蛇と小さな焔の人形が複数に渡って碓氷へと肉薄した。しかし碓氷は最低限の動きだけで魔法も使わずに避けきってみせる。
「…もはやビックリ人間ね。」
「これが武の頂ですか。」
焔の人形はともかく雷はその性質上、雷速と言われるほどの速度を持ち、動きが予測しにくい軌道を取る。更に大蛇を模している為更に動きが読みにくい…にも関わらず、身一つで碓氷は全て避けてしまう。それもこれも【修羅道】の知覚異常によるものだ。デメリットを克服…耐え忍び、そのメリットを最大限に享受した碓氷は、5人が束になっても傷一つつけることが出来なかった。
「…ふぅ、少々熱が入ってしまいましたね。でも皆さん、学生とは思えない練度でした。薊磧さんは流石柔術の名家と言える腕前でしたが、炭谷君の防御力、板島君の身体操作と単一工程の掛け合わせ、そして後ろのお二人も入学してからまだ1ヶ月程度とは思えない魔法技能…これは、圭太さんが羨ましい…」
碓氷の笑みに一同見覚えがあった…それは日暮と同じ戦闘狂の笑み。どちらかというと圭太も同じ顔をすることがある為、寺門流独特のものかも知れないが。
「はっはっは、碓氷、君も学生相手に【修羅道】とは大人げないんじゃないかな?」
「いや父さん、一対一ならまだしも、多対一なら【修羅道】を使わないと危ないよ。お陰でいい勝負になったでしょ?碓氷さん。」
「ええ、圭太さんが羨ましいですよ。身近にこんなに好敵手となり得る方々がいるんですから。」
いつの間に戦闘が終わり、和解したのか。すぐ近くまで圭太と久之助が近付いていたが、余程苛烈を極めたのか、二人の着ていた服はボロボロ、身体には刀傷や熱傷で傷ついていた。久之助はもとより袴の様な服であったが圭太は制服だ、明日から如何するのだろうか。
「…まさか剣士が発勁を受け流す技を持ってるとは思わなかった。勉強不足。」
「そらは俺も思った、体術も優れているとは。流石寺門流師範代だな。」
「おれ、防御力には自信あったんだけどほぼ加減されてボロボロ…はぁ。」
「変態が寺門流の技を受け切れると思うとか…笑止。」
「いやいや、炭谷くんだったね?途中から見せてもらったが、君の魔法は中々だったよ。それほど工程も多くない魔法でああも碓氷の技に耐えるとは…流石に“韋駄天・龍天”はやり過ぎだと思ったが。」
「…確かにあれはマジで死ぬかと思いました。牙突を繰り出せる間合いじゃなかったのに、身体操作で強制的に間合いを作ってからの8連突きとか。」
「全くだ、碓氷。彼が防げなかったら如何するつもりだったんだい?」
「いやぁ…興がのり過ぎてしまいました。今考えると学生に対して使う技じゃなかったですね。」
久之助も碓氷も和やかにしまったしまった…と軽く反省しているが、だんだんとその技の正体がやばいものなのでは?と思ってきた和樹は、圭太に何気に聞いてみた。
「なぁ、あの技ってそんなやばいの?」
「…あれは“韋駄天”の牙突の数をただ増やしただけじゃないんだよね。“'龍天”はその刀の先に【尖穿】って言う貫通力を増す術式を施して行うんだ。因みに合金板を5枚くらい重ねたものでも軽く貫通する。」
「…死ぬじゃねぇか!え?よく俺あれを防げたな!?」
「はっはっは!」
「いやぁ、私もまだまだ若いですね…」
下手をすれば殺人未遂…いや殺人が起きていたかも知れない程危なかった様だった。どうやら和樹は学校でも友達の家でもその扱いは変わらない事を確信し、「本当に俺、悪いことしたかなぁ…」とポロリと一筋の涙を流した。
この後、更に熱を帯びた久之助と碓氷により和樹は死地へと足を踏み入れるのだが、それはまた別のお話。




