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合理主義者達の魔法理論  作者: 調 烈
18/25

018話 対抗魔法技能大会 予選 (3)

明日の投稿は0時頃となります。


「さて。こうして6人のチームメイトが集まった訳だが結論から言おう、バランスがすこぶる悪い。」


開口一番、定春はそう口にした。だがメンバーからしたらそれは当たり前だとばかりに首を縦に振っていた。


「お嬢様は根っからの遠距離主体、私は中距離を中心としていますが、比重で言ったら接近戦寄りです。」

「そして僕が剣術、雪菜さんが柔術…定春くんと和樹くんも同じく格闘かぁ。アンバランスだねぇ…」


近4、中1、遠1というチーム戦としては余りにもアンバランスな組み合わせ。一対多や二対多ならば定春達は接近戦の方が強いと考えているが、これが多対多であるならばやはりそれなりのバランスが必要であると理解している。


「今ある戦力でどうにかするしかない…私の案としては変態防護壁を前列に、後は背後から総火力…時より変態にも飛び火がベスト。」

「ベスト…じゃねぇよ!もう色々と突っ込みたいけど、その変態防護壁って俺だよな!?」

「喋らないで、妊娠する。」

「お前どこの小学…ぎょふっ!?…痛った!遂に掌底だけじゃなくて投げ技まで使いやがったぞこいつ!」

「そしてお前は日に日に頑丈になっていくな、和樹。しかしそうだな…雪菜の案を丸々採用するわけにはいかんが、三対三の模擬戦で各々の役割を見てみるのもアリだな。」




というわけで…




「ハーフハーフで模擬戦をやろうと思う。俺、圭太、雪菜VS和樹、西条嶺、倒木だ。時間は無制限だ、いいか?」

「はい!はい!めっちゃ良くないです!遠中距離2人だと、前衛が俺しかいません!!」

「え?お前の壁性能を図るためにワザとだけど?」

「ついに定春まで扱いが雑に!?」

「変態防護壁…その実力見せてみて。」

「いやぁ、腕がなるねぇ。」


「やめて、マジで!圭太、お前刀何本作ってんだよ!?…雪菜さん!?殺気が漏れてますよ!?」


意気揚々と本気で和樹に攻撃を仕掛けようとする圭太と雪菜。圭太は地中の鉄分から刀を何本も生成し、雪菜は全身の骨をポキポキと鳴らす。


「あっ、西条嶺と倒木は危なくなったら遠慮なくソレ・・、壁にしていいから。じゃ始め!」


「え、ちょ…ま!?」


「「「【射撃】…からの…【狙撃】」」」


定春チームは息のピッタリ合ったタイミングで【射撃】を発動し、無数の空気砲を和樹に打ち込んだ上で、【狙撃】による空気圧縮弾の3点バースト。速度、威力に申し分なし…というよりも、そもそも【狙撃】は1年生が使える魔法ではない。


さて、そんな凶悪トリプルアタックを喰らった和樹と云うと、その顔には驚きと冷や汗をかきながら【生体障壁】と【重物障壁】によりその身に降り掛かる魔法を防ぎきっているではないか。


「が、ガチで今殺しに来やがった…」


和樹は今、もしタイミングがズレていたらかなりヤバイ事になっていたと確信している。日暮も言っていたが【射撃】は二工程の単純な魔法。だが極めれば初手で相手を殺し得る魔法へと昇華する。要は練度の差が如実に現れる魔法なのだ。


「おーおー、あいつ【生体障壁】と【重物障壁】で防いでるぞ。良く間に合ったな。」

「…タイミングはバッチリだった筈、変態のくせに生意気な。」

「いや、2人とも…撃っておいてなんだけど、今の学生に対して放つ練度の魔法じゃなかったよ?多分和樹くんじゃなきゃ死んでたような…」


「「大丈夫 (だ)、問題ない」」

「そ、そう…?」



「おい、あいつら今【狙撃】に【生体障壁】、【重物障壁】使ってたぞ…」

「おいおい、1年だろあいつらって。」


周りで同じように訓練をしていた上級生がわざわざと色めき立っている。【狙撃】、【生体障壁】、【重物障壁】は卒業課題にもなっている魔法であり、陸軍の最低条件でもある。たしかにそんな魔法を1年生が使っていたらびっくりするだろう。


だがこの魔法は“1年生がまだ使えるはずがない魔法”であって、“使ってはいけない魔法”ではない。そもそも魔法は、年齢などで覚えることの出来る範囲に制限はない。極論を言ってしまえば素粒子を知覚でき、魔法工程をキチンと理解出来ればどんな魔法でも使えるのだ。


魔法高校で特定の魔法を教えることはなく、授業で教えるのはあくまで魔法を使うための工程。しかもカリキュラム上で必要な工程しか教えない。


例を挙げるなら微分積分は2年生で教えるが、予習さえしていれば1年生でも解くことができる…と言ったところか。魔法に限って言えば工権などの制限がある為厳密には違うが、認識としては間違っていない。つまり、定春達がそれらの魔法を使っても何ら不思議ではないのである。


「【射撃】や【狙撃】程度なら防げると、よし圭太、君に決めた。」

「定春くん、そのネタ好きだね…じゃあ行くよ?和樹くん。」


定春のGoサインに呆れ顔で応じる圭太。だが、和樹に振り向かれたその顔には壮絶な凄みがある笑顔に変わっていた。


「いや…圭太が一番怖いわ、俺…っ!?」


圭太は自分の周りに、魔法で生成した刀を8本程地面に突き刺していた。和樹は先程からあれで何をする気なのだろうと思っていたが、今わかった。8本中7本を和樹に向け投擲、自身もその背後から同じ速度で追撃してからではないか。


「(こいつら本気でりにきてるだろ!?)」


投擲した刀と同じ速度で追走する圭太は、既に3メートルの距離まで来ている。普段のおっとりした口調からは想像できないが、これでも名家の跡取りだ。生半可な技量ではない…それがクラスメイトに向けられるというのもまた違うような気がするが。


と、そこで漸く味方サイドからの援護が飛んできた。【空気弾】による時差攻撃だ。それが猛追する圭太目掛け撃ち込まれた。


「【空気弾】かぁ…ふっ!!」


しかしたった一薙で両断される七つの【空気弾】。【射撃】【空気弾】【狙撃】はどれも撃ち出されるのは空気である。ではその違いは何かというとその空気の密度と射出方法。【射撃】は空気の塊を高速で押し出す魔法、【空気弾】は空気の塊を圧縮して高速で撃ち出す魔法、【狙撃】は空気の塊を超圧縮した上で、螺旋回転を加え撃ち出す魔法…【射撃】<【空気弾】<【狙撃】と威力が上がるに連れ工程が増える為、その発現速度に違いが出て来る。


「…翠。彼、魔法でできた刀とは言え、透明な【空気弾】を斬ったわよ?」

「見事なお点前としか言いようがないですね。」


「感心してないで援護してくれぇぇ!!」


呑気に後ろで感想を述べる2人に、和樹は先行して飛んでくる刀を撃ち落としつつ、圭太から視線を切らずにそう叫んだ。既に和樹は圭太の間合いの中にいるが、圭太の笑みが只々怖い。


「なんで俺がこ…っおわ!?」


首筋に走るチリチリとした気配…和樹は考えるよりも先に横っ飛びで緊急回避を取る。


「…ちっ。勘がいい…」

「雪菜さん!?人格まで変わってますが!?…っと!!」


地面を転がり、今まで自分がいた場所には雪菜が俗に言う“鷲手”の構えで突きを放った姿。心なしか口調まで変わっている。

未だ地面に這い蹲る和樹に容赦なく圭太が上段大袈裟斬りで斬り込ん出来た為、その場を後方跳躍し凌ぐ和樹。


圭太と雪菜から視線を切らないよう着地したその時、トンッと背中に拳のようなものが据えられた感覚があった。よく見ると圭太達の後ろ、紅音と翠が引き攣った笑みで此方を見ているではないか…序でに言うなら圭太は合掌、雪菜は首を親指で切るジェスチャーをしていた。


「和樹、もう1人忘れてないか?」

「…定春さん?降参するので許してもらえないでしょうか?」


拳を背中に添えられた状態の和樹は懇願した。背後への気配りを忘れたのは自分だが、それも仕方ないであろうと思った。圭太による陽動突進、雪菜による気配を絶ってからの奇襲、そしてその2人が追い詰めた場所には定春ラスボスが大口を開けて待ち構えている。訓練という名目ではあるが、中身は完全な虐めである。


「大丈夫、死にはしないさ。」

「それは大丈夫とは…グェ!?」


定春のノーモーションからの順中段突きを喰らい、蛙が潰された様な音を出しながら和樹は前方へと吹き飛ぶ。


「…あれ、ノーモーションから出せる突きの威力じゃないよね。」

「定春の武術は興味深い、殆ど予備動作が無いから挙動が分かりにくい…でも流石に同情する。」


「翠、彼…死んでないかしら?」

「魔法を使った形跡は見受けられませんでしたから、恐らく大丈夫だと思いますが…」


先程まで調子に乗って和樹を攻め立てていた圭太と雪菜だが、些か和樹が不憫に思えて仕方がなかった。定春も圭太も雪菜も、和樹が【生体障壁】を使えると知ったからこそここまでの攻撃を仕掛けたのだが、定春のあの攻撃を【生体障壁】を介して受けたとは言え、その衝撃は計り知れないだろう。


「定春くんって魔法なしでも出鱈目に強いよね。」

「うちの道場の上級門下生よりは確実に強い。」


「お前ら俺を殺す気かぁぁぁぁ!?」


「…その攻撃をまともに喰らってピンピンしてる和樹もどうかと思う…。」

「幾ら魔法なしで【生体障壁】の上から打ったと言っても、ノーダメージは流石に引く…」

「…自分で言うのも何だけど和樹、お前バケモンか?」


「俺の扱いを少しでもいいから改善してくれ!!」


地面を凄い勢いで砂埃を上げながら転がっていた和樹。漸く視界が晴れると和樹がそう叫びながらゆっくりと歩いてきたのだ…ほぼ無傷で。


「よし、これで壁役は決まりだな。」

「うん、頼りにしてるよ和樹くん。」

「肉壁は任せた。」


「おれ、お前らに何か悪い事したかなぁ……」


項垂れる和樹に、苦笑する定春と圭太、相変わらず辛辣な言葉を無表情で宣う雪菜。そんないつも通りのマイペースな4人。だがその4人を外から見ていた人間の抱いた感想は180°違った。


「翠、これって3年生の卒業試験だったかしら?」

「いえ、お嬢様。1年生の対抗大会に向けての訓練風景です。あと、一応私達も同じメンバーでございます。」

「そう…よね。圭太と雪菜はまだ分かるわよ?流石、名家の跡取りと言える実力だもの。それよりも定春と和樹よ…」

「そうですね。まず和樹様が現時点で【生体障壁】と【重物障壁】をお使いになられた事は、驚愕としか言いようがありません。不可能ではないとはいえ1年の中で使えるのは極稀でしょう。定春様は…申し訳ございません、お嬢様。定春様は魔法をお使いになられたんでしょうか?私には只の突きにしか見えませんでした。」

「奇遇ね翠、私もよ。」



身内でも、ほぼ外野から見ていた紅音と翠からは信じがたいと言わんばかりの感想が。



「…なぁ、あいつらって予選に出るのかな?」

「当たり前じゃない。1年から3年まで全60チームのバトルロワイヤル…授業の一環なんだから。」

「え、あんな奴らと戦うの?俺、まだ【生体障壁】も使えないんだけど…」

「…私なんか【生体障壁】どころか【重物障壁】も【狙撃】も使えないわよ。」



新2年生は後輩のあまりの凄さに圧倒され、嫌な未来しか想像できず。


「ははは!今年の1年は粋がいいね!」

「當十郎、何を呑気な事を言っているんだ。予選では今年うちからは2チームしか出れないんだ、奴らを倒さなければ俺とお前のチーム、どちらかが予選敗退となりかねんぞ。」

「でも凄くね?1年の段階、しかもまだ入学して1ヶ月かそこらで卒業課題をクリアしてるんだぜ?」

「お前も最初から使えただろうが…。それに卒業課題は工権を必要としない魔法だ。やろうと思えば入学前でも習得はできる。」

「ま、それでもあそこまで物にするのは凄まじい事だがね。」

「確かにな…」


新3年からは要注意チームとしてマークされる。


「日暮先生。彼らは本当に1年生のですか?私には卒業を控えた最上級生にしか見えんのですが…」

「いやぁ、俺も驚いてたんですよ。寺門と薊磧はあれくらい出来ても驚きはしませんが、板島と炭谷に関しては驚愕の一言です。炭谷は一般入試組、筆記も実技もそこそこのレベルでしたし、そもそも板島は稀に見る推薦枠です。実力は未知数だったんですがね…これを見る限り、今年の対抗大会は荒れそうですねぇ。」

「魔法社会は実力至上主義とはいえこれでは3年生が不憫ですな。」


校舎の窓からその一部始終を見ていた教師陣からは期待の目で見られていた。その日の訓練場では、爆発音や雷鳴、男子生徒の悲鳴が遅くまで鳴っていたとか鳴らなかったとか…。





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