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合理主義者達の魔法理論  作者: 調 烈
17/25

017話 対抗魔法技能大会 予選 (2)


「さて…ここに臨時軍法会議の開廷を宣言する。まずは寺門 圭太A級戦犯、弁解があるならば聞こうか?」


「あ〜…そこまで怒るとは思っていなかったよ。いや、確かにそれ相応の事はしたんだけどね?」


「…薊磧 雪菜A級戦犯、弁解は?」


「…賽は投げられた。」


「西条嶺 紅音、倒木 翠B級戦犯…君達は?」


「いや…何というか、ねぇ?」

「場の雰囲気にお任せした結果で御座います。」


「…炭谷 和樹死刑囚、言い残す事はあるか?」


「いや、俺もまさか…って俺だけなんか死刑が確定してる!?」


昼食時、一同は食堂で各々選んだ定食を摂っていた。そして話の話題は先程の“リーダー情報隠蔽事件”の軍法会議…というよりは裁判に近いもの。


「ふむ、判決を言い渡す。“全員が全力を賭して本戦に出場する事”これを持って免罪としよう。あと和樹、お前は死ぬ気で死ね。」


「ほんと俺虐められてる!?雪菜といい定春といい、いい加減に泣くぞ!?」


もちろん和樹も、他のメンバーもやるからには簡単に負けるつもりはない。寧ろ定春からしてみればこのメンバーならば本戦出場枠を取れないことの方が難しいだろうと思っている。


魔法高校は各都道府県内に一校ずつ。本戦出場枠は一校に一枠だが、昨年度の1〜3位までの高校には特別枠が一枠ずつ追加されるルールだ。そして去年の入賞校は東京校、熊本校、京都校の三校であるため、今年は定春達の東京校からは2チーム出場することが出来る。つまり決勝まで上り詰める事が出来ればいいという事だ。


閑話休題それはともかく、俺ははっきり言ってこの学校に入る予定じゃなくて推薦による強制入学でさ、大会の詳細なんか知らないんだよ。圭太知ってるか?」

「へぇ、って事は定春くんは推薦枠なんだ。もちろん知ってるよ、僕は毎年本戦は生で観戦するのが趣味でね。予選、本戦ともにバトルロワイヤル形式でフィールドは100m×100mの大きさの平野型。はっきり言ってほぼ砲撃戦になるね…遮蔽物がないからその方が手っ取り早いし。勝敗は単純に敵の全滅若しくは棄権だよ。」


遮蔽物がほぼ存在しない平野型フィールドでの魔法戦。禁止事項は相手を殺傷し得る威力の魔法術式…裏を返せば威力を調整出来ればどんな魔法でも使用可能という事だ。そして必ず審判役の魔法師が2人フィールド内に駐在し、危険行為がある場合はすぐ様止めに入る。だがそれでも例年10人ほどの重傷者が発生するようだが、魔法という特性上仕方がない事である。


「成る程、そして明日からの2週間は練習期間に充てられるという事か。」

「そうだね、学校の後に訓練という名目なら僕の家の庭を使うといいよ。特に遮蔽物はないし広さもそこそこだから。」

「そうだな、下手な場所でやると手続きとかが面倒だし…みんなもそれで良いか?」

「私は問題なし。」

「俺も。」

「ご厚意に甘えるとしましょう。」

「お嬢様の赴くままに。」


2週間の練習、訓練期間は学校で行うようにと厳命されているが、勿論定春達もそれを忘れているわけではない。しかし学校で連携や戦術を見せてしまうと後々不利になる可能性がある。学生の祭り事と侮るなかれ、3年生ともなれば下手な一般兵士よりも腕が立つものも少なからず存在するのだ。本戦を目指す上では必要な措置と言えた。


その為学校での訓練は、互いの個々の能力の確認や机上戦術に費やし、連携や戦術実践は圭太の敷地でやる事にする。


「よし、じゃあ明日から始動だ。今日までは普通に授業があるからな…解散。圭太は明日から頼むな。」

「うん、任せたよ。父には話を通しておくね。」


食事を終えた一同は食器を返却口に戻して、教室へと向かった。尚、次の授業は日下部の魔法戦闘学の座学であったが、和樹と雪菜の恒例行事があった事を明記しておく。












「お疲れ様です。」

「あら?定春くん?珍しいわね、仕事がない時は会社こっちには寄らないのに。」


放課後、定春は一旦自宅で制服から着替え、会社の方に顔を出していた。それを出迎えたのは柳丸だが、本人の言う通り定春が仕事以外で顔を出すのは珍しい事だった。


「あー、ちょっと土方さんに相談がありまして。」

「相談?ますます珍しいわね。とりあえず執務室に居ると思うから行ってみたら?」

「はは、そうしてみます。」


定春は柳丸の発言に苦笑いを浮かべると、そのまま執務室へと向かう。と、その途中ある人物と出会い頭にぶつかり、危うく相手が尻餅をつく寸前な所を定春が受け止めた。


「おっと…」

「きゃ!?」


その人物とは左枝・・ 鈴香・・。そして鈴香の背後からひょこっと顔を出したのは丙1096号…改め左枝さえだ 美咲みさき。軍でも極秘扱いの彼女が今のところ建物の外に出る事は出来ないため名前は必要ないのだが、それでも丙1096号では不便だろうという事で、左枝という苗字とその姉の名である美咲から取って、左枝 美咲と名付けられた。


「すみません、大丈夫ですか?」

「え、えぇ。此方こそごめんなさい。」

「…鈴香、大丈夫?」

「美咲、大丈夫よ?大丈夫だから板島くんを睨むのをやめなさい…。」


どうも定春はこの少女から何故か目の敵にされていた。特に何かをしたというわけではない。そして定春だけではなく、土方、修二、奏の3名も彼女から敵対心の目を向けられていた。逆に懐かれているのは鈴香、柳丸、小梨…明らかにあの時・・・現場に居たメンバーが目の敵にされているのは明白だった。ムーバルスーツにフルフェイスという格好なので、顔が見えるはずはないが、恐らく声で判断したのだろう。


2人は一応、この世には居ない事になっている人物だ。その為生活圏がこの建物内部に限定されているが、2人に文句はない。あのまま死んでもおかしくなく、寧ろこうして人並みの生活が保障されているだけでも僥倖なのである。


「本当にすみません、少し急いでたので…そっちの方向は執務室ですけど、何か土方さんに用事でも?」

「ええ、この子と私の今後について少しお話をさせていただいてたんです。…本当に有難い話です。」


そうしみじみと呟く鈴香。美咲は生まれた経緯とその基となる遺伝子こそアレだが、鈴香からしたらいわゆる姉の忘れ形見。当初は絶望の淵にいた鈴香であるが、人生とは分からないものだと微笑んだ。


「そうですか…っと、俺も土方さんに用事があるんでした。失礼します。」


と2人の隣をすり抜ける間も、美咲から睨まれていた事に定春は内心苦笑した。そして漸くたどり着いた執務室のドアをノックして、中から入室を促す声が聞こえる。


「入れ…ん?なんだ、定春か。どうした珍しい。」

「失礼します。それ、柳丸さんにも言われましたよ。」


そんなに珍しいか?と考えながら後ろ手にドアを閉めると、定春は土方の元へ歩み寄る。土方の目の前には書類の山、山、山、土方本人が事務処理を苦手とするわけではないが、単純に土方の処理能力を上回る量なだけだ。


「実際珍しいからな、定春が仕事以外でここにいるのは。で?ここに非番にも関わらずあるって事は用があるんだろう?」


定春は土方に学校で行われる対抗魔法技能大会、その日程、そしてチームリーダーになった事を告げた。そしてチームリーダーのくだりで土方は面白そうにニヤニヤと表情を緩ませる。


「何ですか、土方さん…」

「いや…くくっ。あの・・定春がな、友達・・に手玉に取られたか、くくっ。」

「…嵌められただけです。」

「同じ事だろう、くくっ。…まぁわかった。懐かしいな対抗魔法技能大会か、俺も3年の時に本戦に出たな。チームリーダーは予選、本戦問わず運営の補助をする…それは昔から変わらん。少しでも興味を持ってれば分かる事だったが、定春が情報収集を怠ったのが原因だ。まぁ出るからには上を取ってくるといい…その間の仕事は此方で処理する。」

「はぁ…お願いします。所で例の件、どうなりました?」


このまま話が続けば分が悪い、そう感じた定春は無理矢理話の方向を変えた。


「根回しは済んだし、大きな貸しも出来た…が、その代償がこれだ。」


と土方は目の前にある大量の書類を指差して溜息を吐く。その中の1枚に軽く目を通す、機密書類というわけではないが中々面倒な案件ばかり…そんな時に仕事を一時的に抜けるのが申し訳なく思えてきた定春。そんな表情を読み取ったのか土方は苦笑いを浮かべた。


「…あれは此方から頼んだ事だ。気にするな、それに不本意とはいえ折角の学校生活だ。それらしく謳歌すれば良い。」


「土方さん…(何だろう、あの笑顔さえなければ凄く良いこと言ってくれてるんだけどな…)」


どうにも土方のニヤケ顔が全てを台無しにしていた。どうにも定春が普通(?)の学生をやっているのが面白いらしい。今こそほぼ自立している定春だが、少し前までは親代わりとして見守ってきた土方からしたら、子の嬉しい成長…とでも言いたげだ。


「とにかく頑張れよ?学生の中でも強い奴は強いぞ?」

「ええ、それは感じています…では、何かあったら連絡下さいね。」

「おう、Boys be ambitious…」

「…それ使い所違うと思います。」


どうも締まらないがこれでいい。土方と定春には堅い話は似合わないとばかりに、苦笑しながら定春は部屋を出て行くのであった。












「首尾は?」

「はっ、凡そ6割程です。全ての仕込みが終わるのが1ヶ月といった所ですね。」

「ギリギリ間に合うか、それだけあれば力も身体に馴染むだろう。」

「そうですね…神より賜りし正当な力、奴らに見せてやりましょう。」



疑わず盲信的な人間ほど御し易く、扱いやすい者は居ない。その周りが皆同じ考えならばそれが誤りとも気付かず、それが真実だと思い込む。人間とは利己的で自己中心的な生き物である…とはよく言ったもの。


その間違った力が振るわれる対象に対して、この場に疑問を抱く人間は誰一人居なかった。






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