016話 対抗魔法技能大会 予選 (1)
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「…と、この様に各魔法高校は6月から7月頭に掛けて、魔法技能大会の校内予選を行う。そして夏休み期間中に本戦が行われる…まぁ大規模な運動会と思ってくれて問題ない。」
朝のホームルームで担任の日暮ではなく、日下部がそうホワイトボードを使い説明する。なんでも日暮は軍の方から緊急招集がかかり、其方に出向いているとのことだった。
「先生、技能大会ってよく夏休みの目玉としてテレビでやってるあれですよね?」
一人の男子生徒がキラキラとした目で日下部に質問した。男子生徒の言う通り、技能大会とは毎年行われる夏の風物詩と言っていいレベルで人気のある催し物だ。連日のテレビで報道されており、その注目度も高い。
「あぁ。君達もテレビ中継や、実際に生で観たことのあるものも多いかもな。しかし一般公開されるのは本戦のみで、予選に関しては各学校で粛々と行われるのが通例だ。」
「でもそれって私達に関係あるんですか?校内予選って事は3年生とか実力のある2年生にしか枠は用意されていないんじゃ…」
「これは外から見れば校内予選という事だが、一般の学校で見れば運動会や体育大会と同義だ。もちろんカリキュラムに正式に組み込まれているから、余程のことがない限り強制参加だ。実力がある無い関係なく、今の自分の力を見極める恰好の機会でもあるんだぞ?」
それにこれは期末考査の魔法実技(筆記は別)も兼ねているとの事で、どちらにせよ勝つ負ける関係なく参加しなくてはならない。
「校内予選に向けての特訓期間としてGW期間+テスト準備期間合わせて2週間をこれに当てる。授業等は無いが必ず登校し、校内での練習に取り組む様に。あと知っているものもあると思うが、校内予選、本戦ともに6人チームのバトルロワイヤル形式で行われるからな、チームが決まったらタブレットから申請を挙げてくれ…以上だ。残り時間は話し合いに充ててよし。」
話が終わると日下部は教室から出て行く。日下部が居なくなるのを確認して教室のボルテージは一気に高くなった。
「やっべ!校内予選とかまじ興奮するわ!」
「でも学年別じゃなくて上級生も混ざってやるんだろ?勝ち目あるのか?」
「馬鹿ねぇ、戦う事に意味があるんじゃない。私達が勝ち上がるなんて先生達も微塵も思っちゃいないわよ。」
「でも万が一本戦に出られたらいいよなぁ〜。」
「ははは!それこそあり得ねぇだろw」
口々に興奮冷めやらぬといった感じだ。30人1クラスがA〜Dあり、6人チームならば一年生で20チームできる計算だ。定春、和樹、圭太、雪菜の4人は何時もの如く机に集まっていた。
「はぁ…対抗魔ーークボッ!?」
「「……雪菜 (さん)、何で打ち込んだ(の)?」」
「あ…ごめん、条件反射。」
まともな事を言おうとした和樹の顔面に雪菜の掌底が最速で打ち込まれる。今回ばかりは何故打ち込んだのか、定春と圭太も唖然と後ろへ吹き飛んだ和樹と雪菜を交互に見ていた。
「本当に…俺の、扱いについて、話し合うぜ…」
流石に何度も同じ攻撃を喰らい続けているからか、徐々に和樹の打たれ強さが増していた。相変わらず痛そうに顔を抑えている。
「和樹くんも大概頑丈だよね…」
「今回は完璧に打点ズラして後ろに飛んだからな、よくあんな一瞬で反応できたもんだよ。」
「…次は螺旋回転を加えて捻り打ちしてみる。」
「趣旨がおかしいだろ!?なんで技に改良加えようとしてんの!?」
「全く騒がしいわね、あなた達は。」
「お嬢様、その言い方は因縁をつけている様に聞き受けられる可能性がございます。」
ギャンギャンと騒ぐ和樹の後ろから、2人の女子生徒が近づいてきた。
「西条嶺と倒木か。」
「おっ、ぬいぐるみは気に入ったか?」
2人と面識のある定春と和樹は気軽に声を掛け返した。逆に話したことのない圭太と雪菜は誰だろう?と首を傾げた。自慢する事ではないが、圭太と雪菜、それに定春と和樹は良くも悪くも入学初日から目立ってしまった。伝統派の生徒からは元より、他の生徒からも遠巻きに視線を送られるだけで避けられている。
所謂、クラスでの交流範囲が極端に狭い圭太と雪菜は、当然のようにこの女子生徒2人との面識がなかったのだ。
「…西条嶺?もしかして“西条嶺グループ”の?」
「あら?よくご存知ね、えっと薊磧さん。」
「へぇ、斬新的なSAIRを手掛ける会社の一人娘って君のことだったんだ。」
「左様でございます、寺門様。」
西条嶺グループとは、SAIR開発、設計、プログラムを全て自社で手掛ける大手グループ企業。SAIRはその製造に関して金属加工、ナノコンピュータ制御、工程制御プログラムなどなど実に多様な専門技術が必要となる。その為のSAIRはそれぞれの技術特化した会社が製造分担して製造するのが普通だが。西条嶺グループはその傘下会社に全ての技術を有する会社を吸収合併し、完全自社製品を銘打っている。
「あの、寺門“様”はやめてくれるかな?普通に圭太でいいよ。」
「私も雪菜でお願い。」
「かしこまりました圭太様、雪菜様。」
「「……。」」
「諦めてちょうだい、翠はこれが平常運転よ。」
どう足掻いても様呼びは変えられないようで、紅音が諦めるよう圭太と雪菜に促す。
「それはそうとお嬢様。皆様に用があって来られたのではないですか?」
「あ、えーと、そうね。翠私の代わりに行って頂戴…というかお嬢様はやめて。」
「かしこまりました、お嬢様。実は皆様にお願いがあって伺わせて頂きました。宜しければお嬢様と私を、このチームに加えていただけないでしょうか?」
「…このチームに?どうするの?定春。」
「別にチームを組んだ記憶はないけど…まぁ状況的にそうなりそうかな?どう思う定春くん。」
「へぇ、俺は別にいいと思うけど?なぁ定春。」
「…待て。そこで何故俺に判断を仰ぐ?」
「「「リーダーだから。」」」
「よろしくお願いします定春様。」
「よろしくお願いね、定春。」
はて?物忘れが最近激しい様で、いつの間にかチームリーダーになっていた定春。とまぁそんなはずも無く、流石に異議申し立てる。
「待て待て待て、俺も別に2人が入る事は反対しないが、チームリーダーだけは勘弁だぞ。」
「…適材適所だと思う。」
「弱肉強食だからねぇ。」
「だから定春でいいんじゃね?どうせろくな仕事なんてないだろ?」
最早取り付く島がない。彼ら彼女らの中では定春がチームリーダーで落ち着いている様だ。因みに圭太の弱肉強食の意味が定春にはイマイチ理解できなかったが。
「…はぁ。まぁ別にチームリーダーだからってやる事はあんまりないだろうし、お飾りみたいなもんか。」
チームリーダーになし崩し的になる羽目になったが、特にデメリットもないだろうと渋々承諾する定春。精々事務的な連絡のやり取りくらいだろうと…。
「あー、言い忘れていた事があった。」
日下部がいきなり教室へと入ってくるとそう切り出す。
「チームリーダーになった者はこれからの予選の運営、設営、連絡等の実行委員となるからな、後で職員室へと来るように!」
「…マジか。おい…」
「「「「「……(スッ)」」」」」
日下部の言葉に定春は苦い顔をすると、チームメンバー達にバッと顔を向けるが、全員がそっと視線を外した。どうやら全員が知っていた様だ、チームリーダー=実行委員という面倒ごとを。
「こんにゃろ…」
引き攣る顔でそう苦言を呈するが既に決まってしまった事である(実際にはまだチーム申請を出していないので受理されたわけではないが、この期に及んで抗うのもカッコ悪く思えた)。まんまと嵌められた定春は、圭太の弱肉強食という言葉を思い出した。
「(弱肉強食…つまり情弱ってことかよ。)」
定春以外のメンバーは対抗魔法技能大会についても、そのチームリーダーに関しても情報を持っていた。しかしそこらへんに全く興味がなかった定春は、まんまと嵌められたのだ…成る程、確かに圭太の言う通り弱肉強食である。
圭太にしては辛辣な言い回しだが、裏を返せばそれほどチームリーダーとは、いや、正確には実行委員とは嫌な役回りなのだ。
「実行委員となった者は本戦までよろしく頼むぞ!まぁその代わりに本戦選手同様、夏季課題が免除されるんだ、なに悪いことばかりじゃないさ。」
「なん…だと。」
それこそ初耳である。実行委員とは予選だけではなく、本戦でも実行委員として大会の運営に関わらなければならない。つまり万が一予選で定春のチームが敗退したとしても、定春だけは夏休みを返上して本戦の実行委員として参加しなければいけないと言うことだ。
「お前ら…知ってたな?」
「「「「「……(フイッ)」」」」」
あからさまな反応…これは最初から知っていた様だ(全員が口笛を吹く真似をして明後日の方向を向いていた)。終わった後では既に後の祭りだが、定春は思った。
「(いいだろう、本戦の出場権を手に入れてお前らも強制参加だ。)」
…と。最初はある程度勝ち進んだら適当に負ければいいと考えていた(和樹達も同様)が、考えが変わった。やるからには全力で道連れにしてやると…
「諸君、多忙の中集まっていただき感謝する。」
陸軍将校専用の会議室。その室内には机を取り囲む様に男女7人の軍将校、そしてその上座には一際重厚な雰囲気を纏う男が座っていた。
「それは構わんのですが、本当なんですか?蔵元少将が殺されたと言うのは…俄かには信じがたいのですがね。」
そこで緊急招集をかけられ、魔法高校から参上し軍服を着用した日暮…日暮准佐が、上座の将校に疑問を呈していた。他の将校達も同じ思いの様で一様に頷く。
「事実だ…が、同時に別の案件も発生している。」
「?…と言いますと?」
「蔵元少将の暗い部分が次々と露見した。中には国際魔法条約で禁止されているCDS理論にまで手を出していたと言う情報だ。」
「成る程…殺されるべく殺された、そういうことでしょうか?」
軍部には粛清部隊と言う名の暗部が嘘か真か存在するという噂があり、今回はその琴線に触れたのだと日暮准佐は予想した様だ。
「…確かに明るみに出れば粛清は免れまい。しかし今回それが明るみに出たのは殺された後だ。暗部は動いていない。」
「外部の敵に蔵元少将は殺されたと!?」
そう声を荒げたのは女性将校。彼女は昔、蔵元に師事していた経験があった。いくら蔵元がやってはいけない事をしていたとは言え、彼女にとっては師匠と言っても過言ではない。その瞳を烈火のごとく滾らせていた。
「そう考えるのが妥当だろう…そして、先程幕僚本部より通達があった。…この案件に関して箝口令が敷かれ、蔵元元少将本人を除く彼の部下は任務中の殉職とする。蔵元 尚十郎は除隊処分の後、本人不在の状態で軍法会議にて取り決めされる事となった。この場に君達を呼んだのは過去に彼から師事を受けていたり、部下として働いていた将校への説明のためだ。」
「…ちょっと待ってください小倉少将!それでは蔵元少将を殺した犯人はどうするのですか!?」
先程から食ってかかる女性将校は、上座の将校…小倉少将に言及する。小倉の説明では、蔵元少将を殺した犯人に対しての方向性が何も示されていなかった。寧ろ、捉え方によっては探す気もないだろう。
「ここからは君は知る必要のない事だ、水門中佐。話は以上だ、今日は集まってもらって感謝する…特に日暮准佐は遠方からご苦労だった。」
「いえ、正直こんな大事とは予想してませんでしたからビックリしましたよ小倉少将殿。」
小倉少将の話を聞き終えると部屋に集まっていた将校達は次々と退室して行く。部屋には日暮と小倉…そして水門中佐だけが残っている。その水門中佐は未だ椅子に座り、師を殺されたことによる怒りが透けて見えた。そんな水門の姿を日暮と小倉は危なく感じたのだった…。