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合理主義者達の魔法理論  作者: 調 烈
10/25

010話 お仕事 後編

本日二話目です!



「「「【雷撃ボルトショック】」」」



扉を開け放った瞬間に放たれた、単純かつ広範囲なよ攻撃魔法【雷撃】。推定100万ボルトの直電流、それを前方に飛ばす…という魔法師なら誰でも使う事のできるものだが、全く同じタイミングで三人分の【雷撃】ともなれば中々厄介な魔法である。狭い閉鎖空間において目一杯拡散した電撃の波がイムホテプのメンバーを襲う。


「…α1、β1。」

「了解っと!」

「【避雷】」


突然襲いくる電撃の波にひるむ事なく土方が一声掛けると、修二と奏は何をすれば良いのか分かっているかのように行動を起こした。修二が持っていた警棒をイムホテプメンバーと構成員達の間に突き刺し、奏がその警棒に魔法を施す。


警棒に施された魔法は【避雷】。無機物有機物問わずに電気を吸収する性質を付与するもの。電撃の軌道が突如代わり警棒に吸い寄せられ、その警棒と床諸共あまりの熱量に爆散した。


「噂のイムホテプ、か。」

「…若いな。」

「だがどいつも濃い血の匂いがするな。手練れには間違いない。」


イムホテプのメンバーは誰も雷撃に対しては驚かない。その程度の魔法片手間で片付けられる。しかし、爆散による煙幕が晴れた先に見えたある光景、それを見た各々の反応がこれだ。



「げっ、同じ顔が三つっす。」

「Ω1、しかもあいつは…」

「ロシア国際指名手配犯、元Aライセンス魔法師“ジョセフ・S・カワシマ”か。成る程、そういうカラクリか。」

「ふぁ〜…まったく同じ顔が三つって気持ち悪いわね〜。」


若干マイペース過ぎる言動が二人いるが、定春と土方は単純に国際指名手配犯が三人いるということに驚いた。成る程、捕まらない筈だと納得する一同。恐らく整形か、変装魔法か、三つ子か…いずれにしても一人と思っていた人間が、実際は三人いるのだ。撹乱するにはもってこいだし、逃走も容易だろう。


「特にあの屈強な男と、幼顔おさながおの少年…あれはやばい。」

「手前の男女もやり手である事は間違いないが…」

「強さの方向性が違う…ならば各個撃破だ。行くぞ。」


三者三様の言い方であるが、それでもやる事の意思疎通はできている様だ。混乱が生じる為ジョセフ1、ジョセフ2、ジョセフ3と命名するが、はっきり言って姿形から服装、挙動に至るまで全て同じなら意味を成さないかもしれない。


「あれらがβ1の探知した構成員ならば、後ろの二人はR1と脱走兵だな。しかし…」

「様子がおかしいですね。情報通りならば倒れているのが脱走兵、そしてそれを庇っているのがR1。Ω1、どういう状況ですか?」

「分からん。が、やる事は決まっている。各員ジョセフ・S・カワシマを全力を持って、全て駆逐せよ。」


「「「了解」」」


言うや否やイムホテプメンバーは三方向へ分かれ、各人ジョセフを分離させた。ジョセフ1と土方、ジョセフ2と定春、ジョセフ3と修二、奏という状況だ。



修二&奏 side


「ふぁ…ねぇ、あんただけでどうにかできるでしょ?私後ろで休んでるから。」

「無茶言うなっすよ…Aラン指名手配犯を一人でどうにかできる程強くねぇよ。というか、お前サポート員なんだから仕事しろ。」


修二も奏も正規ライセンスを有する正式な魔法師だ。修二はBランク、奏はCランクの魔法師であり、先程修二の言った通り、奏はそれほど戦闘に用いる魔法に明るくない。だがその代わりに補助系の魔法に長けた魔法師であるためイムホテプでの仕事の際には、メンバーの誰かとペアを組み、事に当たることが多い。


対する修二はバリバリの武闘派メンバー。土方や定春ほどではないというが、イムホテプのNo.3の座についている。その生業は“小太刀術”…寺門・・家傍流に当たる、朝寺あさでら家の次男坊である。


「その身のこなし、武術…取り分け武器術の心得があるな?成る程、イムホテプは粒揃いの様だ。」


ジョセフ3は腰を低く落とし、二人を油断なく観察していた。同じ体型、顔、声の為、本当に影分身か何かではないかと疑うほど同じ容姿。影分身でないのならドッペルゲンガーと言われた方が納得がいくというものだ。


「いやぁ…師範代にもならなかった落ちこぼれっすよ。」


修二は警棒を伸ばすと、手の上でくるくると遊んでいる。別に油断しているわけではなく、修二の機の測り方である。ジョセフ3の重心、魔法兆候、視線の動き、そのどれもに機を伺うがどうしても隙を見つけられない。成る程、Aラン指名手配犯の名は伊達ではない。ジリジリと縮まる間合いに、ヒリヒリと焼け付く肌…


「(これが落ちこぼれたる所以なんすかなぇ…だけど、そんなのは今は関係ない。)」

「…【思考晒流しこうそうりゅう】」


「む!?」


ジョセフ3の張り巡らされた思考、考えに一拍の空白が不自然に生まれた。それは奏の得意とする意識干渉計の魔法…時間にしてコンマ数秒、ほぼ刹那ともいえるその余白に修二は的確に反応し、攻撃を仕掛ける。


「【風刀ふうとう】…“抜小太刀ぬけこたち”」

「…か、はっ!?」


警棒に付与された風の刀が、ジョセフ3の脇腹を深く斬り抜く。が、致命傷には程遠くジョセフ3は後ろへ大きく飛び退いた。


「はぁ…まだまだ未熟っすねぇ。」


本家の、懐刀と呼ばれる次期当主ならば、今の一撃で決着をつけていただろうと、己の未熟を痛感した修二。奏はその後ろで欠伸を噛み締めていた…



土方 side


「はっ!」

「ふっ!」


「はぁ!」

「くっ!」


ジョセフ2と土方。こちらはこちらで魔法師らしからぬ戦闘が繰り広げられていた。共に肉弾戦、殴り防ぎ、蹴り防ぎ、投げて受け身、寝て外す、状況だけ見れば異種格闘技戦にも見える。


土方の使う武術は古武術…取り分け柔術に近いが、突きや蹴り、寸勁などベースとなる武術に、様々な要素が織り込まれている。

対するジョセフ2はシステマ。ロシア由来の軍用格闘術にも起用されている伝統的な武術だ。


「……。」

「……。」


無用な言葉はいらないとばかりに無言の攻防を広げる。だが、その視野を少し大きく持って二人を見ると、更に信じがたい光景を目の当たりにする事になる。それは二人の周りで繰り広げられる【空気弾】と【空気弾】の撃ち合い。【空気弾】とは魔法師が学生時代に最初に覚える基本魔法。【気体圧縮】【指向性】という単純な2工程の魔法だがその実、シンプルが故に実力差の出やすい魔法でもある。


【圧縮】という工程において、基本的に量、種類、密度は変数化されておらず、固定値…つまりデフォルトの状態で処理される。だが熟練者になると圧縮する空気の量を変数化して虚実を織り交ぜたり、単一気体を圧縮し、窒素弾や酸素弾、二酸化炭素弾として使ったり、密度を極めて濃密にし、鉄のような空気弾を作り出す魔法師も存在する。そしてそれは二人も例外ではない。


肉弾戦の最中、自身の周りに生成した【空気弾】を、至近距離から相手に撃ち込み、逆に撃ち込まれた【空気弾】を回避、ないし【空気弾】で相殺。

そんな激しい攻防の中、土方は修二の戦闘を横目で見ていた。


「(技術に偏りがあるな…やはり外面そとっつらだけで、中身は別人…整形か変装魔法だろうな。)」


今目の前にいるシステムを使うジョセフ2。その技量は土方が舌を巻くほどだ。土方の掌底がジョセフ2の顎を捉えた。鈍い打撃音、撃ち抜いた手形が土方の手から伝わる…が。


「取っ…」


ジョセフ2は若干仰け反りながらもその瞳は土方から離れていない。撃ち込まれた手をガシリと掴むジョセフ2の手。死んでも話さんと言わんが如く、万力のような握力。それと同時にジョセフ2の周囲に幾何学的な紋様が浮かび上がった。どうやら攻防の最中魔法を練っていたようだが、展開のタイミングを見る限りか高難易度の魔法。


素粒子力学による魔法という力は、基本的に遅延展開、待機展開というものは出来ない。発動タイミングに合わせ、展開時間を逆算し工程処理をするのが一般的である。土方はジョセフ2の魔法の規模を軽く読み取り、前々から構築を開始したものだと看破した。だが、ジョセフ2からしたら「だからどうした」といったところだ。逃げられないために手も掴んだ、距離も詰めた、もはや逃げ場はないのだから。だが…


「…取った、と思っただろう?違うな、取らせたんだ。」

「なに?」

「すぅー…ふっ!!」


独特の呼吸法、土方は掌からジョセフ2の顎を伝う様に発勁を放った。


「ぐぉ!?」


揺らぐ脳…それにより軽い脳震盪の状態に陥ったジョセフ2の魔法は強制的にキャンセルされた。魔法は脳内で工程の処理を最低でも始まりと終わりの部分は行う必要がある。その最後の工程を処理する前に発勁により阻害された為キャンセルされた様である。


「っ!しまっ…がっ!?」


眩暈によりたたらを踏むという最大の隙。その大きな隙を土方が見逃すはずがなく、強烈な蹴りが叩き込まれた。最後には脚を振り抜いた状態の土方と、床に伏せるジョセフ2の姿。こうして土方VSジョセフ2の攻防は幕を閉じる。



定春 side


「ふむ…他は決着がついた様だな。まぁこっちもだが…」

「が…はっ…」


定春の手はジョセフ1の腹部へとのめり込んでいた。それは比喩ではなく、実際に定春の手刀が腹部に刺さっている。


「ば、かな…俺の【多重障壁】を、いとも、容易く…」


定春とジョセフ1の決着は早々に着いていた。と言うよりも、ほぼ一撃。開幕の一手で定春はジョセフ1の腹部を貫いている。


「【多重障壁】の緩和術式は広く公開されている。迂闊だったな。」

「だとしても、だ…あれは81工程も、ある、大規模術式…本来なら、人が行使する、のは不、可能だ!」


腹部を手で押さえ、息も絶え絶えに叫ぶジョセフ1。だが定春は会話に付き合う気などさらさら無いとばかりに右手を手刀の形で振りかぶる。構成員は全て殺害せよとの命令が出ているため、当然の行動だった。



「まったく、仮にも私の姿をしているのだ。無様な姿を晒してもらっては困るな。」


「ちっ!」


突如として目の前に魔法兆候を感じた定春はその場を飛び退いた。起きた現象は小規模な爆発。定春にだけ爆風が行くように調整されており、酷い熱風が襲う。


「…4人目のジョセフ・S・カワシマ…いや、お前がオリジナル・・・・・か。」


顔を腕でガードした為、熱傷などは追っていないが、少し吸い込んでしまった様で喉の痛みを覚える定春。その視線の先には4人目のジョセフが姿を見せた。


「オリジナル…成る程、的を得ている。そこらの出来損ないと比べられるのは癪だが、ここは引かせてもらおうか。」

「逃すとでも?」

「いや、逃がさざる得ないさ…こうされてはね?」


ジョセフは懐から小型端末を取り出すと、徐に操作する。と、次の瞬間。建物に大きな揺れが生じた。


「このビルの各階の支柱を爆破した。持ってあと2.3分と言ったところかな?」

「…その前にお前を殺せばお釣りがくる。」

「おっと、それは困るな。」


すると更にジョセフは端末を操作、今度は室内が急に煙で満たされる。どうやらスプリンクラー部分に水ではなく、消火剤を入れていたようだ。


「ちっ!古典的な!」

「α、β、γ!!脱出する!各員脱走兵とR1を確保の上退避だ!」


「「「了解!」」」


各々が倒れている脱走兵とR1を抱え、窓を蹴破りビルを飛び出すのと、ビルが崩壊を始めたのはほぼ同時。各員は落下中に【重力制御】を使い、無事地上へ着地した。


「逃げられたか…Ω1、どうしてR1だけではなく脱走兵まで?」

「今回の件、少しきな臭く感じてな…情報源として確保しておくに越したことはない。」


「助けて!鈴香を助けてよ!私ならどうなってもいいから、鈴香を助けて!」


必死に奏に懇願するR1…被験体の少女。その赤く燃え上がる瞳には涙をいっぱい溜めていた。



「…Ω1、どうするっすか?」

「少し聞きたいことが出来た。応急処置をして、本社に戻るぞ…定春はもういい。あとはこちらでやるから今日は帰っていいぞ。」

「それは有難いですけど、いいんですか?」

「あぁ、ちょっと調べることが出来たからな。ここからは残業だ。お前は学校もあることだし今日は帰って上がって構わんさ。」


そういえばと定春が腕の時計を見ると既に深夜の1時を回っていた。といっても今日は土曜、学校はない為別に定春は残業に付き合っても良かったのだが、何か思うところのある様子の土方を見て、今回はその言葉に甘えさせてもらうことにする。


「了解です。今日は帰らせてもらいます。」

「あぁ。よし!修二、奏!2人を車に乗せて帰るぞ!」

「え、俺は強制残業っすか!?」

「えぇ〜私も?」

「当たり前だ。修二はともかく奏はいい大人だろうが!早くしろ!修二、お前はこの前の事務処理をサボった罰だ。」


どうやら修二と奏は強制的に残業らしい。ブツブツと愚痴をこぼしながらも二人は脱走兵とR1を車に乗せると、夜の街へと車を走らせるのだった。


「…はぁ、今回は任務失敗か。」


上からのオーダーはR1以外のADオールデリートだ。内容に照らし合わせれば失敗といってもいい。だがそれ以上に気掛かりな事がいくつもあった。複数のジョセフ、それに脱走兵に対するR1の反応、今思えば何故、脱走兵はR1を連れジョセフの元へいたのだろうか?


夜風に当たり定春はそんな事を考えながら帰路に着く。


「そこの君、少しいいかな?」

「その格好といい…そもそも君は幾つだい?」


「え?…あー、あのですね…」


尚、ムーバルスーツのまま路地を歩いていたのと、単純に時間が遅いという事もあり、家に着くまでに3回程、警察に職質をかけられた事を明記しておく。







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