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合理主義者達の魔法理論  作者: 調 烈
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001話 序幕

合理主義者の魔法理論をよろしくお願いします!

本日は二話投稿、0時と12時です!



さて、魔法というお伽話の力が世に蔓延って早幾千年…いや、現実を見よう。そんな現実逃避をしても後で辛いだけだ。


2119年。素粒子力学説というものがある学会で発表された。まぁぶっちゃけてしまえば魔法みたいな力がありますよーという論説だ。勿論いくら科学技術によって、魔法みたいな現象を引き出せるようになった現代社会においても、そんな説は鼻で笑って一蹴される。


だからその学者は実演してみせた。その素粒子力学説に基づく理論を使った力で、その会場に居た200名ばかりの学者や記者を虐殺するという形により。


勿論そんなことをやれば殺人犯である。不思議なことにその学者は実演を披露した後は大人しくお縄についた。裁判では勿論死刑、しかしメディアはそんな学者の判決よりも、その素粒子力学という新たな学問に注視した。


たまたま生き残った学者や記者の証言と公開された論文によると、素粒子とは気体であり、液体であり、固体であり、有限であり、無限であると言う。正直それだけ聞けば「なんじゃそりゃ?」と言いたくなる。


曰く、素粒子は古来より存在していたが、それは知覚できない。知覚できないがある工程を加えることにより知覚可能となる。


曰く、素粒子により引き起こされた現象は全て不可逆性であり、現実に起きた現象として世界に処理される。


曰く、素粒子を操るすべは誰にでもあるが、素粒子を無加工状態で知覚出来るか出来ないかが分かれ目である。


ふむ、分からん…と一蹴したくなる。体系化も適正化もされてない技術なんぞ、迷惑極まりないものだ。まぁそんなトンデモ理論が提唱されたのは早50年前の事だが。





さて、改めて現実を見よう。俺は板島いたじま定春さだはる、今年で15歳…つまり中学3年生だ。そんな俺の手元には一通の封書がある。送り主は【魔法省】…前身は【素粒子研究運営庁】という政府機関だ。


「この時期に魔法省からの封書が届く…なるほど、悪い予感しかしない。そしてなぜバレた・・・のか…。」


季節は秋から冬に変わり、世は受験戦争の真っ只中。俺も例に漏れず、希望の公立高目指して猛勉強している最中の出来事だ。


嫌な予感がする中、俺は封書の中の手紙に目を通した。案の定、というのだろうか、政府機関公認の学校への入学通知書だった。


「むぅ…予想通り最悪のケースだった。」


定春は眉を顰め、付随していた学校案内のパンフレットにも目を通した。


国立魔法防衛大学付属高校…全国47都道府県に必ず一校ある魔法師養成機関である。防衛大学と名のつく通り、就職先には自衛隊や軍属の道が示されているが、それは強制ではない。卒業後は普通の企業にも就職できるし、職業選択の自由はある。ただしこの様な入学通知が来た場合、入学自体は強制である。


そして書類の上文には確かに【国立魔法防衛大学付属東京高校 】と記載されていた。


「ふむ、これは最早逃げられんな。志望高校には願書撤回の連絡を入れなきゃいかん。」


逃げ道は塞がれた。大変不本意だが、ここまでされたら足掻くだけ無駄だと嫌でも分かる。何せこの学校は受験は自由だが、魔法省から入学指定を喰らったら強制入学なのだから。定春は無駄な事を嫌う、所謂合理主義者だった。


その為すぐ様行動に移す。2169年現在、学校連絡や課題提出は全て学校支給のタブレットで行われる。勿論この中には教科書などのテキストもインストールされており、学校に持っていくものといえばタブレットと体育着、ICチップ入りの学生証ぐらいである。学生証には電子マネー、タブレットを起動させるパスキー等の電子情報が記録されている。


ありとあらゆるものが電子化された高度社会の中で、魔法というトンデモ理論が確かな技術として確立している事に若干の疑問は残るが、俗に言うハイテクな時代。それが2169年の日本だ。


「志望高校の取り消し…と、魔法高校の入学通知のPDFを添付、と。」


定春は今後必要であろう手続きをタブレットで素早く済ませる。何事も先手先手で物事は片付けるに限る、とは定春の考え方だ。



「こりゃあ、土方さん怒るだろうなぁ…」


ここには居ない、ある方面での恩師の激怒する姿…定春は今後起こるであろう状況を思い浮かべ、憂鬱な気分になる。




魔法高校は素粒子の扱いを教え、最終的には魔法師ライセンスを習得する事を目指す。軍関係だけに絞れば、そのまま魔法防衛大学に進学する事も可能だし、警察官に就職する場合は、一般でいう大卒者と同様の扱いを受ける。


魔法高校は一種のエリートが集う学校なのだ。だがはっきり言って定春はそんなものに興味はなかった。それこそ、普通に入学するには競争倍率100倍と言われる試験に合格しなければならない学校に、試験無しで入れるとしてもだ。



「俺には厄介ごとの匂いしかしない…いや、既にこれが厄介事か。」


軽くため息を吐いた定春は自室の机に置いてある一台の指輪に目を落とす。装飾は一切ないシンプルなデザインだが、何処か重厚感を醸し出すそれを定春は右手人差し指に嵌め、ソファに深く腰を下ろした。


「まぁ、決まった事にぐちぐち言っても仕方ないか。」


定春は軽く伸びをするとタブレットで今日出された課題に取り掛かった。課題自体は大変面倒でやりたく無いのだが、それを出さない事によって担当教科の先生に怒られるのはもっと面倒だ。仕方なくちゃっちゃと済ませる定春だった。











「おい…例のブツは用意できているのか?」

「あぁ、あの車のトランクだ。今は薬で眠らせてあるがな。何故あんな小娘をご所望なんだ?」


黒服に身を包んだ男たちが月夜に街外れの倉庫で何やら話し込んでいる。見るからな怪しい取引現場だった。


「…知りたがりは長生きできないぞ。」

「おっと、悪い悪い。それもそうだ、で?金は用意できてるのか?」

「ほら、約束の金だ。」


そう言い男はアタッシュケースを放り投げる。受け取った男は中を確認し、ほくそ笑む。


「確かに…ほら、車のキーだ。」

「えらく気前がいいな。」

「なに、今回は割りの良い仕事だったからな。車ぐらいどうって事ないさ。」


「良い車だな。まぁ今からそれも含めてスクラップになるんだが。」


「誰だ!?」

「おい!見張りは何やってんだ!」

「だ!誰もここには通してませんよ!どうやって!」


「まぁ裏口から来たからそりゃ誰も見てないよ。」


「裏口にも見張りはいただろうが!!」


そういうが早いか、男の一人が腰から銃を抜き侵入者に向け発砲した。この時代の銃にはリボルバーやボルトアクション式、自動小銃などの旧式の銃は魔法という代物の普及により、あまり世に出ることはなくなった。しかしヤクザや裏の人間は殆どが非魔法師。その攻撃手段としては銃が好まれる傾向にあった。


「死ねぇ!!!!」


「…【空蝉】…」


男の放った弾丸は侵入者の身体をすり抜け、後ろの壁に着弾する。


「なっ!?当たらねぇ!」

「魔法師だ!小娘連れて逃げろ!魔法師なら見た目なんて関係ねぇ!化け物相手してると思え!!」


「あ、トランクに居た子ならもう俺が貰っといたから…」


「なっ、こいつ!」


「…だから安心して死んでくれ。」


侵入者は晴れやかな笑顔で死刑宣告を下した。場に似つかわしくない朗らかな雰囲気でのセリフに一瞬場は静まり返る。が、我を取り戻した男たちは当然の事ながら大激昂。例のブツとやらを奪還された以上、最早男たちの頭に逃げるという選択肢は消えていた。


「銃がダメなら車で轢き殺せ!!!!!」


下っ端の一人が車に乗り込みアクセルをベタ踏みし、勢いよく侵入者へと突っ込んで行く。大型ワンボックスが正面から人に突っ込めばその結果は火を見るより明らかだ。それが普通の人間だったらばの話であるが…。


「しぃねぇぇぇ!!!!!」


「ふむ…【乗返し】」


正面から突っ込んでくる車に全く焦る様子のない侵入者。その拳を強く握りしめ、空手でいう正拳突きの構えを取ると、あろうことか車のフロント部分に突きを放った。普通なら骨折どころの騒ぎではない。しかし起こった現象は目を疑うものだった。


「馬鹿が!血迷った…えぇ!?うわぁぁ!!!!!」


進行方向とは真逆の方向へと吹き飛ぶ車。そのフロントは大きくひしゃげ、車は突っ込んだ時の倍のスピードで後方へ飛んでいき大破する。


「なに…が…」

「…8乗も要らなかったな。じゃあ俺、明日入学式で朝早いんだ。とっとと死んでくれると助かるよ。」


「ふ、ふざけるナァァァ!!!!!」

「殺せぇぇぇ!!」

「クソがぁぁ!?」



翌朝、新聞に街外れのの倉庫が全焼する火事の記事が載った。だがそれは一面中の小さな一角。その裏に消えた裏の住人がいるとは誰も思わない。





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