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第二章 仮想世界ユートピア

ここから異世界に入ります。



仮想世界その名もユートピア。一見中世ヨーロッパを彷彿とさせるこの世界は魔物と人間とが共存している世界だった。


共存といえば聞こえはいいが、実際はお互いに干渉せずそれぞれ領土を持ち独立して存在していた。


魔物領、そこでは魔物達が各地に縄張りを持ち、自由に生息している。一番人間領に近い暗夜の森にはLv50程度の魔物。亜人種や魔獣が多く、群れをなす種族もいる。


魔物領奥地へ進むにつれて異業種が増えLvも70を超し始める。大地は白く変わり果て植物などは食獣植物などを除いて一切なし。各地に転がる魔物の骨がその恐ろしさを際立たせる。


最奥には魔王城がその一角を地表から突き出してそびえ立つ。地上に突き出た部分はその本来の大きさの八分の一程度で魔王はその最下層にいる。


魔王の住む城があったり、大地が荒廃しているとはいえ、実際魔物領と呼ばれているそれは人間達が勝手に決めたものだった。


事実国境などがあるわけではない。ただ、そこを境にして魔物のLvが段違いに変わる。


その境には、一番魔王領に近い国、アストラル王国から派遣された兵士が砦を作り、駐屯していた。


高Lvの魔物が人間領に侵入してこないよう、アストラル王国が誇る10剣聖のうち2人は常に各砦を巡回している。


そうは言っても魔物領の魔物達は安易に人間領には近づかない。


奥地に住む者は人間に興味がない者も多いが、何より一度進攻しようものなら手痛いしっぺ返しを受けるのは目に見えている。 


人間の恐ろしさは何と言ってもその数だ。基本的に徒党を組まない魔物達は個々では勝っていても多対一ではそうはいかない。  


それに加え、最近では人間達も力をつけ、個々でも魔物に勝る人間が増えた。


そんなことから人間は人間領で、魔物は一部の亜人族を除いて魔物領でそれぞれ存在していた。


そんな世界の最東端。魔物領から最も遠いところに領土を持つイステイン王国。


そしてそのイステイン王都近くの森の中に、全身を黒い鎧で包み、大剣を携え、深紫のオーラを放つ若い騎士が堂々と大の字で寝ていた。


「ちょ、ちょっと!、起きてください!こんなところで寝てたらだめです!」

                   

騎士の周りを美しい蝶のようなものが忙しなく飛び回っている。


勿論それは蝶ではない。羽のある小さな体に紅色の瞳を持ち、美しい金髪をなびかせ飛んでいるのはフェアリーだ。


しかし懸命に声をかけるフェアリーをよそに、騎士は気持ちよさそうに眠っている。


「もー!こーなったら……えいっ!!」


「…!!」


チクッっと頬に針でつっつかれたような痛みを感じて騎士は思わず目を覚ました。


頬に手をあて起き上がるもフラフラと寝起きで取れないバランスに尻餅をつく。


「しっかりしてくださいヴラド様!」


ヴラド様?聞き覚えのある名前だ。ぼんやりとした視界に鈍い思考回路を働かせようと目をゴシゴシとこする。


視界がはっきりと見えるようになると、僕は自分がどこにいるのかを認識した。


半開きだった目を大きく見開き、キョロキョロとあたりを見回す。すると目に入るものはほとんど緑色の風景。生い茂る草、周りを囲むようにそびえ立つ木、風にゆれる花達。


「ここは…?」


「まだぼーっとしてるんですか?そこの泉で顔でも洗ってください!」


フェアリーが指差す方向に顔を向けると小さな泉が湧いていた。


まだおぼつかない思考のままゆっくりと泉に向かい、両手で何度も顔をぬぐった。


そのまま水面を見つめていると、段々と波紋が収まり自分の顔が反射して見えた。


自分の顔…?水面に映ったのは20年間鏡越しに何度も見た自分の顔ではなかった。見慣れない灰を被ったような髪色に整った顔立ち。


「誰だ…?この二次元イケメンは…」


鈍っていた脳が徐々に正常さを取り戻したのと共に突如として走る衝撃。もう一度水をすくい何度も顔を洗ったが泉に移り込むのは同じ顔。徐々に不安がこみ上げてくる。


…ちょっと待て、ここは何処だ?なぜ外にいる?僕は…僕は何をしているんだ?夢か?まだ目を覚ましていないのか?! 


見たこともない景色、状況が呑み込めない。荒くなる息遣いと大きくなる胸の鼓動が不安が大きくなるのを加速させていく。


落ち着け。僕は確か部屋でゲームをしていたはずだ…。キャラを作ってプロフィール設定をしてそれから……!そこから記憶がない。どうゆうことだ?突然眠ってしまった?!


「ヴラド様!大丈夫ですか?目覚めました?」


フェアリーは泉で顔を洗ったっきり動けない僕の眼前に飛んで行き困惑の表情で顔を覗き込む。


フェアリー…?本物!?


驚きのあまり思わず僕は両手でフェアリーを囲うように捕まえた。


「ちょ、ちょっと!苦しいです!!」


「あ…!ごめん」すぐに手を離しフェアリー解放した。そして驚愕する。


CGやおもちゃなんかでもない本物の感触。VRでもここまでの再現はできない。VR…?そうだVRだ!ゴーグルを外せば元居た6畳間に…!


そんな予感はしていた。いや、むしろそうであって欲しいとさえ思っていた。頬に走った痛みや顔を水で濡らした時から気が付いていたんだ。


頬から顔の側面を上るように動かした両手はそのままこめかみを通って空中へと通過した。


予想は的中した。そこにはVRゴーグルなんて物はなかった。スーツをつけていた身体は黒のフルプレートを身に付けている。


「あんなにお金をかけて揃えたデバイスが全部無くなってる…」


VRの見せる映像ではない。


これは現実(リアル)。決して非現実(ゲームの世界)なんかではない。


確信を持ってそう言える。泉を含め確かに此処に自分が存在すると分からせるほどの森の中、地面、吹き抜ける風の感覚。何より先ほどから周りをずっと飛び回っているフェアリー。


膝から崩れ落ち、そのまま両手をついた。


「ヴラド様…?」


クックッ、と喉から押し出されるように笑いがこみ上げてくる。そして次の瞬間自分でもビックリするくらいの笑い声で笑っていた。


「最高じゃないか!なんて日だ!!こんな素晴らしいことがあっていいのか?!ついに、ついに僕はつまらない現実から抜け出したんだ!」


両手で天を仰いだ。すばらしい青空と照り映える太陽が木々の隙間から見えた。


興奮冷めやらぬうちに背中に背負っていた大剣に手を伸ばし、ゆっくりと構えて見せた。


凄い…。こんな大剣を持てるほどの筋力まで備わっている。


いいのかな?何の因果だろう?ゲームばかりして来て20年。現実リアルに飽き飽きしていた。

そんな僕にこんな、こんな幸せなことがあっていいのか!


「ねえ、そこのフェアリー」


剣をしまいフェアリーに話しかけてみた。


「はい!ヴラド様!」


「君の名前を教えてくれないかな?」


「もー!ティティアのこと忘れちゃったんですか?」


ティティア?そうか!思い出した!ヴラドって名前も僕がつけた名前じゃないか!


ティティアとは僕がプレイしようとした体感型VRRPG『七色騎士物語』(レインボーナイツ)に出てくる案内フェアリーの名前だ。説明書には彼女がこのゲームではチュートリアルをしてくれると書いてあったな。


そして気が付いた。この世界はゲーム『七色騎士物語』(レインボーナイツ)そのものだってことに。


つまりは非現実ではないが現実がゲームの世界になったわけだ。これからはこちら側を現実として生きてゆけるということ。願ってもない。


これからこの世界で生きていくためには確かめないといけないことがたくさんある、と僕は考えを巡らせながらフェアリーに問いかける。


「ごめんよティティア。それで、これから僕はどうすればいいんだっけ?」


「ヴラド様は忘れんぼうでしょうがないですねぇ…。いいですか?私達はこれからイステイン王国王都ボルドーに王に会いに行きます!そして魔王を倒す勇者だと認めてもらうのです!」


なるほど。最初の目的はそれか…。RPGでは定番のパターンだな。


それにしても、腰に手をあてやや説教臭く説明しているけれど、ティティアは敬語なあたり僕を敬ってくれているみたいだ。気が動転していてよく見ていなかったがとても可愛らしい顔立ちをしている。


これからこんな娘と旅をすると思うと少し緊張したが、悟られまいと顔には出さないようにした。


「わかった、ありがとうティティア」


僕が笑顔でお礼をいうとティティアは頬を軽く膨らませてぷいとそっぽを向いてしまった。その笑顔には騙されません、とでも言わんばかりに。


ひょんなことからゲーム歴20年、現実世界では何の希望もなく、ゲームしかやってこなかった僕はゲームの世界に黒の騎士ヴラドとして転移してしまった。


これからどんな困難が待ち受けているかわからないけれども、僕はこの、まさに僕にとっての理想郷ユートピアで生き抜いて見せる。


絶対に現実になんか帰らない!


僕はそう心に固く誓った





ご愛読ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


                                            神条紫城

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