第九章 別れと出会い
ちょっと長めです。よろしくお願いします!
眩い光が収まると姿が一瞬にして変わっていた。
全身を包んでいた黒色のフルプレートから生地は漆黒ながら所々に金色の刺繡を施し、袖が広く開いたローブに変身。鎧に比べれば随分と軽装だ。
大きめのフードと首から下げた青い水晶のようなペンダントが魔法使いらしさを表している。
武器らしい武器はなく、手にはグローブを付けている。
「ふー、転職完了かな?」
軽く一息。このスキル案外使えるかもしれない。
「ヴラド様凄いです!魔法使いみたいです!」
ティティアは何に対しても反応を示すから面白い。
「ユニークスキルですか…凄いですね…」
これで職業変更の度に教会に寄る必要は無くなった。ユニークスキルにしてはしょぼいかもしれないけど…まぁいいか。
「魔法使いにもなるのでしたら職業レベルを上げていけば自ずと魔法を覚えると思います…。なのでトロール討伐のお礼はこれで…」
下級回復薬×10
ナイトソード×1
革のベルト×1を手に入れた。
「おお…ありがとう!いいの?こんなにたくさん、剣までもらっちゃって」
「はい…ヴラドさんの持つ大剣だけじゃ狭い場所では戦えないと思って…、それに剣士なら二つ目の武器は必須です…。あと…そのベルトに小さなポーチがついているので戦闘中にすぐ使いたいアイテムはそこに入れてください…」
なるほど…、流石女の子。色々と気が回ると感心した。
早速腰にベルトを付けて、ナイトソードを腰帯しポーチにポーションを入れた。
「職業は魔法使いで行くんですか…?」
「いや、せっかくスキルで何時でも職業変更できるみたいだから色んなのを試しながら行こうと思う。とりあえずは魔法使いのLvを上げてみようかな」
「そうですか…。魔法使い職だとステータスの関係上、剣は上手く扱えないんですが…ヴラドさんの高初期ステータスならナイトソードくらいの長剣なら扱えるかもしれません…」
「なるほどね。まぁ上手く使えなかったら剣士にまた変更するよ」
「はい…頑張ってください…」
「うん、ありがとう」
「………」
「………」
…会話が続かない。こーゆう時って何話したらいいんだろう。
「あの…それじゃあ私はこれで…。手伝ってくれてありがとうございました…」
え?い、いやちょっと。
ニーファはそう言って移動魔法を発動させるとペコっとお辞儀をして消えていった。
「…行っちゃった」
結局仲間になってほしいって言えなかったな…。
これがゲームだったら絶対仲間になってるパターンなんだけどな。
はぁ…まぁいいか、一人旅も気楽でいいや。ゆっくりこの世界を楽しもう。
「さあヴラド様!早速準備を整えて魔王討伐へと向かいましょう!」
……そう言えば一人じゃなかった。
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ガサガサガサッと森の木々をかき分け進む音。
冒険者とみられる男は必死に何かを探している。
「ハァッ…ハァッ…クッソォ!逃げやがったか」
苛立ちからブンブンと片手剣を振り回す。
「まあいいさ。あの傷じゃそう遠くへは行けんだろう」
「そうそう、暗くなってきたし明日にしようぜ」
先頭を進む剣を持った男をパーティーメンバーと思われる二人がなだめる。
「っち!あの小娘、ただじゃおかねぇ!」
「ハイハイ、待てない男はモテないぜ?」
「うるせぇ!」
「いいから行くぞ。夜の森は危険だ」
日が傾きかけた森の中、3人はそのまま元来た道を引き返していった。
「うう…イタイなぁ…」
右肩の深い傷を抑え、片足を引きずりながら歩く少女が一人、真夜中の林森を徘徊していた。
懸命な足取りでとにかく離れなければと歩を進めている。
「取り敢えず傷が治るまでは森の中で…つっ!」
ガシャン!と音を立て魔方陣を踏んだ少女の右足に深く光りを帯びたトラバサミのような物が食い込む。
「イ、イッターイ!!何なの!」
深く食い込んだ歯を懸命に外そうと試みるもびくともしない
「どうしよう…」
風に揺られざわざわと揺れる葉。心細くも少女は一人その場に座り込んでしまった。
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イステイン王国、王都ボルドーから少し離れた地。
王都からまっすぐ北へと進むと、大きな森林とその先には火竜の谷と呼ばれる渓谷がある。
森に出る魔物は人間領とは雖もLvは15、渓谷に差し掛かるころには20を越してくる。
それなりに優秀な冒険者が腕試しをするような場所として有名だ。
とのことなのでLv上げもかねて取り敢えず来てみたものの…ちょっと遠かった。
「ふう…、無事付けたな」
「半日かかっちゃいましたね」
「本当は王都にいたかったんだけどな…」
「ダメですよっ!のんびりしてちゃ!ヴラド様は勇者なんですから!」
こんな感じでティティアにせかされて仕方なく王都を離れた。
王都にいた同じ魔王討伐志願者、いわゆる冒険者って人達によると魔王はこの世界の西側の魔物領最西端にいるらしい。
言うまでもなく西には向かわない!
魔王軍?なにそれ?おいしいの?
因みに道中に何度か魔物を倒したのでLvが少し上がっていた。
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剣士Lv5→6
魔法使いLv1→3
獲得スキル
剣〈攻撃力アップ〉Lv1→2
魔〈魔法攻撃力アップ〉Lv1
魔〈MPアップ〉Lv1
習得魔法
火球
火撃
水球
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戦闘中気が付いたことだけど他の職業で習得したスキル、魔法は使えないみたいだ。
例えば魔法使いの時は剣士スキル〈剣術〉は使えないし剣士の時は魔法を使えない。
反面、ユニークスキルや〈解析〉みたいな共通スキルは職業変更の影響はない。
でもステータスは職業によって結構変わる。僕が今なってる魔法使いは〈力〉が足りなくて物理的な攻撃力はとても低い。
まぁ、何度か戦闘してみて分かったけどLvは低くても僕はこの辺りじゃかなり強い。
森の中は整備されたような道はないけど、特にあてもないので魔物を探してうろついてみる。
「ギィィー!」
「ヴラド様!危ない!」
瞬時に回避行動をとる。
「おっ…と!危なかった」
ティティアのお陰で何とか真上からの攻撃をかわす。
見れば全長1メートルはありそうな茸に手足が生えた魔物が、枯れ枝のような手を地面に突き刺している。
それと同時に二匹、三匹と木の上から降って来た。
(妖樹族 ファンガスLv12)×3
HP105 MP20
三匹か…連携される前に各個撃破だ!
「紅の炎よ、敵を焼き尽くせ!火球!」
敵に向けかざした手のひらから炎属性の魔力の塊が3つ、勢い良く飛んで行き、3匹のうち2匹に直撃した炎はそのままファンガスを焼き尽くす。
ファンガスはギィィィィと断末魔を上げ倒れると、そのまま絶命した。
「すごいな…下級魔法でも一撃だ」
これほどのLv差があっても苦にしないのはこの世界で生きていくにはうれしい誤算だ。
「ギ、ギギギィィィ!」
「おっと、それは無謀じゃないかな」
遮二無二突撃してくる最後の1匹をナイトソードで華麗に切り伏せる。バタッと倒れるファンガス。
うん、魔法使いでもナイトソードくらいの細身の剣は使えそうだな。
(Lvが上がりました、新たに魔法を習得しました)
魔法使いLv3→4
習得魔法
水撃
風球
「よしっLv上がったな」
「お見事です!この調子でドンドン上げちゃいましょ!」
そうだなぁ、強くなっとくのに越したことはないし。
それにしても魔法を打つこの感じ…最高だ。流石RPGファンタジー、病みつきになりそう…。
向かうところ敵なしのまま森の奥へとどんどん進む。
次から次へと襲ってくる魔物を斬る、斬る、斬る!複数で襲ってこられても一匹仕留めるのに10秒とかからない。
うーん、これじゃ腕試しにもならない…けど。
「ふぅ…少し疲れてきたな…」
休む間もなく出てくる敵に動きっぱなしだ。
「何でこんなに湧いて出るんですかね…敵うはずないのに…ホントにもう少し知性を持ってもらいたいです!」
「はは、それはそれで厄介だけどね」
「だ、誰かいるの?」
ん?な、何だ?今声が……。
「ヴラド様、今かすかに…」
「うん、聞こえたよ。こっちかな?」
かすかに聞こえた声。勘を頼りに周囲を探索するともう一度声が。
「誰か…」
「こっちか!」
ガサガサと草木を両手でかき分け声の主を探す、すると…、肩に深い傷を負った少女が足にトラップと思われる魔法を受け動くことができないまま座り込んでいた。
「なっ…!」
少女はこちらに気が付くとしまった!、と言うような驚きの表情を見せ身構えてみせる。
「…人間、来るな!我が炎に焼き尽くされたいか!」
少女の威嚇の言葉など耳に入らなかった。歳は18くらいの女の子が何故こんな森で傷を追って座り込んでいるのか、それよりも疑問に思うことがある。
「そ、その姿はいったい…君は…人間なのか?」
いたって普通の女の子の姿、赤毛のショートヘアーでぱっちりとした赤い瞳ととがった耳、耳の上から生えた15センチはありそうな大きな角が印象的。肩からはとても自重を持ち上げられそうにない小さな赤い翼がパタパタと動いていて、何より目を引く胴体と変わらないくらいの太さで1.5メートルはある尻尾。
(竜人族 ドラゴンメイド メリュジーヌ)
HP MP 不明
「ドラゴンメイド…?」
第十章へ続く
ご愛読ありがとうございます。
()はスキル〈解析〉をヴラドが無意識に行っている感じで解釈お願いします。
神条紫城