今日もヒマな兵士
魔族事件から1週間程経った。
村は以前と同じ平常運転であった。今日も俺はそんな中門の前に立ち続ける。
しかし身体は怠い、傷が癒えていないわけではない、朝のトレーニングメニューを魔力ありでやっている結果だ。
魔力を身体に循環させると身体能力は一気に上がるが
魔力の欠乏と普段からはあり得ない身体の動きにより
あり得ないほどに身体が弱る。
トレーニング初日は正直半分寝ながら突っ立っていたくらいだ。
少しずつコツを掴み、今は限界を見極めながらトレーニングを進めている。
身体をほぐすようにストレッチをし始めると
小さな男の子と女の子が井戸に水を汲みに行くのが見えた。
この村には川や池などがない、井戸から水を汲み取るか、雨水を貯めておくしかない。
しかし井戸は水を組むためにとてつもない力が必要となる、なぜならポンプも無ければ滑車すら付いていない。縄の先にタライの様なものが付いているだけだ。
「これは、、もう少し改善出来ないか?」
案の定男の子は頑張って水を汲むが少ししか持ち上がらなかった。数回タライを井戸の中に放り込んだ所で手を貸してやる。
「どれだけ欲しいんだ?」
男の子と女の子は少しびっくりしていたが
俺だとわかるとにっこりと笑顔を作り
「この入れ物一杯欲しいんだ。」
二回井戸の水を汲み入れ物を一杯にしてやる。
「ありがとう!兵士さん!」
女の子が手を振ってくれる。
「どういたしまして」
手を振り返してふと考える。
荷車があるのになんで井戸はこんな原始的なんだ?
やはりこれは改善だな。
ちなみに俺はこの前の魔族事件のおかげで週に一回の休みをもらう事が出来た。
流石に毎日はしんどいということで週に一回は村の人が門に立ってくれる事になった。
というわけで今度の休日はここの改善だ。
そしてまた門に立つ。待てども何も変わらない。
午前中はこうして過ぎ去って行く。
昼下がり、こんな暑い中一人の老人が畑に向かって歩いて行く。
老人は畑の持ち主で今も現役で作物を作っている。
老人は新しい作物を育てたいのか、畝を作ろうとしている。
が、鍬が悪いのだろう、全然土を耕せていない。
少し作業が進んだ所で休みに入った。
「ご老人、俺が変わろうか?どこまで耕すのだ?」
老人も先ほどの男の子達と同じでびっくりした様な顔をしたが俺だとわかるとニカッと笑い
「畝を隣と同じ長さで二つ作りたいのだ」
どうせここからなら作業しながらでも門は見えるし
誰も来ないだろうしいいだろう、やってしまえ。
渡された鍬を見てビックリした。
「木製か、、、しかも地面が硬いな。」
軽く鍬を当てるがこりゃあ大変だ。
身体を鍛えている俺だから余裕だが老人にはこれは堪えるなぁ。
畝はものの10分で完成した。
「こんなもんか?」
老人はサムズアップして
「完璧じゃ!」
老人は引いてきた荷車から種を取り出した。
そしてそれを、、、
直に植えた。
「ちょ、、ちょっとまった!」
老人は心底不思議そうにこちらを向いた。
「なんじゃ?流石に種まきは自分でやるぞ」
この世界ではそういうものなのか?
「ご老人作物の出来というのはどうなんだ?」
怪訝な顔をして老人は返事をする
「物になるのは半分くらいだな、皆そんなもんだろ?」
「そ、そうか、そうだったな。」
俺は畑を離れまた門の定位置につく。
あの畑、肥料は入れていないよな?肥料無しで作るよりも絶対あった方が良いと思うんだが。
よし!これも改善だ。どこか畑の一区画でトライしてみよう。
そして夕方。
村の周囲をいつものように見回る。特に今日も魔物は出て来なかった。
もう少しで一周かという所で狩りに出ている連中を見かける。
彼らは基本は木製の槍、そして弓。
しかし彼らは弓を使わない、どんなに遠くからでも槍を持って走って近づく。
槍を投げるのかとも思ったがそれすらしない。
「何をやっているんだあいつら?」
夜にでも聞いてみるか。
そうして持ち場へともどる。
夜
酒場に行くと狩りでみた奴らがドンチャン騒ぎをしていた。そいつらの席の近くへ行くと声を掛けてきた
「マシュー!今日見回りしてたな!」
「ああ、毎日の日課だからな」
「俺たちはあの後一匹仕留めて終わりさ、まあまあの収穫だ!」
あの状況で一匹しか仕留められなかっただと?
やはり気になるので聞いてみた。
「弓を使っていなかったようだがなぜ使わないんだ?」
男は不思議そうな顔をして説明する
「矢は飛ばないし、当たらないしな。しかも射ったら最後、矢は使い捨てだ。とても経済的じゃないんだ」
ほうほう。
「槍を持って近づいて行ったが投擲なんてのはしないのか?」
男は難しい顔をして首を捻る。
「何言ってんだ?槍は突くもんだろ?投擲?投擲ってなんだ?」
ほうほうほうほう
「皆一斉標的を同じ方向から追いかけていたが、何か意味はあるのか?」
男はめんどくさくなったのか
「意味なんてねぇよ!もういいからさっさと飲め!」
怒られてしまった。
しかし、、なんとも言い難いなもしかしてあれも使えないのかな?