とある兵士の物語
俺は王国兵士団寒村師団所属のマシューだ
今日も村の警備に勤しんでいる。
そんな俺は日本という国の二流企業のエンジニアだった。夜帰って来てソファーに寝転んだ所までは覚えているんだが。
気がついたら代々兵士の家系の家に生まれていた。
所謂異世界転生というやつだ。
先程兵士の家系と言ったが、本当にザ兵士という家系だ、親父は王国兵士団で最後には王都の門兵をしていた。母親はそんな兵士団の詰め所に世話をしに来ていたバイトの娘だったらしい。今は専業主婦だ。
あとは兄が二人、姉が一人と弟が一人さらには妹が一人合計六人兄弟だ
一番上、二番目の兄も兵士団に入団し、それぞれ町村師団に配属された。姉は兵士団の市街師団に所属する
人へ嫁いでいった。
弟と妹は兵士養成学校に通っている。妹は男勝りな女の子で兵士になるんだと強い信念を持っている。
今挙げた中でも兄達や、義兄の師団は通常に勤務する人間が多いが。
俺の所属する寒村師団はほとんど人が居ない。
なんらか問題を抱えている兵士が所属しているのだ
そう俺は兄弟の中でも一番出来損ないなのだ
運動神経が悪いわけでもなく、頭が悪いわけでも無いのだが、戦えなかったのだ。
周りには内緒にしているが魔力も一応ある。
これがどれだけの量なのかは知らないが。
ただ戦えなかった。
人を傷つけることが出来なかった。魔物も一緒だった。
そんな訳で辺境の村の警備兵として派兵されることとなったのだ。
この村での一日は正直長い。
朝起床して、支度を整え村の周囲を見回る。
一度家に戻り朝食を取り今度は村の門に移動して
立ちんぼ。村には馴染みの狩人達が毎日出入りするのと、木材を取り扱う木こりなどが決まった時間に出入りする、あとは月に1回商人が来るくらいで特に仕事は無い。
夕方日も落ちる頃にもう一度村の周囲を見回り、帰路につく。そこからは外食か、飲み屋か、家に直行か
分かれる。
今日もカンカン照りの日中ひたすら門の前で立っていた。
しかし今日はいつもと違う出来事があった、こんな寒村に来客だ、その来客は俺の運命を変える事になる。
『やあ、門兵君、ここは何という村だい?』
そういえば村に名前なんてあるのか?
「名前はない、辺境の村だ」
そう答えておく。
『へぇ、名もなき村か、中に入って休みたいのだけど?』
男は肩をすくめながら村に入りたいという意思を示して来た。
実際ここには異世界特有の職業鑑定をおこなうような
水晶のようなものはない。
俺が判断するしかない。
「いいだろう、休むのであればその正面にある宿屋を使うと良いだろう。あと騒ぎは起こすなよ。」
一応怪しさは無いので入村を許可する。
『ありがとう、早速行ってみるよ。
あとこの辺りに、魔族が来たりはしてないよね?』
魔族!?こいつやっぱり怪しいな
「いや、毎日周囲を見ているが魔族などは見たことがないな。」
『そっか、なら良かったよ。じゃあゆっくりさせてもらうよ』
片手をフラフラと挙げながら宿屋へと進んでいった。
それにしても一体何をしにきたんだ?
気になるがそろそろ外回りの時間だ。
とりあえず村の外をいつものように回る、ちょうど半分回った位だろうか。
久々の魔物だ、というか見たことがない。村の周囲に出てくる魔物などスライムやゴブリンなど小型でかつ非常に力の弱い魔物ばかりだ。
だが目の前のこいつは見たことがない、頭部は完全な魔物、体は人間のような、ゴブリンをとても大きくしたような。そんなやつだった。
俺は手にしている剣を構える、そして上段に思いっきり振り下ろす。
ドガ!!
剣の先には魔物は居なかった。気づいた時にはすでに遅かった。
真横に回り込んでいた魔物に素手で殴られた、そして今まで経験したことの無い痛みと体の浮遊感を感じ、少しして背中に激痛が走る。
何とか意識は保っているが、体に上手く力が入らない。ぐぐっと体を何とか起こし立ち上がる。
全身が軋んで今にも意識が飛んで倒れそうだ。
しかしここで倒れるわけにはいかない、兵士たる俺が倒れてしまったら、村はどうなるのだ。
俺は昔からこっそりと練習して来た魔法の使用を試みる、体に魔力を充実させて、自己治癒能力を上げ、更には身体能力の上昇。意識レベルまでもあげる。
魔物は俺の事など歯牙にかけないとでもいうように、魔法が完了するのを待っている。
魔力による身体強化が完了し、また魔物に攻撃を仕掛ける。
今度は相手に当てる事が出来た、しかし鉄の剣で攻撃した割にはほとんどダメージは入っていない。
素早さも上がった俺はどんどん攻撃を仕掛けていく。
相手も慣れて来たのか攻撃をさばきだした。
ここで俺の横薙ぎが相手の腹に直撃した。
相手に当たった感触、斬ってはいない、ただの殴打のような鉄の剣の横薙ぎ。
少しダメージがあるのか、後ろに半歩後ずさる。
魔物は怒りをあらわにしてこちらを睨んでくる。
このままではジリ貧だ、はっきり言って全く勝てる気がしない、次の攻撃に耐えられるか、否。攻撃させない。
魔力を身体中に展開し剣を構えて魔物に攻撃を仕掛ける、こちらの攻撃もやはり入ってはいるが大したダメージにはならない。相手も怒りのせいなのかこちらに
反撃を仕掛けてくる、始めのうちはその隙に攻撃を当てダメージを蓄積させていたが、その内こちらの攻撃の隙を狙って攻撃を仕掛けてくるようになった。
そして遂にその時は訪れた、横薙ぎに払った剣をかいくぐりボディに浅いが殴打が入る、しかしこちらも魔力強化がしてある、始めのように吹っ飛びはしない
今度は細かい突き攻撃、魔物の身体をかすめるが魔物はそのまま懐に飛び込んで来てまたボディに殴打が入る、しかも先ほどより格段にいいやつが入った。ちょっとだけ体が浮いた。
口の中に酸っぱいものが込み上げるが、我慢。
攻撃の手を休めるものかと剣を振るがその瞬間には
顔面に大きな衝撃が入る。
ああ、くそ、ここでやられてしまうのか。村一つ魔物から守れないとは。
そんなことを思い倒れながら
魔物の後ろに人影を確認し意識を飛ばした。