#10 望んだ結末
ぶん殴られた衝撃で気絶していた。
ここはどこだろう。
目覚めても、真っ暗だった。
そう、真っ暗。
ここは瓦礫の中か?
ここから抜け出さないと……動けない。
あぁ、くそ。
外はどうなってる?
ふと、上から砂礫が落ちてきたことに気づいた。
ガタガタ、と瓦礫がどかされる。
光が差し込んだ。
その向こうには、誰もいなかった。
今ので、近くの瓦礫も動いたのだろうか。
何か引っかかっていたものがあったのか。
取れて、自由に動けるようになっていた。
体を引きずって、瓦礫の坂を登る。
外へ出ると、ベアが倒れていた。
耳でつついても、動かない。
魔力が切れていた。
最後の力で、瓦礫をどかしてくれたのか。
顔を上げると、まだ、魔人形が暴れていた。
気絶していた時間は、そう長くはなかったのかもしれない。
……だが、完全に包囲は崩れていた。
衛兵らも瓦礫の上で倒れていた。
コスティは……ティアたちを庇うように立っていた。
が、その顔には色濃い疲労が見て取れた。
倒れたままのベアを放っていくのは気が引けたが、顔を前に向けた。
瓦礫の山から転がり落ちて、コスティの足元で止まる。
「無事だったか」
起き上がって、コスティの足元を抜ける。
ティアの隣に立つ。
「……お願い」
彼女が自分を見ていた。
俺はただ、頷くだけだった。
体を引きずって、学生寮の破壊を続ける魔人形を目指した。
俺にはもう、あれを止められそうにはなかった。
破壊する。
※ ※ ※
ふと、倒れている生徒の中に、ネルを見つけた。
どうして彼女も巻き込まれてるんだろう。
結局、俺は何も知らないんだ。
その想いを。
コスティの隣を通り過ぎる。
魔人形が破壊を繰り返すことで、細かい瓦礫が飛んでくる。
それを弾いてくれているのだが、つまりもう、コスティにもそれぐらいの魔力しか残ってないってことだ。
彼がティアを目にかけてくれていることは知ってる。
一教授が、一生徒のために実践訓練をつけるなんて、優遇がすぎていると思う。
そこまでする理由が彼にはあるのだろうが。
俺は知らない。
ベアが倒れていた。
最後にどうして俺を助けてくれたんだ?
コスティの命令だったのか?
それとも……いや。
俺にはわからない。
ただ、俺にもわかることがある。
巨体を前に立つ。
向こうも、こちらに気づく。
俺たちは同じ人から想いを託された。
だから、引かれるものが……いや、憎むものがある。
……どうして、お前はティアを傷つけようとするんだ。
虚ろな目が問う。
俺は……。
…………………………だから。
今度こそ。
俺を破壊する拳が振るわれた。
もう、俺は動けない。
動けたとしても、這って、少し右か左か、前か後ろか、精々それぐらいだ。
何の策もありゃしない。
こいつを破壊する術はあっても、そこまでにどうすればいいかなんて、わからない。
でも、俺にもわかることがある。
俺の周囲には、幾千もの蛍火が浮いていた。
玉虫色に光る想い。
儚くも切なる祈り。
届くかもわからない声。
それでも、と信じるしかなかった彼女の願い。
……私はもう、隣にいられないから。
……代わりに、守ってあげてほしい。
……フルル。
任されたよ、アウラ。
迫る拳が、玉虫色の光に遮られていた。
俺は這って、前へと進んだ。
魔人形が怯えていた。
おもむろに魔力を集め出すのが感じられた。
それは一点に、莫大なエネルギーとなって。
灼熱の閃光となった。
一帯は灼熱の地獄と化していた。
悲惨な光景だったが……怪我人はいないと確信していた。
だからこそ、俺はただ進んだ。
玉虫色の光を背負って。
そして。
お前が背負った想いも。
俺が貰い受けるから。
お前はもう休んでいい。
※ ※ ※
「フルル……」
ティアはコスティに支えられながらやってきて、俺の隣に膝をついた。
俺は振り向いて、耳に持った魔力回路をティアの手のひらに置いた。
すでに壊れて、もう動き出すことのない……弟か、妹か。
「……」
ティアはじっと、手元の箱を見つめていた。
「……ティアさん」
いつも、家名で彼女のことを呼ぶコスティ。
「……大丈夫です」
ティアは、はっきりと、そう言った。
「私が未熟だったから、私が弱かったから、この子は……こうなってしまったんです」
その発言を聞けば、ティアはまた自分を責めているのだとわかった。
じっと箱に目を据えて、うつむいていた。
「ごめんなさい……」
その頬に、涙が伝う。
そして。
「……フルル」
ティアが顔を上げた。
「ありがとう」
綺麗な微笑みだった。
涙を流しながらも、ティアは必死に笑っていた。
俺は体を引きずって、すぐ隣に寄り添った。
それから、ご自慢の耳で、涙を拭った。
泣きたいなら、泣いていい。
その時は、俺が一緒にいるから。
俺は君のぬいぐるみだから。
君が俺を必要としなくなるまで、ずっと。
アウラの想いを託された器として、ずっと。
ずっと。
一緒にいるから。




