こんなハーレムは嫌だ!
初投稿なので色々と至らぬ点がありますが、ご了承ください。
人はそれぞれに、数多の願望を抱いていることだろう。現実的なものからSF的なものまで様々だが、一つ、非モテ男子高校生達が共通して持っている願望がある。それは――
“生きてる間に一度くらいは、モテ期とやらが来て欲しい” というもの。
が、実際は来るわけがない。
モテない非リアは永遠にモテないし、モテモテリア充は、永遠にモテ続ける。
それが、自然の法。高校デビューなんて、もう都市伝説。
──それなのに、ちょうど今、訳のわからん事態がおこってる。
「ねぇ、あの子かっこよくない?」
「ホントね! 一目惚れしちゃったわ!」
「あー、今すぐにでもお持ち帰りしちゃいたいよ……」
皆(女子)の様子、絶対おかしいよね? うん。
今日から高校一年生の俺、新崎和也はただ教室で入学式の開始を待っているだけ。それなのに、クラスの女子大半から、熱っぽい視線を感じる。
何? モテ期でもきたの? 何も知らない、初対面同士なのに?
いや、きっと俺が自意識過剰なだけだ。だって、今まで一度も告られたことない俺が……まさか、なぁ?
そう、あれは幻聴。モテなさ過ぎて、妄想と現実が曖昧になっちゃっただけだ。 いや、それはそれでヤバいな……
そして俺は、一日中視線を感じながら過ごしたのであった。
高校生活初日からこれとか、一体どうなってんだよ……
─────────────────
「女子からの視線を感じる?」
「そう、なんか見られてる気がすんだよな……」
結局俺は、帰路を辿りながら幼馴染に相談することにした。
俺の幼馴染である夏樹裕香は、クラスメイトにして、かなりの美少女である。実際、入学日早々に目をつけた男子も多いみたいだ。
クリッと大きな瞳。小さく整った顔立ち。あどけなさの残る童顔。はっきり言って、非の打ち所がないほど可愛い。
非モテ陰キャな俺は、本来なら一緒に帰宅しているというだけで嫉妬の嵐を受けたことだろう。
が、実際は違う。なんと嫉妬の視線は裕香を捉えているのだ。しかも、嫉妬の主は男子じゃなくて女子。
もう、ここからして異常。なんか裕香に申し訳ない。
「成る程ねー。和也にも、とうとうモテ期が来ちゃったかぁ」
「冗談だろ? 非リア代表の俺に限ってそんなこと……」
多分将来は、非リア選手権日本代表として、大活躍してると思う。是非、サインを貰っておくべき。
「いやいや、むしろイケメンな和也が、今までモテてこなかった方が異常だよ」
「……お世辞言ってもなんも出てこないぞ?」
「違う違う。本心からだよ本心」
「じゃあなんで、毎年バレンタインチョコ貰えねぇんだ?ほらほら、やっぱ俺はブサイクなんだよ」
ほんと何で世の中、イケメンが優遇されるんだろうな。差別だ差別。早急に国連が対処すべきだと思う。
「う~ん……どうしてそんなに自分を卑下しちゃうかなぁ……
というか、和也がモテないのはその捻くれた性格のせいじゃない?だって、そんな和也をちゃーんと理解出来るのは、ずっと一緒に過ごしてきた、私だけなんだからっ」
えっ、何?俺、今口説かれてんの?もしかして裕香って俺の事好きなの?裕香が良いなら付き合っ──おっと、危うく騙される所だった。
非モテ男子は特別扱いされただけで勘違いしちゃうので、そこんとこ気を付けていただきたい。
「でもやっぱり、私はそんな捻くれた和也が好きだったりするから、あんま変わってほしくないかも」
……もう騙されんぞ、俺は。てかこういう何気ないの、ホントキュンときちゃうからやめてくれ。
「ま、特に変わる気はねぇよ。俺もこんな自分が好きだしな」
「それは良かった──っていうか、私、ちゃんとバレンタインチョコあげてるじゃん!何でカウントされてないの!?……ハッ、もしかして私、女子としてみられてない?」
そんな深刻そうな顔しないでください。なんか俺が悪いみたいな雰囲気になっちゃっただろうが。
「ちげぇよ。お前は特別だからな。腐れ縁?みたいな。だから、そこらの女子とは格が違うんだよ」
「ふえぇっ! か、和也ぁ…… 不意討ちは卑怯だよぉ……」
なに顔赤くしてんの?なんか怒らせることした?しかもその顔を、アタフタしながら手で隠してるし。いきなりどうしちゃったんだよ。お前まで変になっちゃった?すげぇ可愛い動作だとは思うけどさ……
というか、いつの間にかそこらじゅうから殺気を感じるんだけど、どうなってんの!?ふえぇ、怖いよぉ(幼女風)
「と、と、とにかくですね!この件に関しては、一旦様子を見てみた方が良いと思うのです!」
「おい、キャラ崩壊してんぞ」
これがラノベなら、即切りしてゴミ箱に直球されるレベル。
でもまぁこいつの言う通り、明日まで様子を見てみよう。普通に戻ってたらいいのだが……
─────────────────
朝っぱらから、俺は雪崩に巻き込まれている。最も、原因は大雪ではないが。
そう、朝学校に来て下駄箱の扉を開けると、中に入っていたらしき大量の手紙が、俺を襲ったのだ。もう、溢れんばかりに敷き詰められてた。
しかも、なんと全ての手紙が『ラブレター』だったのだ。いや、おかしいだろ、量が。
でも、こんな所で立ち止まって考え事をしたって、何も現状は変わらないので、素直に教室へ向かうことにした。
──したのだが、廊下を歩き出して早数歩。名前も知らない女子に呼び止められる。
しかもこの女子、明らかに目がおかしい。もはや、餓える中やっと獲物を見つけた獣のそれだ。顔はそれなりに良いが、そんな目のせいで台無しである。
ちなみに昨日見た感じだと、ウチの学校の女子は顔面偏差値高めだ。
「その、拓也君……下駄箱に入れといたラブレター、見てくれた?」
勿論あの量を読破するとか、下手したら一生かかる勢いなので読んでない。
が、仮にも女子がこんな照れ笑いを浮かべて、恥ずかしそうに、けれどどこか期待しているように言ってくるのだから、素直に否定するのも憚られる。
ここは紳士的に、女の子を傷つけないようにしよう。嘘つきは泥棒だろとかそういうツッコミはいらないです……
「あ、あぁ、勿論読んだぞ」
「やった!……そ、それで、返事の方は……?」
「えっ?あれ罰ゲームじゃないの?」
「そ、そんなわけないでしょ!?」
怒られた…… 素で地雷を踏んでしまったようだ。すぐ爆発とか危なっかしいな…… お前もしかしてクリーパー?
「逃げようとしてるなら無駄だよ!答えるまで離さない──ってか答えても離さない!あぁ、もう拓也君の側にいるだけで興奮しちゃう!ダメ、もう我慢できない!」
お、おいこら、急に抱きついてくんな──っておい、胸!胸当たってるよ!結構デカイから意識しちゃうだろ!
「ヤ、ヤメロォ!理性が吹っ飛ぶ!」
「私は何時でも大歓迎よ!」
誘うのヤメロこら。マジで襲うぞこのアマァ!
すると。
「やめなさい、新崎君が嫌がっているでしょう?」
おぉ、向こうから黒髪ショート眼鏡の美少女が救済の手を差しのべてくださっているっ!女神か!いや、女神だな!(断言)
「結ばれるのはこの私よ!」
前言撤回、この娘も狂っちゃってるよ!っておいこら、お前まで抱きついてくんな!お陰で手に胸の感触が──感触、が……?おい、まな板じゃねーか。ちょっと期待しちゃっただろ。
「何を言ってるの?結ばれるのはこの私よ!?」
すると向こうから他の女子達も……
「いや!私だ!」
「はぁ?新崎の運命人はあたしに決まってるでしょ?」
「あぁもう、たっくん好き好きだーい好き」
「キスさせてぇ!てか抱いてぇ!」
次々と俺に抱きついてくる女子達。もっともその光景は、野獣が獲物に襲いかかっている風にしか見えないが。しかも、側を通りかかる男子達から白い目で見られる始末。
「た、拓也ー!大丈夫ー!?」
おっ、昇降口から天使(裕香)が来てくれた…… 有難すぎて背後から光が射してるんだが。さぁ、早く助けてくれ(切実)
「あっ、あいつは昨日拓也君と下校していた女……」
「このクソビッチめ、成敗してくれるわ!」
やっぱ助けなくていい!裕香、逃げて!超逃げて!
「拓也のためなら、たとえ私の命が尽きてでもっ!」
いや、何壮大なシチュエーションになっちゃってんの。ホント何処の主人公だよ。
「愚かな奴め!命だけは助けたものを!」
「かかれー!」
「ypaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
どこの軍隊だよってツッコミたくなる奇声を上げながら、先ほどまで俺に纏わり付いていた女子たちは裕香に突進する。
お願い、死なないで裕香!あんたが今ここで倒れたら、俺の貞操はどうなっちゃうの?
が、そんな心配は杞憂だったようで。流石は運動神経抜群の裕香、多数の女子と互角に戦っている。女子連合軍は狂気に満ちているので、理性無く戦っているというのも理由なのだろうが。
「拓也!今のうちに逃げて!」
「だが、それだとお前が死んでしまう!」
「私は大丈夫だから。私を、信じて?」
諭すような笑みを浮かべて……ってそれ死亡フラグじゃねぇか。まぁそこまで言ってくれるのなら、お言葉に甘えて。
「あぁ、向こうで待ってる」
そう言葉を残し、俺は戦場を去った。今なお背後では、裕香が決死の戦いを繰り広げている。ホント何処の感動シーンだよ。戦争ドラマにありそうだな。
それにしても、入学二日目の朝から戦場に巻き込まれるとか、これもう分かんねぇな…… なんかハーレムラブコメ主人公の苦悩が、ちょっとだけ理解出来た気がする。
─────────────────
授業が全て終わり、やっと帰れる時間となった放課後。既に、窓から覗いている空は、茜色に染まっている。そんな中、俺はというと。
「ぐふぉあああ…… つ、疲れた……」
盛大な溜息共に、机に突っ伏していた。幸せが逃げるとか知るか。
ちなみに教室は俺ともう一人しかいない。
周りは体験入部とやらをやっているが、俺は部活に入るつもりはない。
何故なら、俺は青春というヤツを心の底から憎んでいるから。そして部活とやらは、その青春の一角を担うものだろう。
それなら何故、帰宅しなかったのか。それは、先ほどまでソシャゲをやっていたからだ。こう、キリが良いところまで終わらせないとモヤモヤする感覚、分かる?
そのソシャゲもちょうどキリの良いところまで攻略できた。そのため、帰宅するべく気怠げに通学鞄を肩にかけて、席を立ち上がると。
「どうしたんですか?新崎君」
そう声をかけてくれたのは、隣席の神谷美紗。ちょいタレ目気味な黒髪ロングで、俺には優しく接してくれる一見すると清楚系美少女だ。しかし残念なことに、こいつもあの狂った女どもの同類である。
そう、溜息の原因は、基本こいつらなのだ。
クラス中の女子が、授業中俺に抱き着いてきたり、キスしてきたり……etc 果てには、先生(女)までも授業を放棄する始末。
裕香が助けてくれなかったら、人生三度目の雪崩に巻き込まれるところだったよ。
「俺は大丈夫だ!だから帰る!こんな学校に長居する何でごめんだ!」
これ以上いたら何をされるか分からないから――
「待ってください!」
と、俺の服の裾を掴まれる。そして神谷は、上目遣いで俺を見つめてくる。そのつぶらな瞳と、ほんのり染まった頬、そして訴えかけるような困り顔の前に、俺は一瞬たじろぐ。
「その……夏樹さんと帰るんですか?」
「ん?まぁそうだな」
「……私じゃ、ダメなんですか?」
「いきなりどうしたんだよ」
重い、いきなり重いよ、話が。こんなリア充が陥る悩みに、チキンな俺が対処できるはずねぇだろうが。
が、神谷はさらなる追い打ちをかけてくる。
「ねぇ、私でも、いいでしょ?」
そう、耳元で囁かれて。柔らかい吐息が耳を燻り、くすぐったい。ほんのりと甘く優しい匂いがして、心地よい。
えっ、何これ?なんか心臓がバクバクいってうるさいんだけど?緊張、してるのか?よく考えたらこいつも美少女だよな……
もしかして俺、こいつの事が好――
「まぁどっちにしても、貴方を逃がすことはないですけど」
――きなわけあるかアホ!
美少女が可愛い笑みを浮かべているはずなのに、何処か底知れない冷たさと恐ろしさがある。こいつまさかヤンデレか?
美少女に好かれてんのに、全然嬉しくねぇとか、マジふざけんな――っておい、急に抱き着いてくんなよ。しかも頬擦りしてきてるし。くすぐったいからやめろ。
「ウフフフ、新崎君、あったかいですね」
だから何でこんな甘いセリフなのに、怖い雰囲気しか纏ってねぇんだよ。あとさ、なんか抱き着く力強くなってきてね?
「あの、痛いんですが……」
「えっ、気持ちいい?」
どんな耳してたらそんな間違いすんだよ。どこの金髪暴力ヒロインだ……キムチじゃあるまいし。
「ならもっと抱きしめてあげますね?」
目のハイライトがないとか、怖すぎるだろ。音響監督さん、“悲しみの向こうへ”(歌:いとうかなこ)をかけるシーン来ましたよ!しかもこれ以上強くなるとか洒落にならねぇよ。
そうだ、廊下の時みたいに、裕香に助けてもらえば──ってあいつ今、体験入部中だったぁーーー!てかすぐ人を頼る俺はガチクズだな。そして、本当に万事休す。
もうだめだぁ …… おしまいだぁ……
いや、ダメだ。ある偉人は諦めたらそこで試合終了だと言った。
だから、考えろ。思考を張り巡らせろ。脳内の奥底まで働かせろ。俺の欲求が爆発する前に、きっと何か出来ることが──そうだ。
チュッという短い音が、教室に響き渡る。
女子の唇って、柔らかいな。
「ふ、ふあぁぁぁ……」
そう、俺は神谷にキスしてやったのだ。
どうも神谷は、俺に惚れているらしい。そのため、俺にキスされた神谷は、嬉しさと恥ずかしさが超新星並みに爆発して、理性が崩壊するんじゃないかという魂胆だ。
確かに美少女の神谷が俺に惚れていると思うことなんておこがましいし、自意識過剰かも知れない。でも、こんなにアプローチしといて惚れてないと言われれば、流石に俺にも殴る権利があると思う。
結果としては、不意討ちだったこともあってか、予想通り行動不能に陥ってくれた。
今のうちに逃げよう。そう思い、俺は猛ダッシュで廊下へ繋がる引き戸に向かう。すると、何故かドアが勝手に開いた。
えっ?いつの間に自動ドアになってたの?
が、そんなはずもなく。
「何ドアの前にたっているの?凄く邪魔だから地球の裏側まで退いてもらえないかしら」
目前に、金髪ツインテールの美少女が立っていた。彼女は別に不良とかではなく、イギリス人とのハーフなだけ。また、割りと大人っぽい顔立ちをしている。所謂クール系というヤツだろう。そして、この冷徹で残酷な毒舌といえば──
「優月……」
優月・ブラウン・恵麻。一日で自分の地位を盤石なものにせしめた、リア充の鏡。本来なら俺と関わることもないはずだが、今日ばかりはそうもいかない。
多分今、何故か全女子が俺に惚れている気がするのだ。確かに、その思考は自惚れにして傲慢で、自意識過剰かも知れない。でも今までの事実を鑑みると、俺にはこの結論しか出てこない。むしろ他の結論があるなら、誰か日本大学会館で発表してくれ。
つまり、俺は敵二人に挟まれたということ。やべぇ、逃げないと!(使命感)
「くっ!」
「何、嫌そうな顔してるの?私に対して失礼じゃない?凡人のくせに」
あれっ?何、ツンデレ?それにしてはデレ要素が見当たらないような……
「お前、俺のこと好きなんじゃねぇの?」
「はっ‼⁇ 気持ち悪い……」
そう言葉を零し、優月は顔をしかめる。
あれっ?あれれっ?
「まぁいいわ、どきなさい、あなたと構ってる暇はない――ってなんで神谷さんが倒れて……」
そして、視線を俺に向けると。
「はっ、まさかあんたが!?ひぃ、ケダモノ、近寄らないで!」
その声色と表情と動作から、本気で畏怖の感情を抱いてることが分かった。侵害だな、どっちかっていうと、俺の方が被害者なんだけど。
「ま、まぁ、落ち着いてくれ、これには深いわけがあってだな……」
「せんせーい!」
「お、おい、やめろ!」
ちょ、今誰かここに来たら、社会的に死ぬって。神谷が倒れてる感じ、“俺が襲った”みたいな雰囲気が漂ってるしな。
それと、この状況を説得させるのに、数十分要しました。
─────────────────
「で、なんで私まで参加させられてんのよ」
高級そうなコーヒーカップをテーブルに置くと、ジト目で睨みつけながら言った。ホントこいつの性格終わってんな。人のこと言えないけど。
「仕方ねぇだろ、お前と裕香しか正常な奴がいねぇんだから」
俺は原因究明を進めて今後の行動を決めるため、この二人を高級カフェに呼んだのだ。なにせ俺一人じゃ、この状況を打開できるはずないからな。
それなら男呼べよと言われそうだが、生憎とこの状況を猛烈に嫉妬され、現在男友達が皆無なのである。モテるのも良いことばかりではない。
「そうそう。このままだと、他の女子に和也が取られてしまいそうだからね。そんなの嫌だし」
だから、その思わせぶりな態度を慎もうぜって言ってるだろ……心の中で。あぁそうか、俺がリア充化して、この世にまた二人リア充が生まれてしまうのが嫌なだけか。非リアな俺より爆発推奨しているとか、それもはやテロリスト。
「それはあなた達の都合でしょう?私には関係のない事よ」
「だからこのクッソ高いケーキ、奢ってやってるんだろ?」
見事に散財した。2980円(税込)とか高すぎだろ。うまい棒が298本買えるじゃないか。いや、消費税のせいで買えないな。
「この程度の代物と、私の大事な時間を引き換えにできるなんて、考えが甘すぎるわ」
流石お嬢様、庶民と金の感覚が違い過ぎる。どちらにせよ、お前のちょっとした時間に、3000円弱の価値があるとは思えんが。
「でもほら、食べ終わるまででいいから、付き合ってくれよ……」
「……はぁ、仕方ないわね。ちょっとぐらいならいいわ」
「どうも」
ちゃんと対価は払ってると思うが、それでも一応お礼は言っておく。社交辞令って大変。
「でも、なんで私達だけ大丈夫なんだろ?」
裕香が、当然の疑問を投げかける。これは考えても無駄だと思うので、少しずつ絞っていくか。
「そうだな…… 二人に、何か特別な共通点とかないか?」
「う~ん…… そうだ、優月さんの趣味って何?」
「そうね、強いて言うなら読書かしら。村上春樹さんのノルウェイの森なんか面白いわよ」
言われるも、裕香はきょとんとしている。俺だって、毎年ノーベル文学賞の受賞候補に挙がる人の作品ってくらいしか認識ない。
「何それってか誰それ、春巻きみたいでおいしそう」
それはアホすぎだろ。国語の成績大丈夫?
「はぁ……食べ物じゃなくて小説家よ…… まぁいいわ。で、貴女の趣味は?」
「えっと……テニスかな。てか、私だって本くらい読むし!SFOとかリイチとか面白いよね!」
「それで、他には?」
そんな追撃に対し、俯いて口ごもりながら。
「……そ、それだけ……」
典型的なにわかかよ。まぁ大作に安定の面白さがあるのは認めるが。
そして、呆れたのは優月も同じで。
「はぁ、少なすぎるわね。しかもナイトノベル?だし」
裕香はバカにしても、ラノベはバカにしないで下さい!
あとナイトノベルってなんだよ。騎士限定とか、ラブコメの立つ瀬ねぇだろ。まぁ実際web小説界じゃ異世界モノしかウケてないけど。
「それはいいとして、趣味に関してはむしろ真逆といっていいほどだな……」
それからしばらく、裕香達は共通点を見つけ出そうと話し合ったが、全て無駄に終わってしまった。ホントこいつら全然違うもん。気が合わなさすぎだろ。
「私食べ終わったし、もう帰るわね」
淡々とそう言い切ると、紅茶カップを置く。そして、ヴィトンだかバトンだか、高級そうな鞄を持って立ち上がった。だが、今帰られると困る。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。もう少し、もう少しだけでいいからさ」
「は?食べ終わったら帰るって約束したでしょ?そんなものも守れないとか、とんだ野蛮な男ね」
「うっ……!」
一瞬で論破された情けない俺に、裕香が加勢する。
「そもそも、なんでそんなに急いでるの?」
「これから耳鼻科に行かないといけないのよ」
「もしかして鼻炎?私と一緒だ!」
曰く、鼻炎は鼻水が常に詰まって大変らしい。
ん?待てよ?
「これ、共通点じゃねぇか?」
「そんなのどうでもいいと思うけれど……」
「まぁ別になんか損するわけでもないし、一応医者に聞いてみる?」
─────────────────
「ふへぇ~。優月さん、私とおんなじとこに通ってたんだ~」
「えぇ、この辺りでは最先端な耳鼻科として有名だもの」
待合室でそんな雑談をしている(ただし俺は加わっていない)と、俺たちの番がやってきた。幼馴染くらい俺の相手してくれよ……
そうそう。勿論、受付のお姉さんが俺にキスしてきたのは言うまでもない。
**********
検査を済ませた俺は、診察室の回転丸椅子に座りながら、診断が終わるのを待っていた。ちなみに、何故か裕香達もいる。特に裕香、精密そうな機械を見つけてはキョロキョロするのやめろ、アホに見えるから。いや、ただのアホか。
いい加減待つのも暇になってきた頃、医者が戻ってきて、俺の目の前にある同型の椅子に座る。
「単刀直入に病名を申しますと、恋気群発症というものになります」
「何ですかそれ……?」
不治の病とかだったら恐ろしいこと極まりないので、恐る恐る尋ねる。
「この病気は、簡潔に言うとあらゆる女性から好かれるという病気です。原因は、病気にかかると自然発生する匂いで惑わされるから、だそうだです」
「でも、私達は新崎君のことなんて、これっぽっちも微塵も間違っても惚れてないですよ」
「私も一緒にしないでよ……」
いや、否定しすぎだろ。何、ツンデレ?でもそれにしては目が本気すぎると思うんです。実は殺人光線でも発射してるんじゃないだろうな。
もう一人の方も声小さすぎだろ。まるで、コンビニ店員を前にしてオドオドしている俺みたいだ。
「はい、もちろん、影響を受けない女性の方々もいます。確かあなた方は、鼻炎でしたよね?」
「はい、そうです、けど?」
裕香がキョトンと首を傾げる。お前さっきから何もかもわからなさすぎだろ。大丈夫か?
「おそらく、原因は匂いなのだから、鼻が常時詰まっている私達は関係ないのでしょう。全く、初めて鼻炎で良かったと思えたわね」
「じゃあ、私の気持ちは本物なんだね!良かった~」
「何のことだよ」
この気持ちとやらが恋愛感情のことだと思える俺は本気で童貞末期かもしれない。
俺が自分自身を案じている中、裕香は顔を赤らめて、あたふたしながら。
「な、何でもないし!ほんとに何でもないから!そ、それより、何とかする方法はないんですか!?」
「はい。むしろ、強制的に治療してもらいます。最近治療ワクチンが開発されましてね。勝手に惚れてしまうのは問題だとして、患者にはこのワクチンを接種する義務が与えられているのです。直すのが嫌だという気持ちもわかりますが、何とか新崎さんには治療を――」
「えっ?治るんでしたら早く治してください!」
素晴らしい、朗報だ。間を開けず、少し身を乗り出しながら、そう願う。それに対し、医者は――
「えぇぇぇ!!!???」
物凄く驚いていた。いや、仮にも患者の前でそんな反応しちゃダメだろ!
医者が奇異なものを見る目で問いてくる。
「その、こちらから言ってなんですが、正気ですか?」
確かに一般人というか恋愛脳の連中は、この状況を楽しむかもしれない。ハーレムというものを築き上げ、リア充ライフを過ごすかもしれない。でも――
「虚偽の恋愛感情なんて、俺は望んでないんですよ。結婚とかは、ちゃんと真の愛を寄せてくれる人としたいですし。だから、大人数から虚構の愛を寄せられても困るんですよ」
虚構の愛なんて、どうせ消え去った後空しくなるだけだ。永遠と続くものなんて存在しないと思ったほうがいい。それが虚偽なのならなおさら。
でも、俺は強欲だ。だから、永遠と続く愛を、欲してしまっている。そんなものないと理解しておきながら、それでも真の愛を願ってしまう。馬鹿な奴だと罵るのなら、自由にしてくれて構わない。でも、妥協して、譲歩してまで愛にしがみつける方が、よっぽど滑稽で愚かなのではないだろうか。
――というか、ヤバい、なんか言ってて恥ずかしくなってきた。どこの中二病だよ。いや、これはむしろ高二病か?少なくとも、絶対優月に馬鹿に――
あれ、あれれっ!?なんか俺に、関心というか尊敬の眼差しを向けているぞ。裕香は裕香で呆然としてる。なんだか惚れ直したみたいに、またも顔を赤らめている気がするのは、俺が自意識過剰故だからだろうか。自意識過剰といえば、俺が結婚なんてできるはずないけどな。
それと、もう一つの理由も忘れてはいない。
「あと、結構モテんのって疲れますし」
正直、こっちのほうが本音に近いかも知れない。
「そ、それなら早速ワクチンを……」
そう言って、医者は部屋の奥のほうへ消えていった。
─────────────────
「キモッ」
隣の席の神谷が、開口一番そんなことを口にする。流石にいきなりは酷すぎるんじゃ……
「なんで私、こんな奴に惚れてたんでしょうか…… 考えただけで寒気しますってかキモいので机離してくれませんか?」
「はいはい」
仕方なく、俺は机を10センチほど離す。すると。
「何近づいてきてるの?キモいから離れて?」
今度は通路の向こう側の女子から、辛辣な意見を受ける。なんだか、どのヒロインと結ばせても批判が来てしまう、ラブコメ作家の憂鬱が理解できた気がする。
今朝学校に来てからというもの、全女子がこんな調子である。見事なしっぺ返し。これは酷い。女子の怖さを垣間見た。一方男子は男子で俺の一時的なハーレム状態を許してくれず、完全にクラスから孤立してしまった。1週間目からこの調子とか、先が思いやられるぜ…… いや、完全に孤立はしてないか。
「新崎君はいるかしら?」
声の下法を振り向くと、優月が教室にツカツカと歩いてきた。歩き方が気品というより、プライドの高さを表している。どこの悪役女王様だよ。
「今日創部届け出すから、放課後よろしくね!」
そう言葉をつづけたのは、後ろからついてきた裕香。
部活というのは、“恋愛成就部”というものだ。ハッキリ言うと俺だって、この部活の存在意義なんて解らない。しかし女性陣は勝手に創部すると決めてしまい、裕香の言葉通り、今日創部届けを提出するのだそうだ。
俺だってこんな訳の分からない部活に入りたくないのだが、どうせ俺が出さなくても勝手に裕香たちが書いて届け出てしまうので、無駄な抵抗である。
そもそも教員側が、創部を許可しなければいいだけの話だろう。しかし残念ながら、この高校は自由な校風とやらを尊重しているようで、ほとんどの部活の創設が許可されてしまう。大丈夫なのか、この学校。
「はいはい、分かったよ」
「ありがとー、和也!」
そう満面の笑みで感謝の意を述べた裕香は、俺に抱き着いてくる。何、今度は鼻炎の奴がかかるようになったの?てか、鼻炎の奴と言えば。
「裕香はまぁ元々とはいえ、何で優月まで急に馴れ馴れしくなったんだ?」
「ふっ、この超絶美少女の私が嫌われ者の川崎君と仲良くしてあげてるんだから、感謝なさい」
「はぁ、お前は相変わらずだな」
が、言葉はまだ終わっていなかったようで。
「あと、その理由も直にわかるわ」
指を唇に当て、不敵な笑みとともに、そんな小悪魔みたいなことを言い出した。意味深すぎだろ……
そんな感想を抱いたのと同時に、予鈴が鳴る。もう少しでSHRが始まることだろう。
まぁ、アホみたいにモテたり友達が出来るのはごめんだが、二人ぐらいとなら部活をしていみても楽しいかも知れない。
「そんじゃ、また放課後にな」
「ええ」「うん!」
そんな元気な返事と共に、二人は去っていく。彼女たちの楽しそうな笑みを見ていると、なんだか俺まで楽しみになってしまうではないか。
─────────────────
“生きてる間に一度くらいは、モテ期とやらが来て欲しい”
世の非モテ男子たちの皆さんは、こんな願望を抱いたことがあるのではないだろうか。ハーレムという単語は確かに夢が詰まっているように聞こえるかもしれない。でも、実際のところは、モテまくることが必ずしも素晴らしいこととは限らない。特にそれが虚構の愛ならば、俺はそんな物は欲しくない。
けれど。少人数からでいいから、真の愛を貰うことが出来るなら。それなら俺は、欲してしまうかも知れない。
その…出来ればというか気が向いたらでいいので、評価とか感想とかブクマとかしていただけると嬉しいな、と… あっ、嫌なら別にいいんですけどね。
あと、“小説家になろう 勝手にランキング”様のほうもよろしくお願いします。