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ばかとバカ、それと馬鹿  作者: 南瓜の灯火
9/9

甘いもの

 梅雨の合間の貴重な晴れの日。暇すぎたから店を閉めて、街中をぶらつくことにした。そういえば……梅雨、なんて言わないんだったっけ。えっと……えるぷしる?の季節だとかなんとか。

 ホント、訳分からなくてイラつくわね。宗教によって季節の呼び方も違うし曜日の名前も違う。時間の呼び方だって。……統一しなさいよ。

 何でこう歴史が一気に崩れちゃうと、色んな物の積み重ねが一気に壊れちゃうのかが不思議でならないわ。そこくらい死守しなさい、ホントに。


 まぁ別に、もうガルド教だかに慣れたからいいけど。

 最初の頃はビックリしたなぁ。いきなり血走った目をしたグラマラスボディーの人がダッシュで近寄ってくるんだもの。さすがに怖かったわ。


 思い出しながらふらふらと歩いていたアタシだったけど、木陰にベンチを見つけて吸い込まれるように歩み寄る。このジメジメは昔っから嫌い。体力が持ってかれるわ。

 梅雨もそろそろ終わりの時期とはいえ、湿気がスゴいこの季節だけはホント無理。水の魔術……勉強しておけばよかったかしら。氷一辺倒で来ちゃったから、温度は下げられても湿度のコントロールができないってのは不便ね。



「はぁ……あっつ……」

「何やってんの、コハル」

「えっ?……あっ、姉さん」



 ふと後ろから、ぴたりとおでこに冷たい物が当てられた。上を向けばそこにはジュースを持ったシェーナ姉。まぁ姉代わりって感じだけど。

 今日は完全オフらしく、上下だるだるのスウェット。いつものスーパー大道芸人が鳴りを潜めて、アタシが作ったやつを着てくれてる、うっふふん。


 と、そんなときチョップが飛んできた。



「いったっ!……姉さん、チョップは止めて……」

「いきなりニヤニヤするから、気持ち悪くてつい」

「それだけでなんて酷い……」



 右手で手刀を振りかざした姉さんに、無駄だとは分かっているけど恨みがましく睨んで……ごめんなさい何でもないです、だから睨まないでください。

 姉さんの苦手な物を探すのは色々な意味で難しい。攻撃魔法や防御魔法、治癒魔法がからっきしだけど、自分の武器や防具が入るのが普通の大きさな収納魔法は、アタシたち七人分の食糧一ヶ月分が優に入るくらいのデタラメな大きさだし、まぁトントン……くらい?あとはあれね。

 弱点を探そうとすると、逆に弱点を突かれて返り討ちに会う。これが苦手な物を探すのが難しい一番の訳。


 アタシは全然やったことないけど、リオとかエルとかは墓穴掘りまくって来世の墓も完備されちゃってるレベル。あの王様は、沢山の妾や王子もいたけど、その一族を放り込んでも余るくらいの墓穴を掘ってたっけ。あぁ怖い怖い。



「で、アンタは何してんの?昼間っからベンチに座って溜め息なんか吐いて」

「え、いや、今日は湿気がスゴくて……何かこう……」

「やる気が?」

「そう、出な――いったいっ!だから何で叩くの!」

「やる気が出ねぇとか言わねーの、このスカポンタン。捻り出すんだよ、やる気は」

「でも姉さんだって今日はダルダルで――あぁっ、待って待って待って、耳取れる!」



 危うく耳無し芳一になるところだった……。耳に念仏書き忘れたくらいで取られるって悲惨よね、よく考えると。でもアタシなんか妖怪とか鬼とかにじゃなくて、姉さんっていう身内に耳取られそうだったから、アタシの方が悲惨だわ。

 というかこの気の抜けた格好の姉さん、今日はイヤに気分が良さそう。いつもより若干目が輝いてるし、いつもより若干口角が上がってるし……いつの間にか綿飴持ってるし。え、いつから?



「……ねぇ、何で綿飴なんて持ってるの?」

「あ、これ?」



 指を差して聞いてみれば、わしっと千切ってアタシに差し出してくれた。……姉さんの指ごといっちゃおっかな。……いや、次は舌を抜かれそうだから止めておこう、うん、それがいい。

 ちらりと考えながら、それをあむっと有り難く頂く。うーん甘い。砂糖を食べてるみたいだわ。……砂糖か。



「で、何でこれを持ってるか、だったっけ?」

「もむもむ……うん」

「無許可で露店商……何だっけ、屋台?をノノンノがやってたから強奪(もら)ってきた」

「あぁ、また無許可でやってたんだ。じゃあ脅迫(おねがい)したのね」

「そ。ウチが騎士団にチクるぞって。そしたら気前よく五本くれたよ」

「姉さん、甘いもの好きだもんね」

「むっふふー、甘いのはなー、世界を救うんだよ。覚えとけー、コハル」

「もう何回も聞いてるからね、しっかり刻まれてるよ」



 姉さんと出逢ってから何度も何度も聞いたその言葉に、アタシは思わず苦笑いを漏らす。それに姉さんの言い分にも。よく知らない人なんかは姉さんの事をチンピラだとか言うけれど、よく知っている方からすればただの恩返しをしてるだけだし。それも一生掛かっても返せるかどうかってくらいの。

 それなのに自分が悪い方側みたいな言い方……ふふっ、ホント強情な人ね。面と向かってお礼言われると恥ずかしくてソッポ向いちゃうようなお子ちゃまだし――



「またオメーは変なこと考えてんだろ」

「姉さんギブギブ、ホント待って肘はそっちには曲がらないたたたた」



 ホントその技掛ける瞬間に収納魔法に綿飴とジュースをぶちこんで、掛け終わってから瞬間的に取り出すその早さ……勝てないわ。それはさておき、何とか抜け出したあとの姉さんは、明らかに少し拗ねたような顔をして……やだ可愛い。


 ってそうじゃないわね、このままだと微妙な亀裂が……入らなそう。お人好しだし。でも……そうね、さすがに何か作ってあげようかしら。



「姉さん姉さん」

「……何」



 アタシの氷魔法くらい寒い声。クッキーが地面に落ちちゃったときくらいの声色だから……まだそこまでじゃないわね。



「ちょっとそれかして」

「あっ、ちょっとコハル、それウチのジュース!」



 そんなものお構い無しに、ストローを取ってから綿飴の棒を突っ込んで術式を展開!……なーんてカッコよくできればいいんだけどなぁ。アタシができるのは、ちょろっと思い浮かべれば勝手に出てくる魔方陣。未だにあんまりよく分からないのよね、アタシが使う魔術と一般的な魔法の差。

 まぁこの際違いなんてどうでもいい。必要なのはこの結果。そう、アイスキャンディー!甘いものに目がない姉さんには、このようにして機嫌を取るべし、ってね。



「はい姉さん。さっきはごめんね、からかっちゃって」

「アイス……!……あ、あぁ、まぁいいってことよ」

「それでさ、姉さん」

「あん?」



 ちょっと男勝りな話し方の姉さん。だけど結構乙女な姉さん。自慢の、姉さん。



「他にもお菓子、作ったげよっか?」

「お、マジか!よし、コハルんち行くぞ!」



 意気揚々と歩き出し、鼻唄を歌いながらアタシの店へ向かう後ろ姿に、少しだけ笑みが漏れる。


 ……でも『みなごろし~みなごろし~』って口ずさむのは止めて……みんな怖がってるから……

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