順番
煮詰まった。煮詰まってしまった。完璧に煮詰まった。
ワシャワシャと髪を掻きむしってみても、アイディアがポンっと生まれることもなければ、求めている言葉が浮かぶ訳でもない。あるのはウチの少し傷んだ茶色の髪の毛が、荒ぶった拍子に指に絡まったくらい。
あぁ、最っ高にイライラしてきた。こんなに続きが浮かばないのは久々も久々。あのヘンテコ魔王をお気に入りのギターでシバいた時に曲がってしまった時くらいにイライラする。
はぁ、とタメ息が零れ落ちてしまった。これで幸せがひとつ逃げちゃったかな。
ってかそもそもがおかしいのよね。何でタメ息つくと幸せが逃げるの。幸せが逃げたからタメ息をつくんでしょーが。鶏が先か卵が先かってやつじゃない。ってかそんなの卵が先でしょーが。……鶏の卵って、どこから来たの……?……鶏から?じゃあその鶏ってどこから……?……卵、よね?……どっちが先なの?
「あぁ……っ!イライラしてきた……っ!」
「うぉっ、何だよ……いきなり大声出すなよな、シェーナ。鶏がビックリするだろうが」
そう、ここはリオルドの持っている養鶏場。あぁ、臭い。ほんとーに臭い。でも鶏は可愛い。卵も可愛い。それに……美味しそう。じゅるり。
「知らんよ。ウチはね、今次の酒場で稼げそうなネタを必死で考えてんの。アンタみたいな何ちゃって農家とはちげーの。分かったらせっせこせっせこと耕してなさいな」
「お前な……」
ゆらりと藁をかき集めるおっきいフォークを片手に立ち上がるリオルド。目には剣呑な光を湛えていた。……やんのか、こら?ウチはいつでも釘バットを取り出せるように、空間を開け――
「オレのことは馬鹿にしてもいいけどなぁ、ツギハギウサギのことは馬鹿にすんじゃねぇぞ」
「……ハァ?」
「アイツらはオレより遥かに真面目なんだよ。炎天下の日も嵐の日も豪雪の日も、一日たりとも休まねぇで働いてんだよ」
「……おめーが働けよ」
「お説ごもっともで。あぁ、働きたくねぇなぁ畜生」
なんだよこのゴミ農家。全国のちゃんとした農家の人たちとツギハギウサギに土下座しろよ。だいたい、ツギハギウサギは貶してねーよ。一言も出してねーだろ。
……あ、そーだ。次からはコイツらを順に貶していくか。いや、ただ貶すのはウチの矜持に背くからなー。とりあえずダサいエピソードにでもするかな。
例えばそーだなー……この農家、起きたら昼だし寝るのは日を跨ぐ前で、いつも半日起きてないとか。この国にいる伝説的な変態を引っ捕らえるためだけに、他のどの国よりも警察の技能や知恵、牢屋のレベルがトップだとか。
……他の奴らのエピソードを勝手に拾ってくと、ウチがこの世にいられなくなりそーだなー……よし、やめやめ。
「おいシェーナ」
「……ん?なに、呼んだ?」
「お前の靴に鶏がウンコした」
目線を下に向ければ、ほっこりとした顔でトッテケトッテケと走り去る鶏。……この鶏肉め……
「ちっ……まぁいーわ。どーせウチの胃に入ることになるんだし、余生を謳歌するといい」
「お前、アイツより魔王してるよな。今度騎士団辺りに討伐依頼出してみようかな」
「何言ってんのこのスットコドッコイ。一番の魔王は王国の王様だったでしょーが」
「んー、確かに。魔王は魔王してなかったしな」
何やら歌を口ずさみながら藁をかき集めるスットコドッコイを尻目に、再度思考の渦に身を投げる。
魔王……魔王ねぇ……。……ん?
「ねー、リオルド」
「ん?」
「魔王と勇者……ないしは英雄って、どっちが先?」
「……はぁ?」
魔王が君臨していて悪政を敷いていたとして。それに甘んじていた国から、もう耐えられない!って的な感じで勇者は生まれた?だとしたら魔王はどこから?
勇者が魔王を倒して、その勇者の剣が自分達に向くのを恐れた奴らが勇者を魔王だって言い始めたら?
……そもそも、足並みを揃えないで、正しく一騎当千で鎧袖一触の頭ひとつ飛び抜けた強者のことを恐れて、アイツは魔王だって言い回って人海戦術で潰そうとしていたら?
「……あの何ちゃって魔王、元は何だったんだろ……?」
「そんなん訊いたじゃねぇか」
「訊いたけどさー」
そう、ただのアホだった。
理由なんてそんな大したものでもなく、完全にアホそのものだったのがあの魔王。巷では、冷徹で悪政を敷いて弱者は相手にせず部下に任せているとかいう魔王っぷりだったのに……蓋を開けてみれば、ただ頭が回らないから部下に任せて、弱者を相手にしないのは何を言ってるのか理解できないし、相手が頭良くないと理解してもらえないからだったし。どうしてあんなのと戦争しなきゃいけないのか、一瞬で分からなくなったし。……拭いきれない違和感はあったけど。
……あっそーだ、とりあえず王国でも貶しておこうかな。わっけわからないカミサマなんて崇拝して、救って貰えるって思っちゃってるカワイソーな所だって。あとは……勇者に逃げられたらしいし、その理由をてきとーに考えて捏造しておこうかな。
例えば……ご飯をあげなかったとか、賃金を渋ったとか、口八丁手八丁で丸め込んで廃墟にでも住まわせてたとか。……流石にバレるかな……
「よっいしょっと」
デカイフォークでふぁさっと藁をかき上げるリオルド。勢いよく持ち上げ、ほっぽり投げた後には羽が宙に舞い上がる。
……はっ!
「そうだ、こういうシチュエーションだっ!」
「何言ってんの、シェーナ……っておい、お前!」
滅多に声を荒らげないリオルドの声をバックに、ウチは宙に手を突っ込んで楽器を取り出す。お気に入りの弦楽器の内のひとつで、とびきり硬くて団扇代わりにもなる少しひらぺったいやつ。それを……
「とぅおらっ!」
「おまっ、ぶふっ!羽食った!」
おもいっきし扇ぐ!扇ぐ!!扇ぐっ!!!
舞い上がる羽。けたたましく鳴き喚く鶏。転がる卵。あぁ、いい!
「よっしゃ、いくぜぇぇぇぇぇぇっ!」
「待て、ここではやめろ!くそっ、ツギハギウサギッッ!」
ウチは突如として現れたヌイグルミに抱えられて、めでたく出禁になった。




