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ばかとバカ、それと馬鹿  作者: 南瓜の灯火
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 暑い。その感情こそ、オレが起きて一番最初に思ったことだった。


 本当に暑かったのだろう。掛け布団は遠くへと追いやられ、布団で寝ていたはずなのに、台所の板間の上でべったりと横になっていた。

 目線の先には冷蔵庫。ごろりと反対側を向けば、閉め方が甘かったカーテンの隙間から日が漏れていた。はぁ、もう朝か。


 のっそりと起き上がり、布団の横にある水差しをちょちょいとどけて、カーテンの隙間から外を覗いてみる。



「えーっと……太陽がこっちの窓から射し込んでる……ってことは?」



 昼過ぎじゃん。え、嘘、オレの午前は?どこいった?

 ってそんなことより。



「ヤバイ……畑行かなきゃ……生活が……」



 そう、畑だ。プロの引き籠りとして名高いオレだが、年がら年中引き籠っているわけではない。収入源の畑とか田んぼを弄りにちょくちょく外へ出たりもする。

 ……まぁ何つーか、地属性だか土属性だか知らないけど、畑耕すのに便利だし。攻撃の才能が皆無だから、独自に農耕魔法とかいって農家やってるだけだけど。

 何でこうやって農耕属性……もとい、地属性の奴を雇わないんだろうな、農家の奴らって。勿体ねぇな。ってか、こんな魔法の使い方する奴いねぇか。


 とりあえず着の身着のままでツッカケを履き、外へと出――



「うわ……雲がねぇ……」



 最悪だ。日陰が皆無とか。作業は炎天下かよ。速攻で家に戻りたくなるこの快晴。曇りが一番いいんだけどなぁ、畜生。


 仕方無く鍵を掛けてから階段へと向かう。はぁ、こういうときにハルがいれば涼しいのにな。っと。



「お疲れー」

「……」



 そうすれ違い様に声を掛けると、デカめの継ぎ接ぎだらけのウサギのぬいぐるみも無言ながら会釈をする。種族的な名前は確か安直でツギハギウサギ、とかだった気がする。でもコイツ単体の名前はヤバい。その名も……シゲチカ。聞いたことねーよ、この響き。

 とまぁそれはさておき、そのぬいぐるみは1体ではなく複数体。今はすれ違った1体だけだが、もう数体はいたはず。しかもそれぞれにさっきみたいな聞き慣れない響きの名前がついていたはず。


 そんなコイツらはオレの畑や田んぼの従業員というか同僚というか、まぁそんな感じ。アイツらの雇い主はオレじゃなくてレーヴェだが。

 レーヴェはお得意の召喚魔法であぁいうやつらを使役していたりする。とはいえ、本人は友達感覚でいるらしいが。無理強いをする召喚士とは違うからか何なのか、基本的にレーヴェに逆らう奴がいないというのがオレらの中での不思議要素。


 ちなみにアイツら……レーヴェの手下?仲間?は何故かオレの言うことも大体聞くという不思議さ。たまに嫌々だなってのがわかる奴もいるけど、本当に大多数が従順なんだよな。

 ……畑のことにだけは。



「……おー、やってるやってる」



 畑に着くと目に入るぬいぐるみたち。如雨露やバケツを両手にぶら下げて、水を丁寧に撒いている数体のぬいぐるみと、撒き終えて空になったそれらを受け取って、蛇口で水を入れてから手渡しをしているぬいぐるみ。役割の分担ができているのがすぐに分かる。

 とはいえ、畑仕事をするのはウサギのぬいぐるみで、レーヴェやぬいぐるみたちの主な収入源である国の防衛……監視や巡回の方が多いが、それは別の奴らが担っている。……中身が入れ替わっているのか、外身は固定なのかは分かりかねるが。



「おはようさん。水やり、ありがとな」

「……」



 こちらを向いて会釈するぬいぐるみと、黙々と作業を行うぬいぐるみ。まぁオレとしちゃあ、アイツらに殴られなければどんな反応でもいいんだが。アイツらの戦闘力半端じゃないしな。この前は畑を荒らしに来た熊をタイマンで足留めして、狸やらなんやらの小動物と同じ速度で追い回してたし。そこらの魔物とも張り合えそうだよな……あのファンシーなぬいぐるみ。

 それに引き換え、オレなんて何もできないしなぁ。ちょろっと地面動かして耕したり、畝を作るくらいしか能がないし。あ、川から水を引っ張ることはできたっけ。砂利を動かすのは難しかったなぁ……。


 ……お、トマトでき始めてる。キュウリも。あーよかった、これレーヴェが好きなんだよな。手伝ってもらってるし、お礼としてこのくらいはやらないとな。ぬいぐるみたちには……うん、また鉄鉱石とかあげればいいか。地中から抜き出すのは大変だけど、アイツらいないと畑は荒らされまくりだったしなぁ。



「……リオ」

「ん?……お、レーヴェか」



 後ろから名前を呼ばれ、振り向けば鮮やかな青色のワンピースと……ムギワラ帽子だったか、を被ったレーヴェ。畑を駆け抜ける風に、膝辺りまである薄い青の髪が棚引く。前髪は完全に左目を覆っていて、髪と同じ色の右目が覗いているだけ。体格は小柄でオレよりも頭2つくらいは低いんじゃないか、という女の子。


 そんなレーヴェはオレの住んでいるアパートのお隣さんで、しかも2部屋借りてる超金持ちな奴。オレなんてカツカツなのによ。まぁ、貯金が趣味だからってのもあるが。

 というよりもあれだな。畑を弄るしか能のないオレと比べ、レーヴェは畑の手伝いに国の防衛に一役買っているからこそ、懐が潤っているのだろう。

 ……まぁ、オレがカツカツな根本的な原因は違うけど。



「っと、それよりだ。どうしたんだ、レーヴェ。畑に来るなんて珍しいな」

「……ん、これ」



 差し出されたのは水筒。あぁ、差し入れか。来て間もないけどありがたいな。



「ありがとうな、助かるよ。それに、レーヴェの友達も手伝ってくれてるしな」

「……うん。彼らは自慢の友達」



 にへらっと微笑む少女に、何となく、何となくだが……ぬいぐるみたちが悶えている気がする。


 と、オレは思い出したかのようにトマトやキュウリを振り返り、プチプチと収穫していく。

 それを見ていたショウノスケ……会釈を返してくれる、ぬいぐるみたちの中でも仲のいいぬいぐるみが、オレの編んだ篭を持ってきた。ナイスだ、ショウノスケ。


 そして適当にそれらを詰め込み。



「ほら、レーヴェ。アイツらが手伝ってくれてるし、その礼だ」

「……え、でも」

「大丈夫、アイツらにはまた他の礼を出すから。これ、アイツらもお前に食って欲しいだろうしな」

「……ん、ありがと、リオ。みんなも」



 終始ニコニコとして、オレとぬいぐるみたちに癒しを与えてくれたレーヴェ。

 そんな少女が篭を持って、よたよたと家へ戻る様子を見送りながら、オレは篭を持ってきたぬいぐるみに話し掛ける。



「喜んでくれてよかったな」

「……」



 相変わらず頷きだけで、言葉はないけれど。



「次も頑張って旨いの作ろうな」

「……」



 それでも、コイツとは意思の疎通はできていると思う。



「本当によかったな、お前嬉しそうだし」



 そう言って、エルにするみたいに肩を軽く叩いてみた。少しよろけてから、恥ずかしそうにこちらを見返して。


 容赦のない裏拳が飛んできて、オレは畑の何もないスペースに頭から突っ込んだ。

 お前ら……力、強すぎだろ。

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