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虹ハピ(旧)  作者: 杠 捺月
8/10

決戦前日

 「さて、準備完了ですかね。」

座り込んでいた三人は立ち上がる。

これからしようとしていることは完全なる犯罪である。

失敗した場合はイリスの権威を利用してどうにか罪から逃れようという最低な魂胆の作戦であるが、現状に少なからず不満を抱いている三人はやる気で満ち満ちていた。

「あ、えっと、この格好といいますか、私はどうやって身を隠せば・・・。」

自分がハーピー、しかも崇拝されていることを思い出したイリスは慌て出す。

「「?」」

二人は首を傾げた。

「・・・あぁ、成程。えぇと、・・・あ。」

ララが何かに気付いて固まっている隣では、エインティアが白目を剥いていた。

 



 

 「ん?え、と、その、つまりは・・・?」

「作戦失敗です。」

「いや、まだ何にも始まってないんですけど。」

開き直って決め顔でそう宣言したララにイリスはツッコミをいれた。

 イリスがハーピーなのを気にせずに二人が作戦を立てていたのは、とある魔導具の存在からであった。

世界最強の魔法使いティリアナ・アポリツィオーネが種族差別是正の為に作り出したそれは、瞬く間に世間に広まり、三国間協定により今では平民でも買える程度の値段で固定されている。


「と、取り敢えず、腕輪と指輪、ネックレスの中から一つ、選んで下さい。」

ララは取り繕うかのように指輪から出した三つの魔導具を見せる。

イリスは少し迷うと、ブレスレットを手に取った。

「では、装着し、魔力を込めてみて下さい。」

ララの言うとおりにイリスは腕輪をつけ、魔力を流してみる。

「わわっ!」

眩い光と共に、翼の先に輪投げの輪が引っ掛かったようなシュールな光景が一変する。

「人間以外にも様々な種族に・・・!?」

「お、おぉ~!本当に、人間になってます!!凄いです!!!」

だが、エインティアとララはイリスから必死に目を逸らしている。

「ど、どうしました!?どこかおかしなところでもありましたか?」

「下。・・・御自分の下半身を見てみなさい。」

エインティアに言われた通り、イリスはゆっくりと下を向く。

「・・・・・あ。」

そう、イリスはハーピー状態のときパンツが逆に目立って恥ずかしいと、脱いでいたのだ。

つまり、下半身は・・・。

「きゃ~~~!!??」

真っ赤になって慌てふためくイリスは、ハーピーへと戻っていた。


 


 「この魔導具の欠点は三つ。一つ、変身中は常に魔力を消耗してしまうこと。二つ、変身中は基本、魔法が使えないということ。三つ、驚いたり笑い転げたり、激昂したりすると魔法が解けること。今回問題なのは二つ目と三つ目です。」

ララが説明する目の前では、エインティアが地べたに座って塞ぎ込むイリスに、見てないから!全然見てないから!と、必死になって説得している姿があった。

「ララ、スカートかワイドパンツ、サルエルパンツ辺り持ってない?変身前でも着れる服が良いと思うの。」

イリスの頭を撫でながらエインティアが提案する。

「そうですね、今日帰りにでも買いに行きましょう。イリスは何か要望とかありますか?」

「・・・恥ずかしくなければ何でもいいです。」

恐ろしくハードルが下がっていた。

 




 「でもイリスは相当の魔力量があるようにみえますし、これならば魔力切れの心配は無さそうですね。」

この魔導具は使用者の魔力で超複雑で難易度の高い変身魔法を自動発動し、無意識下で維持させる仕組みである。

その為、使用者は常に高度な魔法を使っている状態であり、この状態で魔法を使うとなると余程の魔力、技術、知識が必要となり、そういった者は大抵自分で変身魔法が使える為、基本的にはこの状態で魔法を使えるものなど存在しない。それは虹色のハーピーであるイリスにも適応される事だった。

 


 「えっと、それでお二人は私が魔法を使えなくなることを失念していた、と。」

「「すみません。」」

ギルドの冒険者カードを作るのにあたって、実力試験がある。

そこでは実力を示さなければならず、ギルドマスターの前で魔法や剣技を見せるのが一般的だ。

エインティアは魔法が使える。ララはメイドであり、武芸の心得も一応あると本人は語る。

問題なのはやはりイリスだった。

(そもそも魅惑魔法で実力証明とかムリゲーじゃないかな?剣なんて持ったことも無いし。)

イリスは二人に魅惑魔法しか使えないことを言えていなかった。

二人もまた、ハーピーなのだから風魔法が使えると思い込んでいた。

「あほメイド、ドジメイド、馬鹿メイド。」

「発案者はエインでしょう。」

「そこ!責任を押しつけ合わない!!」

イリスは叱りながらも不思議な気持ちになっていた。

(あれ?もしかして何か私常識人ぽい?向こうじゃツッコミに回ったりたしなめたりしたことなんてなかったけど、流石異世界って感じかな?)

無論、それが新しい情報だらけの世界とたった今日であった仲間達の中で素の自分を出せていないだけだということに気付いているわけがなかった。




 「そういえば、虹色の髪の毛とかって目立ちませんかね?」

イリスの質問にエインティアは驚いた。

「元からその色なの!?」

「エイン、この輝きを前によくそんなことを思えますね。やはり先程の失態も貴女の・・・。」

「しつこいわよこの駄メイド!!」

ハーピーさんが首を傾げていると、エインティアは急に(ない)胸を張って説明し出した。

「ティリアナの発明した魔導具で一番革新的であり素晴らしい魔導具はこれよ!!」

そう言うととツインドリル気味のツインテールの片方からヘアゴムを外す。

その瞬間、髪が黒く染まり、いや、黒髪に戻った。

「え、そ、染めてたんですか!?じゃ、じゃあ街の人達の色とりどりの髪の色も全部・・・?」

エインティアはにこりと笑う。

「たまに地毛もいるけど、ほとんどはこの魔導具よ!老若男女、余程の貧乏人でもない限りは皆持ってるわよ!ティリアナは相当なお洒落さんだったようね!」

エインティアは自信満々にそう言うと、再びゴムを髪につけた。

見る見るうちに髪は金色へと変わっていく。

「エイン、別にティリアナがお洒落好きだという訳ではないのでは・・・?」

ララは苦笑いしながらも再び指輪から魔導具を取り出した。

「ヘアピンタイプ、ヘアゴムタイプ、クリップタイプ、コームタイプ、カチューシャタイプ、スティックタイプ、シュシュタイプ、かんざしタイプ等様々なタイプがあり、その中でも色々な種類がありますよ。勿論試着可能、無料プレゼントです!」

(わぁ!)

ララの指輪から次々と出てくるそれらに目を輝かせるイリス。

「と、取り敢えずこのピンつけてみたい!」

イリスが指でさした赤いピンを手に取ったエインティアはそれをイリスの髪に綺麗に着けた。

・・・のだが。

何も起こらなかった。

「あれ?ララ、これどういう事?」

ララはイリスの髪を手に取り、撫でた。

「これは、魔力負け、ですかね。イリスの髪の一本一本にかなりの魔力が含まれているみたいです。一部魔族やエルフ等にもみられる現象ですね。・・・どうしようもありません。は、羽さえ見せなければ素性はバレませんよ!ただの派手な色好きで押し通せますって、きっと!!」

「派手好き・・・。」

「質の悪い冗談ですわよ!よしララ、買い物リストに帽子を追加するわよ!」

イリスの乙女心の崩壊音に気付いたエインティアは慌ててイリスをフォローしつつララを殴った。

(神様・・・私はあなたをとても憎んでいます。)

今も神の領域でほくそ笑んでいるであろう真に質の悪い神様に、イリスは怒っていた。




 「ララさんの指輪って凄い。」

立ち直ったイリスが呟くと、

「あくまでも入っているのは身嗜みグッズと護身系の魔導具だけです。容量は少ないですし、魔力を持った物しか入れられない、その癖結構お値段がするのであまり良い物でもありませんよ。」

と、ララが答えた。

「確かに、ララ以外が使っているとこも売られているのも見たことが無いですわね。普通魔導具なんてそんなに持ち歩かないですし。」

魔導具はあくまで便利アイテムの域を出ない。金持ちは荷物の運搬は従者がするし、執事やメイドは普通自分の腕しか信じていない。少量の魔導具しか入らないアイテムボックス的な指輪に需要は無かった。


 「あ、あの!」

急にイリスは声を上げた。

「どうしました?」

二人が首を傾げる中、イリスは切り出した。

「冒険者カードの作戦続行で、私に手があります。」

「どんな?」

「そ、それは、秘密です、恥ずかしいので。」

二人は不審に思いつつも、最悪虹色ハーピーの権威でどうとでもなるかな、と楽観した。

そして、計画が練られていく・・・。 



 「それじゃ、明日の朝、この場所で会いましょう。」

森の中を街付近まで移動し、この場所に服を持ってきてもらい、そこから三人で冒険者ギルドに向かう予定になっている。

「が、頑張りましょうね!」

「ふふっ、緊張しすぎて変身魔法が解けなければよいですわね。」

「うぐっ、だ、大丈夫です!」

三人で笑いあって、別れる。

エインティアとララは服を買いに、そしてまた、イリスにもやるべきことがあった。








服屋にて

「ねぇ、ララ、バレてないかしら。」

「大丈夫ですよ、髪の長さと色が違うだけで印象は大きく変わりますから。」

領主の娘とメイドが庶民の服屋で買い物というのは、バレると多方面で厄介なことになる。

「にしても、髪の長さまで変えられる魔導具なんてあるのですのね。知らなかったですわ。・・・結構魔力消費激しいですけれど。」

「えぇ、なので売り物にならなかったらしいです。しかも短くは出来ても長くは出来ないですし。」

エインティアは髪を短くし、緑に染め、ララは髪を長く、実際は元の半分程度に戻し、髪を青く染めた。

「ララ、貴女結構魔力あるのでは?」

「まぁ、魔法への変換が出来なければ宝の持ち腐れですよ。」

そう、魔力を魔法に変換するにはセンスと才能、努力の三拍子がそろっていなくてはならないのだった。


 「それはそうと、虹色のハーピー、イリスは可愛かったですわね。」

「近くで見ると残念なタイプだと思ったら真逆でしたね。しかも威厳もなにも全くありませんでしたね。」

「何か、良くも悪くも等身大って感じでしたわね。こう、焦ると羽をパタパタさせて!」

「見た目も性格も可愛かったですからねぇ。性格はエインにも見習って欲しいものです。」

「喧嘩売ってんの?」

「何はともあれ、エインに同年代のご友人が出来そうで何よりです。」

ララは心底嬉しそうにエインに笑いかける。

「わ、私の方がお姉さんですし、同年代、っていうのは・・・。」

口ごもりつつも頬を赤らめ、嬉しさを隠しきれていないエインティアを見て、ララは笑みを深くするのであった。

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