7話 街へ
「おい動くなって!」
「いでででっ」
投降した盗賊達を縛りながら会話する。
「いやー、危なかったぜ」
「そうだな」
「だね」
ギルダーの言葉にバルとアッシュが答える。
キャンディは伏兵を警戒して馬車とルーデウスの護衛だ。だが、結果としてこちらの被害は0、伏兵がいたとしてもこれだけ一方的な結果では出てくることはないだろう。
「タダカツさん思った以上の強さだな」
「そうだね、ホーンラビットとかじゃよくわからなかったけど」
「気づいたら盗賊共が倒れてたからな...」
皆から称賛されて、気恥ずかしく思った忠勝は礼を言いつつ話を変えようと試みる。
「ありがとう...。でも、キャンディに助けられて生きてただけだからな。危うく矢を受けるところだ」
「冒険者が仲間を助けるのは当然だ。その当然の結果生きてるなら、そりゃあ自分の実力だろ」
がギルダーが異世界理論で褒めてきて話は変わらない。そのまま、キャンディへと話を振られた。
「それにタダカツだってキャンディを助けてんだろ?ならお互いさまじゃねえか。...なぁ、キャンディ?」
「.......」
馬車の近くで立っているキャンディに声をかけるが、返事が返ってこない。ギルダーが再度声をかけるとハッとしたようにこちらを見たがすぐに目を伏せてしまった。その頬は薄っすらと紅に染まっている。
その様子にギルダーとアッシュはそういうことかと察して
「...あー、まぁキャンディもそう思ってるだろ」
「...だな」
と言うが、バルと忠勝は
「キャンディ顔赤くなかった?魔力切れかな?」
「俺を助けてくれたときも魔法を使ってたみたいだけど、大丈夫なのか?」
真意に気づくことなく、体調の心配を始める。
二人の言動はキャンディを思いやったためのものだであるが、真実には遠い。
ギルダーは二人に呆れたように言う。
「...大丈夫だろ。それより早くこいつら縛っちまおうや」
二人はまぁ、体調が悪いなら言ってくるだろう、と盗賊達を縛り始めた。
盗賊達を縛り終えると街に向けて進行を再開した。
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それからの道中は偶に弱い魔物が襲ってくるだけで、平和なものだった。盗賊のゴタゴタはあったが予定通り夕方にはランタナに一行は到着した。
ーーランタナ
道中でギルダーに聞いた話では、教国アルカナディアと隣国の戦国アヴァロニアとの国境付近の街で、周囲を高い城壁に囲まれた城郭都市だという。アヴァロニアとの貿易の窓口でありながら、戦争時には拠点の一つとなる大都市らしい。
ランタナには大門と小門があり前にはそれぞれ数人の門兵がいた。どうやら商人は大きな方の門から入るようだ。大門の前では検問が行われている。
ルーデウスが馬を動かし馬車を大門の端に寄せると、門兵の一人が近づいてきた。
「ルーデウスさん!おかえりなさい」
「レオンさん、ご苦労様です」
どうやらルーデウスの知り合いのようだ。門兵から名前を覚えられているのを見るにルーデウスは有名な商人なのか...
「途中で盗賊に襲われましてな、縛って連れてきましたので任せてもよろしいですか?」
「それは...よくご無事で!はい、もちろんです。もし懸賞金がかかっているものがいればそちらもお渡ししますので確認しますね。
おーい、詰め所にいるやつら連れてきて盗賊達を連れて行ってくれ」
レオンと呼ばれた門兵が他の門兵に声をかけると「はい!」と走っていった。このレオンという門兵、他の門兵より立場が上のようだ。
しばらくして先ほど走っていった門兵が同僚を連れて戻ってきた。
「それじゃ、連れて行きますね」
「お願いします」
門兵達によって盗賊達が連れて行かれた。
それを見送るとレオンがルーデウスに声をかける。
「その間に荷物の確認をしたいのですがいいですか?.....もちろん大丈夫だとはわかってますが...」
「ああ、もちろん構いませんよ」
「ありがとうございます。では、おーい荷台の確認だ。傷をつけないようにな」
レオンの声とともに二人の門兵が来て荷物の確認を始める。普段から慣れているのだろう確認はすぐに終わった。
「「確認完了です」」
「ご苦労さん。ルーデウスさん確認終わりました。ところで護衛の冒険者はわかりますが、そちらの方は?」
レオンが忠勝を見てルーデウスに聞いた。
バル達はランタナを拠点にしている冒険者だと言っていたので顔見知りなのだろう。
「ああ、こちらはタダカツさん。道中出会った方で、さっきの盗賊達に襲われたとき助けてくれたんですよ。冒険者になるために街を目指しているそうなので一緒に来たんです」
「おー、そうでしたか。タダカツくん、ルーデウスさんを助けてくれてありがとう!私はレオン、警備兵団の門兵隊の隊長をしている」
ルーデウスの話を聞き、すぐに忠勝に向けて礼を言ってくるレオン。どうやらレオンは年が下の者や目下の者にも丁寧な対応をする実直な性格のようだ。
「どうも、忠勝といいます。この街で冒険者になるつもりなのでまたお世話になると思います」
「そうか、歓迎するよ。ようこそ、ランタナへ」
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レオンと別れ街の中に入っていく。もう夕方ではあるが大通りは賑わいを見せている。
この通りは多くの飲食店が並んでいるらしい。あちこちから、いい匂いが漂ってくる。
「私達はこのまま店のほうに荷物を降ろしに行きますが、タダカツさんはどう致しますか?」
ルーデウスが忠勝に向けて聞く。
忠勝は少し考えるような様子を見せ答えた。
「俺は今日のうちに冒険者ギルドに登録しておこうかと思います」
「そうですか?何かお礼がしたかったのですが...」
ルーデウスがお礼したいと申し出てくるが、忠勝としては街に着くまでの案内や、食事の用意をしてもらっておいて受け取るとは言えない。
「ありがとうございます。でも気持
「そういえばタダカツさんは荷物を持ってないようですが、お金は?...」
「....え?」
ルーデウスさんは何を言っているんだろう。と忠勝は現実逃避気味に考える。
「ですからお金ですよ。確か冒険者登録にもいくらかお金が必要だったはずですが...」
もちろん忠勝は金など持ってはいない。神界から転移させられたときアベルには加護以外何も渡されていないのだから当然だ。
忠勝が自分が無一文であることに気づき絶望していると、ルーデウスは
「では、登録代は私が出しましょう。後日私の店に来てもらえれば改めてお礼をいたしますよ」
と言ってくる。
お礼は断るつもりだった忠勝だが、こうなっては断るわけにはいかない。
「....ありがとうございます。ありがたくいただきます」
忠勝は受け取るつもりはなくとも受け取らざるをえない自分の状況を情けなく思いながらルーデウスから金を受け取った。
金を受け取った忠勝が、礼を言って一行から離れようとするとアッシュが声をかけてくる。
「あれ?そういえば、タダカツさんってギルドの場所わかるのか?」
当然わからない。
忠勝がアベルに聞いたこの世界のことは大まかなことで、街の中のことまでは教えられてはいない。
「やっぱり、わかんねえか。....よし、キャンディ!」
「...何?」
「おまえ、タダカツさんをギルドに案内してあげろよ」
「.......わかった」
「ちょっと、アッシュ何勝手に決めて
「まぁ、いいじゃねえか。荷下しじゃあ、キャンディは大して役に立たないしよ」
ギルダーまで...わかったよ。ルーデウスさん構いませんか?」
「もちろん私は構いませんよ」
「ありがとうございます。じゃあ、キャンディ、タダカツさんをお願いね」
「...了解」
忠勝が黙っている間にギルドへの案内が決まった。忠勝としてはありがたいのだが、キャンディに迷惑ではないかと思ってしまう。
「キャンディはいいのか?」
「........ん」
長い間があったが肯定のようだ。
とりあえず安心して忠勝は案内をキャンディに任せることにした。
「では、私共はこれで」
「タダカツさん、ありがとうございました」
「ありがとなタダカツさん」
「助かったよ、またなタダカツ」
「こちらこそ、ありがとな」
各々礼を言い合い別れる。
一行と別れた忠勝とキャンディは、
「..じゃあ、行こうか」
「....うん」
ギルドに向けて歩き始めたが会話はない。
忠勝がキャンディにどうにか話しかけようとするがなかなか会話が続かない。
「......あー、キャンディちゃんって何歳なの?」
「.....17歳」
恋愛経験値の低さが明らかな質問も平然と答えるキャンディ。見た目に反して年は思ったより上だった。
「あー、そうなんだ。思ったより近いんだね。あ、俺は19歳なんだ」
もちろん嘘だ。
本当は31歳であるが見た目が若返り気持ちも若返った忠勝は昨日の夢の中でこれから生きる上での設定を考えていた。その一つがこの19歳という年齢だ。
「...そう」
キャンディの興味のなさそうな返事に忠勝は消沈する。その後も何度か話題を振るがなかなか会話が続かない。
そうしているうちにギルドの前までたどり着いた。
扉を開けて中に入るとそこには、仕事終わりなのか併設された酒場で騒ぐ者、ギルドの机にすわり会議をする者、今から依頼に行くのか掲示板を見る者など様々なものがいた。
中には猫耳のウエイトレスなど亜人も見える。この世界では亜人も普通に生活しているらしい。
「...こっち」
キャンディについていき、ギルドの受付カウンターに向かうと、
「あ、キャンディさん!護衛の依頼は終わったんですか?」
カウンターにいる茶髪の受付嬢がキャンディに向かって声をかけてくる。
「...ローリー、うん..ただいま」
「おかえりなさい。後ろの男性は?」
「タダカツ...冒険者登録しにきた」
どうやらローリーと呼ばれた受付嬢はキャンディの馴染みの受付嬢のようだ。ローリーは忠勝に気がつくとキャンディに紹介を求めた。
「忠勝といいます。よろしくお願いします」
「私はローリーと言います。こちらこそよろしくお願いします。なかなか丁寧な方ですね〜。好感持てます!」
ローリーはなかなか正直な性格のようだ。あと胸が大きい。キャンディと違い大きい。自分としても好感持てます。などと忠勝が考えていると、何かを感じたのかキャンディが忠勝を凄まじい眼で睨みつけた。
「冒険者登録には銀貨5枚が必要ですが持ってますか?」
ルーデウスに銀貨を10枚貰っているため金ならある。忠勝が持っていると答えると、
「では、こちらの用紙の記入をお願いします」
「わかりました」
「あ、代筆は...必要なさそうですね〜。ますます好感が持てますね」
忠勝が年齢の欄を詰まらず書いたのを見てローリーは忠勝を教養のある人物と判断したようだ。忠勝には事実代筆の必要はない。アベルに転移者の文字はこの世界の文字に自動変換されると説明を受けていたからだ。だから、文字を書くことに問題はなかった。ローリーへのキャンディの視線が鋭くなったこと以外は...
「書けましたよ」
「はい。タダカツさん、19歳ですね。では最後に犯罪歴などを調べて登録完了です」
忠勝は名字は基本的に貴族階級の者がもつものとアベルから聞いていたので用紙にはタダカツと書いておく。
犯罪歴を調べると言ったローリーは、カウンターの下から水晶を取り出して置いた。
「この水晶で犯罪歴、所持スキルを調べることができます」
スキルまで調べられることに驚いた忠勝が聞いてみると、水晶はダンジョンから出土した神代道具を性能を劣化させて量産したものらしい。そのため、スキルがわかってしまうのは副産物のようなものあり、スキルが公にされることはないとのことだ。
忠勝が了承すると、
「では、水晶に血を垂らしてください」
「...」
血を出さないといけないとは思っていなかった忠勝は少し驚いたが、意を決して、借りた針で指先を刺し血を垂らした。
瞬間、水晶が強い輝きを放ったと思うとすぐに消えてしまう。忠勝が失敗かと思っているとローリーが
「犯罪歴無し、問題ありませんね」
と言う。どうやら終わったようだ。
忠勝は無事登録が終わり、犯罪歴もなかったようで一安心する。
「あら?変身のスキル...失礼、タダカツさんは亜人だったんですね。てっきり人間かと思ってました」
どうやら安心するにはまだ早いようだ。
やっと街まで着きました。
今回会話多め、「肉体派転移戦記」からの引用が多めです。
しばらく、内容に違いはない予定なのであしからず
これからもよろしくお願いします