6話 盗賊
今回戦闘回です
「...さん、タダカツさん!」
「んぁ?」
忠勝は揺り動かされて目を覚ました。いつの間にか夢の世界からでて普通に寝てたらしい。
「おはようタダカツさん」
目を開けるとバルが立っていた。
どうやら少し寝過ごしたようで起こしに来てくれたようだ。これが美少女ならよかったのに..と考えながら忠勝は挨拶を返す。
「おはようバル、ごめん寝過ごしたか?」
「大丈夫だよ。ただもう少しで出発するみたいだからそろそろ二人を起こそうと思ってね」
「ふたり?」
バルの視線に釣られてそちらを見ると、毛布に包まるキャンディがいた。
キャンディも朝が弱いようだ。幼いながら整った目鼻や長いまつげ。将来が楽しみだ...忠勝がと観察しているとバルが
「ほら!キャンディ!そろそろ出発するよ!」
忠勝のときより激しく起こしにかかる。が
「...あと....10分」
キャンディは相当朝に弱いらしい。
「駄目だ!もう準備しないと!」
「...無理」
「キャンディ、皆もう用意してるよ!起きなきゃ!」
「......」
しばらくそんなやり取りを繰り返し、流石に悪いと思ったのだろう、キャンディが毛布から這い出てくる。顔はどこか不満気ではあるが....
忠勝も準備をしようと立ち上がった。が、自分には準備が必要なものなど無いことに気づき出発まで手持ち無沙汰に待つことになった。
皆の準備が終わると、簡単なものではあるが食事をとり、街に向かって出発した。
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出発してからは偶にウサギ、聞いたところによるとホーンラビット、が襲ってくるだけで順調に進んでいた。
しかし、出発から3時間ほど経った頃ギルダーが突然叫んだ。
「全員警戒!」
(直感lv2を身につけました)
「「「!」」」
「「⁈」」
冒険者であるバル、アッシュ、キャンディは即座に言葉に反応し警戒の体勢に入る。だが、ルーデウスと忠勝は素人だ。ルーデウスを頭を伏せ、忠勝は何らかのスキルが発動したと理解し、かまえるので精一杯だった。
瞬間、馬車に1本の矢が刺さった。忠勝が一瞬矢に目を奪われている間にバル達は動きだす。
「盗賊だ!ギルダー、アッシュ散らばるな!固まって動くんだ!キャンディ!馬車とルーデウスさんの護衛!
敵の数は見たところ8人!だが伏兵がいるかもしれない警戒を怠るな!」
「「おう!」」
「.わかった」
普段のやわらかいバルからは想像できないような毅然とした態度で素早く指示を出していく。さすがにリーダーを務めるだけはある。メンバー達がすぐに反応していることからもバルへの信頼の厚さが読み取れた。
一方、忠勝は加護により強い力を持っているといっても素人だ。弱い魔物ならいざ知らず、急に盗賊と言われても対応できるものではない。結果、忠勝はバル達から出遅れてしまい、馬車の近くでキャンディと並んで立っている。
「タダカツはキャンディ達を守ってやってくれ!」
「わかった、任せろ!」
ギルダーからの指示に正直どうしたらいいかわからず内心焦っていた忠勝は即座に快諾する。
戦闘が始まる...
まず、盗賊達と馬車の間にいたバル達3人が戦いはじめた。盗賊は広がるように馬車へと近づいてくる。バル達はそれぞれ連携しながら盗賊達をうまく抑えようとした。どうやら腕はバル達のほうが上らしい。だが、それも倍の人数差を覆すほどではない。8人の盗賊の内、3人を馬車の方に通してしまう。
「タダカツ!行ったぞ!」
ギルダーから声が飛ぶ。
「任せ⁈」
忠勝が返事を返そうとした時、抜けてきた盗賊の一人が弓を構えていることに気づく。が気づいたところで止められない。放たれた矢が忠勝目掛けて飛んでくる。
(ああ、当たる...)
迫ってくる矢は見えているが、身体は麻痺しているかのようにうまく動いてくれなかった。忠勝には恐れるように目を閉じ、矢が刺さるのを待つしかできない。
シュッ
しかし、忠勝がいくら待とうとも矢が刺さることはなかった。おそるおそる目を開けると、忠勝の前に薄っすらと透明な壁ができているのがわかる。
ーー風の壁だ
忠勝が後ろを振り向くとそこには得意げな顔をしたキャンディがいた。
「『風の道』...守ってあげる」
「キャンディ!」
キャンディは守ってあげるとは言ったが内心焦っていた。本当なら『風の障壁』という魔法を使うべきだった。だが、キャンディの魔力量では瞬時にそれを発動することは困難だ。結果使用したのは『風の道』...矢など軽いものの軌道を逸らすだけの魔法だ。もし盗賊の放った矢が鉄矢であったなら逸らすことはできなかっただろう。その意味で忠勝が助かったのは運が良かっただけだ...
「キャンディ、助かった」
だが、事実助かったのだから忠勝にとっては関係のない話だ。忠勝にとって重要なのはキャンディのおかげで助かったという点だけだった。
年下の女の子に助けられた忠勝は少し恥ずかしさを感じながら、盗賊に向かって駆け出す。盗賊は丸腰で向かってくる忠勝を見て、舐めきった態度で剣をかまえた。
盗賊が剣を振り下ろしてくる。だが、今の忠勝には避けられる程度の速度でしかない。忠勝は軽くかわすと右拳を振るう。
ポキッ
小気味いい音とともに盗賊が右肩を抑えて崩れ落ちた。おそらく肩骨かどこかの骨が折れたのだろう。
忠勝は盗賊が倒れたのを確認すると、振り向きざまにもう一人の盗賊に回し蹴りを食らわせる。盗賊に回し蹴りが当たる瞬間、忠勝はキャンディが盗賊に切りつけられる映像を見た...
「は⁈」
回し蹴りを受けて盗賊は倒れる。同時に忠勝は振り返った。そこにはキャンディが普通に立っていた。突然忠勝が後ろを慌てたように振り返ったことを不思議に思ったような顔だ。なんともないようだ。
忠勝が安心したように息をついたとき、視界の端で残り1人の盗賊が駆け出すのが見えた。
やばい...
忠勝はただ感じる、このままではさっき見た映像のようになると...
そう思った瞬間、忠勝は無意識のうちにスキルを使った。身体が無意識ながら動く。盗賊に向かって、ただ直線に...
盗賊がキャンディに向かって剣を振り下ろそうとした直後、盗賊はノーバンで15mほど吹き飛んでいた。
『突進lv1』
lv1とはいえ、スキルを使った場合と使わない場合の差は歴然だ。大人を15mもタックルで吹き飛ばすなんてことは加護をもつ忠勝でも通常困難だ。だがスキルはそれを簡単に可能にしてしまう。改めて、スキルの強力さを実感した瞬間だった。
忠勝は盗賊達が動かないことを確認するとバル達の加勢に向かうために駆け出した。
「おーい!今行くぞー!」
「お前はキャンディを守っ...な⁉︎....」
突然のギルダーの声に驚いた皆が忠勝に目線を移す。そこで盗賊達が見たのは倒れて動かない3人の仲間とそれを倒したのであろう男が走ってくる姿だった。
一瞬何が起きているのかわからなかった盗賊達だが、次の瞬間には状況を理解する。そして、盗賊達がフッと笑みを浮かべたかと思うと、一斉に
「「「「「すいませんした!」」」」」
と言って武器を捨てた。
盗賊からすれば、冒険者3人にも苦戦していた自分たちがさらに強力な戦力が追加されて勝てるわけがないという当然の判断だった。
忠勝としては突然の投降にがっかりしたわけだが...
やっと戦闘回をかけました。
でもやっぱり難しいですね
これからもよろしくお願いします