4話 出会い
道を走り始めてから20分程経った頃。
街が近づいてきたのだろうか、まだ遠いが小さく馬車らしき影が見える。
忠勝は街の場所を聞こうと思い、スピードを上げた。
ある程度距離が近づくと馬車の方も忠勝に気づいたようで護衛らしき者達が警戒しているのがわかる。忠勝は警戒を解かせるためにスピードを落とし、大きく手を振りながら近づいていく。
「おーい」
声をかけると敵意がないことが伝わったのか護衛の1人が手を振り返してくる。
だが、護衛達もプロなのだろう。皆武器をいつでも抜けるような体勢で警戒を解きはしない。
だが、忠勝は素人だ。手を振り返してきたのを見て受け入れられたと判断し不用意に駆け寄った。
「止まりな!」
護衛の一人の背の低い男が声をあげる。
忠勝はその声に驚いて足を止めはしたが何故止められたのかわからないという顔だ。
「あんた何もんだ?」
と忠勝の様子を見た男が呆れた様子で聞いてくる。忠勝が答えようとすると、さっき手を振り返してきた男が、
「ちょっとギルダー、失礼だろ」
と背の低い男をたしなめた。どうやら背の低い男はギルダーというようだ。
ギルダーはたしなめられたことに不満気ではあるが黙る。
「仲間がいきなり噛み付いてしまってすいません。私はこのパーティのリーダー、バルといいます。今はこの馬車の護衛依頼の途中でして....」
どうやらこのバルと名乗った男は話の出来る男のようだ。と判断した忠勝は立ち止まったままで自己紹介にする。
「あー俺は忠勝といいます。街の場所を聞こうと思って声をかけたんですが....」
と言って、ギルダーと呼ばれていた男に目線を向けた。
バルもつられて目線を向ける。
「...ギルダー」
「....わかったよ!......悪かったな。護衛の途中で気が立ってたんだ」
ギルダーが謝ってきた。口調は不満気なようではあるが表情からは本当に悪かったと思っていることが読み取れる。
ギルダーは真面目だが気を使える男のようだ。
忠勝としてもこのように素直に謝られては許さないわけにはいかない。そもそも自分が不用意に近づいていったのが原因だ...
「いや、俺もずかずか近づいていってしまったので...」
「....カハッ。そうか、そうだな。俺も悪かったが、あんたも悪い。お互いさまだ!」
カハハハハ!
前言撤回....
こいつはバカだ。
妙な笑い声をあげるギルダーを見て忠勝は確信する。
だが、それでも忠勝は日本人だ。苦笑いしながらも肯定でその場を流す。
「おお、悪い。俺はギルダーだ。よろしくなタダカツ!」
改めて自己紹介をしてくるギルダー、バカで馴れ馴れしい男だ。だが、忠勝としても悪い気はしなかった。
ギルダーが自己紹介を終えたところで馬車の前から魔法使い風の小柄な女の子、長剣を担いだ長身の男、小太りの男が歩いてくる。
「おーい、大丈夫なのか?」
長身の男が声をかけてくる。
バル達の仲間だろう。小太りの男は武器などを持っていない。おそらく、この馬車の持ち主で冒険者ではないのだろう。
「ああ、俺の直感も大丈夫だって言ってるし大丈夫だろ」
「そうか、なら大丈夫だな」
男はギルダーの直感を即座に肯定する。
直感への信頼度が凄まじい、ギルダーの人柄ゆえか、この世界ではそれが普通なのか...忠勝には判断できない。
忠勝が首を傾げていると、長身の男が自己紹介を始めた。
「俺はアッシュだ。よろしくな....」
「あ、忠勝です」
「よろしくなタダカツさん!」
「よろしくお願いします」
男はアッシュと名乗り、手を伸ばしてきた。握手だろうと判断し、忠勝も応じる。アッシュとの挨拶を終えると、バルが魔法使い風の女の子に自己紹介するように促していた。
「ほら、自己紹介しないと」
「...わかってる。....キャンディです...よろしく..お願いします」
「ああ、よろしく」
小柄な女の子であったため無意識のうちに口調が崩れてしまう。
小柄な上に魔法帽子をかぶっているため表情は見えないが不快に思われただろうか?などと忠勝が考えていると、横から小太りの男が話しかけてきた。
「こんにちは、私はルーデウスと申します。この先のランタナの街で商店など開いております商人です。
貴方は変わった格好をしていますが、旅の方ですかな?」
ルーデウスと名乗った男は商人らしい。
質問に対し忠勝は肯定し付け加えて、冒険者になるために街がに向かっているが道がわからなかったと伝える。
忠勝は異世界に来て常々冒険者になろうと考えていた。冒険者になればチートのある自分は大成功を収めることができるはずだ。と....
「おお、そうでしたか。....ではよければ一緒に行きませんか?ちょうどランタナに帰る途中なんですよ」
「え、いいんですか?」
「構いませんよ。将来有望そうな新人冒険者とは繋がりを持ちたいですしな」
ハッハッハッ
将来有望と言われた忠勝は嬉しく思いながらも、ルーデウスに感心した。商人としての勘なのか経験なのか、自分が強い力を持つことを見抜いたのだ。商人としての目は確かなものがあるのだろうと忠勝は考える。
もっとも、誰にでも言うおべっか使いの可能性もあるのだが.....
忠勝は気がつかず元気に旅の仲間に挨拶をした。
「よろしくお願いします!」
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忠勝が護衛に加わってから3時間が経った。この3時間の間に警戒をしながらも会話を重ね、お互いに名前で呼ぶくらいには打ち解けてきた。
また、この3時間の間に何度か魔物に襲われた。ゴブリンや角ウサギといった雑魚ばかりではあるが...
そして今も、
「おいタダカツ!そっちに行ったぞ」
「任せろ!」
数匹の角ウサギに襲われている。
バル達のパーティはなかなかに優秀なのだろう、雑魚ばかりではあるが余裕を持って対処している。
アッシュが前衛として敵を引きつけ、ギルダーが素早く投げナイフや双短剣でダメージを与える。バルはルーデウスがいるためあまり馬車から離れられないようだ。
一方忠勝はキャンディとともに前衛二人の撃ち漏らした魔物を狩っていた。キャンディは魔法使い風なのだが魔法は使わず杖で殴っている。
魔法が使えないのか、使わないだけなのか。どちらにしても魔法使いへの憧れを砕くような光景だった。
「少し休憩しましょうか」
ルーデウスの言葉で皆立ち止まり休憩に入る。
「タダカツ、なかなかやるな」
ギルダーが褒めてくる。
「だな、かなりの腕だと思うぜ」
「だね、パワーがすごいな」
「..ん、すごい」
やはり、加護で得た筋力は異世界の感覚であっても強いものらしい。
だが、加護の力を感じるほどに忠勝は内心不満だった。というのも、雑魚ばかりを相手しているのもあるが加護にチートと言えるほどの力が無いように感じたからだ。
事実、バル達も忠勝の力に多少驚いてはいるがあり得ないというほどではない。新人の割に鍛えてるんだな程度のものだ。
「ありがとう、村で鍛えてた甲斐があった」
忠勝は内心の不満を表に出さずに、考えた設定通りに話を合わせる。
確かに不満ではあったが、誰も知らない異世界で通用する力があると言うのはありがたいことだ。
「そっちこそよく連携とれてるじゃないか」
素人目ではあるが忠勝も日本人的に相手を褒め返す。
「だろ?俺とギルダーのコンビはランタナでも評判なんだぜ?」
とアッシュが言うと、
「アッシュ、あまり調子に乗るなよ。....まぁ、かなり修練はしてるからな」
とギルダーはアッシュを窘めつつも満更でもなさそうだ。
「これでも私たちのパーティはCランクだからね」
とバルも自信がある様子。
しかし、キャンディだけが
「...私.....何もしてない」
と不満気だ。
確かにキャンディがそれほど活躍していないように忠勝であっても感じていた。
疑問に思った忠勝は遠慮もせずに聞いてしまう。
「そういえばキャンディは魔法使い風の格好なのに魔法は使わないんだな?」
「「....」」
瞬間空気が凍った...
忠勝が何か悪かったかと焦っているとバルとアッシュが
「あー、キャンディはパーティの切り札で主砲だからね。普段は温存してもらってるんだ」
「そうだな、火力はピカイチだからな」
と、フォローを入れてくる。
が忠勝以上に空気を読めない男がいた。
「まぁ、魔力量が少ないから数撃てないだけなんだけどな」
ワハハハッ
アッシュだ。
バル達が笑っている馬鹿男を睨むと流石に悪いと気づいたのか黙り込んだ。
忠勝がキャンディのほうを見ると...涙目だ...
「...魔力..ない」
慌てて忠勝がフォローにはしる。
「....大丈夫だ!俺だって初めはひ弱だったけど、諦めず鍛え続けて力をつけた。キャンディだって努力を続ければ魔力量はあがるよ!」
「...そうなの?」
「ああ、そうだ!この力も努力の成果だ。だからキャンディも一緒にがんばろう!」
「....やってみる」
見た目通りまだまだ子供なのだろう。簡単に傷つくが立ち直るのもはやい。
もちろん忠勝の言ったことはデマカセだ。
筋力は努力ではなくチートで手に入れたものであるし、そもそも鍛え続ければ上限無く強くなれる忠勝にとっての努力と、限界が必ずくるキャンディの努力ではモチベーションが全く違う。
それがわかっていながら忠勝は嘘をつく。
夜になり野営の準備をする。
話では明日の夕方にはランタナに着くそうだ。見張りを交代しながら、眠りにつく。明日は早くに発つらしい、早く寝なければ...
遅くなりました。
がんばります。
これからもよろしくお願いします