3話 チート発動
どこまでも広がる緑
揺れる草原の中に1人の男がしゃがみこんでいる。
忠勝だ。
「え?」
忠勝は突然の事に状況を理解出来ないでいた。さっきまで白い空間にいたと思ったらいきなり草原に移動した。
どうやらアベルに転移させられたのだと理解するのに数秒かかる。
「これからどうするか...」
転移先はアルカナディアという国のランダムな場所らしいのでここがどこなのかはわからない。
周りには草原が広がるだけで街どころか道もない。
幸い太陽は高くまだ昼のようだ。暗くなる前にどうにかしたい。忠勝は迷っていても仕方ないと適当な方向に歩き始めた。
歩き始めて1時間程経っただろうか。
忠勝は草原を歩いていた。未だに道すら見つからず、ひたすら変化のない風景にもいい加減飽き飽きだ。
「ここはどこなんだー!」
と思わず1人で叫んでしまう。当然返事はな「キューッ」あった。
忠勝が驚いて振り向くと可愛らしいウサギのような生き物がいた。だが地球のウサギとの違いが1つ....頭から20cm程の角が生えている。
もともと動物好きだった忠勝は異世界に来て孤独を感じていたこともあって角ウサギに惹かれた。
チッチッチッ
「お〜、お前はどこから来たんだ〜?」
小動物に対するようにしゃがんで舌を鳴らして手を伸ばした。声も気持ち悪いくらいの猫なで声だ。
しかしその猫なで声に警戒心を解いたのか角ウサギが近づいてくる。
「お〜、きたきた」
寄ってくるウサギに忠勝の表情も明るくなる。角ウサギは忠勝の手が触れるほどに近づき、「キュッ!」と突進した。
「うおっ!」
(突進lv1を身につけました)
ギリギリで身をかわす。かわすと同時に頭に直接響くようにアナウンスが聞こえた。
どうやらアベルの言ってた加護『観の極み』が発動したらしいと考える。
しかしこのウサギ、魔物だったのかいきなり襲ってきたな...
と改めて自身が異世界にいると理解する。
「ってことは、これが初戦闘だな」
ウサギを敵と認識し忠勝はかまえをとる。かまえと言っても武術や格闘技の経験のない忠勝の見よう見まねのファイティングポーズだ。
ウサギを敵と認識してからは不思議と先ほどまでの小動物に対するような感覚は消え、闘争心が湧いてくる。これが異世界に来たからなのか、チートの影響なのかは忠勝にはわからない。
再び角ウサギが突進してくる。それほど速くはない。さっきの様にいきなりでなければ余裕をもって避けられる。
どうやらこのウサギの様な魔物は雑魚のようだ。忠勝は、悪いがチートの実験体になってもらおうと考え身体の調子を確かめようにステップを踏みながら距離をとった。
アベルの言っていた若返りの所為か、『筋肉の化身』の所為か身体が軽い...
「キュッ!」
角ウサギも舐められているのがわかったのか、怒ったように連続で突進してくる。
忠勝はヒョイッと簡単に避ける、避ける、避ける。ひたすら避けて身体の調子を確かめる。
避ける続けていると、魔物にもスタミナがあるのか息を切らし始めた。
忠勝はもう十分だと判断し、最後に攻撃力を確かめようと拳を握る。そして、明らかにスタミナ切れで動きの鈍いウサギを殴りつけた。
ボギッ
「ムギュッ」
と鳴き声をあげウサギが吹き飛んだ。殴ったとき骨を砕いたのだろう拳には嫌な感触が残っている。ウサギは吹き飛んだ場所から動くことはなかった。忠勝は生き物を殺したと言うのに心に罪悪感はない、どころか妙な高揚感すら感じていた。
初戦闘は拳一発で終わってしまった。
忠勝の思った以上に身体の性能は高くなっているようだ。魔物がスタミナ切れを起こしたときも自身が息切れもしていなかったことを考えても、強くなっていることは明らかだった。
「そういえば突進を身につけたとか聞こえたな」
スキルを身につけたらしいことを思い出し確認する。
「えっとなんだっけ?.....ステータス?」
アベルの最後に言っていたことを思い出しながら呟くと、目の前にステータス画面のようなものが出てきた。
「親切な世界だな....」
ゲームのような機能に感想を述べ、画面に目を走らせる。
ステータス画面では加護、所持スキルの二つの欄があり、ゲームのようにHPや攻撃力が見れるものではないようだ。
画面にはこうあった。
加護
・筋肉の化身
・観の極み
・不屈の男
所持スキル
・変身
・突進lv1
思っていたものよりも加護もスキルも多かった。疑問に思って不屈の男と書いてある箇所に触れると画面が切り替わり、加護についての説明がでてきた。
不屈の男
決して諦めず、戦い続けた男の証。
才能の上限を超えてスキルのlvを上げられるようになる。(lv0以下のスキルには無効)
チートだった。
成長に限界が無くなる。新しい加護の説明を見た忠勝はスキルの確認も忘れて走りだした。
忠勝は興奮していた、高揚していた、嬉しかった。神アベルは言った、転移者には性格や性質を強化したスキルがつく。と....
そして身につけた『不屈の男』
決して諦めず、戦い続けた男の証。
忠勝は自分の今までの生き方を、損しかして来なかった自分の性格を認められたと感じた。
ただ走り続けた。疲れはない。
「やっとあった」
20分程走っただろうか。
忠勝は道らしきものを見つけ立ち止まった。
日本のもののように舗装されてはいないが、草の無い筋が続いている。
どちらに進めば街が近いのかもわからない。忠勝は考えるのをやめ右の方向に決め、再び走りだした。
読んでいただきありがとうございます