19話 油断
「せいっ!」
バシュッ
「やらっ!」
バシュッ
「オラぁっ!」
ズドンッ
忠勝は、戦場の最前線に立ち、ゴブリン相手に戦い続けていた。新たな戦い方により遠距離攻撃が可能になった忠勝は、これまでより確実に討伐数を稼いでいる。
戦闘開始から4時間も経つと、疲れにより集中力が切れたのか、冒険者達にも傷を負い、戦線を離脱するものが増えてきた。すでに戦線に立っている冒険者は40人程になっている。ゴブリン達も減ってきたとはいえ、人数差は依然圧倒的だ。
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「しゃがめ!」
「うぉ!」
1人の冒険者が叫ぶと同時に大斧を振りはらう。その声に反応したもう1人が急いでしゃがみこんで大斧を躱すと、後ろから冒険者を狙っていたゴブリン達が大斧の攻撃を受けて吹き飛んだ。
この2人は普段は別のパーティで依頼をこなしている。たまたまこの戦場で出会っただけの男たちである。冒険者達は少しでも消耗を抑えるために、近くの者と即席のパーティを組みお互いに助け合うことでどうにか凌いでいた。
忠勝も近くにいたアッシュとギルダーと共に即席パーティを組んで戦っている。バルは近くにはいないようだ。
「アッシュ!」
「おう!」
ギルダーの掛け声一つで、アッシュがゴブリンをつばぜり合いで弾きつつ後ろに下がり、ギルダーの攻撃のチャンスをつくる。アッシュとギルダーは普段からコンビを組んでいるだけあって息の合った戦い方をしている。
忠勝はチートを授かっているとはいえ、さすがに突然コンビプレーができるほどに熟練した冒険者ではない。そのため、お互いに助け合いながらも、基本的には個人技での戦闘を続けていた。
「タダカツさん!右!」
「わかってる、インパクト!」
忠勝は振り向きざまにインパクトlv2を発動し、敵を吹き飛ばす。
「ギルダー、左だ!」
「あいよ」
忠勝の声に反応し、ギルダーが左から突進してきたゴブリンを躱しつつ、斬りつける。3人ともに疲れが見えるが、お互いをカバーし合い、順調にゴブリンの数を減らしていく。3人を囲んでいたゴブリンも残り2匹となっていた。
だが、命をかけた戦闘による緊張や、倒しても倒しても体感的には減ってないように見えるほどのゴブリンの数は疲労度を倍加させる。疲労していれば当然ミスも増える。戦闘中のミスは命取りだ。それは忠勝であっても例外ではない。
「タダカツ!後ろだ!」
「..!」
連続する戦闘の緊張感から疲労が溜まっていた忠勝は、ギルダーの声に対する反応が一瞬遅れた。忠勝は冒険者になってまだ日が浅い。当然このような大規模な戦闘の経験はなく、また自らの命をかけて戦うという覚悟は忠勝にはなかった。
その結果、アッシュが地面に血を流し倒れることになった。忠勝の反応が遅れゴブリンの槍を受けそうになった瞬間、アッシュが忠勝と槍の間に割り込んできたのだ。
「アッシュ!おい、アッシュ!」
ギルダーが周りにいた残りのゴブリンを斬りつけながら叫ぶと、今まで見たこともないような顔で、アッシュのもとに走り寄った。
ギルダーは傷口を見ると、懐からポーションを取り出し、アッシュの口元へと運ぶ。だが、アッシュは気を失っているようで受け付けようとしない。ギルダーは仕方ないといった様子で舌打ちをし、ポーションを傷口へとかけた。自分の持っていたポーションを使い切るとギルダーは忠勝へと声をかける。
「タダカツ!ポーションねぇか⁈」
忠勝はアッシュが刺されたという現実を目の当たりにし、未だに放心状態でただ立っているだけだった。
「タダカツ!ポーション!」
「...あ、ああ」
再度の呼びかけに対し、忠勝は辛うじて返答しルーデウスより買ったポーションをギルダーに手渡す。
「!こりゃかなり上等なポーションだな。いいのか?」
「...ああ、もちろん」
「ありがてぇ」
ギルダーは礼を言うと、先ほどのポーションで少しは痛みが和らいだらしいアッシュに無理矢理にポーションを飲ませた。ポーションを飲み終わると、アッシュの表情が和らいだ。どうやら効き目が出たようだ。
忠勝はポーションを渡したきり、後ろを向いて立ち尽くしている。その表情は暗く、何かをブツブツと呟いていた...
今回短くなりました。
なるべく更新速度をあげたいと思います。
これからもよろしくお願いします