15話 事件
「...寒」
朝、忠勝は寒さを感じ目を覚ました。どうやら昨日はあのまま寝てしまったようだ。毛布も掛けずにベッドに横になっていた。
時刻はまだ早いのだろう。まだ日が昇りきっておらず、窓の外は薄暗い。
忠勝が空腹を感じ、部屋を出て、階段を下るとアンナが朝食の仕込みをしているところだった。
「おや?おはよう。今日はやけに早いね」
「寒くて目が覚めちゃいました」
この宿に泊まるようになってひと月、すでに忠勝の朝の弱さをしっているアンナの意外そうな声に忠勝が笑って答える。
「そうかい...朝ごはんはまだ仕込み中だけど、スープくらいならすぐ出せるよ?飲むかい?」
「はい!お願いします」
忠勝はありがたく思い、そう答えると、椅子に腰掛け、今日の予定を考え始めた。
(まず、昨日変身したときに壊れた防具を修理しないとな.....。ルーデウスさんのとこなら直せるだろ。それからギルドに行って適当に依頼を探すか)
などと考えていると女将さんがスープを持って忠勝の席へ来る。
「はい、できたよ」
「いただきます」
スープの皿を受け取った忠勝の両手に暖かさが伝わる。スープを口にすると、直接喉に熱を感じさせる。
忠勝がスープを飲み終え、外に出るころには辺りは明るくなってきていた。
忠勝が宿を出て、しばらく歩くと目的の場所にたどり着いた。ルーデウス商店だ。朝はまだ早いというのに、すでに店を開けているようだ。
キィィー
「ルーデウスさん...いますか?」
「.....おぉ、タダカツさん!いらっしゃいませ。今日はどういったご用で?」
ルーデウスは突然来訪者に驚いたように声をあげる。が、彼も一流の商人なのだろう、すぐに平静を取り戻し用を聞いた。
ルーデウスの質問に、忠勝は防具を壊してしまったことを、後ろめたく思いながらも正直に答える。
「実は防具が壊れてしまって、修理できたらと思って」
「....あの防具が壊れてるとは...相当無茶をなさいましたな?」
「......昨日の依頼でゴブリンの大群に襲われまして」
実際、防具の壊れた理由は変身したことによる身体のサイズの変化なのだが、忠勝はそれは伏せて話した。
「...そうでしたか、それは大変でしたね。壊れた防具を見せてもらってもいいですか?」
「はい、これです」
「...これは。....防具の繋ぎの部分が切れてしまってますね。普通こんな壊れ方はしないんですがね.....まさか不良品だったんじゃ⁈」
「いえ、そんなことないですよ!その防具には何度も助けられましたから!」
今まで特別に危ない場面はなかったのだが、壊れ方が壊れ方だけに申し訳なくなり、忠勝は慌ててフォローを入れる。
「そう言ってもらえるとありがたいです」
修理はできるということなので、忠勝が何日程度で修理できるのか聞くと、ルーデウスは答えた。
「これなら繋ぎなおして、あとは細かい傷を埋めるだけですので明日には直せますよ」
「そうなんですか?じゃあ、お願いします」
「はい。ではお預かりしますね」
「値段はいくらくらいですか?」
「いえ、これはこちらの責任もありますしお代はいただきません。サービスということで」
ルーデウスに落ち度は全くないのだが、忠勝はあえて否定しないでおいた。忠勝は、明日防具を取りに行くとルーデウスと約束をして店を出た。
忠勝がギルドに入ると中はいつも以上に騒がしい。何かが起こったらしいことが忠勝にも伝わるが、詳細まではわからない。
「現在、トナリの森でゴブリンが大量にいたという報告が多数あげられています!中にはまだ帰ってきていない冒険者パーティもいます!
昨日の夜より調査班を森に送りました!不測の事態に備えて冒険者の皆さんには街にいてほしいと領主様からのお達しです!ですので、現在依頼の受付は行っておりません........」
ローリーが大声で現状を伝えている。
どうやら、ゴブリンの大量発生によって依頼を受けられない状態らしい。
忠勝がこれからどうしようかとキョロキョロとあたりを見回していると、後ろから声をかけてくる者がいた。振り返ってみると、そこにいたのは茶髪の優男、バルだ。
「バルか」
「おはようタダカツさん。なんだか大変なことになってるね」
忠勝が挨拶を返すと、バルは、
「...そうだ、よかったら一緒に訓練でもしないか?これから皆で修練場に集まるんだけど」
と、忠勝に言った。
忠勝は、現在依頼を受けることができず、ちょうど暇だったこともあり快諾する。
「..そうだな。ちょうど暇だったし、そうしようかな」
「それじゃ行こうか」
忠勝が承諾するのを見て、バルが人懐っこい笑みを浮かべ、修練場に向けて歩き始めた。
修練場というのはギルドに隣接した広場であり、的やカカシなどの練習相手や、土俵が置かれている。普段から多数の冒険者によって使用されているが、今日は依頼を受けることができない影響か、いつも以上に利用者が多いようだ。
修練場に行くとすでにアッシュとギルダーは来ていた。どうやら模擬戦をしているようだ。
アッシュとギルダーはCランク冒険者だ。冒険者の中でもある程度実力のある者たちなのだろう、何人かの冒険者が腕を止めて見学していた。
「行くぜ!ギルダー!」
「あ、待てアッシュ、バルとタダカツが来た」
剣を構え模擬戦を始めようとするアッシュに対し、ギルダーは忠勝達に気づき声をあげる。
「今度は騙されないぜ!」
「いや、今度は本当だ!」
どうやらアッシュは一度同じような嘘で騙されたことがあるようだ。
「騙されん!」
「おうアッシュ、ギルダー」
忠勝は、そのまま斬りかかりそうになっているアッシュに向けて声をかけて止めた。
「あれ?タダカツさんホントにいたんだ?」
「だから言っただろうが!」
「前にだまし討ちした奴は信じない!」
「なんだと⁈」
「まあまあ、落ち着きなよ」
驚いたように言うアッシュに、ギルダーが文句を言ったことで2人は言い合いを始めるが、バルが2人を宥める。
ギルダーとアッシュは喧嘩が多いが、バルがいることで上手く回っているようだ。
「今日は依頼も受けれないみたいだからな、訓練に参加させてもらうよ」
「そうなのか」
「よろしくな」
「ああ、よろしく」
そこで忠勝はいつものメンバーにキャンディがいないことに気がつき、聞いてみる。
「キャンディはいないのか?」
「ああ、まだ朝早いからな。起きてこなかったんだ。.....タダカツがいるって知ってたら連れてきたんだけどな」
「あー、失敗したな」
「そうだね。どうせなら皆で訓練したらよかった」
ギルダーとアッシュが忠勝を茶化す中、バルだけは的外れなことを言っている。
結局この4人で試合をしながら訓練することになった。
訓練で模擬戦をしていると、当然スキルを使用する。結果忠勝は、アッシュのスキル『スラッシュlv2』、ギルダーのスキル『投擲lv3』を身につけることができた。
昼になるとキャンディがきて、訓練に参加した。忠勝がお願いして、キャンディに魔法を見せてもらうが結局魔法が身につくことはなかった。おそらく、忠勝には魔法の才能は無いのだろう。
訓練を終えて、ギルダーの提案で飯にしようと修練場を後にする。4人が店に行く途中、ギルドの前を通ると何か騒がしい。冒険者達が集まっている。
忠勝達が人を掻き分け、中に入ってみると血だらけの男が倒れているのが見えた。ローリーがその男を手当てしながら、話を聞いている。
どうやら、血だらけの男は調査班で、先ほど帰ってきたようだ。
「....がやられた。クソッ!」
「落ち着いてください。何があったんですか?」
「....ゴブリンキングだ。奴らゴブリンキングに従って動いてやがった」
「な.....ゴブリンキング⁈...急いでギルドマスターに!」
ローリーが、後ろで薬箱を運んでいた別のギルド職員に向けて、ギルドマスターに伝えるように叫ぶ。
忠勝にも周りの緊迫が伝わってくる。どうやら事件が起こったようだ。
やっと物語を動かしていけるかも
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