14話 異変
ちょっと重いかもです
忠勝はトナリの森に来ている。ゴブリンの討伐の依頼を受けてのことだ。
このひと月の間に森での依頼にも慣れ、色々な依頼を時に先輩冒険者に手伝ってもらいながらもこなしてきていた。これならゴブリン退治に苦戦することはないはず...
だったのだが、
「なんでこんなにゴブリンが多いんだよ!」
現在、忠勝は10体ほどのゴブリンに囲まれている。すでに依頼されたゴブリン5体はとっくに超えて討伐している。
「クソッ!インパクトッ!」
今までもスキルを駆使してどうにか対処を続けていた。
このひと月スキルの練習を繰り返しているうちに気づいたことだが、忠勝の気力量は他の者より多い。それこそ、膨大と言えるほどに。
さらに、その膨大な気力を使ってスキルを使用するのだ、徐々にではあるが気力の限界値は上昇している。
気力量に比べれば、少しずつではあるがスキルのレベルも上がっていた。
「それにしても多すぎる!このままじゃジリ貧だ」
忠勝が最前列のゴブリンを殴りながらぼやいた。
確かにゴブリンは弱い。だが、どれだけ弱くても数が多いというのはそれだけで脅威だ。
さらに、今忠勝が対峙しているゴブリン達はいつもと違っていた。普通のゴブリン達はただ人間に襲いかかるだけだ、そこに作戦なんてものはない。だが、このゴブリン達は自分達が実力で負け、数で勝ることを理解している。大人数で攻め、大人数で守るというように決して単独で行動しようとしない。
その所為で、忠勝はなかなか包囲を突破できずジリジリと削られていく。
「なんなんだこいつら!まとまりすぎだろ」
ジリジリと追い詰められていく中、忠勝は思うようにゴブリンの数を減らせないでいた。どころか、ゴブリンと攻防を繰り返すうちに増援が来たのだろう、ゴブリンの数は15体ほどに増えている。
実を言えば、忠勝は状況を打開する手段をひとつ残してはいる。
だが、それに頼ることは自分が人間でないことを認めることだ。もちろんここで死ぬつもりはない...が、それに頼るのは限界がきたときだ。と忠勝は考えていた。
「そうも言ってられないか」
ジリジリと削られていく中、限界は確実に近づいてきている。このまま凌ぐだけなら硬化で凌ぐことはできる。だが、ここはまだ森の奥であるため、他の冒険者からの救援は期待できない。
「...使うしかない...か」
忠勝は構えをとき意識を集中する。
ゴブリン達はその隙を好機と見たのだろう、群がるように忠勝に襲いかかった。その一瞬後、森にいたのはゴブリンに群がられる鬼だった。
そう『鬼』だ。
忠勝の最後の手段、変身を発動した。このひと月、忠勝がいろいろなスキルを修練する中、唯一使わなかったスキル。忠勝は自分が人間でないと認めるのを恐れていた。だが、結局はこの鬼の姿に頼った。
(認めよう...受け入れよう...俺は人間じゃない)
突然現れた鬼に驚きつつ、攻撃を続けるゴブリン達。それに向かって忠勝はただ腕を振るう。それだけで群がっていた3匹程のゴブリンが弾き飛ぶ。
そこからは一方的だった。
身体能力強化を発動し、ゴブリン達に殴りかかる。蹴りを繰り出し、左のゴブリンを吹き飛ばす。インパクトを発動し、前方のゴブリンを粉砕する。
ものの5分であれだけいたゴブリン達が死体の山となった。
自らの積み上げた死体の山を見てもどこか他人事のように感じながら忠勝は街に帰るために歩き始めた。
(認めないと、これは現実だ)
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忠勝が街にたどり着いた頃には、日が落ちかけ、あたりは暗くなり始めていた。
「タダカツくん⁈大丈夫か⁈」
「ああ、レオンさん。大丈夫ですよ」
門の前でレオンに呼び止められてしまう。どうやら忠勝の全身についた返り血に驚いたようだ。
「返り血か...とにかくこれで拭いていくといい」
と言って忠勝にタオルを投げてよこしてくる。忠勝が素直に礼を言い、立ち去ろうとすると、後ろからレオンが声をかける。
「....タダカツくん!おかえり」
「!...ただいま」
レオンはさすが部隊の隊長を務めるだけあり、忠勝が普通の状態でないことに気づいたのだろう、優しく微笑み、ただ「おかえり」とだけ言った。
忠勝は自分でもよくわからずに、涙が出そうになるのをこらえる。
(とにかく今日はギルドで依頼達成の報告だけして帰ろう)
「お、タダカツ!今朝ぶりだな」
ギルドに入ると、そこには『黒の炎』の4人がいた。
「ん?何かあったのか?」
「そうだよな?なんかあった?」
「なんだろう?」
「...なんか変」
忠勝が何かを言う前から、そんなことを言ってくる。今の忠勝は見た目だけでいえば、いつもと大差無いだろう。先ほどまでの返り血も、なんとか見れるくらいには拭き取られている。
忠勝がなんでも無いと答えると、
「そうか?...まぁ、言いたいことがあったら言えよ」
「だな」
「...いつでも相談して」
と4人は言ってきた。忠勝は礼を言うと、そのまま別れてカウンターに報告に向かう。
「タダカツさん、おかえりなさい」
「ローリーさんただいま」
「....?何かありましたか?」
またもやそんなことを言われた忠勝は、ローリーに聞いてみる。
「さっきから言われるんですが、何かいつもと違いますか?」
「んー、そう言われるとわかりませんけど。なんとなく?」
「ハハッ、何ですかそれ」
「笑わないでくださいよ〜。まぁ、とにかく何かあれば言ってくださいね。サポートが私の仕事ですから」
と言って胸を張るローリーに思わず笑ってしまう。
「それじゃその時はよろしくお願いします」
「はい!任せてください」
依頼達成と追加でゴブリンの大量発生について報告し、忠勝はギルドをあとにした。
その後も忠勝が、宿の部屋に着くまで、行きつけの屋台のおやじ、風呂屋のおばさん、先輩冒険者、ハンナや女将、このひと月で知り合った人達が顔を見るなり何かあったのかと聞いてくる。相談しろと言ってくる。
依頼以上の疲れを感じながら、忠勝はやっとの思いで、部屋にたどり着くことができた。
「全く何なんだよ、あいつら。俺ってそんな顔に出るタイプかなー?そんなことないと思うんだけどな」
忠勝はベッドにダイブしながら呟く。
「人が疲れてるときにさ。わざわざ声なんてかけてきてさ..ホントいい迷惑だ....ホント.....」
地球にいた頃、親はすでに亡く、結婚もしていない、特別親しき友人もいなかった忠勝にとっては初めての体験だった。
なんで心配してくれるんだなんて考えが浮かぶが、答えはでない。ただ涙が溢れ出た。
どれほどの時間そうしただろうか、気づくと鬼人は横になって眠っていた。
重い話を書こうにも、文章力の無さが内容を軽くしている!
読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。