13話 拳闘
グラスタートルの討伐を終えた翌日、忠勝は魔物についての情報を集めるため、ギルドに来ていた。
「あれ?タダカツさん、今日も依頼ですか?」
「いえ、今日は休みです。情報集めでもしようかと」
ギルドに入ると忠勝に気づいたローリーが声をかけてくる。忠勝はちょうどいいと思い、ローリーに魔物について調べられる場所はないか聞いてみた。
「あー、それなら図書室がありますよ。ギルドに併設されてるんですけど冒険者の方は本をあまり読まないですから、静かで調べ物にはもってこいです」
「図書室ですか.....本って高級品じゃないんですか?..俺の村にはあまりなかったんですが」
「そうですね、確かに安いとは言えませんが高級品というほどではありませんよ。教会では聖書を配ったりしてますしね」
「そうなんですか...」
どうやら忠勝の異世界に関するイメージと違ってアベルでは本は高いわけではないようだ。
それにしても聖書か...アベル様のことでも書いてあるのだろうか。などと考えた忠勝はローリーに礼を言い、図書室へと移動する。
図書室は地球の学校にあるようなものと変わりはなく、普段本を読まない忠勝にとってはかなり多くの本があるように感じる。ローリーの話では普段図書室を使う人は少ないということだったが、並べられた本は綺麗に揃えられ、ホコリも被っていないようだ。
図書室では1人の女性が本を整理していた。茶髪を後ろで三つ編みにしメガネをかけている、落ち着いた雰囲気の女性だ。
「あら?珍しい、冒険者の方ですか?」
「ああ、はい」
女性が忠勝に気がつき、顔を向けて聞いてきた。
「そうですか。私はここの司書をしていますアリッサといいます。お見知りおきを」
「お、俺は忠勝といいます。よろしくお願いします!」
今までにない落ち着いた女性を前にして慌ててしまう忠勝。アリッサと名乗った女性がそれを微笑ましいように笑みを浮かべているのを見て思わず赤面してしまう。
「あ、あの、魔物についての本を探してるんです」
「ああ、それなら......こちらがいいかと。このあたりの魔物の図鑑ですね」
「おお、ありがとうございます」
「いえいえ、ではごゆっくり」
忠勝が礼を言うと、答えるように綺麗にお辞儀をし本棚の整理に戻っていく。すぐに忠勝の本を見つけてきたところを見るに、司書を任せられるだけの能力は確かなのだろう。
受け取った本を持って席に着く。
「身体能力強化か...いいな」
「カエルか...」
「毒耐性....毒とか麻痺の耐性はほしいな」
「どうにか魔法を使いたいな」
「火吐きとか人間には無理だろうな...」
『観の極み』のおかげで、自分の才能のある分野に関しては見るだけでスキルを得られる忠勝は、図鑑からめぼしいスキルを持った魔物をあげていく。
しばらくして忠勝が図鑑を読み終え、顔を上げる。
「ふぅ....終わったー。..とりあえず気になったのはファイトモンキーの身体能力強化とポイズンフロッグの毒耐性。あとゴブリンメイジの魔法だな....」
魔物図鑑には様々な魔物や魔物のもつスキルについて書かれていたが、魔物のスキルだけあって人間には無理であろうものも多かった。礼をあげるなら、『火吹き』や『毒の息』といったものだ。
「次はこのあたりの地形について調べるか」
と忠勝な席を立ち、本を探すがさすがに『この辺の地形』などという本は無い。アリッサも今は図書室を出ているようだ。
本を探していると『神の〜』や『聖なる〜』と言った宗教関係?の本が多く目についた。アベル様は以外と信仰されてるんだなと忠勝は思いながら探索を続ける。
その後忠勝は、しばらく探し続けて『文化と地形』という本を見つけた。
「地形の名前と場所がわかれば魔物の生息地と当てはめられるし、これでいいか」
その本には人間の文化や戦争の歴史が書かれていた。忠勝は戦争についての箇所は適当に読み飛ばし、地形について書かれた箇所にたどり着く。
忠勝が本を読み終え、顔をあげた時には、窓の外はすでに日が落ち、暗くなっていた。
「はぁ〜、疲れた〜」
「ふふっ、お疲れ様です」
いつの間にか後ろにいたアリッサに忠勝は驚いて振り向いた。本に集中するあまりアリッサが後ろで見ていることに気づいていなかったようだ。
「失礼、あんまり集中していたものですから」
忠勝は席を立ち、アリッサに向き直ると礼を言う。
「今日はもうおかえりですか?」
「はい、そうですね。今日は帰ります」
「そうですか...。またいらしてくださいね、ここにはあまり人が来ませんから...」
忠勝が帰ろうとすると、アリッサがそんなことを言ってくる。どこか表情が暗いようにも見える。そんなアリッサの様子を見た忠勝は慌てて答える。
「は、はい!また来ます」
「はい。待ってます」
忠勝の言葉を聞いたアリッサは先ほどの表情が嘘のような明るい笑顔で答える。
男心を完全に把握しているかのようなアリッサに思わず、ドキドキしてしまう忠勝。
帰り道もずっと、体が若返ったことを実感することになった....
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
魔物についての情報を得た忠勝はトナリの森に来ていた。森に生息するファイトモンキーとポイズンフロッグを探すためだ。
「....どこにいるんだ?」
だが、すでに森に入って1時間程が経過しているが未だにファイトモンキーにもポイズンフロッグにも出会えていない。今回は『黒の炎』の皆はいないので聞くこともできない。
森に入ってから時々襲ってくるゴブリンを返り討ちにしながらただ歩く。生き物を殴り続けるという感触にも、鬼人族になった影響なのかすでに慣れてしまっていた
気づくと太陽は真上にきており正午を示している。
お腹も空いたし昼ごはんにするか。と忠勝はすこし開けた場所を見つけると倒木に腰掛け、持ってきた弁当を広げる。忠勝がまんぷく亭の女将に頼んで作ってもらったものだ。パンに野菜と肉を挟んだ簡単なサンドウィッチではあるが、ありがたくいただく。
「はぁー、ギルダーを誘えばよかったかな」
索敵係のギルダーがいれば...などと考えつつ食を進める。
サンドウィッチを食べ終えると、手を合わせご馳走様をし、再び歩き始める。
それから1時間程探索を続けた頃、森の中の大きく開けた場所に沼を見つけた。その周りにはたくさんのカエルがいるのが見える。おそらくあれがポイズンフロッグだろう。
しかし、どうやって毒耐性を使わせるか?と忠勝が考えていると1匹のカエルが沼に飛び込んだ。
(毒耐性lv2を身につけました)
....どうやらあの沼は毒沼らしい。毒耐性をもつポイズンフロッグだからこそ生きていけるのだろう。
目的を達した忠勝はカエルを無視して、今度はファイトモンキー探索を始めた。
それから2時間程ゴブリン達と戯れるだけの時間が続いたが、とうとうファイトモンキーらしき魔物と出会うことができた。
高さ150cm程とあまり大きくはない身長に反して1mを超えるような長い腕に、拳がグローブをつけたように発達した猿のような魔物だ。
忠勝に気づいた猿は腕をあげて構えをとっる。ヒットマンスタイルというのだろうか、地球で忠勝の見たボクサーのような構えだ。
この猿だけがそうなのか、種族全てがそうなのか、格闘技は素人で魔物にも詳しくない忠勝にはわからない。
とにかく今回は受けに回って、スキルを見ようと忠勝は、
「鉄壁!」
と叫びつつ硬化lv2を発動する。硬化はlvによって硬さが変わるようだ。
硬化が発動したところで猿がパンチをうってきた。
「フリッカージャブってやつか...」
忠勝の知識の中のフリッカーは一撃の重さはそれ程ではないものだったが、猿のフリッカーは硬化してない普通の人間なら相当なダメージを受けるだろう威力を感じた。
猿が連続してフリッカーをうってくるが、硬化している忠勝には効果が薄い。
なかなか堪えた様子のない忠勝に痺れを切らしたのだろう、突然「キキィー!」と鳴いたかと思うと今までとは桁の違う一撃を放ってきた。
(身体能力強化lv1を身につけました。インパクトlv2を身につけました)
ガハッ!
息が出来ない。追撃はヤバイ!と思って忠勝がどうにか前を見るが猿は追撃してこない。よく見ると猿は肩で息をしている。どうやら、猿にとっても硬化を破る程の一撃は楽に放てるものではないらしい。
しかし、チートを過信して受けに回ったせいでピンチに陥った。忠勝は自分が今、命のやり取りをしていることを再確認する。
「ごめんな、正直舐めてたわ。ここからは本気でやる」
「キキィィィー!」
言葉が通じているのかわからないが忠勝は猿に意思を伝え、自身の全てを出して殴りかかる。
だが...当たらない。躱される。撃ち返される。
素人のパンチはプロには当たらない。
忠勝が猿に対して尊敬の念すら覚え始めたとき、
(拳闘術lv2を身につけました)
と忠勝の脳内にアナウンスが響いた。
「さっきから何度も見てるのになんで今になって?....」
と忠勝は疑問に思いながらも、考えている時間はないと構えをとる。
「ギギィィィィー!!」
野生の勘なのか、俺の雰囲気が変わったのがわかるのか、猿は先ほどより引き気味に構える。
そこからは本気と本気のぶつかり合いだった。
躱し、躱され、躱し、躱されを続ける。
ほぼ互角の勝負に見えるが徐々に押されているのが忠勝にはわかる。スキルに対する慣れだろうか、忠勝の攻撃は当たらないのに猿の攻撃はこちらを掠めてくるからだ。
どうにかして流れを変えなくては......そこで忠勝はあることに気づく。
次の瞬間、猿は忠勝の攻撃を受けて倒れることになった。
ーー忠勝はローキックを放った
突然の蹴りに猿は全く反応できず、足を一撃でへし折られ倒れこんだ。
何も猿に合わせてボクシングをする必要はなかったんだ!と忠勝は気づいた。
どこか恨めしそうにこちらを見てくる猿に
「お前は強かったよ。だが、相手が悪かったな」
と言いトドメをさした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから忠勝はスキルが使うほどにレベルが上がるというのを知り、できる限り身体能力強化を発動し生活をするようになった。
拳闘術は分類として装備スキルになります。
遅くなってすいません。
これからもよろしくお願いします