11話 依頼達成
アッシュ達と共に街の外に出る。
「そういえば薬草はどこに生えてるものなんだ?」
忠勝が聞くと2人は歩きながらも説明を始めた。
ーートナリの森
ランタナの街から西に5kmほど離れた場所にあり、範囲は周囲100kmほどの広大な森らしい。忠勝達のいる場所からも木が広がっているのが見える。
森の中は魔物の群生域となっていて、奥に進むほどに強い魔物も増える傾向があるそうだ。今回の依頼の薬草集めは森の中でも浅い場所で行うため遭遇してもゴブリンなどの弱い魔物だけだということだった。
説明を終えた2人に忠勝が礼を言うと、
「頼りになるだろ?」
「調子に乗るなよアッシュ。ここはもう街の外なんだぞ」
「わかってるって」
などと言い合いを始める。2人の様子を見るに会話をしながらも周りを警戒をしているようだ。さすがCランク冒険者といったところだ。
「さ、着いたぞ」
「ここか」
そこにはうっそうとした巨大な森が広がっていた。今忠勝達のいる場所からでは全体が見渡せないほどに広く、また見通しが悪いため索敵には苦労しそうだ。
「ま、薬草探しならあまり奥に行かなくても大丈夫だし、気楽に行こうぜ」
「アッシュ、油断するんじゃねえぞ」
「だからわかってるって」
「じゃあ、何度も言わせんな!」
「わざわざ言われなくてもわかってるって言ってんだろ!」
またもや言い争いを始める2人を宥め、忠勝は普段のバルの苦労を感じた。どうやらこの2人はケンカが多いらしい。
「まあまあ、油断はせずに行こう」
「おう!」
「あいよ」
初めての依頼だ。忠勝としても失敗は無いようにしたい。
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「あー、それじゃダメだぜ。薬草は根は残して切るんだ。そこからまた生えてくるからな」
「それ違うぞ。似てるがそりゃ毒草だな。ほれ、薬草は葉の付け根に筋があんだろ?それで見分けるんだ」
「薬草は依頼で出す以外にすり潰して塗り込んで傷薬の代わりにも使えるぜ」
「毒草も、罠の材料になるから取っておいて損はねえな。使わねえなら買取もしてもらえるしな」
「薬草は取ったあとは切り口に土を塗り込んどくといいぜ。質が下がりにくくなるからな」
忠勝は疲れた。
薬草探しというのは予想以上に知識のいるものだった。忠勝も2人を連れずに来ていたら、大量の毒草を持って帰った可能性が高い。下手したら初依頼で失敗していたかもしれない。
しかし結果としては、
「いやー、大量だな」
「そうですね」
「薬草5個で銅貨6枚の依頼だから、取れた薬草が63個で、えー.....」
「銅貨72枚、銀貨なら7枚と銅貨2枚ですね」
薬草を大量に採取することができた。
これだけの薬草を取れるなら、Eランクのとしてはかなり実りの良いものになりそうだ。だが実際はこの依頼は人気がなく、薬草は年中不足中だという。
その理由は知識、体力ともに必要になってくるということ、新人には自分の力量に妙な自信を持つ者が多くゴブリンの討伐などの討伐依頼が人気だということが挙げられる。
「...タダカツ、計算早えな」
「そうか?大したことないぞ?」
「俺なんか計算自体できないけど....」
この世界の教育水準はあまり高くないようだ。
「...まぁ、結構いい時間になっちまったし日が落ちきる前に帰るか」
「そうだな」
すでに日は落ち始め、森の中は薄暗い。忠勝達は日があるうちに街に帰るため森を走り始めた。
「今日は全然魔物を見なかったなー」
「だな、いつもならゴブリンの5.6匹出てきてもいいはずなんだが」
「そうなのか?」
「ああ、この森はもともと魔物の生息域だからな。浅いところでも弱い魔物なら出てくる」
「なんで今日はいないだろな?」
「ま、ラッキーだったってことだろ」
「...そうだな」
忠勝は森での異変もラッキーで片付けてしまうアッシュを見て、呆れるが考えてもわからないことは仕方ないと思い肯定する。
その後は何事もなく街までたどり着くことができ、ギルドに依頼達成の報告にきた。ギルドのカウンターに行くと昨日の茶髪の巨乳受付嬢、ローリーが声をかけてくる。
「タダカツさん、お疲れ様でした。初依頼はどうでしたか?」
「薬草の採取に行ったんですが疲れました。でもその甲斐あって大量でしたよ」
「ほ〜、それはそれは」
どこかイタズラな笑みを浮かべるローリー。その様子に忠勝は不思議に思いながらも持っていた袋から大量の薬草の束を出した。
「...では、拝見します」
予想していたよりも多かったのだろう。声は落ち着いているが、表情が少しこわばっている。しかし、その表情は確認が進むにつれて驚きの色が強くなっていった。
「....これだけの量の薬草を完璧に処理して、しかも毒草を交えずに、タダカツさん本当に初依頼ですか⁈」
どうやら毒草や処理の甘いものを大量に持ち込むのが初依頼の通例らしい。
さっきのイタズラな笑みはそういうことか...と理解した忠勝はお返しとばかりに笑みを浮かべ、
「あ、毒草は別で分けてますので買い取ってもらえますか?」
と一緒にとってきていた毒草の束を取り出し、カウンターに置いた。
「はい⁈たまたま毒草が混じらなかっただけじゃなくて選別まで...タダカツさん何者ですか⁈」
ローリーは思わずといった様子で声をあげる。その様子を見て満足した忠勝は、さすがに自分だけの手柄にするわけにはいかないとローリーに真実を話す。
「いや、実は今回の依頼はあっちの2人に手伝ってもらったんです」
ギルドの椅子に座って待っていたギルダーとアッシュを指して言う。
「え?...あー、そうでしたか。えーと、あちらは、あー『黒の炎』のお二人ですね。あの2人ならこの結果も納得です。『黒の炎』のとってくる薬草は質がいいと評判ですからね」
黒の炎?と忠勝は疑問に思いながらも元社会人としてのスルースキルを発揮し、会話を続ける。
「そうなんですか?」
「はい。あのパーティは皆さん仕事が丁寧ですからね」
どうやらバル達のパーティはランタナの街でもなかなか評判らしい。忠勝も知り合いを褒められると少し嬉しく感じる。
「ですので、この63本の薬草で銅貨75枚、それとこちらの毒草17本ありますので銅貨17枚、合わせて92枚ですが、そうですね....銅貨110枚で買い取らせていただきます」
「え?いいんですか?」
突然の買取額の値上がりに忠勝が驚いて聞くと、ローリーは
「大丈夫ですよ。『黒の炎』の皆さんの場合はだいたいこのような価格で買い取らせていただいてますから」
と答えてきた。
持ち金の心許ない忠勝にとっては買取額の増加は願ってもないことだ。それが例え他人の評価によるものであっても...
忠勝はローリーに礼を言うと、報酬を受け取った。失礼かと思いながらも中を確認すると、銀貨9枚と銅貨20枚が入っていた。忠勝が3人での依頼と言ったので、分けやすいようにしてくれたのだろう。
「タダカツさんは今回Eランク依頼を12回分達成ということですので依頼達成回数が規定数を超えましたのでEランクに昇格ですね。おめでとうございます」
「早っ!」
「普通なら薬草でどうにか一回達成、程度の量しか確保できないのですが、今回は特別でしたね。それではプレートをお渡しします」
と言って昨日と同じく金属のカードを手渡された。違うのは、昨日までFと刻まれていた場所にEと刻まれている。どうやら無事昇格を果たしたようだ。
「では、今日は初依頼お疲れ様でした。よく休んでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
礼を言ってギルドの椅子に腰掛けて待っている2人のもとへ
「2人のおかげで報酬を上乗せしてもらえたよ」
「だろ?尊敬したか?」
忠勝は今回の件は素直に尊敬に値すると考えていた。この報酬の上乗せは彼らの技術と信頼の積み重ねによるものであるから。
「これが今回の報酬だ」
と言ってアッシュとギルダーに銀貨3枚と銅貨10枚ずつを渡そうとする。がアッシュとギルダーは受け取ろうとしない。
「俺らタダカツさんに命救われてんだぜ?」
「そうだ、昨日タダカツがいなかったら俺たちは死んでた」
アッシュも頷き、報酬金を押し返してくる。
「仲間を助けるのは当然で、当然の結果生き残ったらそれは自分の実力だって自分で言ったんだろ」
忠勝も報酬を全てもらうわけにはいかないと言い返すが、
「まあな、だからって感謝しねえのは違うだろ?」
「そうだぜタダカツさん」
どうやらこの2人も引くつもりはないようだ。
なら、
「....それならお金はもらっとく」
「おう」
「でも!...酒くらい奢らせろよ。これから飲みに行かないか?」
社会人式飲みニュケーションだ!と忠勝は切り出した。すると、2人は笑い出し気持ちのいい笑顔で答える。
「...いいじゃねえか」
「行こうぜ!」
2人も乗り気なようだ。
「なら俺たちの行きつけの酒場があるんだ。そこ行こうぜ」
「お、いいねー」
「俺はまだ街の地形はわからないからな。どこでもいいぞ」
と、昨晩もギルダーとアッシュは訪れていた酒場に向かって歩き始める。
異世界の友達と、異世界の酒に溺れ、異世界の夜は更けていく...
今回やっと初依頼が終わりました。
これから次回から少し話が進んだところからスタートになります。
読んでいただきありがとうございます