クリスマス特別閑話 サンタクロースからの贈り物
クリスマス特別閑話となります。
今回の話は本編とは一切関係ございません。
今回は地の文が忠勝の一人称となります。
時系列としては本編より、しばらく先の話となります。
AM8:00
俺がまんぷく亭の食堂で朝食を食べていると、入り口の扉がバンッと勢いよく開いた。
「おー、タダカ「静かに開けな!」
「「ご、ごめんなさい...」」
驚いて後ろを振り返ると女将さんに怒られて、謝っていたのは知っている顔の二人...ギルダーとアッシュだった。
「タダカツさーん、あの女将さん怖いなー」
一通り怒られて女将さんから解放されたアッシュが泣き言を言ってきた。
確かにあの女将さんは怒ると怖いが、基本的には優しい人だ。
「おう、タダカツ。おはようさん」
一方、ギルダーの方は気にしていないようだ。怒られているときはびびって震えてたのは見ていたがな...
挨拶を返しつつ、今日は何をしにきたのか聞くと二人が
「ああ、そうだったタダカツさん!」
「タダカツ!」
「「一緒に戦ってくれ!」」
と言ってきた。この二人がわざわざ頼んでくるなんて相当な事なんだろうと判断した俺は、とりあえず了承し、詳しい話を聞こうと話を切り出した。
いったい何を頼んでくるのだろう。
「何をって...何言ってんだよタダカツさん!」
「今日はクリスマスイブだろ!」
どうやらくだらない事に巻き込まれそうだ...
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AM10:00
深く考えず、いや深く考えすぎて了承したことを後悔していた。
あの後、俺は二人に連れられて街に繰り出した。
ランタナの街は今日も平和なようだ。クリスマスイブだからだろうか、いつも以上に男女で歩くカップルが目立つように感じる。
確かに俺も昼間からいちゃつくな!とつい思ってしまうが、馬鹿二人は怒りの桁が違っていた。
「くらえや!」
パンッ!
「おらぁ!」
パンッ!
カップルの男が突然頭から赤に染まっていく。アッシュとギルダーが道行くカップルにトマトをぶつけて周っているからだ...
本気で馬鹿だ...
こいつらは俺にもカップル達にぶつけるようにと大量のトマトを渡してきていた。
だが俺はまだ幸せそうな男にトマトをぶつけることができないでいる。友の頼みとはいえ、なかなか難しいことだ。.......というか、今まで築いてきたこの街での信頼を壊したくない.....
「メルィークリスマース!」
パパンッ!
「サンタさんだぜー!」
パパパンッ!
そうしている間にも馬鹿共はトマトを消費していく。かわりに被害者ばかりが増えていく。
だが二人も無差別に男を襲っているわけではない。見事に一人でいる男、また男女でいても明らかにブサイクを連れている男には一発も当ててはいない。これは素晴らしい技術というほかないだろう。
女を連れて狙われていない男達は複雑な顔をしていた.....
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PM0:00
この時間にもなってくると街中から通報があったのだろう、警備兵達が動き出し、トマトをぶつけてまわる馬鹿共を追いかけましていた。警備兵達は街の人達を縫って走り回る馬鹿共を捉えきれていないようだ。
そして、今俺は三人の警備兵に追いかけられている。
馬鹿二人についていった所為で犯人の一人と思われてしまったようだ。このままでは捕まり信頼を失ってしまう。
......こうなってしまっては仕方ない。俺は警備兵達の顔に向けてトマトをぶつけ、目を潰し逃走した。多分顔は見られていないだろう...
そのままギルダーとアッシュを探す。二人は騒ぎの方に向かえばすぐに合流することができた。
「お、タダカツさん!」
「タダカツ!無事だったか」
会うなり無事を喜んでくれる友。....そもそもこいつらの所為で犯人扱いされたんだが...
とにかく今は逃げなければならない。
二人が走りながら話かけてくる。
「そういえばタダカツさんの顔...」
「ああ、どうやら一皮剥けたようだな...」
なんか言っている二人には意味深な笑みで返しておいた。
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PM2:00
「メリクリ!」
パンッ!
「サンタクロースからの贈り物だ!」
パパパンッ!
一皮剥けた俺は馬鹿共の一員として、カップル達を襲い続けた。
そう、一度人にトマトをぶつける快感を知ってしまった俺は元には戻れなかった...というか吹っ切れた。今はこの祭りを楽しもう。
ビビりの俺は仮面で顔を隠しているが...
この頃になると街にはある変化が訪れていた。街のモテない男達、つまりはトマトをぶつけられなかった男達が俺たちの行動に賛同し、トマトをぶつける側に回ったのだ。
今この街は暴徒に溢れ、警備兵だけでなくレオン達門兵隊まで警備に当たる事態となっていた...
ちなみに暴徒と言ってもモテる男以外には一切被害者はでていない。
「おらっ!」パンッ!
「くたばれぃ!」パパンッ!
「爆発しろー!」パパパンッ!
皆の思いは今ひとつとなっていた...
「タダカツ、何人やった?」
「5人..かな?」
「俺は10人やったぜ!」
「俺は12人だ」
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PM4:00
俺たちは信じられないものを見てしまった。
バルとキャンディが楽しそうに買い物を楽しんでいたのだ。
ギルダーとアッシュを見ると俺以上に驚いた様子だ。無理もないだろう、二人は同じパーティで付き合いも長い。そんな二人があんな風になっているのだ...
(な、キャンディ...お前タダカツが好きなはずじゃ...)
という風に忠勝の考えとは違う意味で驚いていたのだが...
俺は二人を落ち着かせるように、肩をそっと叩き頷いた。二人からも頷きが帰ってくる。それを合図として、俺たちは駆け出した。さよならバル、お前が悪いんだ、モテるから.....
「おらぁっ!」
「くたばれ!」
「リア充死すべし!」
パパパンッ!
悪は滅んだ...
俺たちはどこか複雑な表情でその場を走り抜けた。
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PM6:00
辺りが暗くなってきた。
夜になってきてカップルはますます増えたように感じる。どれだけのカップルが存在するというのだろうか...
暴徒、いや勇者達もほとんどが捕らえられてしまったようだ。この辺りが潮時だろう。
アッシュとギルダーもそう思ったようで、俺に向き直り笑いかけてきた。俺は仮面を外し笑顔で返す。トマトをぶつけだす前とは違う清々しい気分だ。
アッシュとギルダーと共に暗くなった道を歩き始めた。
「俺たちよくやったよな」
「ああ」
「頑張ったよな」
確かに頑張った、よくやったほうだろう。だが結果として街のカップル達は数を減らしたようには見えない。
何も変わっていない...
何も変えられてはいない...
俺たちの、仲間達の無念を思うと自然と涙が溢れてきた。
だがその時、俺の両肩に手が置かれた。見るとギルダーとアッシュだ。二人は笑っている。何を笑っているんだと思っていると
「笑えよタダカツさん!」
「そうだ、笑えタダカツ!」
と言ってくる。続けてギルダーが
「クリスマスは確かにカップルが楽しむ祭りだ。だがな、今日の俺たちはどうだった?俺は楽しかったぞ?」
と言ってくる。
確かに楽しかった。学生時代でも味わったことのない高揚感を感じた。
素直に俺が楽しかったと答えると
「だろ?なら笑おうや。楽しかったのに笑わねえのはおかしいだろ?泣いて終わるのは悲しい思い出だけにしようや」
ギルダーが言った。
...しょうがない、笑ってやるよ。楽しかったしな...
俺が笑うと二人は今まで以上の笑顔で返してきた。
「来年もやろうな」
「ああ」
暖かくなった道を馬鹿三人で歩いて行く...
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PM6:23
ギルダー、アッシュと談笑しながら歩いていると後ろから誰かが駆けてくる音が聞こえる。
「....やっと..見つけた」
振り返るとキャンディがいた。バルはいないようだ。まだダウンしているのだろうか?と思っているとキャンディが何か小さな包みを差し出してきた。
「...バルに一緒に..選んでもらったけど.....あの...お世話になってる..から」
キャンディが顔を赤くして言ってくる。驚いて俺?と言う風に自分を指差すと頷いてきた。
後ろを振り返るとギルダーとアッシュが納得したという顔で微笑みを浮かべている。
友よ!本当の友達は友達の幸せを喜ぶことができるんだね!ごめんよバル!
キャンディに向き直り、ありがとうと伝え、プレゼントであろう包みに触れた瞬間、後ろから凄まじい殺気を感じると同時に嫌な予感がした...
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AM3:26
クリスマス当日
俺は寒さで目を覚ました。辺りはまだ暗い...どうやら道の端で寝てしまったようだ。
昨日は飲み過ぎたのだろうか...と思ったところで、昨日の出来事を思い出した。
怒りがこみ上げてくるが、最初に裏切ったのは自分であると思い出し怒りを収める。
膝の上を見るとキャンディのもっていた包み紙が置いていた。開けてみるとマフラーが入っている。ありがたくマフラーを巻いて帰路についた...
誰が2度と参加するか!
その頃、ギルダーとアッシュは同志達と共に3日間の禁固刑にかけられていた。
以上、私河下ユングの妄想閑話でした。
これからもよろしくお願いします。