閑話 黒の炎
今回閑話となります。
忠勝とキャンディがルーデウス一行と別れた後の話です。
荷下しの作業を終えたバル達はルーデウスと別れ、行きつけの酒場へと向かっていた。
「早くいこうぜー!」
「そうだね、はやく行こうか」
「だな、さすがに疲れた」
酒場は仕事終わりの冒険者や町人達の騒ぎ声で溢れていた。あちこちからウエイトレスに向けての注文の声が聞こえる。
酒場についた彼らは残る1人のパーティメンバーの到着を待たずに注文し始める。それぞれに酒が行き渡ると、
「乾杯!」
「「乾杯!」」
バルの掛け声とともに樽ジョッキを合わせた。少しして料理が運ばれてくる。腹が減っていたのだろう皆がそれぞれ黙々と料理を食べ始めた。しばらくしてあらかた腹が膨れたのかアッシュが話を切り出した。
「しかし、今回の依頼は大変だったよな」
「そうだね〜」
バルはそれほど酒に強くないのだろう、すでに頬に赤みがさし普段以上に口調が柔らかくなっている。
「ギルダーがいきなり叫んだときは焦ったぜ」
「俺もいきなり直感が発動してな。やばいと思ってよ...」
「そのおかげで助かったからね〜」
3人は昼間の盗賊戦のことを思い返しながら話を進めていく。ギルダーの言う直感というのは、忠勝が身につけることができたのを見るに何らかのスキルのようだ。
「なんと言ってもタダカツさんだよなー。あの強さは驚いたぜ」
「だな、俺たちが逃した盗賊共を一瞬だからな」
「気付いたら3人倒れてたよね〜」
酒も進み、バルだけでなくアッシュの顔にも赤みが差してきた。ギルダーは全く顔色を変えていない。だが、顔色は変わらなくとも酔ってはいるようで皆いつもよりテンションが高い。
「だから言ってんだろ?タダカツさんはすげーんだって」
「なんでお前が自慢気なんだよ!」
「まあまあ〜」
などという会話を続けて酒を飲んでいく。
依頼の後は皆で集まり酒を飲みながら依頼での出来事を話し合うのがこのパーティ『黒の炎』の恒例のイベントだ。
ちなみにこのパーティ名は結成当時、厨二病を患っていたバルが勝手に登録したものである。さらに言うと、進行形で軽度の厨二病を患っているキャンディは、実はこのパーティ名を気に入っている。
さらに酒がすすみ、馬鹿二人の抑え役バルが寝てしまった頃、
「そういえばキャンディは上手くやってんのかな?」
アッシュとギルダーは、今いないキャンディの話を始めた。酒の席で人の恋路程に盛り上がる話題もなかなかないだろう。
「キャンディもあれで乙女だからな。いつも以上に喋れてないってのも十分にあり得るだろうな」
ギルダーの言った通り、キャンディは忠勝を案内する際、緊張のあまりいつも以上に素っ気なくなってしまっていた。
「そうだなー。キャンディがあんな風になるのってはじめて見たからな」
「乙女の恋は突然にってやつなんだろ」
「しかし、バルも鈍いよな。絶対キャンディのこと気づいてないぜ」
「普段は察せられる奴なんだけどな...色恋には疎いんだろ」
「....だな」
などと他人の恋話で酔っ払い達の盛り上がりは加速していく。
まだ宴は続く...
「.....ただいま」
完全に出来上がっている2人と寝てしまっている抑え役を見てうんざりしながらも声をかけてくる。
「お、キャンディじゃねえか」
「なんだ?お泊りじゃなかったのか⁈」
ガッハッハッハ!
出来上がった2人の男にはデリカシーなんて物はなかった。
「..うざい」
と言いつつも席に着き注文をする。
酒が届きキャンディが飲もうとすると、
「おい、キャンディ」
アッシュが止めてくる。見るとアッシュとギルダーがジョッキを合わせてこちらに出している。
「「乾杯!」」
「...ん、乾杯」
しばらく、キャンディの飲みに合わせていたギルダーが話を切り出した。
「それでタダカツとはどうだったんだ?」
「.....」
「なんだよ、教えろよー」
アッシュも乗ってくる。2人の様子に観念したのか、酔いで口が軽くなっているのか、ゆっくりと話しはじめた。
「.....タダカツ....いっぱい話しかけてくれた」
「「おー」」
「それで?しっかり会話できたのか?」
「...うん..いっぱい喋った」
キャンディとしては十分の手ごたえだったのだろう。本心からそう答えていた。
「「おー!」」
「やったじゃねえか!」
「頑張ったな!」
「...頑張った!」
なかなか会話が続かなかったため自分に興味がないのだろうと思っている忠勝の思いを知らない3人。
黒の炎の宴はまだまだ続く...