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【書籍化】ヴェルシュタイン公爵の再誕〜オジサマとか聞いてない。〜【Web版】  作者: 藤 都斗


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書籍発売記念SS「ティータイムは光とともに」

 



 クリスティア・ローライスト、伯爵家令嬢長子11歳。

 幼いながらに世間からは秀才と名高く、しかしその外見と行動から性格が悪いと勘違いされやすい少女は、自室にて、自分の腹心とも言える侍女の用意した紅茶を嗜んでいた。


 その姿は幼いながらに優雅で、日常的な仕草さえも令嬢として相応しいものだ。

 それもその筈、彼女の血筋は王家に近く、親戚関係にある。

 そして伯父には公爵までいる家の令嬢の所作が粗雑でいられるわけがない。


 本人の資質と能力もあってこその現在ではあるのだが、当の本人はまだまだ未熟だと思い込んでいるのだから、世の中は分からないものだ。


「ねえリーナ、魔法ってどうして使えるのかしら?」


 そんな問いと共に特徴的な薄緑色の大きな吊り目を瞬かせながら少女が首を傾げると、金色の真っ直ぐな髪がさらりと揺れた。

 陽光にキラリと光るその瞳は、まるで宝石のようだ。


 その問いに答えるのは、少女の専属であり腹心だという自負もある、リーナと呼ばれた茶髪の侍女である。

 少女よりも五歳ほど歳が上の侍女だが、少女が生まれた時から近くにいる事もあって信頼関係は厚く、そして、家族同然ですらあった。


「それは、偉大なる神様が人を作る際に授けられたからじゃないんですか?」


「違うわリーナ、そういうおとぎ話や伝説じゃなくて、一体どういう原理で使えるのか、が知りたいのよ」

「うーん、……聞きかじり程度ですけど、魔法を使う時には精霊様がお助けして下さっているとどこかで聞いた事があります」


 なんでもない日常の話題ながらも哲学的な疑問を口にした主に、侍女はさして表情を変えずに当たり前のように答える。

 それは勿論少女が聡明で、様々な事に疑問を持つ事が出来る視野の広さがあるのだと知っているが故だ。


「精霊様が?」

「はい、でもお嬢様、こういう事は魔法の先生にお聞きすべきでは?」

「先生じゃダメよ、本に載っていない事は教えてくれないもの。それにリーナはわたくしの自慢の侍女よ、何の問題もないわ」

「有り難きお言葉でございます」


 少女は誇らしげに頷いた後に、紅茶を一口、口に含む。

 そして、ふう、と息を吐き出したあと不思議そうに呟いた。


「それにしても、そうだとすれば何故精霊様はわたくし達を助けてくださるのかしら」

「さぁ……、そこまでは私にも分かりません」


 困ったように首を傾げる侍女の言葉に、少女は納得したように頷いた後、飲み終わった紅茶のカップをソーサーへと置く。


「そう、ありがとう。ねぇリーナ、ちょっと良いかしら」

「はい、なんでございましょう」


 ふと少女は何かを思い付いたらしく、侍女へと声を掛けた。


「少しでいいの、見ていてくれない?」

「お嬢様に危険がないのでしたら」


 経験上、主である少女の“お願い”は時に無謀と言っても差し支えない物が混ざっている事がある事をよく知っている。

 それゆえの、先手を取った侍女の発言に、少女はクスクスと笑った。


「大丈夫よ、今から魔力を循環させるだけの鍛錬をするだけだもの」

「かしこまりました、では私はここで控えさせて頂きます」


 少女が嘘を吐くようなひねくれた性分ではないと知っているがゆえに、侍女は何の疑問も抱かずに了承する。

 小さく一礼をした侍女を見て、少女は満足気に微笑んだ。


「見ていて」


 そう言うと少女はまるで祈るように胸の前で手を組んで目を閉じる。

 すると、窓から入る陽の光とは違う、蛍のような光が少女の周囲を飛び回り始めた。


 ふわふわと浮かぶ光は色とりどりで、幻想的な見た事もない光景に、侍女の心は驚きと感動に包まれるしかなかった。


「まぁ……綺麗……」

「これは魔力の高い人によく起きる現象らしくて、原理はまだよく分かってないそうよ。

 ねぇリーナ、あなたの話を聞いて思ったのだけど、この光はもしかすると精霊様なんじゃないかしら」


 明滅する光は、少女の金色の髪を様々な色に淡く変化させていた。

 そんな中で微笑みを浮かべる少女の姿はまるで絵画の作品のようで、侍女は眩しそうに目を細める。


「もしそれが真実でしたら、とても素敵ですわね、お嬢様」

「ええ、でもまだ憶測でしかないから、今度先生に聞いておくわ。きっと答えてくれないでしょうけど」

「ご報告、楽しみにしております」


 侍女と共にくすくすと笑い合っていた少女が、ふと、悪戯を思い付いた少年のように歯を見せて笑った。

 令嬢らしからぬそれに眉を顰める事もなく、侍女さえも同じように歯を見せて笑う。


「ねぇリーナ、思い付いた事があるの」

「奇遇ですわねお嬢様、私もです」


「じゃあ同時に」


「おじさまにお見せしましょう!」

「ヴェルシュタイン公爵様にお見せしましょう!」


 二人ともほぼ同時に同じような事を言った事に気付いて、どちらともなく噴き出した。

 口元を両手で隠しているものの、大きく肩を震わせるように笑っている二人はまるで本当の姉妹のようですらあった。


「ふふふっ、おじさま、喜んで下さるかしら」

「ええ、きっと」


 日が暮れるまで、少女の部屋からは楽しそうな笑い声が響いていた。



 

 2020/04/15、本日とうとう書籍発売日です。

 辛い事の多い日々ですが、ここまで来られたのは全て応援して下さる皆様のおかげだと思っております。


 本当にありがとうございます。


 今後も精進して参りますので、どうかよろしくお願いします。


以下宣伝↓


 書籍に付いてるSSは今後こちらでは出ないオジサマの幼少期の様子(カレーライス野郎さまのリクエスト)が描かれておりますので、ご確認出来る方はどうぞお楽しみください!

 書籍だけのオリジナル展開や、書き下ろし短編もございます!


 良かったら買ってね!!!( 。∀ ゜)(無理なら大丈夫なので気にしないで下さい)

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― 新着の感想 ―
[一言] 伯父様に頼めばきっと精霊も見せてくれるでしょうね( *´艸) 書籍化に更新に大変でしょうが頑張って下さい♪ 早速本屋見に行かないと! でもコロナのせいで外出しずらいのがなぁ…
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